「侵略戦争は正しい」

【電氣アジール日録】「侵略戦争は正しい」

論旨にはおおむね賛成なんだけど、2〜3、首をかしげざるをえない点があるなぁ。まず賛同できる点からいくと、

しかし「侵略戦争は悪い」という発想自体が、そもそも戦後の平和主義・民主主義の価値観に洗脳されきった人間の考え方だと言うこともできないかね?

そこで、右や左の旦那様から袋叩きにされるのを覚悟で、今回とっておきの暴論を吐くぞ。

「侵略戦争は正しい」、少なくとも「20世紀前半のある時期まで侵略戦争は正しかった」と胸を張って言えないのが、現在の日本の自称保守愛国者のダメなところだ。

小林よしのりさんその他なんかは現代の価値観で先人を断罪するなと言ってるので、その理屈を採用すれば、これは全然暴論にならないはずなんだよね。ところが、小林さんの支持者のなかには、なんとしてもあの戦争を侵略じゃなかったことにしようとして、結果的に、小林さんの主張を全否定してしまう人が多かったりする。

左の旦那様はどうだか知らないけど、歴史家がこうした見方を支持できないのは、まず歴史はその時代その時代の価値観によって絶えず再解釈され続けるものだという意識があるのと、もう一つは日本の侵略戦争は現代的な価値観を持ちだすまでもなく当時の価値観から見ても違法だったから、だと思うな。わたしも歴史家ではないけど、小林さんたちの意見には賛成しかねるな。


エントリにうなづける部分は他にも多々あるけど、それはさておき、わたしが疑問に思ったところ。

日本の関東軍が満洲事変を起こした当時、中華民国は地方軍閥の内戦中で、満洲には膨大な土地と資源が、ほとんど手つかずで放置されていた。それで関東軍はことを起こした。

当時は、人がいない土地なら先着順で占領、が世界の常識だったようである。

19世紀の帝国主義時代、欧米列強は本ッ気で「植民地侵略戦争は正しい」と考えていた。

19世紀が帝国主義の時代であって欧米列強が植民地獲得のための侵略戦争を繰りかえしていたというのはその通りだと思うんだけど、ここにさらっと20世紀の関東軍による満州事変のことを混入させちゃうと、事情を知らない人が見たら、その事件を列強間で争っていた帝国主義時代のできごとだと勘違いしちゃうんじゃないかな。前者の「当時」と後者の「当時」が実は違う時代を指してるなんて、ぱっと見、分かんないよね。

そこで列強国どもはいきなり手の平を返したように勝手に戦争に反省して、自分らだけで勝手に大戦後の平和主義を取り決め、国際連盟を作って非戦だ民族自決だと言い出した。

が、極東の島国だった日本は、そんな第一次世界大戦の欧州の主戦場から遠く離れていた。だから大戦後の平和主義もわかってなかった。

そこで、日本は昭和に入ってからも相変わらず、第一次世界大戦までの欧米では常識だった「侵略戦争は正しい」を実践したら袋叩きに遭った、ということではないか?

つまり、当時の日本は第一次世界大戦を契機に変わってしまった国際社会の空気が読めてなかったとも言えるし、そもそも、侵略戦争はけしからん論なんて、先に欧米諸国がさんざん先に侵略戦争やっておいて、あとから勝手に決めた話じゃないか、とも言える。

ここははっきり間違ってると言える。日本はよく遅れてきた帝国主義国とかって言われたりなんかするんだけど、遅れてきたにしても、20世紀には確かに列強国の末席に連なってたんだよね。骸吉さんはお気づきでないようだけど、日本って当時、国際連盟の常任理事国だったんだよ。そいで、中国大陸の権益をめぐっては、列強国同士のつぶしあいを回避するために九ヶ国条約がむすばれ、日本も列強側の当事者としてこの条約に立ち会ってるんだ。

