2015.02.24 10:15

「恋愛感情を向けられると気持ち悪い」 雨宮まみの“穴の底でお待ちしています” 第18回

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穴の底でお待ちしています

誰にも言えない、けれど誰かに言いたい、そんな内緒の悩みやモヤモヤ、しょうもないグチからやりきれないつらさまで、穴を掘ってこっそり叫んでみたい気持ちを発散する、「感情の吹きだまり」……。そんな場所がこのコーナーです。あなたのやるせない気持ちを、安心してブチまけてみませんか? 雨宮まみが聞き手をつとめます。長文の投稿歓迎いたします。

(スープ/女性/20代後半)
はじめまして。私は恋愛感情を向けられると、気持ち悪く、胸に鉛がつまったようにぐっと憂鬱になります。告白されるとなぜか生卵をぶつけられたような、悔しいような、泣きたいような、みじめなそんな気持ちになるのです。

女性として見られることに抵抗があるのかもしれません。思春期の頃ならまだいいでしょうけれど、問題は私がもう26歳ということです。「結婚しないの?」とか「まだ処女なの?」というちょっとした話題をきっかけに、頻繁に“私の中の私”が自分を責めてきます。

ネットで調べるとそんな相談もたくさんありました。だいたい、「いつか克服できる時が来るよ」「私もそうだったけどいま私は結婚してるよ~」などと書いてありました。

克服したいのは愛し愛される喜びを知りたいということもありますが、子どもも欲しいし、結婚がしたいからなんです。克服できたとしてもそのとき私がもうおばあさんなら意味がありません。そして、想いを向けられるだけで瀕死状態になる私がなぜ結婚し子どもが欲しいのか……。よく考えると、私は結婚はともかく恋愛もできない自分が出来損ないのように感じ、さらにはそれらに対する世間への微妙な生きにくさを馬鹿馬鹿しいと思いながらも、毅然と胸を張る度胸も自信も覚悟も全くないからです(もちろん純粋な結婚への子どもじみた憧れみたいなものもありますが、それはキキララの世界への憧れみたいな現実感のなさです)。

上記の理由で私は告白されたり想いを向けられるだけで落ち込み、相手を心の中で逆恨みし、みじめな気持ちになっているにも関わらず、出会いを探したり、求められる自分に安心してそれをかろうじて自信に繋げているという、よくわからない状態になっています。
嫌なのに、いざ年を重ねて女として求められない時がくると思うと怖いです。相手を振るたびにいずれ私はこのモテを無下にしたことを後悔してひとりで死ぬのか……などと考えます。
いっそ年齢も性別も恋愛もなければどんなに楽なんだろうとよく思います。女友だちに相談したくとも、自意識過剰やただのモテ自慢になりそうでできません(いや、かろうじて自信に繋げているのでモテ自慢したいのかもしれませんね)。

この感情はどう処理すればいいでしょうか。精神的な成長をすれば、いずれは無くなり、結婚や恋愛もできたりするのでしょうか。こんな気持ちをずっと毎日毎日処分しながら、これからを乗り越えなくてはならないのかと思うと憂鬱です。

(※投稿内容を一部、読みやすいように編集させていただきました。)

お名前の通り、スープがお好きなんでしょうか。オニオングラタンスープ作りますね。あつあつですぐ食べるとやけどしますから、冷めるまでの間、お話ししましょうか。

これ、これな……! 読んだ瞬間、そう思いましたよ。スープさんのように、こういうことを言うとどうなるかも容易に想像がつきます。「あー、『誰かとつきあいたいと言いつつ、自分のことを好きな男はやだ』っていうタイプね」って言われるんですよね。かなり繊細な要素のある問題なのに、すごいざっくりした解釈で、そんなふうに言われる。そんで、やっかいもの扱いをされたり、贅沢だと言われたり、なぜ自分のことを好きになってくれる相手を好きになれないのか、頼んでもいないのに精神分析をされたりします。気をつけてくださいね、特に精神分析の手合いには。とか言いつつ、私もこれから似たような話をするわけですが……。

スープさんのおっしゃる気持ちには、私も覚えがあります。というか、基本的に自分がそういう対象として見ていなかった人から恋愛感情を向けられるというのは、怖いこと、気持ち悪いことなのではないでしょうか。

もちろん、好意を向けられているのだから、相手が悪いわけではないのですが、言われた側からすると「これまでそんなつもりじゃなく、友人として接してきた好意」が踏みにじられたように感じたり、「そういう目で見られていたのか」という違和感があったりするのは、正常な反応だとも思うのです。人によっては、「自分はそういうつもりはなかったのに、何か勘違いさせるような言動をしてしまったのか?」と自分を責め始める人もいたりします。スープさんのおっしゃる通り、「女として見られていた」ことに対する嫌悪感というのも、当然あり得る感情です。

