Hack For Japanの軌跡 - Japan Innovation Leaders Summit 2011
良く閃いてしまうことがある。たいがいの場合は他の人を巻き込むので、周りの人には良い迷惑だ。
Japan Innovation Leaders Summit 2011 8.6 sat というイベントにHack For Japanとして参加が決まり、45分の枠の冒頭で活動の紹介をすることになっていた。当初は簡単に過去のアイデアソンやハッカソンを紹介する予定だったが、2週間前に閃いてしまった。
Hack For Japanスタッフのデザイン担当者達にメールした。
冒頭に5分でHack For Japanの活動概要と運営について私から話すことになっているのですが5分ですので、イベントにも合わせた形でインパクトのあるプレゼンにしたいと思っています。短くても(いや、短いからこそ)コピーやスライドも手を抜かず、今後にも再利用可能なものとしたいと思います。
内容については以下のように伝えた。
- Japan Innovation Leaders Summitはust*1されるだけでなく、YouTubeに動画があげられる。5分の部分だけ抽出出来るようにお願いすれば、良い尺の宣伝動画がYouTubeにあがることになる。
- Japan Innovation Leaders Summitの参加者(ustでの視聴者を含む)を感動させて、Hack For Japanへの賛同を得たい。出きれば参加を促したい。どのくらいの感動かというと、会場での参加者にスタンディングオベーションをさせるくらい。
- Hack For Japanのスタッフを含む賛同者/参加者に改めて、震災復興にかける想いとHack For Japanの役割を感動とともに思い出して欲しい。おそらく、このスライドを制作し、プレゼンの構想を暖める過程で我々もそれを改めて考える良い機会になる。
スタンディングオベーションとは自信過剰も甚だしい。感動の押し付けをするみたいな生意気な目標だ。だが、それくらい「想い」を伝えたいと思った。震災後4ヶ月を過ぎ5ヶ月にもなろうとしているのに、当初の熱意を 失わずに活動を支え続けているスタッフや参加者の「想い」を伝えることがHack For Japanだけでなく、多くの技術者に何かを伝えるはずだからだ。景気低迷が続く日本の中で閉塞感を抱えて続けている人もいるだろう。そのような人にも何か気づきを与えられるはずだ。
「想い」の伝え方には2つのアイデアがあったが、その中から私を中心にしたスタッフのエピソードを紹介することで「想い」を伝える方を選んだ。驚いたことに、このアイデアを伝えたその数時間後にはすでにラフスケッチが出来ていた。冒頭の数スライドだけだったが、実際に写真などを埋め込んだそのラフスケッチを見たときに、これはいけると思った。デザインチームのハイクオリティの仕事は今までのTシャツ企画などを通じて、十分分かっていたが、ラフスケッチのクオリティとスピードにしても、その後完成にいたるまでの進め方にしても、本当に期待以上だった。
デザインチームでの意識合わせは第3回目ハッカソン会場で行った。それが直近でメンバー全員が顔を合わせられる機会だったからだ。ハッカソンに参加した人は広い楽天の会場の後ろでなにやら怪しげに議論している4人を見たことだろう。あれが、デザインチームと私だ。そこでだいたいの方針を確定し、そして一部のメンバーにアイデアを話した。
スタッフの想いをエピソードで語るという形にしたときに、私がただ代弁しているような形にならないように、出来るだけ肉声を伝えるように、ブログやTwitterなどから本人の言葉を拾うようにした。見せ方も工夫するようにした。
デザインチームでの方針が確定した後、他のスタッフに計画を伝え、使える写真やエピソードの提供を求めた。
実はスタッフの間でも、311以降どのようなことが起き、どのような想いで震災復興を、Hack For Japanの活動を続けているかをじっくりと話す機会は無かった。1ヶ月に1度はスタッフミーティングを行い、メーリングリストなどどで企画検討や運営の話をしていたが、走り続けることに懸命なあまり、個々人の想いを伝え合うことは無かった。
