虚構新聞の件。いろいろ意見が出てきていますが、自分は「個人サイトの運営」という方向から書いてみました。超長くなった。ごめんなさい。

自分も個人サイトを運営し、ありがたいことにたくさんの人が来てくれているわけですが、そうなってくると時折考えざるを得ないのが「個人サイトの公共性」という点。
企業がその看板でもってサイトを運営する場合、当然そこには運営目的がありそれに沿って最適な運営を行う上でのポリシーがあるわけですが、では個人サイトはどこまでそのような観点を持つべきなのかという、そんな意識。

たとえば音楽系個人サイトを運営する場合、友達しか見に来ないようなブログであれば、ブログ名に「毒舌」とか掲げて気に入らない曲やバンドに対して「あいつクズじゃん腐ってんじゃねえの死ねよ」みたいなことも平気で言えるわけですし、それが何かの問題になることもほぼありえない。
が、PVが増えてきて多くの人が見ることを意識するようになるとそういうわけにもいかないわけで(もちろんそういうことばかり言ってるブログに多数の人が来るかというそもそもなアレはありますが)、自分もPVが増えてきた時期に多少ガイドライン的に「プロモーションや演出、リリース形態、個々の楽曲の出来というあたりまではやいやい言っても、バンドやアーティスト本体は自分の好き嫌い一切抜きにして絶対に貶めない」というあたりは基本線として引いています。その他にもいくつかぼんやり俺ルールはありますが、まあ元々あったスタンスを改めて意識したというレベルで。
「公共性」とか言うとかっこいいんですがぶっちゃけ「面倒を自ら引き起こさないための立ち位置決め」的な。

ただ世には自分の好きなバンド本体はもとより、周辺含めて関わること全てに「ポジティブな反応をしなければ許さない」というエクストリームな思想をお持ちの方はいらっしゃるわけで、「売れ行きよくないね」というレベルの内容にすごい勢いで噛み付かれることも稀にですがあったりします。とはいえ、それを気にして「じゃあこういうことも書いたらダメかな」とか自粛を繰り返していくと、いずれは世の中のそういう一部の人に完全に迎合した内容にしかならないわけで、そうなったらもうやってる方も面白くとも何ともない。

そういう意味で、自分のこのブログは現在素晴らしいバランスの上で成立しています。ここ数年デイリーPV2000〜3000のあたりなんですけど、モチベーションの維持としては申し分のない数の方々に来ていただいていますし、万人に向けて書いているわけではない内容にもかかわらず、目に見える限りそのスタンスや内容のニュアンスをきちんと理解してくれている方が大部分。こちらもその「理解」を前提にして書いたりすることも多々あります。自分で言うのもアレですが、相互信頼的なところで成り立っている部分はあるのかなと思っています。
ノイジーな人や意図をかなり誤認する人もいますが多くないですし、直接噛み付いてくる人はさらに稀なので迎合する必要もなく、他は2ちゃんのあんまり伸びてないスレだったり、Twitterで仲間内に対して言っている程度でさして気にするレベルではありません。

ただ何かの弾みで今後PVがこれ以上に増えていった場合、ノイズも誤解も加速度的に増えていくことはこれまで数多過去の他の個人サイトの栄枯盛衰を見てわかっているつもりです。

つまりこのサイトは「個人サイトの公共性」を考えこそすれ、さして気にしないままやっていける状態なわけですが、でももし今後急速にPVが伸びるようなことがあれば、見る人の多様化・ノイズの増加に合わせてある程度自分内ガイドラインの変更や今以上の自粛はやむないと思っていますし、その結果相互信頼が失われたり自分でやっていて「面白くない」と思えば最終的には本意でないにしてもサイト畳むしかないと思っています。

公共性の担保として「企業化」を選択してナタリーを立ち上げたミュージックマシーンタクヤくんという化け物みたいな方向性もありなんですけど、あれはとても普通じゃできない。また、スーパーリスナークラブのように、想定した水準以上に人が来たら一旦ばっくれてライト層を敢えて振り落とし、別の場所で立ち上げ直してそれでも食い付いてくるコアファンだけをまた相手にするという手もありますが、せっかく伸びたPVをむざむざ手放すというのもなかなか勇気が必要です。
「続ける」ことを前提にすると、変化があった場合の落とし所はかなり難しいんです、正直なところ。


で、虚構新聞
今回の件以前にもいろいろ話題になり、PVは相当伸びていたんじゃないかと思いますが、そこで社主の方は今回の件の後のアウトプットを見る限り、多分その「個人サイトの公共性」の線引きを見誤ったのかなと思うんですね。ただでさえ「嘘」という非常にセンシティブなコンテンツを扱っているところであり、運営を続けることによって生じるリスクは他の比ではないでしょう。特に今はリテラシーの低い人でも普通に発信できてしまう世の中です。しかもサイトそのものを経由しないまま、断片的で不完全な情報だけが伝播していくわけで。そういう状況下で、既に相互信頼が成り立つエリアを大幅に超えていたにもかかわらず、来た人を無条件に信じ続けてしまった結果こういう状況になったような気がします。

正直、ニフティサーブでよくわからないまま不用意に意見してフルボッコにされながら育った人間としては気持ち的には虚構新聞に肩入れして「みんなもうちょいリテラシー上げてくれよ」と言いたいところですが、ネットがもう完全に普通に世の中のインフラとして成立している以上「そんなにリテラシー低い人に見てほしくなかったら仲間内だけに公開しとけよ」という意見もまた「正」です。
ただ、確かに「正」ではあるのですが、そういう配慮は個人でも当たり前でしょみたいな空気になった結果、「かけっこは誰も傷つかないようにみんなで手をつないでゴールイン」もしくは「一番うるさい人に合わせた飲食店のクドいマニュアル式顧客対応」的なところにも近い姿勢というか、過度なユニバーサル性を同調圧力的に第三者から求められるのであれば、それはもう運営する側からすれば苦痛でしかないですし、もし自分がそういう状況になったら多分キレて投げ出します。そこにはもう「個人」の視点や発想は不要、むしろ害悪ですから。
正直今回いろんな人の意見を目にして一番恐怖を感じたのは一部にですが実際にあった、そういう論調でした。

社主の方は今後も続けていくようですが、微調整して落とし所を見つけるのか大きく方向転換するのかわかんないですけど、とりあえず最新のエントリーは迷っていることがすごくよくわかって何ともやり切れない。たくさんあったはずの個人サイトがどんどんと消えて行く中、長い間アクティブに動き続けているところがこういうことになってしまうのは、どういう理由があるにしても正直とても悲しいです。

そもそもどちらかが100%悪いと断定できる類の問題でもないので、結論も何も出さないまま長文書いた挙句に終わります。自分の立場的に中立でいられるものでもないのですが、一応長いこと個人サイトやっている身として何か言ってみたいと思ったので。

どうもありがとうございました。