初音ミクに歌わせた曲の傾向とクリプトン社の戦略の行く末

前エントリは書いてるうちになんか猛烈に脱線したorz
どうも不完全燃焼なので、もう少し書いてみる。


初音ミク*1を用いて作られた曲には、どういった傾向のものがあるのかを改めて整理。

  1. 「初音ミク」をソフトウェアと認識した上で作られた、初音ミクの人格や名前とは無関係な自作曲
  2. 「初音ミク」に自作曲の主人公(登場人物)を演じさせた曲
  3. 「初音ミク」とユーザーの間にプラトニックな信頼関係/思慕関係があることを連想させる曲
  4. 「初音ミク」に固有の人格があると仮定して、その内面や振る舞いを描いた曲
  5. 「初音ミク」同士の相関関係に物語を持たせた曲

(1)は「メルト」「ハト」「雪峰」など、初音ミクをただの歌手としてのみ使った曲。
(2)は「中学生」「White Letter」「不思議な幸せ」「護法少女ソワカちゃん」など、初音ミクでなければいけないわけではない曲と、「離さんといてよ」のように人物名にミクの名前を使うことで、ミクに(Vocaloidという制限なしに)実在するミク自身*2を演じさせている曲とがある。
(3)は「恋スルVocaloid」「みくみくにしてあげる♪してやんよ」「初音ミクの暴走/消失」のように、ユーザーという実体と初音ミクという架空の間を取り持つ曲も含まれる。これ以降の物をキャラクターソングと定義づけていいだろう。
(4)これは一言で言えば、ネギ・アイス・ロードローラーが登場する全ての曲が含まれる。かなり乱暴な分け方だが(^^;)
(5)これは(4)の延長線上にあるもので、「組曲『焼売』」シリーズ、「知らぬがパパの妄想歌」*3は、たぶんここに入る。


ここまで書いてみて、

  • A群「ミクでなくてもかまわない曲=キャラクターの存在がなくても曲は作れる」
  • B群「ミクでなければいけない曲=キャラクターの存在にあって初めて曲が作れる」

というように分けられる気がした。


初音ミクに頼らないオリジナル曲を作るスキルがある人は、A群だけでなくB群でもやれるだろうし、実際やってると思う。自分に主張があるから曲を書く人達はこれ。

曲を作る能力はあるが、何かに便乗しないとモチベーションが沸いてこないB群の人には、それぞれのVocaloidが持つ個性(設定)や相関関係というのは、曲を作る上では非常に大きなウェイトを占めている。主張する能力は持っているけど、自分自身には特に言いたいことがあるわけでもない*4から、Vocaloidの主張、Vocaloidを代弁する*5という形を採る。

もうひとつ、

  • C群「ミクでなくてもかまわない曲=カバー曲」

というのもある。
これは、曲を作る能力(或いはモチベーション)はないが、楽器としての初音ミクの操作に熟達すること=演奏スキルの向上が主目的の人。そこから自力で曲を書くためのスキルを手に入れ、B群にシフトするのかもしれない。もしくは、初音ミクの設定がジャマになってA群に移行とかもあるかもしれない。


A/C群の人々は、初音ミクを「ソフトウェア」として認識する。
B群の人々は、初音ミクを「人格を持つ個性」として認識する。
ここに認識の差違があるのは間違いない。もちろん、きっちりした境界があるわけではなくて、これは相互にボーダーを行き交う性質のものだとは思うんだけど、初音ミクに対する概念上の対立のようなものがあるとしたら、ここらへんかも。


話は巡って、それではクリプトン社は初音ミクを始めとしたVocaloidシリーズを、どういう層にどう売りたいのか、どう使わせたいのか、という点が気になってくる。
クリプトン社の本来的な事業傾向から言えば、DTMユーザーへのツール提供、DTMユーザーを増やし、DTM関連ソフトウェアの需要を伸ばすことが会社の目的と見ていいだろう。

ということは、できるだけVocaloid購入者が増えたほうがいいのは言うまでもないわけなのだが、A/B/C群のどれが増えることがもっともリスクが小さく&収益が大きくなるのか。
できることならA群だろうけど、実際のところはB群、できればC群は多くないほうがいい、というのはあるかもしれない。
C群はカバーを扱う限り、JASRACなど「権利者とのもめ事」がついて回る。個人利用に限ると言ったところで、発表場所がネットの上である限り、その「個人使用に限る」という規約はあってなきがごとしということになる。*6

すると後は

  • A群「自作曲を初音ミクと無関係に作る人」
  • B群「初音ミクをモチーフにした自作曲を作る人」

が残る。
バーチャルアイドルという風味付けをして出している以上、B群のほうが宣伝にもなって都合がいい。しかし、設定過剰は新規参入者を遠ざけてしまう。
初音ミクの設定に頼らないA群が増えることが最終的にはもっとも望ましいのだろうけど、「技術があってもモチベーションがない」というユーザーは、A群には入れない。


【初音ミク】【KAITO】【MEIKO】【鏡音リン・レン】というモチーフに囚われずに曲を作るA群がもっと増えるのがいいんだろうけど、KAITOが腐女子受けwして二次ブーストした例もあるように、クリプトン社自身も当面はB群依存が続くんじゃないかな、と思った。
ただ、B群が幅を利かせすぎると、今度はA群という本来増えて欲しい層や、本来は入門層であるC群に嫌気が出てしまうという問題もあるわけで、そこらへん舵取りは難しいだろう。
ていうか、そもそも舵取りは無理だろな(^^;)


ともあれ、自主的自作曲を作るA群も、キャラクターソングで盛り上がるB群も、練習生のC群も、あらゆるDTMに興味を持った層に、あらゆる選択肢があるってことを示してほしいなと。




音楽って自由なもんでしょ?

*1:今更だけど、これはVocaloidと同義語で使っています。

*2:「ミク」という名前の人間の少女がいる、という前提で。ミクをVocaloidではない存在として扱っている、という感じで。

*3:ゑのすけ作品リスト http://www.nicovideo.jp/mylist/4125454

*4:または、自分の主張とは言いたくない

*5:という名目だけど、実際には自分の主張をVocaloidに代弁させているというややこしいメタ関係w

*6:その意味で、権利者侵害をしている他の既存カバー曲への削除依頼がないことのほうが、どうかという話もなくはない。その筋を正当化するなら、Vocaloidは「演奏権の侵害を助長するソフト」とも言えるからだ。