スタッフから集まったエピソードを読みながら、涙が止まらなかった。普段のスタッフミーティングでは決して見せることの無かった一面を知った。彼が彼女があの日あの時どういう気持ちだったのか。これは私だけではなかったようだ。スタッフも短いプレゼンテーションの中に採用されないことを知りながらも、エピソードを追加していってくれた。「原点を見直す良い機会になった」とスタッフの1人であるsinsai.infoの関さんも言ってくれた。
残念ながら、プレゼンテーションの時間が限られているので、ほとんどは紹介出来ない。だが、スタッフの想いを知ることで、デザインチームも私も、さらに力が入った。泣く泣くエピソードのほとんどを不採用としながらも、紹介出来るわずかなエピソードから、その後ろにある多くの人の想いを伝えようと思った。
水曜日のスタッフのミーティングでスライドのドラフトを披露した。もうすでに、このころからスライドを見るたびに泣いてしまうようになっていたのだが、それは私だけではなかったようだ。何名かのスタッフの目にも涙が見えた。
金曜日の夜も夜9時半から作業した。デザイナーは2日くらい寝ていない。終電でそれぞれ帰宅した後も、メールでやりとりしながら作業した。
そして、イベント当日の土曜日。朝から会場にある喫茶店で作業した。ようやくスライドが出来上がりつつあるころ、少し躊躇しながらも言った。
「ごめん。ちょっと閃いてしまったのだけど」
残り3人がひきつるのがわかった。
「もう時間が無いから無理なら無理でOK。だけど、1枚スライドを追加出来ないだろうか」
「やりましょう」
最後まで少しでも良くしたいという想い。これが無ければ、どっかで妥協していたことだろう。
人前で話をするのは慣れているので、普段ほとんど緊張することは無い。だが、昨日はMIT石井教授のキーノート中でももなんどもHack For Japanのことを取り上げていただいたこともあり、やや緊張していた。石井教授からは自分は前座で構わないとさえ、事前打ち合わせでおっしゃっていただいていた。何よりも、今回のプレゼンテーションは私1人のものではない。デザインチームの、スタッフの、そしてHack For Japanに賛同/参加していただいているすべての人のものだ。失敗は考えられなかった。
プレゼンテーションはニコ生で5万4千人あまりが観られていたと聞く。しばらく後に動画を公開する予定*2と聞くので、是非公開されたら見て欲しい。スライドからだけでなく、私のつたない話から、肉声を経て伝えた想いを感じて欲しい。
昨日は私の話以外に、3つのプロジェクト、1) 風@福島原発、2) HackForGeiger - ガイガーカウンタープロジェクト、3) フォトサルベージの輪を紹介した。どれもすばらしいプレゼンテーションだった。私が熱くなりすぎ、予定時間を超過してしまっていたのだが、各プロジェクト紹介の時間を削ることはしたくなかった。あるスピーカーが登壇する前に私に何分でしたっけと確認したが、マイクをオフにして、好きなだけしゃべってくださいと伝えた*3。壇上から会場を見ると、石井教授のすぐ後ろに座っているスタッフ*4が人目もはばからず大粒の涙を流している。会場の後ろには何名かのスタッフが立って見ているのも見えた。
これらの各プロジェクトの紹介もスライドや動画が公開されたら是非見て欲しい。
懇親会で多くの人からHack For Japanに参加しますと言ってもらえた。想いが通じたのだろう。この2週間の努力が報われた。
石井教授の懇親会の締めの言葉は是非皆に伝えたい。確かこのようなことを言われていた。
「転職して年収が3倍になっただとか、そんなことよりも何故生きるのかそういう大事なことをHack For Japanの人たちは教えてくれる。raison d'etre」。
http://twitter.com/#!/ishii_mit/status/100031927087661057
<<追記:8/8 0:10 石井教授からメールで懇親会のスピーチの要旨をいただきました。>>
