2006-09-16(Sat): 考古学専門図書館の開設を提案する

日本考古学協会が「意見を求めます…協会所蔵図書の取扱い及び報告書等の受入れに関し今後のあり方について」という文書を公開している。会員や関係機関から寄贈された考古学関係図書や遺跡発掘調査報告書の受け入れが保管スペースや経費の問題から困難になっているという。同協会は今後の方針として以下の3点を挙げて会員の意見を募っている。

1. 今後、遺跡発掘調査報告書等の収集は行わない。
2. 現有蔵書(市立市川考古博物館及び民間倉庫に保管分)については、一定の条件を付して、公的施設に一括寄付する。
3. 上記の寄付先は、公募する。

会員の意見募集は2006年10月末までで、その後、理事会で方針案を策定し、2007年3月の会報に方針案を掲載、2007年5月の第73回総会で議決するという。
これをみると、同協会の方向性は協会による図書や資料の収集・保存・提供に消極的なようだ。だが、あえて異論を提起したい。逆にこの機会に長期的視野に立って、考古学資料を収集・保存・提供する専門図書館を設立すべきではないだろうか。もちろん、日本考古学協会だけがその責任を負うことはない。文化庁をはじめ、実際の発掘調査を主導する各自治体や東京、奈良の文化財研究所を有する独立行政法人文化財研究所は当然として、遺跡発掘の問題と常に向き合うことになる建設業界までを巻き込んだ大きな流れにすべきだろう。

利害関係者を整理すると、以下のようになるだろうか。

  • 学界レベル:
    • 考古学の研究者や発掘の実務家による学界
  • 国レベル:
  • 自治体レベル:
  • 教育レベル:
  • 産業レベル:
    • 建設業界、考古・人類学業界
      • 鹿島をはじめ、遺跡問題を抱えるデベロッパーとその許認可を行う官庁。そして、発掘調査や報告書作成を請け負う企業
  • メディアレベル:
    • 新聞社、出版社、IT系メディア
      • 特に毎日新聞社など、考古学報道に尽力している新聞社や雄山閣のような考古学図書を長年刊行してきた出版社
  • 市民レベル:
    • 個人を軸に、NPOなどの市民団体
      • たとえば、発掘ボランティアや造成に際して発見された遺跡の保存に取り組む市民

これだけの利害関係者がいて、そして考古学の成果は最終的には一人ひとりの市民に還ってくる。そして、先年の捏造問題に限らず、いま騒がれている高松塚古墳壁画のカビ問題など、考古学はおそらくは考古学の世界の方々が思う以上に広く一般の関心事なのだ。それにも関わらず、貴重な考古学資料が要するに経費の問題によって散逸してよいだろうか。

・日本の考古学リソースのデジタル化
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/mizuy/

が長年提起してきているように、電子化という方法もある。まだ手は尽くされていないのだ。そして、まだ時間もある。日本考古学協会の会員の方々には、ぜひ議論の方向性を一度見直し、発展的な結論、あるいは提起へと進んでいってほしい。それが、定款で次のような目的を定める日本考古学協会の役割というものではないだろうか。

第2条 この法人は、考古学研究者が、自主・民主・平等・互恵・公開の原則にたって、考古学の発展を図ることを目的とする。
2 このため、考古学研究者の全国的組織として、社員間及び関係学会との協力・交流を推進し、積極的に研究条件を改善し、文化財保護など社会的責任の遂行に努力する。
(有限責任中間法人日本考古学協会定款)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaa2/about/teikan.htm

なお、繰り返しになるが、この問題は日本考古学協会だけが負うべき問題ではないことをあらためて指摘しておきたい。
我々一人ひとりが想像したい。日本中の遺跡の発掘調査報告書を利用できる図書館があってもよくないだろうか? 日本で刊行された考古学図書をすべて利用できる図書館があってもよくないだろうか? いや、発掘調査報告書や図書に限ることはない。造成と遺跡保存を巡る自治体、企業、市民が残した記録が集まっていれば、誰にとってもうれしいことではないだろうか?

考古学の世界では、発掘された遺跡の保存には高い意識を持って行動することが少なくない。遺跡はひとたび破壊されてしまえば、二度と元に戻すことができないからだ。そして、失われてしまうかもしれないという不安への想像力が人々を突き動かすからだ。ならば、今回の資料の散逸危機も同じことではないだろうか。いま日本考古学協会の手許にある考古資料をその収集ルートも含めて失えば、それは二度と再現できないのではないだろうか。より高く、より強い想像力を発揮すべきときではないだろうか。

・「意見を求めます…協会所蔵図書の取扱い及び報告書等の受入れに関し今後のあり方について」(日本考古学協会)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaa2/proceedings/shozotoshomondai.htm
・日本考古学協会
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaa2/index.htm
・市立市川考古博物
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/kokohaku/
・文化財研究所
http://www.nabunken.go.jp/bunkazai/mokuji.htm
・東京文化財研究所
http://www.tobunken.go.jp/
・奈良文化財研究所
http://www.nabunken.go.jp/
・「寄贈図書の取り扱い」(2006-09-01)
http://maia.exblog.jp/4215421/