スープさんが持っている自分自身のイメージとは違う部分に好意を持たれたりしている場合、その違和感はかなり強烈になるでしょう。例えば、自分では女らしくないと思っているのに、「かわいい」と言われたりすると気持ちが悪い、というような場合です。

そもそも告白されるって、いきなり一方的に「振る側」という悪役を押しつけられる側面がありますから、苦々しい気持ちになるのも、そりゃあそうだよな、と思ったりもします。

これを克服したい、と考えておられるようですが、スープさんのお話には、誰かを好きになった経験が出てこないところが気になっています。

自分の経験しか例に出せないのがもどかしいのですが、私は今でも、スープさんが感じておられるような嫌悪感を覚えることがあります。ただ、好きな相手、悪く思っていない相手からそうしたアプローチを受けることには嫌悪感がない、という状態です。これは、スープさんがおっしゃっている克服というのとは少し違う気がします。相手が自分を明らかに誤解して近づいてきている場合や、こちらが拒否するサインを発しているのに気づかれていない場合、誤解される行動を自分が取ってしまった場合などは、やはり嫌悪感を覚えます。

そして、その一方で、自分が誰かを好きになったときは、自分が味わっているような嫌悪感を、誰かに与えるかもしれないという立場になります。嫌悪感を向けられたことも、実際にあります。

自分の中の、相手を好きだという気持ちを知ると、それがどんなに身勝手で、一方的で、暴力的なものなのかということに気づき、けっこう呆然とします。恋愛って、素晴らしいもの、美しいもののように描かれることが多いですが、エゴイスティックなものだなと思い知ります。それで何が変わるわけでもないですが、自分も他人も同じような気持ちを持っているんだ、と知ると、必要以上に自己嫌悪をしなくても良くなりますし、他人に対しても、「あ、こういうやつか、しょうがないな」という気持ちを少しは持てるようになります。嫌悪感はなくならなかったとしても、「お互いこういうことはありますよね」みたいな感覚が持てるようになるんです。

スープさんの中には、世間の価値観の軸がかなり強固にあって、その軸に照らし合わせて、世間から見たときに恥ずかしくない自分でありたい、という部分があるようですね。結婚したい、子どもが欲しい、もそうですが、今それなりに好意を寄せられていることを自信の拠り所にしている、というのも、その一部なのかなと思います。

その中で、スープさんは、「26歳なのに処女で交際経験がない」ということには「いいトシなのにこんなんじゃいけないのでは?」と感じつつ、同時に「トシを取ったら自分の女としての価値は失われてしまう」と感じている。きついですよね、これ。結婚や出産についても、同じことが待っていると思います。自分は産みたいとも産みたくないとも思っていないのに、選択をしなければ可能性そのものが失われてしまう、という。

でも、この選択について考えるたび、私は「選択とか、無茶言うなよ」という気持ちになるんですよね。私は38歳で独身ですが、初対面の人に「人生これからどうするつもりなんですか?」とか、平気で言われたりするんですよ。怖いでしょ。こんな目に遭うの嫌だから、スープさんのように「結婚したい」と思う人がいるのも頷けます。私だってこんなこと言われたくない。「結婚していない」ことは、他人から見れば私の「自己責任」なんです。する気があれば、できるチャンスはあったはずだ、とみんな思ってる。確かにお見合いとかもしましたから、チャンスはありましたよね。でも、私は結婚はしたいと思ったけど、「この人としたい」と思う人と、するチャンスはなかったんです。

そんなことを「自己責任」みたいに言われると、けっこう気持ち悪いんですよね。私にはそれは、「選ばなきゃ結婚できるんだから、選ぶなよ」と言っているようにしか聞こえません。実際に「もう選んでる場合じゃないでしょ」と言われたことすらあります。すごい圧力です。圧力というか、自分が結婚しているというだけで、他人にここまで言っていいと思えるその神経……。結婚ってそんなに正義なんですか? って訊きたいですよ。独身を「選択」しているという意識は、私にはありません。何もしなかったわけではないし、それなりに努力はした。ただ、「どうしても嫌なことはしない」という選択をした結果が今です。それだけのことです。スープさんの「処女」という状態も、これに近いものがあるのではないかと勝手に想像しています。

世間の目と自分の感覚の間で悩んでいても、結局、どうしても嫌なことを我慢することは、多分できないと思います。できないというか、どうしても嫌なことをする状況ほどつらいことって、ないです。がんばって好きになろうとしても、なれないものはなれないです。

