我田引水なM1・F1総研の分析レポートを容赦なく添削してみた

M1・F1総研は『若者におけるテレビの存在価値の考察』というレポートを発表し、若者のテレビやテレビCMの視聴実態について調査・分析を行い、M2・F2と比べると、実はM1・F1はテレビへの依存度が高いと結論づけている*1CNET JAPANでも若者は“テレビ離れ”していない--M1・F1総研の調査で明らかに:マーケティングとして取り上げられ、反響を呼んでいる。

ところで、M1・F1総研は電通リクルートが共同設立したプロモーション会社であるメディア・シェイカーズの一部門である。今回の分析においても、『CMを見ないM1・F1は圧倒的に少数派』『テレビCMはしっかり見ていて、テレビCMの影響度は強い』と、親会社の収益源であるテレビCMの有効性を声高に謳っている(内容のハイライト(PDFファイル 260KB)分析レポートVol.12 ダイジェスト編(PDFファイル 2.9MB))。




テレビが見られている事についてはそれなりに妥当な結論であると思うが、CMの効果に関しては疑問を感じざるを得ない。なぜこのような結論に至ったのだろうか?


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奇妙な結論が導出されるカラク

ダイジェスト編13ページにその分析が掲載されている。ハイライト版にはリアルタイム視聴時のグラフしか上がっていないが、ダイジェスト版には録画視聴時のデータも掲載されている。



リアルタイム視聴時の設問は次の通りだ(F1回答/M1回答)。
   だいたいしっかり見る(7.9%/8.4%)

   見ないこともあるが、しっかり見ることが多い(26.6%/31.1%)

   見ないことが多いが、たまにしっかり見る(47.8%/50.0%)

   ほとんど見ない(17.7%/10.5%)

この4つの選択肢のうち、なんと3つに「しっかり」という単語が含まれており、それらをCMをしっかり見る人と集計して、『しっかり見る計:82.3%』『しっかり見る計89.5%』『M1・F1ともに、CMを見ない人は1割台にとどまる。(リアルタイム視聴時)。』という奇妙な結論を導き出している(たまになんとなくCMを見る人はいったいどの選択肢を選べばよいのだろうか)。しかし、この選択肢を見ると、基本的にCMを見ると回答しているのは好意的に見てせいぜい前者2つで、後者2つは基本的にCMを見ないと捉える方が妥当だろう。質問の設計段階においてCMを見る割合が多くなる結論が得られるように選択肢が意図的に設定され、期待する結論が導出されている訳だ。調査設計の観点から見てあまりに酷い。

一方、録画番組視聴時の設問は次の通りだ。
   早送りをしないで、そのまま見ることが多い(7.2%/5.0%)

   早送りをするが、気になるCMは止めて見ることがある(21.1%/20.5%)

   早送りをしてCMを止めて見ることはほとんど無い(57.3%/65.8%)

   録画の時点でCMはカットすることが多い(14.4%/8.8%)

この4つの選択肢において、前者2つがCMを「しっかり見る」とされ、『録画番組視聴時の「テレビCMをしっかり見る計」の割合は、M1が28.3%、F1が25.5%。』という結論を導き出している。しかし、選択肢を素直に解釈するのであれば、CMをしっかり見ているのは一番最初の選択肢ひとつのみで、残りは早送りかカットが基本という事だろう。録画機器の普及により、テレビCM効果が減少しているのではないかという批判に常に晒されている広告業界としては、CMの効果が充分にあるという事を訴えたかったのだろうが、やり方が姑息だと言わざるを得ない。

添削してみる

そこで、次のように選択肢を整理してグラフを書き直してみた。特に録画視聴時においてはテレビCMは悲惨なほど見られていない事が一目瞭然だ。

  • リアルタイム視聴時
    • 基本的に見る
      • だいたいしっかり見る
      • 見ないこともあるが、しっかり見ることが多い
    • 基本的に見ない
      • 見ないことが多いが、たまにしっかり見る
      • ほとんど見ない
  • 録画番組視聴時
    • 基本的にそのまま見る。
      • 早送りをしないで、そのまま見ることが多い
    • 基本的に早送りorカット
      • 早送りをするが、気になるCMは止めて見ることがある
      • 早送りをしてCMを止めて見ることはほとんど無い
      • 録画の時点でCMはカットすることが多い



結論も以下のように修正することが妥当であろう。



↓修正

結論として、テレビCMはほとんど見られていないので、広告主はテレビCMの費用対効果についてしっかりと精査する必要があると言える。もちろんテレビは今でも影響力があるメディアであることは確かであり、テレビCMの効果は他のメディアと比べてまだまだ大きいはずだ。しかしその効果が低下しつつあるのは確かだ。

以前、『花粉症で1日約6,000円の損失って頭悪すぎでは?』で取り上げたコンタック総合研究所の調査のように、中立でない企業や団体が公開する調査結果は、それらの企業や団体の利益に繋がるように、意図的にその印象が歪められて伝えられる場合がある。バイアスのかかった調査レポートは注意深く読まなければならない。

追記

本エントリは@bugbird氏とのTwitter上のやり取りが元になっている。有益なご指摘に感謝したい。@bugbird氏の方でも恣意を見落とさないように!というエントリで本件を取り上げられており、リンクもいただいている。重ねて感謝申し上げます。

*1:男性20歳〜34歳層をM1、女性20歳〜34歳層をF1、男性35歳〜49歳層をM2、女性35歳〜49歳層をF2と呼ぶ。マーケティング用語。