大島永遠『まんがかぞく』

まんがかぞく 一家4人全員漫画家(1) (アクションコミックス) 大島永遠『まんがかぞく』(双葉社)は、面白すぎた。
 サブタイトルに「一家4人全員漫画家」とある。
 そして大島永遠のこの絵柄。

 こうくれば、誰が見ても、陳腐な設定のドタバタコメディしか思い浮かばない。

 父がアイデア、キャラづくり、母が下描き、姉が背景とペン入れ、妹がトーンはり……とか家内制手工業みたいなそんなやつ(適当)。


 全然違った。
 すべて実話である。
 しかも家内制手工業じゃなくて、4人がすべて独立した漫画家。


 父=『バツ&テリー』で有名な大島やすいち
 母=レディコミの川島れいこ
 娘(姉)=『女子高生』で知られる大島永遠
 娘(妹)=(エロ)4コマの連載を持つ三島弥生


 もうだめだ。もうすごい。どうにでもして。
 いかかであろう。この設定、いや設定じゃない、この興味を持たないわけにはいかない絶対的な現実の事実そのものが、もはや尋常じゃない。あと、どんな絵や話つけたって、面白くならないわけがないだろ。

 実際、大島永遠の絵柄というのは、ノンフィクションを描くのにはキツい。そしていつものタッチでやっているので、もうグラフィックだけ眺めているとこれがルポもしくはエッセイであるとは到底思えないのである。写実的リアリティが侵入してくると、もうなんていうのかな、「商品の解説マンガ」みたいなトーンになってくるんだよ。
 にもかかわらず。
 にもかかわらずだ。あまりに強烈な事実によって、読む側はいとも簡単にねじふせられてしまう。


 父親をまぶしく思う気持ちとか、
 母親のプロ意識に感じ入るところとか、
 編集者と共同で作品をよくしていく話とか、
 フィクションでやるとベタすぎるけども、「これ全部ノンフィクションかよ…」と思うと、すべてオッケー! 事実ってすごいですね。

 それだけじゃなくて、大島永遠が離れて暮らしていて、父と母は自宅(実家)近くに仕事場をもっている状況であるが、

そう…
私達は
4人揃っても
漫画の話は
あまりしません


むしろ
お互いが
何の漫画を
描いているかすら
あまり把握して
なかったりもします

という事実にさらに驚く。「お互いのブログで近況を知る家族」ってどんな「朝日新聞風 現代社会の家族風景」ですか。


父親への見方は「キレイ」にまとめないでほしい


 大島永遠からみた他の家族3人を、各1章もうけて描写しているんだが、一番描きにくそうなのは父=大島やすいちだ。
 大島永遠がマガジン増刊号に初めて読み切りを載せたとき、父親はパラ見しただけで

全部同じ調子で描いてるのな

と言って「バサ」と笑いながら投げ捨てるシーンがある。このシーンは、ほんの一瞬であるが、この巻全体で最も緊張が走るシーンだといえる。
 他の家族は「悪口」が描いてあったり、嫉妬心が見え隠れする描写があっても、なんというか、笑いの道具であったり、「物語」パターンの中に収まる一つの波乱にすぎないものばかりである。「事実」であるがゆえに、そういったものも面白いわけなんだが。
 しかし、父親にたいする大島永遠の感情は違う。


親子であり
同業者であり
ライバル


その存在は ぶっちゃけ
うっとうしいし
目ざわりで


そして
尊敬するし
目標でもある


だから
お父さん


一生 越えられない
目の上のたんこぶで
いて下さい


と「キレイ」にまとめて、「ツンデレ」なのだという理解におしこめようとしている。しかし、別の場所で、大島永遠が父親のことを、


この人だけは
私に対して
どう思っているのか


本当に
謎です


と書いているように、「了解可能な形態」になっていない不気味な存在として「畏怖」の感情が強いのが父親=大島そういちなのだ。だからこそ、読み切りに載った作品を一刀両断したときの評にさらされた恐怖や屈辱のエピソードが心に残る。だとすれば「ツンデレ」のような、そして「いいひと」的な理解におとしこまずに、もうちょっとさ、ほら、なんていうの、ドロドロした、「大島そういちはクソ」「オヤジ氏ね」もしくは「父が怖くて仕方ありません」みたいな、そういう描き方の方にエッジをつけてほしいんだが。


 いや、人の肉親理解にケチをつけてもしょうがないんですけどね。


 一家4人全員が漫画家という設定だけでも面白すぎるわけだが、凡人たるぼくの目からみれば、その次に気を引くのは「有名漫画家である父をもち、自らも有名になりかけている漫画家の娘は、父をどうみているのか」ということであり、たしかに本書にも随所にそういう屈折は出てくるんだけど、そういうのがもっと読みたいわけだ。

 ま、それはさておき、大変満足した。
 おすすめする。