「本日(8月6日)、リクルート社Tech総研のイベントにお招きいただき、311震災から学んだことを皆様と共有させていただく機会を賜り、御礼申しあげます。5月21日の TEDxTokyo での私の311講演「The Last Farewell」をきっかけに、Hack for Japan の皆様と知り合うことができ、さらに今回のイベントを「ハック」して、 H4Jの特別セッションをその真ん中に作り、震災に応えて立ち上がった技術者たちの熱い想いを皆様と共有できたこと、そしてその場に私が居合わせる事ができたこと、とても幸せに思います。
何故プログラムを書くのか、何故電気回路を作るのか、何のためにモノを作るのか、誰のために作るのか、何のために生きているのか、何故僕らはこの社会に存在しているのか、その答えを、風@福島原発、オープンガイガー、そして写真修復の3つのH4J プロジェクトの技術者たちが、今日鮮やかに「人間」の言葉で語ってくれました。そして彼らが活動するオープンな知的協創の場、Hack for Japan を創り育てた及川さんが、その想いを熱く語ってくれました。「何かできるはずだ」、「今やらなくていつやるんだ」、「やりましょう!」彼が紹介してくれたH4Jメンバーの言葉に込められた想い。そして、「アンインストールされ、誰もそのアプリを必要としない日がくることを祈る」という「風@福島原発」の開発者の想いの深さ。
人はお金や名声だけのために生きているのではありません。私たち技術者は、技術者だからこそできることを通じて、社会に貢献し、自分の生きていることの証を,自己の存在証明を求める旅をしているのだと思います。志と情熱さえあれば、H4Jのようなオープンなコラボレーションを通して、その志に共鳴する仲間を集め、個人では不可能だったとてつもない貢献をものすごいスピードでなし得る今日、こうして皆様にお目にかかり、感動を共有できたことに、心から感謝申しあげます。」
私自身、Hack For Japanの活動を通じて、何故生きるのか、それを教えてもらえている気がする。どうもありがとう。
今回の極めてハイクオリティのプレゼンテーションを準備してくれたデザインチームの石野さん、笹島さん、佐伯さん、さらにはスタッフ全員、Hack For Japanに賛同/参加してくれている方々、皆に本当に感謝したい。ありがとう。今回の2週間のプレゼンテーション準備そのものがHackだったように思う。自分はHackerじゃないんだけどという人がいるが、Hackerとは別にすごい勢いでコードを書く人じゃない。想いを実現する熱意があり、行動に移す人のことだ*5。
スライドのタイトルは「Hack For Japanの軌跡」だが、私に言わせると、発足以来のこのコミュニティの活動は奇跡ではないかとさえ思わせる。昨日のパネルの時にも話したが、きっとみんな頭がおかしいのだと思う。震災後4ヶ月経ち、もうすぐ5ヶ月になり、他人ごとのようになっている人たちも少なくない今、夏休みの貴重な週末を家族と観光地に行くのでもなく、2週にもわたってアイデアソン/ハッカソンに参加してくれる参加者、それらのイベントの運営や昨日のプレゼンテーションのために寝ずに作業するスタッフ。きっとみんな頭がおかしいのだと思う。石井教授も自分はクレイジーだと言っていたが、クレイジーな連中が新しい世界を作ってきた。このような頭のおかしい連中で無我夢中で走った結果が今になっている。まさに、「Hack For Japanの奇跡」だ*6。
ちなみに、2週間前デザインチームから賛同を受け作業を開始してもらうときのメールに次のように書いた。
賛同ありがとうございます。
良い感じです。チームドラゴンと名付けましょう。
誰かが突っ込むかと思ったら、誰も突っ込まなかったので、スタッフの間では、我々はチームドラゴンと呼ばれている。後で聞いたら、「及川さんに何か理由あるかと思って黙っていた」と。理由なんか無い。誰かに突っ込まれたら引っ込めようと思っていた。今度何か閃いたときにはチーム名は変更しよう。
** 当日の講演の模様をHack For Japanブログで再現した。良かったら、そちらもどうぞ。
Hack For Japan: Hack For Japanの軌跡 - Japan Innovation Leaders Summit 2011 8.6 satから
** Hack For Japanへの参加 **