日本消費者法学会理事長 鹿野 菜穂子
(慶應義塾大学大学院法務研究科教授)
2023年1月24日の理事会の決議により、理事長に就任しました。よろしくお願いいたします。
日本消費者法学会は、2008年11月30日の設立大会(第1回大会)をもって設立されました。それはちょうど、2009年9月に消費者庁および内閣府消費者委員会が設置される前年の時期でした。消費者保護に関わる立法や研究は、既に20世紀の後半からありましたが、消費者法を中核に据えた学会はありませんでした。そこで、消費者法の重要性が増す中、研究者のみならず実務家や行政関係者等にも多く会員として参加頂くことにより、実務と理論の架橋を図り、よりよい消費者法のあり方を議論する場となることを標ぼうして、本学会が発足し活動を開始しました。
初代は松本恒雄・一橋大学教授(現在同名誉教授・独立行政法人国民生活センター前理事長)が、2016年からは後藤巻則・早稲田大学教授(現在・同名誉教授)が、そして、2018年11月からは河上正二・東京大学教授(現在・同名誉教授)が、理事長を務められました。その間、本学会は会員数も増加し、数多くの重要なテーマを取り上げて議論を重ね、成長してまいりました。そのバトンを引き継ぎ、今後ますます、本学会にふさわしい活動ができるよう努めてまいりたいと思います。
近年の社会環境の急激な変化により、消費者問題にも変化が生じています。その第一は、高齢化の進展や若年者の保護に関わる問題です。日本は、2010年に超高齢社会を迎えたといわれていますが、さらにその後、高齢化は加速し、消費者問題も深刻化しています。既に、消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法などをはじめとする法律の改正や、消費者裁判手続特例法の制定など、消費者の利益に関連する法律等の整備が進められてきましたが、なお、課題も少なくありません。一方で、2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられたことにも関連して、若年消費者の被害の動向も注視する必要があります。第二は、デジタル化の進展に伴う新たな課題です。デジタル化の進展により、従来の消費者関連法が予定していなかったような取引方法や決済方法が次々に現れ、新たな消費者問題が浮上しています。これに対しても、取引デジタルプラットフォーム消費者保護法の制定や特定商取引法の改正、景品表示法の指定追加など、一定の対処が図られてきましたが、未だこの分野の残された課題は多く存在しています。AI技術と消費者との関わりについても今後議論が必要です。さらに、デジタル化とも関連して、越境消費者被害も増加し、その法執行についてもなお課題があります。
近年は、心理学や行動経済学の知見を通じ、生身の人間である消費者の限定合理性、認知バイアスの問題などについても研究が進んできました。また、諸外国の動向にも大きな変化が見られます。これらの研究も踏まえ、社会状況の変化に対応できるような消費者法のあり方を考える必要があります。今や、消費者取引法のパラダイム転換が必要とされていると感じています。
もちろん、安全の問題は、生活者である消費者にとって極めて重要であり、製造物責任法などをはじめとする安全に関わる法律が、変化する社会状況に適切に対応できるのか、安全に関わる法的仕組みを再検討することも必要でしょう。
検討すべき課題は山積していますが、消費者にとって望ましい社会は何かを考え、その実現のために、海外の関連学会とも連携し、諸外国の情報や隣接諸科学の知見も取り入れながら、法制度や法政策について議論できる開かれた場として本学会が展開していけるよう努めたいと存じます。
関係の皆さまのご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。