tatouage〔仏〕 / tatuaggio〔伊〕
英語で入れ墨(刺青)のこと。tatooとも綴るが、専門誌、専門書ではtattooが主に使われている。
もともとの意味は、「トントン(コツコツ)」叩く擬音。語源はタヒチ語のtatu(タタウ、markを付けるの意)で、現地では針の束を付けた棒でトントンと叩くように肌に彫るため、その音に由来するとも言われる。
およそ、ほとんどの民族の歴史の中にtattooの風習は見られた。1991年アルプス山脈で、紀元前3300年前の新石器時代人が氷付けで発見されたが、その皮膚には動物をかたどったtattooが確認されている。
古代ヨーロッパでもtattooを全身に施していた部族が存在したが、一旦その風習は途絶える。再び欧州人がtattooに出会うのは、18世紀にキャプテンクックが南太平洋航海を果たすまで待たねばならない。その後、船乗りの間で無事帰港できることへの祈りをこめてtattooを入れる風習が広まる。その風習は第一次世界大戦以降、欧米の水兵の間に定着した。1950年代以降、バイカー、ロッカーなど、反社会的なカルチャーと結びつき、やがてボディー・ピアスとともにアンダーグラウンドカルチャーに必須のアイテムとなる。
水兵のtattooにルーツを持つ最もtattooらしいtattoo。1940〜1960年に現在のスタイルが確立された。今でも当時の彫師が残したFlash(サンプル・デザイン)が珍重されている。モチーフには、星や碇など航海に関係したモチーフ、バラや髑髏などキリスト教の象徴的モチーフ、鷲や星条旗など軍隊関連のモチーフなどがよく見られる。カートゥーン(戦前の米国の漫画)も古くからのモチーフ。また蜘蛛の巣、エイトボールなどロックンロールになじみのモチーフも登場する。近年、オールド・スクールを再評価する動きがあり、古いモチーフをリミックスした、Neo Classic、Old-school-based New Schoolとも呼ばれるスタイルも現れている。
1980年代に現れ始めたスタイル。広義には後述のファイン・ラインやバイオ・メカなど、オールド・スクール以外のスタイルをまとめてニュー・スクールと言う場合もある。いわゆるニュー・スクールと呼ばれるスタイルは、オールド・スクールよりもカラフルで立体的な表現が特徴。オールド・スクールと同じモチーフでも、独特のねじれ感がある。モチーフは血みどろのもの、エグイものも好まれる。モチーフにラット・フィンク等のキャラクターがよく登場することでもわかるように、アンダーグラウンドカルチャーの影響が大きい。今では、Neo Classicなスタイルの登場でオールド・スクールとの境界はますます曖昧になっている。
80年代、Don Ed Hardyらの努力により海外で日本の伝統的彫り物(刺青)が書籍等で正確に紹介されるようになった。同時期、日本の伝統的彫師の海外コンベンション初参加が実現し、日本の彫り物は欧米の彫師に大きなインパクトを与えた。90年代初頭、若き天才彫師Filip Lueの登場で、その影響はさらに決定的になる。Filipがクリエイトしたスタイルは日本の伝統的彫り物をベースに、欧米の美術的表現を加えたもので日本の刺青と区別するためJapanese New Schoolなどと呼ばれる。日本の刺青が浮世絵や武者絵をベースにしていたのに対し、Filipの作風は、どちらかといえば日本画や花鳥画に影響されており、(日本人から見ると)オリエンタルな雰囲気である。’90年代後半、Filipにあこがれて日本的なモチーフに挑戦する欧米の若い彫師が急増した。一方でより日本的な刺青に影響された欧米の彫師も少なくない。現在の欧米tattooシーンは日本の彫り物の影響抜きには語れない状態。
もともとは南太平洋諸島の伝統的tattooなど、部族的なものを指したが、現在ではトライバルというスタイルを指す。80年代末、Modern Primitiveのムーブメントの影響を受けて、アフリカの部族的身体改造や太平洋のtatuをベースにした黒一色で象徴的な文様を彫るスタイルが欧米で広まっていった。モチーフは部族的な神話に基づく文様から、現代的にデザインされたものが生み出された。特にトライバル・リングと呼ばれる腕輪状のモチーフは90年代に大ヒットし、tattooeeを急増させるきっかけとなった。現在ではトライバルと一言にいっても多様化しており、色を多様したカラートライバル、幾何学的なアブストラクトトライバルの他、プリミティブな伝統的なデザインに回帰するもの、中近東のヘンナや欧州の古典的デザインとリミックスしたもの、日本の彫り物(和彫り)の構成(ひかえや胸割り)を使ったものなどが見られる。
‘90年代のトライバルの流行の中で、欧州で自らの部族的文様へ回帰しようと、ケルト民族の伝統的文様をTattooに表現した。90年代はけっこう流行って、よく目にしたが最近は見かけなくなった。
オールド・スクール、日本の刺青などは、アウトラインをはっきりとした黒い線で表現するのに対し、アウトラインをあまり用いず写実的に表現するスタイル。エア・ブラシで描いたような感じになる。実際、クリスチャン・リース・ラッセンの絵のような海洋生物を超写実的に表現したものもよく見かける。
黒とそのシェイディング(陰のようなぼかし、ただし和彫りとは違う技術)だけで、超リアルに表現するスタイル。ファイン・ラインのモノトーン版と思ってもよい。モチーフとしてはホラーや地獄絵図的なものが好まれる。
実際の人物写真を横において、シェイディングを駆使して、まったく写真通りに肌に彫るスタイル。欧米では昔から肖像写真を大切に部屋に飾る習慣があるが、それを自分の肌に彫りつけようという発想から生まれた。ファイン・ラインやブラック&グレイのスタイルは、ポートレイトtattooの技術から生まれたものと思われる。もともと黒白がメインだが、カラーのポートレイトも少なくない。家族の肖像を彫った例が多いが、尊敬する人物や憧れの映画俳優などを彫る人も少なくない。
80年代にエイリアンをデザインしたH.G.ギーガーの影響を強く受けて始まったスタイル。サイバネティックな作風が特徴。肌が一見、機械生命体のようになってしまう。当初はギーガー風にブラック&グレイで表現したものが多かったが、90年代後半、Guy Aitchson、Aaron Cainら若手彫師がCGアートなどの影響を受けて、フラクタル文様やCG的な輝きをtattooで実現し、世界的に大きな影響を与えた。現在はより生物的なぬめり感のある表現、アシッドでトランス的な表現も見られる。
90年代末、ロンドンのBugsが始めて注目を集めたスタイル。ピカソやブラックなど、20世紀初頭のキュビズム(立体派)画家の作風に強く影響を受けたもの。勢いのある太いアウトラインと激しいタッチが特長。キュビズムによく登場する女性のヌード、労働者などがモチーフにされるが、バラでも牡丹でもキュビズムにアレンジできる。ヨーロッパ中心にこの作風を特徴とする彫師が少なからずいる。やはり20世紀初頭の芸術運動ロシア・アバンギャルドなどの影響も見られる。
壁に描いてあるグラフティをそのままモチーフとして肌に彫ったもの。90年代末に日本でも彫られるようになったが、大きなムーブメントには至っていない。実は有名な彫師でGraffiti Artist出身の人は少なくない。壁という平面に描いていたものをそのまま曲面の肌上にもってくるには多少無理があるので、今後、肌に即したデザインが工夫されることに期待したい。