不格好の美しさ――「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」感想
奏のキャラクターイメージがタヌキと聞き、ちょうど有頂天家族の原作を読んでいた僕納得。
劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」を視聴。映画は、秀一が久美子に告白する場面から始まります。けしてムードのある状況ではなく、言い方もロマンチックとは程遠い不格好なもの――そしてこの「不格好」というのが、本作では全体から感じられたように思います。
低音パートの新入生は、いずれも分かりやすい外見的特徴を備えています。背が随分高かったり、甘えんぼ袖であったり、女性的にも思える美少年であったり……それはアニメキャラクターが一目で分かる記号性を備えていなければならないから、という理由だけではおそらくありません。それらの要素は個性であり、同時に平均から逸脱した「不格好さ」でもあるからです。不格好であるからこそ、彼らは個人たり得ている。この事は新入生に限らず、久美子達上級生にも波及しています。だって新入生達は、演奏の腕や年齢、打ち解け方といった要素が上級生と比較した時に不格好になるからこそ、悩みを抱いているのですから。
そうした中、本作「誓いのフィナーレ」のヒロインと言っても過言ではない久石奏は一番整った外見を持っています。アクセサリは最小限、笑顔も多く調和を重んじるタイプ。強いて挙げるならば、比較的ロリ要素が少ない割に小ささの目立つ背丈くらい。しかしその背丈はみどりのように炸裂する元気を秘めているのではなく、情報収集や演奏に長けた力を無理やり抑え込んでいるようなもの。彼女は不格好にならないよう「小さくまとまろうとしている」のであり、逆にそれが不格好さに繋がっているのが久石奏という少女なのです。
だから物語は、彼女にその繕った不格好さを際立たせ、綻びさせ、脱ぎ捨てさせるように動いていきます。「悔しくて死にそうですよ!」と叫ぶ彼女の姿はエンドロール前としては酷く不格好で、しかしそれは物語の始まりの時のような不自然な不格好さではない。彼女という人間が真性持っている、人間なら誰もが持っていて当然の不格好さです。だからこそそこには、関西大会止まりという昨年に劣る審査結果に終わったことを視聴者に不満に思わせない、いやむしろそういう結果だからこそ得られたものがあることが切れ味良く語られている。そのことに僕は、TV1期や2期とも違った満足感を覚えずにはいられませんでした。
滝先生を慕う新入生の多さに麗奈がヤキモキしたり、色々なことを一緒に考えるのは無理だからひとまず恋人関係を解消したり、たくさん練習したのにオーディションに落ちたり顎関節症になって演奏そのものができなくなってしまったり。人も結果も全てが丸く収まるようなことなどほとんどなくて、誰かしら何かしら不格好な形になってしまう。だけどそれは憎むべきことというわけじゃなくて、望んだとおりでなくとも不格好なりに報いの形がある。本作はそういうことがよくよく示された、とても精緻な物語だったのではないでしょうか。
それにしてもこの劇場版、関西大会止まりという結果のための展開を組み上げているのが素晴らしい。昨年のオーディションについて奏は「結果が出たからそれで良かったって言えるんじゃないですか」と指摘します。それに反証するためには結果が出なくても良かったと言えなければならないわけで、だから物語は必然として昨年より劣る審査結果になるよう組み上げられています。もっとも顕著に現れるのはもちろん、大会での演奏シーンです。
以前より更にクオリティアップしたその映像は組子達の上達を感じさせるものですが、トランペットソロでの麗奈と香織のような感情がオーバーラップする場面はほとんどありません。5時間以上描写を積み重ねられるTVシリーズに、2時間に満たない劇場版が同様の描写で勝てるわけがない。
もちろん、その演奏に費やされた努力が昨年に劣るものではないことを私達は知っています。原作を読んだ人ならカットされたという小日向夢に思いを馳せるのではないかと思いますし、「リズと青い鳥」を見た人ならのぞみとみぞれの演奏だけで万感の思いがこみ上げるでしょうし、1期2期を見た人なら吉川優子の成長ぶりだけで全国金賞を取ってほしいと願うでしょう。しかしそれは演奏画面にはほとんど現れないのです。実際に演奏を見る観客にとってそうであるように。だからあの素晴らしい演奏には、全国大会に行けなかったことを悔しく思わせ、そしてこの年の北宇治高校最高の演奏であったことを満足させ、更にはここで終わってしまうことまで全てを納得させるための力が込められている。TVシリーズと違って尺に意識が向きにくく、また原作ネタバレに途中で触れにくい劇場版という媒体であることもこれには寄与しているように思います。なかよし川の感謝やOGの登場、演奏が2曲に渡ることなどで結果を察することはできますが、それを整理しきる時間的余裕を与えられなかったのはとても心地よい困惑でした。
もし、3年になった久美子達の姿がまた見られるなら。もし、そこで全国大会金賞という結果が得られるなら。その時の演奏シーンはこれまでのTVシリーズとも、今回の劇場版ともまた違った描写になるのではないか。そんなことを勝手に期待しながら筆を置きたいと思います。スタッフの皆様、素敵な鑑賞時間をありがとうございました。
<追記>
TV1期視聴後:(拍手)
— 闇鍋はにわ (@livewire891) 2019年4月19日
TV2期視聴後:(落涙)
誓いのフィナーレ視聴後:(ニヤリ)
ユーフォをそれぞれ観終えた後の僕を表現するとこんな感じ#anime_eupho
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