雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

変革へ向けた各々のリーダーシップ

帰りの飛行機で『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)』を読みながら東京に戻った。東大じゃトップノッチのエリートはとっくに日本企業を見捨てているとか書かれていて、そりゃそうだろうと頷く。じゃあ血税を突っ込んで育てた俊英たちをごっそり外資の金融・コンサルに上澄みを持って行かれるってどうよとは思うが、こればっかりは日本企業が不甲斐ないのだから仕方ない。

さてと、然るにリーダー教育とはなにかということを考えるときに、ゲイツやジョブズやエジソンやダ・ヴィンチを育成できるなどという前提はやはり捨てるべきだろう。エジソンは小学校すらろくに卒業していないんだから。
ではなんなのかというと、やっぱり管理職を前提に考えるべきだろうか。しかしそれはむしろ会社のアイデンティティーに依存することだから学校で教えられても困りそうだ。

講義名は僕が取り纏めを引き受ける前から決まっていて途方に暮れたのだが、右も左も分からないまま前回の合宿に臨んだところ「学生達に生々しいビジネス現場の話を聞かせたい」みたいな話となって、とはいえ出てくる話がSIとかユーザー企業の話ばかりだったんで「やっぱり業界を俯瞰して、これから国際競争力のこととかも考えると、組込系、パッケージ、携帯、コンテンツといった話は避けられないでしょう。その辺の現場を切り盛りしている若い連中を呼びましょうよ」と提案したら歓迎された。本当にshi3zは誘って大正解だった。
全体ミーティングでは思うところがあって「仮にですよ、ここでトップノッチの子達が育ったとして、日本国内で受け皿ってあるんでしょうか。ぶっちゃけ学生なんて現金なもので、活躍の場さえあれば目を輝かせて頑張ると思うんですよ」と聞いたところ「コース全体の目標として、10年後くらいにリーダーとして業界を引っ張っていける人材を育てたい」といわれたのだが、ストレートでM2を24歳で卒業したとして34歳、確かに働き盛りではあるけれども随分と悠長な話だ。ここでいうリーダーって人によって意識に開きがあるのだが、業界を引っ張るというよりは、何となく大企業の課長級くらいが想定されている感じだ。正直それってリーダーか?と思うこともあるが、リードできる裁量って、せめて課長級くらいじゃないと難しい気はする。
だが本当に優秀な連中は今も昔も、日本でも世界でも20代までに頭角を現して世界を動かしている。例えば富士通で池田敏雄がFACOM 100を完成させたのは31歳の時だが、その前から頭角を現していたから自由に動けた訳だ。shi3zのいう通り、そういう連中は教育を通じて育つものじゃない。教育にできるのはせいぜい本当に優秀な連中が上質な技術や仲間と接して触発され、想いをカタチにしていく土台を提供するところまでだ。けれどもそれは大学院のコースでできることではなく、もっと大きな括りの大学組織なり社会基盤として考える必要がある。
じゃあかなり志を落として大企業の管理職として必要なスキルを身につけさせるという話になると、MBAとかMOTが既にやっていることだが、会社がそういった能力を発揮する場を提供できず、能力に応じた給与を支払う仕組みも持っておらず、すぐ出る杭を打つのである。外資ならすぐに能力を発揮できるポジションにつけるところを、日本企業では年齢に応じた現場しか用意できない、しかも上が糞詰まっている中で周囲とのバランスでアサインされてしまうと、せっかく身につけたスキルが錆び付くような現場しかない。
下手に学があると組織や上司のボロとかみえてしまうので、それを指摘しようものなら煙たがられ、自分から変えようとして干されるというのは、よく聞く話だ。日本の場合、管理職のスキルが「会社のアイデンティティーに依存する」のは確かだし、だからMBAで学んだから組織を動かせる訳じゃない、という現実はあるのだろう。けれども米国企業に限らず多くのグローバル企業では、職務範囲も意志決定プロセスも明快化され、かつ標準化されている。そもそも労働流動性の高い世界では、そうしないと組織としての生産性が上がらない訳で。
功成り名を遂げたおっちゃん達は学生に対して、国際比較で学生に能力が足りない、コミュニケーションが下手、積極的ではないと注文をつける。では能力があって、コミュニケーションが上手く、積極的な学生が存分に能力を発揮できるような受け皿を用意できるのだろうか。持て余して飼い殺しにしたり、出る杭を打ってしまうのではないか。
この手の議論はいつも鶏と卵で、魅力的なキャリアパスのみえているところに学生が吸い寄せられるのと、学生の能力に応じて社会的な受け皿が形成されていくのと、スパイラル式にいくのが理想だ。どだい数年でできる話ではないが、自分自身でキャリアを切り開いてきた連中と学生たちとの間で、或いは大企業エリートとベンチャー創業社長達との間で、闊達な討議を通じて何かしら化学反応のようなことが起きればいいな。大企業も急には変われないが、思い込みに縛られたままでは優秀な人材を採れないことに、遠からず気付くだろうし。
学生にグローバル水準を求めるなら、企業もグローバル水準の処遇と可能性を提示する必要がある。企業から魅力的な条件を引き出すのは学生のリーダーシップだが、外資にばかり逸材を取られないための雇用慣行転換へ向けて、経団連に加盟する大企業もリーダーシップを発揮すべき時期がきているのではないか。