携帯電話を用いたカンニングを業務妨害罪の容疑で刑事責任追及することの問題点

最近、話題になっている京都大学等の入学試験で試験時間中に試験問題を Yahoo! 知恵袋 などの Web サイトに投稿してその答えを求めた人がいる件について、警察はこれを偽計業務妨害罪として令状を取り、ISP や携帯電話会社を通じて個人を特定しようとしている。


ところで、私は法律については素人なので間違いがあった場合は申し訳無いと思うが、今回の件について、結果的に、このカンニング行為が業務妨害罪として有罪になってしまったとしたら、以下のようなおかしな問題が発生する。


まず、なぜこのカンニングの問題が業務妨害罪に該当するのか、検察が主張するであろう考えられる理由は以下の 3 つのうちいずれか、またはその組み合わせなのではないかと思う。

  • 理由 1. 受験生として公平・公正に受験すべきところ、試験時間中にカンニングを行い、本来解く能力がなかった出題について、自分の力で正答したように装った。これによって、公平・公正な入学試験の実施を妨害した。
  • 理由 2. 試験時間中に、その時点では非公開である出題文についてインターネットに投稿し、これが事後に騒ぎとなり、よって大学が対応や不正行為者の特定などの本来であらば行う必要がなかったはずの業務が妨害された。
  • 理由 3. 上記 1 または 2 の理由に加えて、結果的に社会的な大規模な騒動となり、どうしても捜査・検挙しなければならない空気になってしまった。


上記について考えてみよう。

理由 1 に関する検討

理由 1 は、この行為を行った受験生が、本気で熱心にその大学に合格したいと思って行った、不正な工夫行為である。これは確かに良くない行為であるといえる。
しかし、大学入試などの試験において、この程度の (辞書や参考書を持ち込むとか、携帯電話を用いて誰かに答えを聞くというような) 不正な行為を行って合格しようとすることを企てる者は、日本に相当数おり、試験時間中にそれがバレて受験を無効にされる事例は多い。
そのように摘発された例もすべて「業務妨害罪」として検挙するという話はほとんど聞いたことがないではないか。もし今回の件を業務妨害罪として問題にするのであれば、同様に今後、大学入試でカンニングが発覚したすべての受験生を「業務妨害罪」として検挙しなければならなくなってしまう。(もし、今回の件は非常に世間的に話題を集めたから、行為の内容の大小は関係なく、検挙したというのであれば、これは別の理由だ。そして、それは明らかに不平等であり、捜査機関として不適切である。「理由 3」で述べる。)
大学入試には他にもいろいろな種類がある。たとえば、筑波大学の AC 入試では、まず受験生に自己推薦書類を作成させ、次にその書類を事前審査して合格としれた者だけを呼び出して面接をして、合否を決定する。面接の際に、自己推薦書類が実はほぼすべて別の者が書いたことがバレてしまい、速攻、不合格にされてしまう例が何件かある。これはすべて「業務妨害罪」の疑いがあるので、警察が捜査しなければならなくなる。
また、大学入試以外にも多くの「公平・公正」な実施が求められる試験がある。大学に限って言えば、大学の卒業試験や中間試験などがある。もし、その大学に入学する学力を粉飾してカンニングし、その大学に入学できたとしても、その大学を卒業するための単位を取得するための試験や卒業論文の執筆および認定試験 (口頭試問など) に合格できなければ、学位をとる (卒業生としての社会的信用を得る) ことは不可能なのであるから、大学としては、入学試験でカンニングを防止するというのと全く同一またはそれ以上の努力をして、入学してから、卒業するまでの間のカンニングの防止をしなければならないのは当然のことである。これにより、万一、入学試験でその大学で授業を受け卒業するのにそもそも能力不足の者のカンニングを見落として合格させてしまったとしても、事後の単位を取得するための試験や卒業論文の執筆および認定試験 (口頭試問など) でカンニングを厳しく取り締まるということをすれば、その者の卒業を防止することができる可能性は高いから、卒業させるための試験も、入学試験と同等またはそれ以上に「公平・公正」に実施する必要がある。
しかし、大学入学後の試験や卒業論文の試験などでカンニングをする者は多い。学生だけではなく、教員もグルになっていることがある。そして、実際、カンニングは学内で多数発覚することが多い。そのような場合は調査委員会などを経て学長が認定し、「休学」などの内部的な処分をされる仕組みになっているが、そのような処分を受けた者はすべて「業務妨害罪」の疑いがあるので、警察が捜査しなければならなくなる。
(ところで、大学では、卒業間際に受験する大学の試験や、卒業論文の出来がいい加減でも、教員が黙認して合格させるという行為が蔓延している。その中には、たとえば「本来であれば不合格で留年してもらわないといけないのだが、あなたは内定がすでに取れているので、卒業が延期となってしまうと可哀想だから、合格ということにしてあげよう。」と教員が述べ、堂々と不公正・不公平な合格者を排出していることが認められる。また、たとえば暇な大学院生に命じて、卒業間際の大学生の書くべき卒業論文の大半を執筆させる例もある。これらはカンニングなのではないか。教員は、当然のことながら学生が内定を取れているか否かによって卒業に係る試験を甘く見たり、カンニングを許したりしてはならないはずである。こういった場合もすべて明らかに証明できる場合は「業務妨害罪」として摘発しなければならない。示教した教員も共犯として摘発されるべきであろう。)
結論として、「理由 1」によって犯罪行為があったとすることは、一応可能だと思うが、他にも多数行われているカンニングと比べて程度が悪質な訳ではなく、他のカンニングを業務妨害罪とした事例はないと思われるので、今回の件のみ特別に業務妨害罪とすることはできないはずである。もし今回の件を業務妨害罪とするのであれば、今後、このような軽微な、携帯電話を用いて「メール」、「メモ機能」などでカンニングをする行為についても、すべて業務妨害罪を適用して検挙するべきだということになる。
もし、事前に「大学の入学試験においては (他の試験と比較して特別に)、不正行為を行ってはならない。不正行為を行った者は、懲役 ○ 年に処する。」という立法をしておれば、その罪状を適用することができるのである。そのような立法がなかったからといって、無理矢理、業務妨害罪を適用するというのはおかしい。不均衡である。

