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    ささげもの

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     これまでの展開

     プロローグ

     第1章

     第2章

    第3章

     明滅を続けていた電灯は完全に消え、トイレは真っ暗闇になってしまった。

     男は頭を抱えた。

     くそ。桐花も桐花で、閉じ込めるなんて、なにを考えているんだ。こう真っ暗だと……。

     男はポケットから百円ライターを取り出した。火をつける。

    『あなたは』

     か細い灯りに、文字のようなものが浮かび上がった。男はまじまじと見た。確かに、『あなたは』と読める。

     その正体が、単に壁に書かれた、いわゆる「便所の落書き」であることに気づき、男は笑い出した。細い線で小さく書かれていたから、さっきの電灯では気がつかなかったのだ。

     男は壁に顔を近づけた。

    『あなたは猫です』

     どうも消えかかって読みにくい。

    『あなたはシュレーディンガーの猫です。猫であり同時に箱の中からの観察者でもあります』

     男は眉をひそめた。悪戯としては妙に細かすぎる。

    『この箱の外ではなにかが行われようとしています。箱の中のあなたには、外の状態は波動関数の複雑な重なりと認識できるでしょう』

     なにがいいたいのだか。シュレーディンガーの猫の思考実験は知っている。五十パーセントの確率で死ぬことになっている箱の中の猫。外からは、「五十パーセントが死んでおり、五十パーセントが生きている」重なりの状態としてしか表現できない、というのがこの思考実験のキモだ。猫は生きているか死んでいるかのどちらかであり、「五十パーセントだけ生きていて五十パーセントは死んでいる」幽霊みたいな猫など存在してたまるか、と大論争になった。

    『その結果はあな……託さ……した。シュレーディンガー……相互補完的に解釈……』

     字が読みにくい。ライターの明かりも妙に揺らめいている。トイレットペーパーを燃やせば明るくなるだろうが、消せなかったら火事になるし。外にあれだけ障害物があれば、火に巻かれたら生きて脱出はできないし。

    『箱の外の状態も……の中の量子の状態に左右されるのではあるまいか、問題はどちらが先に観測し解釈……あなた……観測者……』

     ライターの火が消えそうだ。だが、男は魅入られたように文字を読んでいた。

    『神のサイコロはあなたによって振られ……殺し合いの結末……ランダムに崩壊する放射性物質の代わりに……わざと読みにくくした……読むこと自体が……ランダム性……』

     ほんとうに読みにくい。

    『忘れないで……あなた……の……であり……を……だから……2050年の……怪談……』

     薄れ、消えかけた文字。なんとか判読しようとしたとき、ライターの炎が消えた。

     再びの闇に、男はしばらく凍りついたように動かなかったが、ふいに叫んだ。

    「桐花!」

     狭いトイレの個室で、男はドアを破ろうと、体当たりを繰り返し始めた。



     ※ ※ ※ ※ ※



     あそこまでややこしくなってしまった状況、中継ぎとしてはどうやって風呂敷を畳んで最終回に回すのか、考えた結果が、

     「問題を単純化する」

     でありました。

     三人だか四人だか五人だかの登場人物が複雑なドラマをやろうとしているのをなんとかしようとするからお手上げになりそうなのであって、これを「トイレに閉じ込められている人間」が主体の話にしてしまえば、「話のまとめにくい部分」をすべてカッコに入れて処理し、「結果」だけに収束させることができるのではないか、というコペルニクス的転回。

     シンプルな話しか書けないわたしにはこれしか話を進める方法が思いつかなかった。

     え? トイレにメッセージを書いたのは誰かって?

     「2050年の怪談」の意味?

     ……知るかいな、そんなもん(^^;) 後は任せたサンダース(ひどい(^^;;))
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    由利鎌之助が出てきたときにはおれはここからどうやって話を収束させればいいんだ、と頭を抱えました。(^_^;)

    今回使った手段は、ある意味「禁じ手」みたいなものなので、同じことをこれ以上使えないのがつらいところです。

    今度やるときはお手柔らかに(^_^)

    Re: 椿さん

    いやわたしも、ひさしぶりに脳細胞の使っていない筋肉を使って楽しかったです。

    青井るいさんも楽しかったんじゃないかなあ。

    NoTitle

    感想遅くなりまして、申し訳ないです。

    青井さんのとこにも書きましたけど、「お見事!」の一言です。
    視点をトイレの男に持ってくのは、予想はしてたんですけど、ああいう展開、ああいう解釈、そうしてああいうお話の収束のさせかたとは。
    あの、落書きの言葉の途切れ方とか、いやー上手いなーって(笑)
    ホント、感服です。

    ていうか、すみませんでした。あんなの投げちゃって(笑)

