本格的なデジタル動画の時代が到来し、動画広告にもさまざまな変化が訪れている。しかし、広告主はテレビコマーシャルの30秒(もしくは15秒)のフォーマットに固執し、新しいフォーマットへの移行に難色を示す。そうした状況に、エージェンシーやパブリッシャーはどのように対応しているのか?
Facebookがパブリッシャーの動画にミッドロール広告を挿入しはじめたのは、2017年に入ってからのことだった。その前には、GoogleがYouTubeでスキップ不可能な30秒のプレロール広告を廃止し、6秒間のスキップ不可能な広告をプッシュするという報道もあった。
こうした新フォーマットの採用は、理屈からすると、FacebookやYouTubeで配信しているコンテンツから収益を上げようと必死なパブリッシャーにとって良いニュースと言える。しかし、2017年の現代でさえ、広告主の多くは30秒の動画広告を優先しており、新フォーマットを採用する準備を整えていないと、エージェンシーやパブリッシャーは考えている。
「広告のエコシステムに変化を起こすには時間がかかる」と、ハーストマガジンデジタルメディア(Hearst Magazines Digital Media)のプレジデントを務めるトロイ・ヤング氏は言う。「長さを6秒にするには、まったく新しいストーリーテリングの手法が必要になる。だが、テレビではいまも30秒が一般的だ。そのため、デジタルのエコシステムでもたいていこの長さが採用されている」。
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エージェンシーの対応
また、複数の異なるフォーマットや長さに対応したストーリー展開にするのは難しく、かと言って、1種類のフォーマットやプラットフォームのためだけに広告を制作するのは割に合わないと、アダプトリー(Adaptly)で顧客担当バイスプレジデントを務めるリサ・クチノッタ氏は言う。アダプトリーは、広告主がキャンペーンをさまざまなソーシャルメディアに適合させるのを支援する企業だ。
しかし、エージェンシーのマインドシェア(Mindshare)の共同プレジデントで北米地域のコンテンツとエンターテインメントを担当するグレッグ・マナゴ氏によれば、同社はプラットフォームやフォーマットごとに一からキャンペーン動画を制作することが多いという。その場合、30秒の動画広告を再編集するよりもコストが10~20%上がることがある。
一方、MECやアダプトリーといったエージェンシーは、フォーマットの異なる広告の制作をほかの企業に依頼したいと考えるクライアントの希望をかなえようとしている。コンテンツを専門に手がけるMECの子会社、MECウェイブメーカー(MEC Wavemaker)は、そのためのサービスを6月にスタート。それ以来、3社のクライアントと契約を交わしたほか、さらに3社と契約する見込みだと、同社のマネージングパートナーであり、MECの北米支社でソーシャル担当責任者を務めるノア・マリン氏は述べている。
「こうした問い合わせがクライアントからひっきりなしにあった」とマリン氏は話す。「我々は、資産を持っていないメディアか、チャネルを最大限に利用できていないメディアに対してアドバイスしていくつもりだ」。
置き去りになるユーザー
問題となるのは、スキルとコストだけではない。クリエイティブ業界のエコシステムは、30秒(最近では15秒)のテレビコマーシャルを制作する前提で築かれてきた。ここでの投資は、経済的なものであると同時に感情的なものだ。また、パブリッシャーはお金が必要なため、ユーザーのことなどおかまいなく、テレビ広告をプレロール広告として再利用している。
「彼らはいまだに『15秒広告を見捨てるな』といったメンタリティだと思う。異なるタイプの動画広告を制作するというアイデアにそれほど乗り気ではない。だから、このようなどっちつかず状況になっているのだ」とマリン氏は指摘した。同氏によると、6秒の動画広告のほうが、オーディエンスにとって受け入れやすいかもしれないが、「クライアントが大きな目標について検討する際に、そのようなことを真っ先に考えることはあまりない」という。
エージェンシーは、このようなメンタリティを変えようとしている。「長編動画を作成したいと考えるクリエイティブのなかには、苛立ちをみせるところもある。だが、GIFを使って優れたコミュニケーションを取る方法もある」とマナゴ氏は語った。
さまざまな方法が必要
しかし、変化は起きている。6月には、フォックス・ネットワークス・グループ(Fox Networks Group)が、YouTubeの例にならって、6秒間のスキップ不可能な広告フォーマットのサポートを開始することを発表した。同社でノンリニア売上担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるデビッド・レビー氏によると、広告主からの反応は好評で、このフォーマットに沿った広告の制作をはじめた広告主もいるという。
レビー氏によれば、6秒というフォーマットは、購買ファネルの一番上と一番下にいる人々にリーチするのに適しているが、製品のメリットを伝えるには、より長い時間のフォーマットもやはり必要だという。したがって、30秒の動画が近いうちに廃れてしまうことはないとレビー氏は考えている。「消費者にメッセージを伝えるには、さまざまな方法で注意を引く必要がある」とレビー氏は語った。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)