sekibang 1.0

2012年1月3日まで利用していたはてなダイアリーの過去記事です。

勝間和代十夜

第二夜


 こんな勝間和代を見た。
 読み終えた本を持って図書館へと足を踏み入れると、いつもなら満席なはずの閲覧席には誰も座っていなかった。はっとしてあたりを見回すとカウンターのなかに職員すらおらず、どういうわけか自分がこの空間のなかにただひとりいることに気がついた。すると通いなれた図書館がどうにも知らない建物のように思えてくる。
 さて、どうしたものだろう、としばし佇んでいると両脇を本棚に囲われて一層薄暗くなった通路の奥から、一条の光が細く零れているのが目に入った。近づいていくと、光は半開きになったドアの隙間から漏れている。隙間からドアの向こうを覗いてみると、その先は長いトンネルのようになっている。電灯などないのに不思議とそこは明るかった。しかし、その先に何があるかは見通すことができなかった。
「起きていることはすべて正しいのです」
 トンネルの奥から、妙に凛々しい女性の声が響いてくるのが聞こえた。
「だれかいるのですか」
 女の声は返事をしなかった。私はその声がする方向へ入っていくことにした。
 どれほど歩いただろうか。通路はずっとまっすぐなはずだったが、どこまで行っても終わりが見えてこない。そのうえ、奥へ行けば行くほど天井が狭くなっていくのには難儀した。終いに私は四つんばいになって先に進まなくてはならなかった。
「起きていることはすべて正しいのです」
 再び声が聞こえてきたとき、その声に聞き覚えがあることに気がついた。
「もしかして、その声は勝間和代さんではないですか」
 私はトンネルの先に向って絞るような声を出した。
 すると一瞬、あたりが暗くなった。次に明るくなると、私はトンネルの入り口にあったドアの前に四つんばいになっていた。ドアは相変わらず半開きのままだった。立ち上がって膝についた埃をはらっているところに、三度女の声が聞こえた。
「どうぞ、お入りになって」
 声が勧めるままにドアをあけてみると、そこは広い洋風の応接間になっていた。白いテーブルクロスが広げられた大きな円卓のうえには、銀の燭台が置かれ、天井にはいくつもの水晶が煌くシャンデリアがあった。背もたれが長い椅子は十脚ある。そのうち九脚に女が座っている。私が部屋に入ると女たちの視線が、私の顔に集まった。九人の女は、皆、勝間和代だった。
「よくぞ、おこしくださいました」
「いま、新しい年収十倍アップ術について話し合っていたんですの」
「あなた、お子さまはいらっしゃるかしら」
「あら、ひどい顔。お茶をさしあげましょうね」
「ところであなた、自転車はお好き」
 空いている席に座ると九人の勝間和代はそれぞれに質問を投げかけてきた。私は勝間和代が淹れてくれた冷たい紅茶で喉を潤しながら、その質問に丁寧に答え続けた。
「あなた方はいつもこうしているのですか」
 私が逆に訊ねると、九人の勝間和代はそのとき初めて声を揃えて言った。
「そうよ。世界は九人の勝間和代で回っているの」

  • 関連

勝間和代十夜 第一夜