    > もし次があったら今度はお手柔らかに頼みたいものです。

    ポール・ブリッツさんって、確かずいぶん前に一度ブログの方、お邪魔したことあったんです。
    その時、うわっ結構書く人だなーって感心した記憶があったんで、つい…って(笑)
    ていうか、ホントすみませんでした(笑)

    > というコペルニクス的転回。

    なるほどー。
    そうか。そういう考え方だったんですね。
    いやー、それはスゴイ。
    ホント、今回はポール・ブリッツさんと椿さんにつきますね。
    (青井さんが話をちゃんと収束させたのも凄かったけど)
    これを読むまでは、今回は椿さんの柔の感性に、ポール・ブリッツさんの剛の感性と思ってたんですけど、二人とも柔であり剛でもあったってことなんでしょう。
    なるほどなぁ…。

    > え? トイレにメッセージを書いたのは誰かって?

    あ…
    そうか。そこは、全然頭回ってなかった。
    うーん。結局、ポール・ブリッツさんの手のひらで転がされてたってことかー。
    そういう意味でも、お見事でした。

    いや。楽しかったです。ありがとうございました。
    ぜひまたやりましょう。
    ポール・ブリッツさんのお話、読みたいのはやまやまなんですけど、こんな時間でハラ減ってきちゃったんで(笑)
    すみませんですけど、またお邪魔します。

    NoTitle

    改めまして、大変ご迷惑をおかけいたしました<m(__)m>
    陳謝いたします<m(__)m>

    Re: かじぺたさん

    こんにちは。

    こっちもこっちで私生活が出んぢゃらすゾーンに。

    なんとかだましだましやってます。

    かじぺたさんこそブログ頑張ってください。

    応援してます!

    Re: 椿さん

    正直な話、最初に第一章を読んだときには、「えっ」と思いました(^^;)

    これって一巡で終わる短編だよな、長編じゃないよな、と(^^;)

    よくも四回で終わったものです(^^;)

    Re: 青井るいさん

    まとめレス失礼。

    あそこでさらに事態をぐちゃぐちゃにするやりかたもあったのですが、それをやっちゃあ悪いだろうと(^^;)

    とにかく話をまとめる方向で考えた結果、ああなりました。

    でもこの手は二度も三度も使えんしなあ。

    もし次があったら今度はお手柔らかに頼みたいものです。

    あと、あとがき部分はうつしてもらって結構ですよ~♪

    「なろう」はやるとハマりそうなので読むだけにしてますが、UPしてくださるとうれしいです。

    では今後とも良しなに(^^)

    というわけで

    ラストくわがたおさんから〆の一句頂きました。
    タイトルは「青の戦士」です。

    これにて本企画は無事完走することができました。
    週末あたりに僭越ながらわたくしがあとがきを掲載させていただきます。
    その際によろしければ今回の感想や批判などを自由に書いていただければな、と。
    それからまとめて「小説家になろう」に掲載します。

    しつこいようですが今回の企画参加ありがとうございました。

    NoTitle

    あけましておめでとうございますm(^0^*)m
    ご挨拶に伺うのが遅くなっちゃってごめんなさいm(^^;)m
    うわあ!面白そうなお話ですね~~!!
    後でゆっくり読みに来ようっと!!!
    今年もよろしくお願いいたします!!!

    言い忘れ

    「小説家になろう」に転載するのですが、あとがき部分をこのまま写してもよろしいですか?

    NoTitle

    書き終わりましたよ〜。
    ご参加誠にありがとうございました。そして最高のパスをありがとうございました。(結局ごり押しごっつぁんゴールな気もしますけど)
    お忘れになっているかもしれませんが、お会いした時に言った「いつか共著をやりましょう」って言葉、いい形で再現できたと自負しています。(ポールさんはご不満かもしれませんが……)
    できればこれがより多くの方の目に触れれば良いのですが、わたくしの不徳の致すところでございまして、本当に申し訳なく思っております。
    まあでも、いいコンビになりそうじゃないですか?(←身勝手)

    ともかく。
    重ねてですがありがとうございました。

    NoTitle

    速! そして凄!!
    うわー脱帽です。
    絶対自分からは出て来ない展開……。
    さすがポールさんです……!!

    そして個人的に、ヘタレっぽかった彼氏くんがちょっとカッコ良く見えて来てときめきました。

    NoTitle

    早! そしてありがとうございます!!
    さすがポールさん。笑わせながら最高の中継プレー。これ以上ない論理展開。しかも僕向けに引き継いでくれました。
    言うなれば三振を取る能力のない(青井)にダブルプレーをさせるようなお膳立て。

    これでうまくシメられなかったら罵倒してください。
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