ところが九ヶ国条約の当事者である日本が満州事変なんか起こして満州に傀儡政権を作り、九ヶ国条約を反故にしちゃったもんだから、国際社会から総スカンを買ってしまった。国連で満州返還が提案されると、日本以外の全ての国々が賛成にまわり(反対1=日本、賛成42、棄権1)、あーた大変よ、国連常任理事国なのに国際的に孤立(笑)、松岡洋右はブチ切れ(笑)、議決に反発してその場で国連脱退しちゃった(笑)。そんで日本国民は大喜び(笑)。

空気が読めなかったんじゃなくて、日本はあえて空気をブチ壊したんだよね。だから、当時の価値観から見ても日本のやってることはデタラメなんだ。

骸吉さんは田母神さんたちを自称保守と呼んでるけど、それにはまったく同感で、わたしも田母神さんをはじめ彼らが保守思想家だとは思ってない。よく右傾化がどうのネット右翼がどうのと言われたりするけど、あんなの右翼じゃないから。つーか、あれが何を保守したんだよ、と。やってることは保守の正反対、破壊的な言動ばっかじゃん。

だからこういうオレオレ右翼の夢想するような歴史観、これも彼らが自分で思ってるほどには右翼的じゃない。というか、あの戦争の右翼的な見方って、そもそもどんなんだろうね。

日華事変の当時、日本の中国大陸への進出を支持したり推進したりした人には、大きく2つの流れがあると思うんだけど、1つは中国大陸に権益こさえて私腹を肥やさんとした政治家、官僚、財閥、軍人ら。もう彼らがやってることは侵略としか言いようがないので、とくにフォローはしない。大義なんかありゃしない。ていうか杉本五郎の書いた「大義」を墨塗りするような連中なんだぜ。大義なんかあるわきゃーねえ。1つは上記のような欧米列強によるアジアの植民地化に対抗すべくアジアの連帯を訴えた思想家。いわゆるアジア主義者。この思想集団には右翼(天皇主義者)も左翼(共産主義者)もいて、開戦に反対するものも賛成するものもいた。んで、このうちの日本の中国進出がアジア解放になると信じちゃった人が戦争を支持したんだな。八紘一宇とか大東亜共栄圏とか言われるとその理念でころっとやられちゃった。ある意味、お人好しすぎだったとも言えるが、それ以前に、こうした立場を取るのは前者の権益派と違って勢力を持たない連中が多かった。

んで、まあ、帝国主義の体現者みたいな連中と、帝国主義に反対する連中と、水と油のようにまったく相容れないはずの2つの思想勢力が、中国進出という共通の目的に向かって1本化されちゃって、結局、あれが遂行されちゃうんだな。

ところが戦後、そういう戦前の2つの潮流がごちゃまぜになっちゃって、右翼のコスプレしてるようなのが、あの戦争をどう総括するか、よく考えもせず、都合のいいとこつまみ食いで、欧米列強に抵抗してアジアを解放したんだと言ったかと思えば、欧米列強と植民地の権益を争うのは弱肉強食の時代だから当たり前だったんだとか言ったりして、そのつどそのつど言うことがころころ変わって一貫性がなく、戦前の右翼の意見を参照したことすらないくせに、おれは保守思想家だとか自称してるわけでしょ。わたしみたいな近現代史にまったく通じてない人間にも劣るような断片的な知識しか持ってないようなのが、他人に向かって歴史を勉強しろだとかヒステリックに絶叫してんだぜ。ほーんと、だっせぇよなー。


あ、あと、

アメリカはハールハーバーを攻撃されたので自衛のための戦争と称して広島と長崎の民衆に大虐殺を行なった。日本人にとっては腹の立つ話だ。

広島と長崎というのは原子爆弾のことだと思うけど、あれをパールハーバーにからめてるのは米国にもあんまりいないと思う。それに、パールハーバーを契機に自衛戦争を始めたという人も。「アメリカはパールハーバーを攻撃されて参戦を決め、最終的に広島と長崎の民衆に大虐殺を行った」っていうのなら分かる。でも、この文脈だとパールハーバーって固有名詞が浮いちゃってるよね。削っちゃっていい。不要だと思う。