私がスープさんの文章を読んでいて、好きだなと思ったのは、振っておきながらそれを自信の拠り所にしているという、ちゃっかりしたところを嘘偽りなく書かれているところです。正直だし、チャーミングだなと思います。スープさんの書かれた文章の中で、いちばんずるくて矛盾しているところなのに、そこが魅力的なんですよね。

自分で思う自分の良さと、他人が見る自分の良さって、違うんですよ。それを受け入れるのはけっこう難しいし、時間もかかりますが、信頼している人に言われると案外すんなり受け入れられたりもします。「自分は誰からも、正しく理解されていない」というつらさが、誰かの一言で救われたりもします。恋や愛が難しかったら、同性でもいいから友情や尊敬や信頼といった方面から人間関係を考えてみるのはどうでしょうか。もしかすると、そういうところから「自分の見られ方」や、「思われ方」への強烈な嫌悪感がほどけるきっかけが掴めるかもしれません。

どうしたら恋愛ができるようになるか、というのは難しいことですが、ひとつ言えるのは、無理にしようとして適当な相手とお付き合いしようとしたりすると、それが楽しくなくて余計に恋愛が嫌になってしまう場合があるということです。チャレンジは結構ですが、自分の嫌悪感に嘘をついちゃだめです。

あとは、本当にこちらが飲み込まれてしまうような、相手の好意というものが、ときにはあります。好きではなかった相手が、あまりにも正しく自分のことを理解し、愛してくれていた場合、それに飲まれて、若干の嫌悪感や抵抗がありつつも、押し流されるようにして、こちらも相手に惹かれていったりすることもあります。

恋愛を「しなければならない」と思っていると、どんどん恋愛が苦痛になっていきます。特に今の世の中、恋愛してない女の扱われ方ってひどいもんですから、「しなきゃ!」と思ってしまうのはわかるんですが、恋愛を楽しんでいる人は、恋愛が本当に楽しいんですよ。素敵な人がこの世にはいっぱいいて、そういう人と出会えて、話せて……。確かにそんなだったら楽しいですよね。だから、最低限を求めるのではなく、自分が楽しいと感じられる環境や場所を考えてみるのもいいかもしれません。

スープさんの感覚は、別におかしなものではないし、変わるかどうか、どうしたら変わるかなんてわからないですけど、どうしても変えたい気持ちがあれば、人間、わりと変わる部分もあります。個人的には、スープさんは、変わるんじゃないかなと思います。いい加減なことを言っているようでアレですけれど、格闘してる人って、わりと変われるものです。


みなさまの愚痴を、雨宮まみが「穴の底」にてお待ちしております。長文大歓迎!
恋愛相手の愚痴も、職場環境にまつわる愚痴も、誰にも言えない愚痴も、「スポーツジムのおじさんの汗がキモイ…」みたいなしょうもない愚痴も、なんでもござれ。大なり小なり吐き出して気を楽にしませんか?
「どうしたらいいでしょう?」のような相談は受け付けておりません。ごめんなさい。


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雨宮まみ
雨宮まみ(あまみやまみ)
ライター。アダルト雑誌の編集を経て、フリーライターに。女性の自意識との葛藤や生きづらさなどについて幅広く執筆。女性性とうまくつきあえなかった頃を描いた自伝的エッセイ『女子をこじらせて』出版後、「こじらせ女子」がブームとなる。他の著書に対談集『だって、女子だもん!!』(ポット出版)、『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)、『タカラヅカ・ハンドブック』
(新潮社)など。

「キレイになりたい!」と言えないあなたに。

『女の子よ銃を取れ』

他人の視線にビクビクしたくない、自分らしく堂々としていたい、かわいい、キレイと言われてみたい……そう思っていてもどうすればいいのかわからないし、「キレイ」への道が怖くてたまらない。
キラキラした「キレイになりたい」本を手に取ることすら怖いと感じるくらい、「キレイ」が重荷になっている人のための、自意識や他人の視線、自分の視線を解きほぐす本です。

雨宮さんより一言:
何をしても、何を買ってもうまくいかない、変われないしパッとしない……。そんな悩みは、本当は多くの人が持っています。それ以前に何をすれば、何を買えばいいのかもわからない人だってたくさんいます。この間まではわかっていたのに、急にわからなくなってしまった人も。そんなときに、自分を取り戻し、新しい自分を作り上げるヒントや、気持ちの持ち方の軸のようなものがあればいいなと思って書きました。落ち込んだときのおともにしていただけると嬉しいです。

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