2009年8月30日投票の第45回衆議院議員選挙の開票結果が公報されました。
いささか膨大な内容なので、個人的に興味のあるポイントのみ抜粋。
自民党の得票率(比例、以下全て同じ)は2000年と2009年でほぼ同等です。2000年の小選挙区は反自民票が分散した結果、自公連立与党が61%を獲得しました。2009年の小選挙区は民主党が反自民票を吸収した結果、与党は21%しか獲得できませんでした。
2003年の選挙では、自公連立与党は得票率を41%→50%と増やしましたが、民主党の得票率が25%→37%と躍進した結果、都市部を中心に小選挙区で議席を減らしました。
2005年の選挙では、自公連立与党の得票率は50%→51%と横這いでしたが、民主党の得票率が37%→31%と減った結果、小選挙区で与党が大勝します。郵政民営化に反対した議員を公認せず、対抗馬を立てる戦術は、反自民票の分散を実現しました。選挙後、「格差社会」をキーワードに与党批判が噴出したのは、支持が横這いなのに大勝したことへの警戒感ゆえの揺り戻しだと思います。
2009年の選挙では、自公連立与党の得票率が51%→38%と減り、民主党の得票率が31%→42%と上昇しました。2005年とは逆に民主党が小選挙区で大勝し、政権交代に成功します。
民主党が小選挙区で反自民票を吸収するにつれ、小さな得票率の差が大きな議席数の差を実現するようになってきたことがわかります。2006~2007年の安倍政権は、議席占有率を背景に自民党らしさを前面に出して失速しました。民意は得票率に現れることに留意が必要です。
民主党の得票率は2003年は37%、2009年も42%に留まっています。民主党は社民党、国民新党、新党日本と連携する予定ですが、4党合計でやっと得票率が49%、約半数に達します。民主党が連立の苦労を厭い、単独政権で劇的な改革を推進しようとすると、不支持が勝って行き詰るかもしれません。
社民党、国民新党、新党日本は、いずれも譲れない政策があって与党を抜けた政党であり、民主党は連立の維持に苦労するでしょう。むしろ中期的には公明党との連立が考えられます。
自公の協力が続くなら、2009年の選挙の得票率は自公38%、民主42%と拮抗しており、次回の選挙で民主単独政権に対し勝機十分です。逆に自公が分かれた場合、自民党の早期の政権復帰は絶望的。自民党が保守系野党として衰亡し、民主党が新「恒久与党」となる可能性も否定できません。
では民主党が分裂するとどうなるか。2000年の自民党の得票率は28%で、2009年の27%とほぼ同等でしたが、野党の選挙協力が成立せず、自公連立与党が小選挙区で61%の議席を獲得して勝利しました。したがって、自公の結束が固ければ分裂民主は敗北、自公がバラバラなら分裂民主と混戦になります。
アンドレ・レイプハルトさんの研究成果の一端を簡単に整理すると下表のようになります。(出典:BI@K 2005-12-30)
国内対立が厳しい | 国内対立は緩い | |
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争点は1つ | 二大政党制・比例代表制 | 二大政党制・小選挙区制 |
争点は2以上 | 多党制・比例代表制 | 多党制・小選挙区制 |
2回続けて議席の大きな移動が起きたことから、小選挙区中心の選挙制度を「見直すべき」とする意見を散見します。それでいて、自民党と民主党の政策が大筋では似ていることを批判する意見もあります。どちらの立場にも、私は賛同できません。
もし自民党と民主党の政策が全く異なっているならば、政権交代は社会に大きな混乱を起こします。ですから、安定志向の選挙制度を作り、どうしても必要なときだけ政権交代が起きるようにすべきでしょう。
逆に自民党と民主党の政策が近いならば、政権交代による社会の変化は緩やかに生じます。ですから、振れ幅の大きな選挙制度を作り、国民の繊細な判断が政権選択に反映されるようにすべきでしょう。
日本では長らく、安定志向の中選挙区制(ただし単記非移譲制で半ば比例制のように機能することを特色とする)が採用され、自民党政権が続きました。しかし1991年にソ連が崩壊し、社会党や共産党による「革命」の可能性が消えたことを受け、数年の議論を経て1994年に小選挙区比例代表並立制が導入されました。2000年には振れ幅が大きくなるよう比例代表の議席数が200から180へ削減されています。
比例代表の議席数については、減らそうという議論がほとんどです。55年体制の保守VS革新の区分けを援用するなら、今や衆議院の9割超の議席が保守になりました。国内対立は緩く、多くの国民が関心を寄せる政策上の争点は、ほぼ社会保障に絞られています。二大政党制・小選挙区制は妥当な方向性だといえそうです。
民主党政権が実現を目指す日米関係の見直しや外国人への地方参政権付与は、1999年に成立した国旗国家法や通信傍受法と同様、社会に大きなインパクトを与える変化です。しかし国民の多数派は、賛否に関わらず、この新政策を政権選択の決定的理由とはしませんでした。
一人一人に意見を聞いていけば、争点はたくさんあって、厳しい意見対立も無数にあります。しかし多数派と多数派が対立し、政権選択につながるテーマは限られています。
2大政党制が定着しているアメリカでは、2009年に共和党のブッシュさんが退任し民主党のオバマさんが大統領に就任しました。その際、ゲーツ国防長官は再任され、金融政策を司るFRBのバーナンキ議長も8月に再任が決まりました。安全保障と経済運営について、漸進的な変化を目指していることがわかります。