準ひきこもり読んだ

「準」ひきこ森―人はなぜ孤立してしまうのか? (講談社+α新書)

「準」ひきこ森―人はなぜ孤立してしまうのか? (講談社+α新書)

えー、読みました。ざっと感想を書きます。

要約すると、約200Pにわたって「なぜオタは社会に適応できずに孤立しますか?」が展開されています。見出しだけでニュアンスは伝わると思うのでわかりやすいものを抜き出します。

「いつも仲間はずれだった」「昼休みもひとり」「女性にもてず、友だちもいない」「女子学生に気持ち悪がられる」「しきりと自分のことを話したがる」「被害妄想でいっぱい」「おしゃれに関心がない」

これらが樋口氏の地道なフィールドワーク(約10年にわたって続けられている)も交えて逐一解説されます。そのテの話が好きな人にはたまらないでしょう。一部の人にとっては「今まで散々ネタにされているものを何を今更」という感じがしますが、実体験に基づく事例も含まれているので生々しさを感じることができます。
一部該当する身として一応突っ込むとするならば、インパクト、わかりやすさ重視で「ブッ飛んだ事例」を取り上げている部分と、傾向としての「コミュニケーションが不得意な人」をごっちゃにして語られている(ように読める)ので大変危機感を覚えました。


ただし念のため強調しておきますが、鋭い視点と言える部分は多々あります。(以下引用を含んだ独自解釈による要約)

  • 「ひきこもり」「スチューデント・アパシー」との差異(図解)
  • 「社会に立ち向かえ、などと言うのはワープロソフトがインストールされていないパソコンで文章作成をしようとするようなもの」「根性とか勇気がどうこうという問題ではなく、行う能力がまだない」
  • 「ニートやフリーター問題はマスコミに注目されているが、その予備軍である準ひきこもりは一見"まじめな大学生"に見えるのでスルーされている」「大学全入になったので"不登校""ひきこもり"な人が大学生になっただけ」
  • 「独自の感性に基づいて一度も口をきいたことがない人に対してまで「嫌い」「気持ち悪い」などという人のターゲットになっていた」「目に見えない、将来の破滅を決定付ける伏線が長期に渡って張り巡らされている」

といった部分は現状とその問題点をしっかり捉えていると思います。
ちなみにネタバレになりますが(ネタバレて)最終章にて、樋口氏が学生時代「準ひきこもり」であったこと、それを克服したことが明かされます。そしてそこから導き出される解決策は…

  • コミュニケーション能力を高めよ
  • 服装に気を使え
  • モノに頼るな(処分せよ)
  • 働け(そして辞めるな)
  • ナンパせよ

だそうです。まあ要するに「適応せよ」と。俺は(オタ云々は置いといて)「適応せよ」というのは真っ当な煽りだと考えているのでまあいいんですが(例えばid:p_shirokumaさんのような)、個人的には「適応以前」「適応するためのエネルギー源」について色々考えていたので肩透かしをくったような気がして少々残念。


というかぶっちゃけて個人的感想を書いてしまうと、準ひきこもりに該当するであろう俺は(ゲームは好きだけど)オタ趣味にイマイチのめりこめていないし、モテたいという願望も薄いので、それらを「捨てろ」と言われても「持ってないものは捨てられません」としか答えられません。まあ「人と話さない人とは話したくない」というような偏見を内面化しすぎているきらいはありますが、それは樋口氏が良くないと主張するところの「ストーキングする傾向がある」という警告を受け止めて忠実に実行した結果ともいえます。なので、俺のようなタイプにとってこの本の内容はあまり有益なものとは思えませんでした。


まじめな感想はここまで。
以降ツッコミというか面白かったところ。
「はじめに」から抜粋引用

準ひきこもりの人は、人格はないが相手をしてくれるもの(テレビ、パソコン、コンピュータゲーム、マンガ、アニメ、フィギュアなど)を相手にひとり遊びをしているだけである

開幕からオタ叩きです。あんまりと言えばあんまりな展開です。俺はオタ趣味に関しては理解できない方にコンプレックスを持っているので「レトリックとしてはアリか」などと思いましたが、それでもゲーム脳、フィギュア萌え族といった単語が頭をよぎりました。表現文化や表象文化という概念に思いを馳せざるを得ません。
続いて、オビのコピーであるところの「ネット騒然!!」という部分に関して解説が入ります。俺解釈で抜粋要約すると

  • 2chに晒されてやたらメールが来た。「なぜ私だけがこんな目に遭うのだろう?」
  • 相談のような内容もあったような気がするが埋もれて削除してしまった。申し訳なく思う。一部の相談に対しては返信した。が、流石に大変。
  • 正直、読むのは自分と紀要編集委員だけだと思っていた。

なんだかどこかで聞いたような話です。個人的には「2ch経由で大量のメールが」という部分に妙な被害者意識を読み取ってしまって少々残念です。嘘でも「掲示板やブログで激しい議論を巻き起こした」くらいのことは書いてもいいんじゃないでしょうか。いやよくないか。*1
さらに

また準ひきこもりについての理解を助けるため、自作の「準ひきこもりの詩(うた)」を何編か挿入しておいた。

ポエムです。内容を要約すると「典型的*2ダメキモオタの内面描写」です。5つ収録されているので興味のある人は是非読みましょう。「理解を助ける」というよりは「偏見を助長する」ような気がしないでもありません。
46Pから

準ひきこもりの就職活動風景をちょっと小説風に描写してみる。

小説風です。まさに「見てきたかのように」書かれています。内容、手法はポエムとほぼ同じです。

また、公式ブログがあるそうです。
樋口康彦の公式ブログです。
本人ではなく代理人の方が運営されているようです。
そしてこんな募集が

『樋口康彦へのリターンメール ―私たちの準ひきこもり体験談―(仮題)』
本を読んでいただいて本当にありがとうございます。
準ひきこもりの皆さんのインターネット上での交流を促進するという目的から,「樋口康彦へのリターンメール編集委員」では本の出版を企画しています。
「ご自分の準ひきこもり体験」(「準ひきこ森」を読んだ感想,どんな状態だったのか,どうやって抜け出したのか,準ひきこもりの詩:その時の心情を詩にしたもの・・・・・・etc 内容は自由です)を大募集致します。あなたの体験を本にして,みんなと共有してみませんか?

ええと、どんな体験が集まるのかと思うと戦々恐々です。「素晴らしい人」論の権威であるところのid:republic1963さんにコメントをもらいたいところです。

*1:一応リンクはっておくと、きっかけになったtodeskingさんの記事→http://d.hatena.ne.jp/todesking/20060425/p2は現在291userからブックマークされている。それから手前味噌ながらhttp://d.hatena.ne.jp/setofuumi/20060428#ksといったやり取りもあった

*2:「一般的な」ではなく「様々な事例やイメージあるいは偏見が抽出、凝縮された」的な意味の方が近いように思われます。