理想的な献立は本当に理想的なの?




栄養バランスのとれた食事を毎回きちんと食べましょう!

こんなふうに謂われたことはありませんか?
見本の献立例を見て、「こりゃ無理だ」と思ったり、「例を参考に毎食作っているよ」とか、「これじゃあ足りなくね?」など、いろんな反応が返ってくると思います。理想的と考えられる食事例を示すこと自体は有用なのですが、どうも誤解があるんじゃないのかなぁ、どらねこはそんな気がするのです。

■給食みたいだよね
理想的な食事のモデルとして示されるような献立って、たいてい1日分をほぼ均等(朝食割合が少なめで)に分けているんだよね。なので、ぱっと見学校とか病院の給食風だったりします。
こんな理想的とされる食事を毎回食べている方って少ないと思います(施設居住者や病院に入院されている方は毎回このような食事だと思いますが)。多くの方が理想的(とされる)食事からかけ離れた食生活なのだとすれば、日本の現状は相当に問題があるのでしょうか?私たちは反省しないといけないのでしょうか。
これら食事例はなるべく多くの日本人に参考となるようつくられており、中にはこの食事が参考にならないヒトもいらっしゃるかもしれません。それでも国からすれば参考となるモデルを示す必要があるため作成されている、そんな程度に考えて良いとどらねこは思っております。

■1日あたりは必ずしも毎日というワケじゃない
必要な栄養量や食事量と謂うと、たいていが1日当たりの摂取量で示されたりするのですが、これは毎日かならずこれぐらいは食べないと不足してしまうよ、という量ではなくて、もう少し長いスパンで見た場合の摂取量を平均した場合にこれぐらいは必要だよ!という量を表していると考えて良いでしょう。(ちょっとややこしかったかしら?)
もう少し説明が必要ですね・・・。えーと、幾つかの栄養素を例に説明してみましょう。ビタミンAは実は数ヶ月殆どビタミンAを食べなかったとしても欠乏症状が現れないぐらい肝臓に貯めておくことが可能でして、1日、2日まったく食べないぐらいじゃ何ともないんですね。一週間に一度『どかっ』とビタミンAを補給するというやり方でも不足が問題となる事はないのです。
次に食事のエネルギーについて考えてみましょう。1日何も食べないとお腹が空いてしまうと思います。なので、いくらかは食べた方が良いと思います。じゃあ、それが数日続くとどうなるかと謂うと、今度は痩せてきてしまう事でしょう。タンパク質不足で筋肉が落ちてきてしまうかも知れません。なので、エネルギー量についてはバラツキはあっても毎日しっかり確保した方が良いと思います。
要するに、ある程度の期間に必要になる栄養素の合計を便宜上1日当たりに示したモノ、それが1日当たりの推奨される摂取量なのです。だから、必ずしも毎日その分量食べなくても大抵は大丈夫なのです。1日毎に見た場合ではでこぼこであっても長い期間でみたらつじつまが合えばよいのですね。自分たちが1ヵ月間に食べたものを1食あたり均等に分けたとき、モデル献立の内容からそんなに離れていなければ良い*1と思うのです。

■理想的な摂取量を守っていれば大丈夫か?
モデル献立のような食事を毎回食べなくても良いことは分かったよ。「でも、モデル献立みたいな食生活を目指すのもアリなんでしょ?」なんて、聞かれたらどうしましょう。これに答えるのはちょっと難しいですねぇ。個人的にはアリかも知れないけど、参考程度にね、と答えたいところなのですが、少しだけ気になるところがあるんですよ。
それは何かと謂うと、『ヒトの体調は毎日違うし、活動量も変化する』という事です。ちょっと極端かも知れませんが、例を挙げて説明をしてみようと思います。

栄 養一郎君の食生活
○月×日
今日は沢山運動しましたのでお腹がぺこぺこです。お腹いっぱい食べたいけど、この前教えてもらった自分にとっての適量を超えてはいけないと思い、いつも通りの量で我慢しました。

○月△日
ちょっと風邪気味みたいで、食欲がありません。でも、ちゃんとたべなくちゃ・・・と思い、いつも通りよそってもらいました。無理して食べましたが、なんか気持ち悪いです。

○月○日
今日は友達と飲み会です(成人だったらしい)。でも、いつも通りの食生活を維持したいのでおいしそうな料理もほどほどにしておきました。なんか淋しいです。

現代日本でも特に若い世代の方って、結構イベントがあって同じような生活を毎日送る事の方がもしかしたら難しいのかも知れません。また、同じような生活を送りたくても、ケガをしたり風邪をひいたり、食中毒になってしまったりと上手くいくとは限りません。それなのに毎日ほぼ同じような栄養摂取量を求めるというのは無理があるんじゃないでしょうか?


■摂取量にバラツキがあるのが当たり前
実は、栄養素毎摂取量に大きなバラツキがあるのは多くのヒトに見られる当たり前の現象と考えられております。試しに某中年ブロガーが食べたものから4日間のエネルギー、タンパク質、脂質摂取量を計算してみました。

日によって大きな違いがあることが確認できますね?やたらとエネルギー量が多い日はおそらくですが飲酒をしたのだと思います。ですが、4日間のトータルとしては案外マトモなのが笑えますね。でも、このデータだけではこの人物がだらしない事をアピールしているだけかもしれません。そこで次のデータを引用させてもらいます。

食事摂取基準入門−そのこころを読む−佐々木敏著 同文書院(2010) p13より

これは各季節毎4日間ずつ合計16日間の食事調査により求められたものです。某ブロガーの食生活と同じように個人内の変動が大きいことがわかります。バラツキの大きさは違えど、この傾向はごく当たり前にみられます。
こうしたデータをふまえて考えてみると、毎日キチキチと決められた食事をするよりも、日によって内容に偏りがでるというのが、ヒトの生理に近い食事方法であるのかもしれません。
油物が沢山欲しい日もあれば、さっぱりしたモノが食べたくなる日もある。がっつり食べたいときもあれば、体が受けつけてくれないこともある。理想的な摂取量を守ろうとして、食べたいときに食べないと、具合が悪くなったときの蓄えが出来ていなくて、却って問題になるかも知れません。
生活習慣・食習慣を整える事は大切ではあるけれど、ヒトが当たり前に持つ欲求に逆らうような努力というのは長続きさせるのは難しいでしょう。それぞれの栄養素は1日毎に充足させる必要は無いのですから・・・。そんな画一的な栄養指導*2をされた場合にはダメだしをしてあげましょう。

食事は人生の愉しみでもあることも忘れちゃあいけない、どらねこはそう思うのです。

*1:それが難しいのですけどね・・・

*2:食事に気を遣わないとならない病気を持つ方についてはこの限りではありません。体を一定に保つ機能が低下している場合には食事内容の大きな変動は命取りです