琥珀色の戯言

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【読書感想】資格を取ると貧乏になります ☆☆☆


資格を取ると貧乏になります (新潮新書)

資格を取ると貧乏になります (新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
弁護士、公認会計士、税理士、社労士…。「一流の資格さえ持っていれば食いっぱぐれない」なんて考えたら大間違い!近年、規制緩和によって資格取得者の数が激増。その割に仕事は増えず、過当競争とダンピングが常態化し、「資格貧乏」があふれかえっているからだ。資格ビジネスの知られざる裏事情を解説すると共に、「資格を上手に生かすための戦略」も伝授する。


「最近は弁護士もラクじゃない」なんて話を僕も知り合いから聞くことがあるのですが、正直「また御謙遜を……」と思っていたんですよね。
 難関中の難関資格ですし、「(昔ほど)稼げない」くらいの意味なんだろうなあ、って。
 この新書を読んで、「資格取得者が増えて、ここまで厳しい状況になっているのか……」と驚いてしまいました。

 一昔前、弁護士や公認会計士は、雲の上の存在だった。顧客に「先生」と呼ばれ下にも置かぬ扱いを受け、恐ろしい程の知識と巧みな弁舌を披露して数千万円単位の金を稼ぐ――そんなイメージだった。
 ところが、数年前から、「弁護士や会計士に、昔ほど仕事がないらしい」という噂を耳にするようになった。それどころか、食うに困る人が続出しているという。そかもそれが、資格取得者の急増による供給過多、つまりは「多過ぎ」による過当競争が原因で、なおかつ、その”戦犯”は政府らしい、という構図も徐々にはっきりしてきた。
「法科大学院に行けば、7〜8割が弁護士になれる」
 10年前、政府がそうアナウンスした結果、法科大学院に志願者が殺到した。
 だが、「7〜8割が弁護士になれる」という口約束はただの一度も守られることがなかった。
 現在、多くの法科大学院の経営は火の車だ。会計大学院など見る影もないし、職業価値の暴落により、志願者も減っている。それは学校自身の責任だとしても、政府の言葉を信じて学費や生活費のために多額の借金を背負い、猛勉強した弁護士・会計士の卵たちはどうなったか。その惨状は本文に記したが、彼らはいわば国策の犠牲者とも言えるのだ。

 長年、文系資格の最難関として、その名を轟かせてきた弁護士。だが今、その地位が脅かされている。
 国税庁の調査によると(2011年)、「所得100万円以下の弁護士」は、登録弁護士の8割を超える2万7094人のうち実に22%にも及んだ(所得は収入から必要経費を引いた金額で、サラリーマンの「手取り給与」に近い。また、ここで対象になっている弁護士は個人事業主であり、法律事務所に所属する者は対象ではない)。つまり、5人に1人が生活保護受給者並みの低所得にあえいでいるというのだ。しかも、その割合は年々増加傾向で、2008年は約12%だったのが、2009年には約20%に急増、そして2011年はまた2ポイント増えた。
 さらに驚かされるのが、「所得100万円超える500万円以下」の弁護士も19%に達し(2011年)、全体の約4割が所得500万円以下だというシビアな現実だ。


 ちなみに、弁護士全体の平均収入は、厚生労働省の調査(2009年)によると、680万円だそうです。
 所得1000万円以上の弁護士も、約34%(2011年)います。
 「平均収入」としては悪くないようにも思われますが、稼いでいる人とそうでない人の間には、かなりの格差があるようです。
 司法試験に合格することの難しさを考えると、「弁護士になれても、こんなものなのか……」と驚かずにはいられません。
 しかも、すでに顧客をつかんでいる弁護士よりも、新しく入ってきた若手のほうが、厳しい状況に置かれやすいのです。
 業界内での競争も激しくなる一方です。

 事件数も、2003年の約611万件をピークに、2011年には約405万件にまで減少している。
 検察が裁判所に対して、刑罰法規を適用して処罰を求める刑事事件は、2001年の160万件から2011年は110万件に減少した。交通事故など、人と人との間の利害調整を図る民事事件も、2001年の300万件から2011年は190万件に、少子化の影響か少年事件も同じ時間に29万件から15万件に減少した。
 一方、離婚、親権問題など家庭に関する問題を解決するための家事事件は、56万件から81万件に増えた。また、私人が国や公共団体などを提訴する訴訟である行政事件も、6500件から9000件に増えている。
 それでも、トータルすると事件数は10年前と比べて、およそ3分の2になったというわけだ。対して、それを弁護する弁護士の数はこの10年で1.8倍になったのだから、弁護士の仕事の激減ぶりは察するに余りある。
 実際、2008年の弁護士1人あたりの訴訟事件数は、2000年時と比較して全国平均で21.7%、弁護士1人あたりの訴訟需要も33.1%も減っている。

