ワーキングプアは見捨てられ、生活保護リテラシーの高い人間が受給できるという二重基準


親子4代続けて生活保護で生活している、
いわば、「生活保護受給のプロ」
のような人たちがいます。
彼らは、高い生活保護リテラシーを持っていて、それを代々受け継いでいるようです。


一方で、
生活保護水準以下の暮らしを続けていながら、生活保護を受給していない
ワーキングプアは、日本に500万人〜700万人いると言われています。


同じような境遇にありながら、生活保護費を受給できる・できないを分けるラインは、どこにあるのでしょう?


どうも、ここには次の二つの基準があるようなのです。

(1)甘い基準:生活保護法が定める基準

(2)厳しい基準:各自治体の生活保護運用基準


この(1)の法律基準はかなり甘いため、こちらを適用することができれば、かなり多くの人が受給資格を得られます。


一方で、(2)の運用基準はかなり厳しくなっていて、よっぽど生活が破綻している人でないとなかなか受給できません。


そして、一部の「生活保護リテラシー」のある人たちは、ライフハック的に(1)の基準で生活保護を受けられるので、ずっと受給資格が得られやすいのですが、実際には、多くの人が自治体の窓口であれこれ言われ、(2)の運用基準の厳しさにはねられて、追い返されてしまうのが現状のようです。


この二重基準の存在は、以下のことからうかがい知れます。


まず、日本弁護士連合会が2006年7月に行った生活保護の電話相談では、
自治体の窓口に申し出をして
拒否されたケースのうち、66%が違法
の疑いがあるとのことでした。


さらに、
自分1人で自治体の窓口にいくと、
あれこれ難癖をつけられ、追い返されたのに、
弁護士と一緒に行ったら、
あっさり生活保護費を受給できるようになった。
というケースもあるようです。


あるいは、とくに面識があるわけでもない共産党の市議会議員に相談したら、あっさり生活保護費が受給できるようになったケースもあったという話も聞きました。(とくに共産党への参加や、赤旗の購読を勧められるというようなこともなかったということです)



つまり、自治体の窓口へいくと、あれこれ条件を付けられて追い返されてしまうのですが、十分に準備し、作戦を立てておいてから、法律に則って受給されるようにもっていくと、申請が通ると言うことです。


もう少し詳しく見てみます。


たとえば、生活保護法の第四条二項には、

民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、
全てこの法律による保護に優先して行われるものとする。

と定められています。


日本弁護士連合会では、この扶養義務については、実際に扶養が履行されている、
月にいくらかの援助がある場合にのみ、その認定を行えばいいと主張しています。


しかし、実際の自治体の窓口では、親や子供がいる場合、
「月に数千円だけでも、家族に支援してもらうことはできないのか?」
などと言われます。


それを言われると、家族との関係が悪く、とてもそんなことを家族には言えないと
思っている人は、プレッシャーに負けて諦めて帰ってしまう場合もあるでしょう。


しかし、法律上は、
単に、「生活保護を受ける前に、家族に扶養してもらうことを優先して考慮すべき」、
というだけの話で、
扶養義務は生活保護費受給の絶対条件ではない
ということです。


このため、生活保護を申請する前にあらかじめ十分に作戦を練り、
生活保護受給の支援団体に連絡を取り、
生活保護リテラシーを持つボランティアや、法律家に相談して、
十分に準備をしてから、自治体窓口へ行き、
そこであれこれ言われても「それでも私は申請します」と言って、
申請してしまえば、あとは法律に則って処理するしかないので、
ずっと通りやすくなるようです。



このように、いざというときに、生活保護システムをセイフティネットとして
使えるようにしておくには、
あらかじめ生活保護リテラシーを身につけておいた方が良さそうです。


また、このノウハウを身につけておけば、いざ困っている人を見つけたら、
その人が生活保護を受けられるように、あれこれアドバイスしてあげることも
できるんじゃないかと思います。




もちろんこれは、「現状の制度を利用して、個人がどのように生き延びるか」
というライフハックの話ですから、「社会制度としての生活保護をどうしていくか」
というのは、また別の話です。


社会制度としては、基準が時代遅れになっているところも多く、
いろいろ見直しした方が良さそうです。


たとえば、自動車を所有していると生活保護受給できないらしいですが、
自動車が贅沢品だったのは、ずいぶん昔の話です。
現在では、とくに交通の不便な田舎に住んでいる場合、
自動車は贅沢品ではなく、生活必需品に近いケースも多いですから。


あと、クーラーもダメだったんじゃないかな。
これも、今となっては贅沢品と考えるのは、時代遅れですよね。


もっと言うと、ある程度の金融資産は持っていても、生活保護を
受けられるようにしてもいいのではないかと思います。
たとえば、500万円までの貯金なら認めるとか。


もちろん、あまり基準をゆるめると、こんどは受給者が増えすぎて、財源がぜんぜん足りなくなりますから、そこをどうするか、という議論が必要になってきます。


現在、
生活保護費全体で2.5兆円のお金がかかっています。
受給者数は142万人です。
一人あたり年間180万円受給している計算になります。


ワーキングプア人口が500〜700万人
ニートが64万人ですから、
彼ら全員を生活保護で救済しようとすると、
10兆円程度のお金が必要になるかもしれません。


日本の国家予算のうち、借金返済分以外の実質的に使える部分が60兆円ですから、
国家予算の1/6程度の巨大予算が必要になる計算になります。


現在、あれほど無駄遣いを叩かれている公共事業ですら、年間予算は6.9兆円です。
10兆円というのは、それほどの巨額な税金です。


また、全額支給ではなく、一部補填という前提にして、
5兆円で済んだとしても、やはり大変な金額であることは変わりません。


なので、生活保護基準をゆるめるとなると、
このお金を誰がどう負担していくかという議論が必要になってくるわけです。
そして、現在お金がなくて困っているのは、生活保護予算だけではありません。


介護の現場も、予算不足から低賃金で過酷な労働が強いられています。
ここの予算も増やさなければなりません。


医療の現場も、予算不足で大変です。
各自治体のかかえる病院は多額の赤字をかかえ、疲弊しています。


日本の教育現場も疲弊しています。
教師たちは人手が足りず、慢性的な長時間労働で疲弊しています。
そのうえ、世界中で一クラスあたりの子供の数を減らして、
より質の高い教育で学力を伸ばそうとしているのに、
日本では教師一人あたり40人もの子供を抱え、一人一人に目が行き届きません。
GDPあたりの教育費はフィンランドと比べて半分しかありません。
教育の質が悪いと、ますます将来のワーキングプアや生活保護受給者が
量産され予算を食いつぶすという悪循環が起きます。


こういう風に、どこもかしこも予算不足で疲弊している中、
どこの部門にどういう優先順位で予算を投下していくべきなのか、
また、増税するにしても、どのような形で、どこから増税すべきか、
ひとそれれぞれ価値観が違うでしょうから、
国民の意見をすりあわせるための、十分な議論が必要でしょう。


そうして議論している、いまこの瞬間も苦しんでいる多くの人たちのことを思い浮かべながら。

参考書籍

生活保護VSワーキングプア (PHP新書)

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