理由 2 に関する検討

試験時間中に、その時点では非公開である出題文についてインターネットに投稿し、これが事後に騒ぎとなり、よって大学が対応や不正行為者の特定などの本来であらば行う必要がなかったはずの業務が妨害されたから、それが業務妨害罪だという理論である。
これは一理がある。たとえば、インターネット上で愉快犯が、実施する意図のないテロ行為について、犯行予告を行い、それによって当日の警備コストを不必要に増加させることになってしまったことについて、業務妨害罪を適用した事例がある。それは妥当だと思われる。なぜならば、その者は本当に「テロ行為」を熱心に行う予定はないのに、虚偽の予告をインターネットに投稿し、「不必要な警備」をさせてしまったからである。つまり、故意にインターネット上で虚偽の情報を拡散させ、警備に混乱をきたすということ自体が違法な行為なのであり、業務妨害罪で追求されるべきである。
しかし、今回の入試の事件については、これと状況が大きく異なる。この受験生は、恐らく熱心に不正行為を行い、できれば発覚しないでほしいと願いつつ、この携帯電話を用いたカンニングを実行したはずである。この受験生が自身の合格を本気で目指して今回の行為を行ったと仮定すると、事後にこのようなことが大々的に報道されて業務妨害罪で立件されるなどして問題になれば自身は恐らく受験が取り消されるだろうから、もともとの「合格したい」という目的を達することはできなくなる。これは誰にでも事前にわかる損得問題である。だから、もしこの受験生が熱心に合格を求めようとしたとすると、"インターネットでこれが誰かに発見されて「なんと、京大の入試問題と同一ではないか。しかも、試験時間中に投稿されている。これはえらいことだ。」と話題になってしまって、騒動になってしまった" ことは、この受験生にとって想定していなかったというか、もっと言えば、できるだけ避けたい事態であったに違いない。この受験生には、試験時間中に問題文をインターネットに書き込んだことができるだけ拡散してほしくないという意図があったことは十分認められる。なぜなら、書き込みの中に「これは予備校で出た宿題である」というような旨を記載して、自然な様子を装う努力をしていることが見受けられるからである。
そうすると、この受験生は、上記「理由 1」で述べた目的を達成しようとしている (つまり、本気でカンニングを行おうとしている) 訳だから、この「理由 2」の目的の達成を意図している訳ではないということになる。よく考えてみよう。「理由 1」と「理由 2」はいずれか 1 個しか成り立たないではないか。理由 1 と理由 2 の両方が成り立つ状況は、明らかに不合理で精神異常な者以外の場合においては存在しないと思われる。「熱心にバレないようにカンニングを行おう」と望みながら、同時に「そのカンニング行為についてインターネット上で拡散させ、騒ぎにしてもらおう」と望む人がいるはずがない。
だから、その受験生は、もし警察に事情聴取されたときには、「私は熱心にバレないようにカンニングを行おうと思い、インターネットに、予備校で出題されたことを装って問題文を書き込み、回答者を求めました。まさか、それが今回のようにバレてしまうということは、できるだけ避けたいと思っており、避けるための努力も行ったのですが、結果としてバレて騒ぎになってしまったことは、誠に申し訳ないことだと思っています。」 等と供述したとしたら、「理由 2」のようなことになってしまったことについて、故意ではなく、努力不足・過失でそうなってしまったということになる。故意がなければ、犯罪は成立しないのだから、「理由 1」が該当する場合については、「理由 2」は両立しないのではないかと思う。