 日本でもアメリカのように訴訟が増え、弁護士の需要がさらに高まり、企業も弁護士を雇用していく時代になる、という予測はことごとく外れています。
 近年の「ドル箱」だった消費者金融の「過払い請求」も一段落し、弁護士の懐を潤してきた「オイシイ仕事」も減ってしまっているのです。
 この新書によると、以前は薄給で「貧乏くじ」とされ、誰もやりたがらなかった国選弁護人も、いまはやりたがる人が少なくないのだとか。
 

 法科大学院も、修了者のうち司法試験合格率40%をこえたのは、73校中7校(一橋、京大、慶応、東京、神戸、大阪、中央の各大学)のみ。合格者の7割は「上位15校」の出身者です。
 時勢にのって設立されたものの、ほとんど司法試験合格者を出せていない法科大学院も少なからずあり、2012年の時点で学生を募集した73校のうち、86%(63校)が定員割れ。
 法科大学院というのは、司法試験に合格できなければ、何のために行ったのかわからないですしね……
 

 最難関資格の弁護士でもこの状況なのですから、税理士、公認会計士、社労士も推して知るべし。
 彼らの仕事のなかには、守備範囲が重なるところもありますから、資格取得者が増えて、競争はさらに激しくなっているのです。

 物悲しいと言えば、こんな話もある。
 顧客を増やしたい税理士たちの中には、著書を出版して、宣伝材料にしたいと考える人もたくさんいる。ある税理士は、あるセミナー業者から、こんな話を持ちかけられたと言う。
「一文字も書かなくていいから、”著書”を出しませんか? あなたの写真が入った帯も付きますよ」と。
 一体、どんな”仕掛け”なのか?
「本自体は、どっかのライターさんが、ありきたりな税務について書いたもの。作者の名前は『○○税務研究会』。それで、後ろのページに、そのメンバーである税理士たちが顔写真付きで載るんです。そして何より、カバーを覆う帯がポイント。ここに、『著者の1人』として自分の写真が載るという仕組みです」
 この税理士は、本の買い取りと帯の印刷料で、一冊当たり2000円の50冊分、10万円を支払ったと言う。少々こけおどしな気がしないでもないが、その効果は絶大なんだとか。

「紙の本離れ」が進んでいるといっても、まだまだ「本を出している」というのが「信頼」につながる世の中だということのようです。
顧客としては、帯に顔写真が載っているから安心、というわけではない、ということは知っておいたほうが良いのかもしれません。
税理士の仕事も、競争相手の増加だけでなく、納税のIT化で、さらに厳しくなっていくことが予想されています。
「マイナンバー制度」の導入に伴い、個人レベルでの収入は筒抜けになる、という話もありますし。


 それでも「資格を取って、一般企業に就職」という手もあるのではないか?僕もそう思っていました。
 資格があるほうが、何かと有利なのではないか、と。
 ところが、こんな話もあるそうです。

 では、資格を取って、企業に勤める「企業内社労士」になれないか? これがまた難しい。
 社労士や行政書士を束ね、人事系コンサルティングを手掛ける株式会社ブレインコンサルティングオフィス代表取締役の北村庄吾氏は、「社労士資格は転職にまったく有利にならない、かえって邪魔です」と断言する。
「まず、中小企業に転職しようとしたら、社労士は、変に労働条件や労働法を知っちゃっているので、経営者にとっては『うざい社員』になる」
 経営側からしてみたら、従業員に払う給料は「コスト」だし、手厚く待遇したいが、し過ぎると経営を圧迫するため適度に収めたいのが本音。ところが社労士は、労働者の味方としての立場に付きがちなため、経営と対立する可能性がある。「知り過ぎた男」は、扱いに困るのだ。

 中小企業レベルでは、事業規模から、「社労士」の資格を持つ人をあえて抱えるメリットは乏しいし、大企業では、すでに雇用されている社員が社労士の資格を取ってしまう。
 そう考えてみると、たしかに「かえって邪魔」だというのも、理解できます。
 本来、「社労士が労働者の味方をすることで、うざがられる」というのは悲しい話なのですが、現実とは、そういうものなのでしょう。
 経営側も「あえて火中の栗を拾おうとは思わない」のです。
 社労士の側も、優秀で良心的であればあるほど、そういう職場で「身内」として働くのはつらいでしょうし……


 いやほんと、これらの資格を取ろうと考えている人は、一度目を通しておいて、損はないと思います。
「資格を取ると貧乏になります」というのは、明らかに「釣りタイトル」で、「資格を取ったからといって、お金持ちになれるとは限りません」という内容なんですけどね。

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