差別はしちゃダメたよ

今日、某ファーストフードで朝日新聞を読んでいたら、ある特集記事がのっていた。「『格差』の国で」の第二回ということなのだが、見出しは「匿名性『ネット弁慶』に 引きこもり男性」である。
内容は、05年ごろから「自宅に引きこもりがち」になった男性(27歳)が、昨年1月に公開(現在は閉鎖)したホームページについて。ホームページのタイトルは「B地区にようこそ!」で、「B」は、被差別部落地区のこと。「愛知や岐阜、三重県内にある部落地区とされる地名や写真を公開するページ」だったそうだ。彼は、地区内の会社を中傷する文書をHPに掲載した名誉毀損の疑いで愛知県警に逮捕され、昨年10月、懲役1年執行猶予4年の有罪判決を受けた、ということだ。
記事の論旨についてはさしあたりおく。
ところで、この記事には、そのホームページの画面を映した写真が載っている(現在は閉鎖しているはずなので、どこかにキャッシュされているページに編集部がアクセスして撮影したのだろうか?)。ただし、「一部をぼかし処理しています」とのことだ。

これを見ると、『NHKにようこそ!』のキャラクターのイラストの横に、「差別はしちゃダメだよ」という文字が見える。
これは、おそらくホームページ作成者の男性が書いたのだろう。で、これはつまり責任逃れのつもりだったのだろう(半分は皮肉なのかもしれないが)。自分はデータをあげているだけで、そのデータを使って差別をする者がいたとしても、それは、ホームページ訪問者の自己責任であって、掲載者には責任はない、と。
事実、このページは、記事によるとだが、多くの反響があったそうだ。

ネット界の住人(記事のママ)が、ハンドルネーム(ネット上の名前)で次々に呼応し、感想を書き込んできた。「よく調べたな」。ほめるコメントもあり、ますますのめりこんだ。

ということだ。
おそらく「自分は直接差別しているわけではない、需要に答えているだけだ」と言いたかったのかもしれない。これも、ある意味で、差別のアウトソーシングである。
ところで、もやもやしたままこの記事を読み終え、何気なく下に視線をずらしたとき、ちょっとあぜんとするものを見つけてしまった(というわけで帰りに朝日を買って、これを書いている)。
それは、この記事と同じ面の、下3分の1ほどを使った、大きな『週刊朝日』の広告である。
一番大きな活字の記事見出しが、こうなっていたのである。
「全国1800高校調査 大学「実」合格者ランキング 水増しなし 本誌独自 『サンデー毎日』には出ていない」
そのすぐ横にはこれである
「東京六大学「バカ度」調査 常識なき学生が増殖中!」

なんというか、ブラックジョークとしかいえない状況になっていた。
その後コンビニで当該号を立ち読みしたが、もちろん、ランキングの高校名は、「ぼかしなし」ですべて実名が出ていた。
新聞の特集記事と、週刊誌の記事を書いた人物はもちろん別人であろうが、しかし同じ朝日である。
『週刊朝日』になぜこのような差別的な記事を載せるのか、と聞いてみたら、たぶんこういう答えが返ってくるだろう。「読者の需要があるから」と。これは、「訪問者の需要があるから」という「B地区」作者の理屈と、まったく同じであることは言うまでもない。
そうなると、この「『格差』の国で」という記事自体が、朝日にとっての「差別はしちゃダメだよ」なのではないか、と薄ら寒い気持ちがしてきてしまうのである。


……というこのエントリー自体が、今度は、私という存在にとっての「差別はしちゃダメだよ」なのかもしれないのだが。


ところで、もう一つ気になることがあって、問題の記事の結末の文はこうなっている。
「男性はいま、自宅近くの鉄工所で働く。家族によると、仕事以外でパソコンを使うことはないという。」
働きはじめたことと、「ネット界の悪い住人」たちとつきあうのをやめた?ことが、何か関係があるとでもいいたいのだろうか?
ところが、そもそも記事冒頭では、こうなっているのである。
「〔ホームページを〕作ったのは東海地方に住む無職の男性(27)」
「当時無職」でもなんでもなくただ「無職」である。
で、この記事では、検事が取調べで動機を尋ねた供述調書が引用されている。

「引きこもりやニートと呼ばれる立場になったあなたが、下位にまだ人がいると思って、自分の立場を保とうとしていたのではないか」
問いに男性は答えた。
「そうではないと思いますが、心の中に、差別意識があったのかもしれません」

本人が「そうではない」と答えているのに、どうやら記者は、「無職」とこの事件をどーーしても結び付けたいようである……。