理由 3 に関する検討

上記 1 または 2 の理由に加えて、結果的に社会的な大規模な騒動となり、どうしても捜査・検挙しなければならない空気になってしまったため、今回は特別に「業務妨害罪」として捜査するという行政サービスを特定の民間企業 (大学など) に警察が供与しているとしたら、これは大問題である。単に社会的な大規模な騒動となり、どうしても捜査・検挙しなければならない空気になってしまったことが原因で検挙し、裁判にかけようとすることは、日本の司法機関が「法の支配」の基ではなく「大衆の支配」の基にあるということになってしまう。そうすると、我々は、法に違反していなくても、または多少違反しているがそのような違反はわざわざ検挙される程度の悪質性が無いようなものだとしても、偶然、「大衆」が盛んに声をあげてマスコミ等で話題にのぼり、どうしてもこれを検挙しなければ捜査機関としていてもたってもいられないような空気が成立してしまったら、検挙されるということになってしまう。
このように、「大衆の空気」がもとで、ある行為について裁判にかけられるか否かが事後に決まってしまうとしたら、およそ何もできなくなってしまうではないか。
もし仮に「理由 3」が原因で、今回の者を検挙・起訴・有罪にしたということになれば、その事実は、我々日本国民は絶対に他の先進国にバレないよう、皆で隠さなければならない。「理由 3」のような理由で、普通は問題にならないカンニング行為を問題にして取り締まったということが外国にバレると、日本の警察・検察・裁判所は、日本人のよくわからない「大衆の空気」で左右されるという、誠に危険な未開人によって構成されている組織だと外国人に思われてしまい、その結果、外国企業などが日本に投資したり、現地法人を設立して活動したりすることを躊躇させたり、日本への観光旅行客が激減したりしてしまうだろう。だから、今回の件がもし「理由 3」によるものだとしたら、絶対に、このような恥ずかしいことは、他の先進国にバレないように、日本国民は一致団結して、皆で隠し合わなくてはならない。今回の件が英文になって外国に伝わらないように皆で口止めしないといけない。
運悪く、欧米のニュース記事で「日本で入学試験で不正行為。警察が調査中。」などとすでに報道されてしまっているが、これを読んだ欧米人は「なるほど、日本には入学試験において不正行為を禁止する法律がちゃんとあり、それに応じて警察が捜査しているのだな。」と思っているはずである。それならまだいい。そのような法律などないのに、今回の不正行為のみ、他のカンニングの場合と比べて異様に特別扱いし、警察が大衆の熱気に動かされて捜査を開始したということはまだバレていないので、まだ救いようがある。絶対に我々日本人は、外国人に今回の警察が動いたという事の顛末を話すような恥ずかしいことをしてはならない。

結論

結論としては、「理由 1」が成り立つ場合は「理由 2」は成り立たず、「理由 2」が成り立つ場合は「理由 1」は成り立たない。
今回の受験生の供述を聞かないと正確なことは言えないが、恐らく、「理由 1」が成り立つはずで、そうすると、「理由 2」は故意でなく、できれば避けたかった出来事が過失で起こってしまったということになるので、「理由 2」で刑事責任を問うことはできない。「理由 1」でカンニング行為について刑事責任を問うことはできるが、それは他の (試験時間中にバレてしまった) カンニングは刑事責任を問われていないことを鑑みると、今回の件のみ立件・起訴・有罪とするのは不均衡である。
「理由 3」は、日本の捜査機関の動きとしてはあり得ることかも知れないが、そもそも「理由 3」のような理由で捜査機関が動き、裁判所もそれに見方するということはあってはならないことであり、それ自体が間違いである。自由民主主義とは逆の方向 (大衆の空気で検挙の有無が決まろうとしている。起訴されれば裁判所は捜査機関に見方する) への動きは、誠に日本人として恥ずかしいことであるから、外国人にバレて、日本は野蛮で法治的に未開な後進国だとされないように、我々日本人は、皆でこの件を秘密にしなければならない。


※ 何日間か考えて投稿しましたが、私は法律については素人なので、上記について間違いがあった場合は申し訳無いと思います。

※ 不公平・不公正なカンニング行為を正当化したり、問題ないではないかと主張する訳ではありません (上記文章をよくお読みください。)