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桐島、部活やめるってよ■2012/シネマスコープサイズ/103分
■制作プロダクション:日テレ アックスオン
監督:吉田大八
原作:朝井リョウ
脚本:喜安浩平、吉田大八 
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
編集:日下部元孝
音楽:近藤達郎
出演:神木隆之介、橋本愛、大後寿々花
   東出昌大、清水くるみ、山本美月
   松岡茉優、落合モトキ、浅香航大
   前野朋哉、岩井秀人
【映画公式サイト→】



 とある高校。いつもと変わらぬ金曜日の放課後、バレー部
のキャプテンで成績優秀、誰もが一目置いていた「桐島」が
部活を辞めたらしい、という噂が広がる。メールも携帯もつ
ながらず、連絡が取れないまま続く「桐島の不在」は、やが
て友人や仲間たちの人間関係に徐々に影響を及ぼし始める…


 映画が始まると同時に画面に映し出されるのは、どこにで
もある、ありふれた、普通で平凡な光景だ。
 大きなドラマも、大事件も起こらず、何も変わらない毎日。
誰も死なないし、世界も「壊れたり」しない。掛け値なしの
ありのままの「日常」。
 カメラ位置を変えて何度も繰り返される「金曜日」の学校
の断面。人の数だけいくつも分岐している「小さな世界」。
 かつて誰もが過ごした「学校生活」という日常に、そのま
まカメラを持ち込んだような本作は、生徒たちの日常の会話
や何気ない行動を、ひりつくような皮膚感覚と独特の空気感
で描き出す。きわめて現代的で、かつ等身大の平熱感覚が、
カメラフレームの中の、微妙にくすんだ映像の中に観て取れ
る。

「学校」は、ひとつの「社会」であリ、実社会の縮図とも言
われるが、「縮小」されている分、人間関係のあり方は良く
も悪くも、濃い。本作で描かれる人物たちも、喜怒哀楽、嫉
妬や憧れや好意や不信など、様々な複雑な感情をもつ生身の
人間たちだ。
 そんな混沌として不確定なエネルギーが危ういバランスで
共存して成立している世界、その中心的存在だった「桐島」
が「消えた」ことで、校内の人間関係のバランスが狂い始め
る。…あいつがいるから大丈夫だと思ってた。恋はしている
けど部活も大事。不満はあるけど仲間。蔑まれても信念は曲
げない。嫌いじゃないけど好きでもない。共感しているけど
恋じゃない。…それまで無意識に隠されてきたもの、見えて
いなかった実相が次々に表面化していく。
kirishima_0.jpg
 しかし「桐島」、はこの物語上において不意にいなくなっ
た訳ではなく、はじめから「いなかった」という点に留意し
たい。はたして「桐島」は本当に「存在」していたのだろう
か。 
 …もちろん本作はミステリでもなければSFでもないので、
「肉体的に消失した」などと言いたい訳ではない。重要なの
は「桐島」本人の失踪よりも、生徒たちの無意識が生み出し
造り上げた偶像である「キリシマ」の消失の方が「事件」な
のだということである。(彼らは心配こそするものの、積極
的に彼を捜し出そうとはしない)
 彼らは「キリシマ」を「依り代」に、自分たちの存在を認
識していたのではないか。
 本作に描かれる「事件」の実相は、「桐島本人の不在」そ
のものより、「キリシマ不在」によって引き起こされる「ア
イデンティティ(自己同一性)の危機」にある。そしてどこ
かに実在するはずの「桐島」の突然の行動もまた、その危機
に由来するのではないか、と思えるのである。

 劇中、「キリシマ」の虚構性に皆が翻弄される中、映画部
の前田たちは、比較的冷静にその騒動を傍観している。なぜ
なら、彼らはそもそもカメラで客観的にものを観る「映画と
いう虚構」を愛する人々だからだ。前田はその「マニア的」
心性によって、揺るぎないアイデンティティを持っている。
それを象徴するのが、桐島を追ってきた菊池たちと映画部の
生徒たちの屋上での衝突シーンだろう。そこでは「虚構に惑
わされた現実」が「あたかも現実のような虚構」のゾンビに
喰われることになる。不在の存在「桐島=キリシマ」を含め
て、現実と虚構が次元を越えて混ざり合うカタルシス。

 誰もが主人公であって、特定の主役がいない奇妙な物語。
本作は前述した通り、徹底してありのままの日常を描くこと
に徹して終る。それは「映画が終わる」というより、「日が
沈んだから、今日はもう終わり」という感覚に近い。彼らの
「物語」そのものは何も終っていない。

 何ものにも頼らずに歩こうとすれば、足元がおぼつかなく
不安を覚える。「ごまかし」や「言い訳」を捨てて考えれば
自分の本当の気持ち、本当にやりたいことは何なのかと迷う。
 桐島は部活を辞めるらしい。前田は映画部を辞めないだろ
う。菊池は野球部を辞めるだろうか?「わたし(あなた)」
はどうするだろうか? そして、明日もまた陽は昇る。

d(>_< )Good!!(天動説 2013/01/11 蠍座)
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