「そんな言い方誰もしない」と言い張るお子様たち

まず、以下の小学校国語の問題を読んでみてくださいな。


問題:次の(  )にあてはまるものをア〜エの中から選びなさい。
  1. その問題の解決には(  )が折れた。
  2. 彼は(  )が広い男だ。
  3. (  )があいたら、手伝ってください。
  4. (  )を割って話し合おう。

選択肢:ア.腹 イ.顔 ウ.骨 エ.手

塾でこういう問題を小学生にやらせてみると、これはもう壊滅的にできません*1。「手が折れた」だの、「顔を割って話し合おう」だの、おそろしい文章を作りますよ、彼らは。おまけに、慣用句を知らないだけならまだしも、「そんな(『骨が折れる』とか『顔が広い』とか)言い方誰もしないよ!」と文句を言う子がかなりいます。誰もって誰だよ、アンタのクラスの小学生連中か? 小学生はしなくてもおとなはこういう言い方するんだよ。幼稚な表現力の人ばっかりに囲まれて「これが当たり前」と思い込んでいたら、アンタの言語表現は一生幼稚なままだよ! 表現の幅が狭いままだと、将来メールで人を口説くことも、入社試験で面接官に「この人を採ろう」と思ってもらうこともできないよ!……と叱ってがっつり覚えさせるんですけどね。

ちなみに、中高生にもまったく同じ傾向があります。中学生は「虎穴にいらずんば虎児を得ず」を習って「そんな言い方誰も(略)」と言い張り、高校生は"kill two birds with one stone"ということわざの訳が「一石二鳥」だと説明されて「そんな言い方誰も(略)」と言い張ります。それはもう判で押したように、同じことを言うんですよ。
すごく興味深いのは、小中高どの学年でも、自分の回答が不正解だとわかった瞬間には狼狽またはがっかりした顔をしているのに、「そんな言い方誰も(略)」と言う瞬間にはものすごく人をバカにした口調になっていることです。つまり、この子たちは、一旦失われた自尊心を以下のようなプロセスで回復しているんだと思います。

  1. 間違えた、しまった!(←狼狽、またはがっかり)
  2. このままでは自分が無知なことになってしまう。やばい。
  3. でも自分の周りにこんな表現を使っている人はいない。
  4. 「みんな」と同じなんだから、きっと自分の方が正しいんだ。
  5. こんな表現を使うやつの方がおかしいんだ! おかしい奴を見下せ!(←ものすごく人をバカにした口調)

自分の無知を認める代わりに、「『みんな』と同じ自分が正しい」という主張でプライドを保とうとしているんでしょうね。
でも、よく考えたら、大人でもこういう人はたくさんいます。ことば遣いについてのみならず、人間の価値観や行動について、安易に「そんなこと誰も言わない/しないよ!」などと言い放ってふんぞり返っている人には要注意です。その人は、自分の無知を糊塗するために、必死になって「おかしい奴を見下せ」路線に軌道修正しているお子様なのかもしれません。あたし自身だってきっと、無意識のうちにそうなっている瞬間はたくさんあるに違いないと思います。「くだらんプライド維持のために『自分の周りの小集団こそ世界標準』と決め付けちゃうのは、『顔を割って話し合おう』とか書いちゃう小学生と同レベル」と常に認識できるようでありたい、と思っています。

*1:本をたくさん読んでいる子だと、そうでもないんですけどね。