泣きやむまで 泣くといい

知的障害児と家族の支援からはじまり、気がついたら発達障害、不登校、子どもの貧困などいろいろと。関西某所で悩みの尽きない零細NPO代表の日々。

月額平均7343円

 Yahooの記事にリンクされているブログの内容があまりにひどいものばかりなので、取り急ぎ更新。関係者にとっては当たり前のことなので、ふだん全くこんなことに興味を抱いたことの無い人向け。
時給わずか100円台…神戸の障害者施設、改善指導へ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070219-00000101-yom-soci
 「100円台」ということに対して「人権無視」とか「障害者を働かせてボロ儲け」とか言っている人たちは、すぐに検索エンジンで「共同作業所 平均工賃」って打ち込んで調べてほしい。よい機会だ。データはたくさん出てくる。
 たとえば、2005年のきょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)調査によれば、小規模共同作業所の平均工賃は月額7343円である。確認のため繰り返すが、これが月額。ちなみに同調査時点での利用料、食費、交通費は平均で合計13385円。利用料は低所得でなければ、今のほうがぐんとあがっている。
 みんなお金を払って、働いているのである。それならば、全国の作業所関係者はみんな障害者から搾取しているという整理でよいですか? では、それで誰が儲かっているのですか?
 ちなみにそこで働く職員の労働実態についても、きょうされん調査がある。職員の給与額は書いてないが。きょうされんも全ての作業所が加入しているわけじゃないし。でも、参考にはなるだろう。
http://www.kyosaren.or.jp/research/2006/syokuintyousagaiyou.pdf
 むろん十分な仕事が見つけられないとか、販路の開拓がうまくいかないとか、利用者の方たちの力をいかせていないとか、さまざまなことについて職員は絶えず反省しなければいけないし、利用者の方たちに十分な工賃を払えるぐらいに金を稼ぐのが福祉業界は下手であり、ビジネスセンスに欠けることも認めるが、100円台という事実に驚いてみんな直感的に反応する前に、なぜその金額が当たり前になっているのか、共同作業所という場所がどのような社会的位置づけにある場所で、そこで行なわれている労働というものの性質がどのようなものなのか、ぜひ考えてみてほしい。
 ただ、もちろん作業所によって稼ぎはさまざまなので、ここは労働基準監督署から見たときに稼ぎのわりに利用者(労働者)に支払われていない、ということだったのかもしれない。情報が少なすぎて、言えることはその程度。

(追記)
 帰宅して、その後もネット上の反応を見ているが、すべてひどい。これが世間の理解度かと思うと、絶望的な気持ちになる。
 同時に、ろくに実態の詳細も伝えることなく、無責任に中途半端な情報を流したメディアのほうにも腹が立ってきた。特にトップページで2時間以上も取り上げたYahoo。この罪は重い。
 読売新聞がもう少し詳しい記事を出していることがわかった。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070219i101.htm
 そして、この記事をもとに丁寧に考えられているのが、児童精神科医のAFCPさん。
http://homepage3.nifty.com/afcp/B408387254/C783119433/E20070219212826/index.html

まず第一の疑問点なのですが、指導員の人件費は必要経費にならないのでしょうか。そもそも年間1400万円の補助金で3箇所の小規模作業所の職員の人件費をまかなうことができるのでしょうか。1400万円で雇えるのは、福祉領域の極端な低賃金を考えてもせいぜい3、4人くらいが精一杯のように思います。3施設で16人ということはわりに通所者の少ない施設のようですが、それでも各施設1人程度の職員で運営ができるものなのでしょうか。
二番目としては

〈1〉作業収入は必要経費を除き、障害者に全額工賃として支払う〈2〉能力により工賃に差を設けない〈3〉出欠や作業時間、作業量などは自由で、指導監督をしない——などを条件に、労働基準法の適用を除外される。

というところなのですが、だからといって作業時間や出席日数によって工賃に全く差を付けないことが、果たしてよいのでしょうか。応用行動分析を持ち出すまでもなく、作業に対し本人にわかりやすく適当な報酬を準備することは、作業能力を身につけるために有効な手段ですし、何よりも働いた時間に相応して報酬を得て、それを自らの楽しみに使うことが、やりがい、生きがいにつながるのではないでしょうか。
この「やりがい、生きがい」を充実させていくには、もちろん工賃を上げていく必要があり、そのための労基署の指導なのかとも思いますが、どうにも無理があるように思われます。労基署は神戸市に対して改善指導を行い、補助金を増額するのが先なのではないでしょうか。その後でも工賃が上がらなければ、施設側に改善指導を行えばよいと思います。

同様の事例はほかにもあるとみられ、厚生労働省は近く、労働者としての保護を徹底するよう、関係施設に通達を出す。

ということですが、これを本気でやったら小規模作業所が次々閉鎖されるのではないでしょうか。

同育成会の足立千鶴理事は「保護者の理解を得て10年以上前から行っており、違法と言われては、作業所の運営は極めて難しい」と話している。

この言葉は言い訳などではなくて、真実であるように思われるのですが。

 全くもって、うなづけることばかり(その後、朝日の記事をもとに追記され、いっそう説得力を増している)。
 そして、過去にも何度かトラバいただいているのに、今回もなぜかトラバが表示されないBUNTENさんも書いておられる。
http://d.hatena.ne.jp/BUNTEN/20070219
 経済学的な表現も交えて、これまた全くその通りのことをおっしゃっている。
 ちなみに一般就労に向けての取り組みについては、↓などに詳しい。
ジョブコーチ・ネットワーク
http://www.jc-net.jp/
 自分もあまり勉強できてないが、ジョブコーチはこのあたりではまだまだ機能していない。手も足りない。
 それにしても、ネット上で作業所関係者がもっと怒っていてもよさそうなものなのに、自分がそういうサイトを見つけられないだけなのだろうか。最後に念のため書いておくけれど、「だからといって、月額平均7000円台でよいはずはない」。経営上できる限りの工夫はすべき。障害があるから無理、と可能性に見切りをつけるのではなく、本人の潜在的な力を活かせるような仕事を生み出すべき。そのための専門性も関係者は身につけるべき。
 ということを、通所をやっていない自分が書くと、各方面から叱られるのだろうが。そんなことはわかっていると。すいません。でも、努力していない法人の開き直りを招いてもよくないから、言わないわけにもいかない。
(おまけの追記)
 それから、はてな匿名ダイアリーで、ずいぶん知的障害関連の話題が活発の様子。気になる内容も多いのだけれど、どうしたものか。それにしても知的障害者について議論になるのは、いつも知的障害者が加害者か被害者のどちらかの場合のみ。その「あいだ」はどこへ追いやられるのだろう。