厳しいぬるま湯 あるいは ベンチャー・スター誕生 TechCrunch50雑感

昨日・今日はTechCrunch50に行ってきた。今年で3回目の開催だが、私は実際見るのは初めて。AMNのWISHについて書いたりしたので、本家ともいえるTechCrunchに行ってみようか、とふと思い立ったからだ。日本からも、Ustreamで見ていた方もおられることと思う。

見慣れている商業コンファレンスと比べ、強烈な「コミュニティ」感が圧倒的に会場を支配している。どのコンファレンスでも、多かれ少なかれ、そういった「専門家集団」のコミュニティ感が漂っているし、またTechCrunchだって、いいベンチャーを見つけて大もうけしようと思っている人たちがわんさか来ている「商売」なのだけれど。

なにしろ、私が「パラダイス鎖国」でも書いた、シリコンバレーの「厳しいぬるま湯」の正真正銘正統派本家本元なのである。

世界中から膨大な数の応募者(よく聞き取れなかったのだが、応募は1200社と言っていたような?)があり、そこからここにたどりつくまでの「ベンチャー・スター誕生」予選は厳しい。最後まで残っても、壇上でこき下ろされることもある。見ている人もTwitterでこきおろす。

しかし、例えば昨日、「Eye of the Tiger」の音楽とともに派手に衣装を着て登場したゲーム関連ソフト会社iMOのおにいちゃんが、iPhoneがネットにつながらずデモが失敗していったんひっこんだときには、「これは彼らが悪いんじゃない、(WiFiが提供できない)ボクらのほうが悪いんだ。もう一回チャンスをやってくれ。」とJasonが言い、その日の午後に再度挑戦。再登壇時には、会場中が熱狂的な手拍子と歓声で迎えた。また、このiMOはインド、他にも韓国、南米、フランスなど、英語が母国語でない人たちも多かったが、「英語が下手だと悪口をTwitterで書かないでほしい。逆に、もし自分が英語圏以外のところでプレゼンをやったら、どうなるか、考えてみてくれ」とJasonから会場へのお願いもあった。

あまたのベンチャー企業応募者の中から、最終予選を勝ち抜いたファイナリスト50社が壇上で一社6分のプレゼンテーションを行い、それをベンチャーキャピタルやすでに成功したアントレプレナーなどの有名人が「エキスパート・パネル」となってその場で批評する。

前日に収録されたポッドキャスト「TWiT」に出演したJason本人によると、ファイナリスト50社に対し、Jasonが数週間かけて事前にプレゼンテーションのコーチをするそうだ。普通、ベンチャーキャピタルに対するプレゼンでは、ビジネスモデル、現在までの資金調達状況、創業者のプロファイルなどといったことをこまごま言うのだが、ここではそうでなく、「プロダクト」を紹介することに徹することにしており、ついつい「VC向け」のプレゼンをしてしまう各社に、ひとつひとつJasonがダメ出しをしていくのだそうだ。

「アメリカンアイドル」式に厳しいことも言うが、全体的には割りとやさしいな、と私は思った。

その一つ手前の一次予選を勝ち抜いたセミファイナリスト100社は、会場に場所を与えられて展示を行う。ここでも、エキスパートの人たちが親しく話をしている。

日本からは、今回は残念ながらファイナリストはいなかったが、セミファイナル参加者としては3社ほど見つけることができた。

ちなみに、日本企業のセミファイナリストは

  1. LIFEmee
  2. SpySee
  3. TC-3 Group

の3社。1と2はそれでも一応ちゃんと会社になっているが、3の人は「2人でやっていて、ここに来るのに飛行機代は親に出してもらった」という。(内容詳細はTechCrunchのSerkan Totoの記事ã‚„ふみさんの記事などを参照してほしい)他のベンチャーでも、似たり寄ったりのところがいっぱいある。

なんともいえない、ベンチャーの匂いが強烈に漂う。主催者であるJason CalacanisとMike Arringtonのスタイルといっていいかもしれない。世界のどこからでも参加できるし、オープンだし、でも、この同じ体臭を持つ人たちしかなじめない、はいっていけない、一種独特の「自己閉鎖」的なコミュニティなのである。

今年初めて参加したので、私は昨年などと比べてどうかとは言えないのだが、Jasonやエキスパートによると、昨年までと比べ、今年のベンチャーはレベルがより高く、また無駄遣いなどせずにしっかりやってきているところが多い、との感想だった。個人的には、世間で「Web2.0」の典型と思われており、本来ならばより「華やかでスケーラブルでベンチャー的」であるはずの、エンタメ系、メディア・広告、お友達SNS的なものの「発展形」のものが「古臭く」見え、一方ローカルビジネス向けやヘルスケア関連などといった、スケーラビリティにはやや欠けるけれど「地に足の着いた」ものが面白く感じられた。結局、大賞を受賞したRedBeacon社も、そうした「ローカルビジネス向け」の地味ながら地に足の着いたビジネスである。消費者向けに無料でまずユーザーをたくさん獲得、という風潮から、「地に足」系へと流行が移っている。特に、「中小企業」がキーワードのように感じた。

プレゼンテーションの中でも質疑応答の中でも、また展示会場のほうでも、「不況だからどーの」という話がそういえばひとかけらも出なかった。ちょうど、リーマンショックからまる1年。淡々と、いつものように、今日もベンチャーが創業し日々を戦っている。

JasonとMike
Kevin RoseとTim O'Reilly(エキスパート・パネル)
iMO