■2010年/ヴィスタサイズ//119分
■制作プロダクション:エネット
監督:国本雅広
脚本:西田征史
撮影:喜久村徳章
編集:清水正彦
音楽:小西香葉、近藤由紀夫
出演:高良健吾、谷村美月、早織
尾上寛之、岡本玲、佐藤隆太
塩見三省、佐々木蔵之介
宮崎美子、大杉漣
■制作プロダクション:エネット
監督:国本雅広
脚本:西田征史
撮影:喜久村徳章
編集:清水正彦
音楽:小西香葉、近藤由紀夫
出演:高良健吾、谷村美月、早織
尾上寛之、岡本玲、佐藤隆太
塩見三省、佐々木蔵之介
宮崎美子、大杉漣
新潟県小千谷市片貝町。年の一度「片貝まつり」の日、急
性白血病による入院生活を終えて半年間ぶりに帰宅した華は
兄・太郎が自室に引きこもっていることを告げられる。何か
と兄を心配する華だったが、その最中、再び病気が再発して
しまう。余命僅かな妹から生きる勇気をもらった太郎は、妹
の望みを叶えるために、町民のそれぞれの思いを花火に託し
て打ち上げる伝統行事「片貝まつり」に参加しようと決意す
るが…。
実在する「片貝まつり」をめぐる実話に基づいた映画。し
かし、本作は単なる「難病の少女とその家族を描く感動の物
語」ではない。確かに主人公の華(はな)は白血病により亡
くなってしまうし、不意に取り残される家族にとっては間違
いなく悲劇ではある。
しかし本作は「悲劇→感動」という、ただ泣かせるための
単純なドラマではない。「実話に基づいた物語」ということ
に甘えず、日常的リアリティを感じさせるドラマとメリハリ
のある無駄のないストーリー構成、そして活き活きとした人
物描写。決してストーリーの流れに無理強いや破綻がなく、
描くべきものをしっかり捉えて少しも「無駄話」をしない。
それゆえにどのショットも力強いし、どのシーンにも映像
的な緊張感があり、面白さがあふれていて、常に何かしら感
情に訴えかけてくるものがある。『おにいちゃんのハナビ』
は、「映画」としての強度が並外れて優れた「完璧」な映画
である。
映画は華の退院のシーンからすでに病気であることを画的
にも強く示唆して始まる。しかし、本作はウェットな展開を
極限まで避け、明るく元気で、しかも驚くほど楽しい。
物語前半は妹・華のペースで進むが、その朗らかな言動が
ユニークで、家に引きこもる兄に対しても、その明るさを武
器にどんどん彼のテリトリーに踏み込んで行く。シリアスな
問題を抱える家庭が「分離・沈殿」する前に、彼女の存在に
よって、どんどん「撹拌」されてひとつに混ざっていく。
そしてそのエネルギーは映画後半でも、次第に立ち直って
ゆく兄の姿に乗って、最後まで継続して流れてゆく。
この確かな絆でつながる兄妹を演じる高良健吾と谷村美月
が、それぞれの人物を細かな心情の表現まで丹念に演じ込み
とにかく素晴らしい。その活き活きとした言葉のリアリティ
と、ごく自然な会話のやり取りの巧さは、ある意味でスリリ
ングでさえある。その逆のセリフを喋らない時にも、その間
合いの取り方や表情の豊かさが、画面に「映像的緊張感」を
生み、一時も退屈させない。二人が自転車に乗るシーンと病
室で会話するシーンに「映画的強度」の差は全くない。
妹亡きあと、兄が祭りの夜空に観たもの、何だったのか。
前向きに生きて行くことをしっかりと見つめる本作は、そ
れゆえ観終わって自然に爽やかで浄化されたような気持ちに
なれる。「悲しい」から泣くのではなく、「嬉しい」から泣
けるのである。感動が安っぽく消費される中で、より深い感
動がここにはある。人が誰かを強く想うとき、そこに感動は
生まれる。必見の傑作である。
(2010/10/1 天動説:映画批評)
性白血病による入院生活を終えて半年間ぶりに帰宅した華は
兄・太郎が自室に引きこもっていることを告げられる。何か
と兄を心配する華だったが、その最中、再び病気が再発して
しまう。余命僅かな妹から生きる勇気をもらった太郎は、妹
の望みを叶えるために、町民のそれぞれの思いを花火に託し
て打ち上げる伝統行事「片貝まつり」に参加しようと決意す
るが…。
実在する「片貝まつり」をめぐる実話に基づいた映画。し
かし、本作は単なる「難病の少女とその家族を描く感動の物
語」ではない。確かに主人公の華(はな)は白血病により亡
くなってしまうし、不意に取り残される家族にとっては間違
いなく悲劇ではある。
しかし本作は「悲劇→感動」という、ただ泣かせるための
単純なドラマではない。「実話に基づいた物語」ということ
に甘えず、日常的リアリティを感じさせるドラマとメリハリ
のある無駄のないストーリー構成、そして活き活きとした人
物描写。決してストーリーの流れに無理強いや破綻がなく、
描くべきものをしっかり捉えて少しも「無駄話」をしない。
それゆえにどのショットも力強いし、どのシーンにも映像
的な緊張感があり、面白さがあふれていて、常に何かしら感
情に訴えかけてくるものがある。『おにいちゃんのハナビ』
は、「映画」としての強度が並外れて優れた「完璧」な映画
である。
映画は華の退院のシーンからすでに病気であることを画的
にも強く示唆して始まる。しかし、本作はウェットな展開を
極限まで避け、明るく元気で、しかも驚くほど楽しい。
物語前半は妹・華のペースで進むが、その朗らかな言動が
ユニークで、家に引きこもる兄に対しても、その明るさを武
器にどんどん彼のテリトリーに踏み込んで行く。シリアスな
問題を抱える家庭が「分離・沈殿」する前に、彼女の存在に
よって、どんどん「撹拌」されてひとつに混ざっていく。
そしてそのエネルギーは映画後半でも、次第に立ち直って
ゆく兄の姿に乗って、最後まで継続して流れてゆく。
この確かな絆でつながる兄妹を演じる高良健吾と谷村美月
が、それぞれの人物を細かな心情の表現まで丹念に演じ込み
とにかく素晴らしい。その活き活きとした言葉のリアリティ
と、ごく自然な会話のやり取りの巧さは、ある意味でスリリ
ングでさえある。その逆のセリフを喋らない時にも、その間
合いの取り方や表情の豊かさが、画面に「映像的緊張感」を
生み、一時も退屈させない。二人が自転車に乗るシーンと病
室で会話するシーンに「映画的強度」の差は全くない。
妹亡きあと、兄が祭りの夜空に観たもの、何だったのか。
前向きに生きて行くことをしっかりと見つめる本作は、そ
れゆえ観終わって自然に爽やかで浄化されたような気持ちに
なれる。「悲しい」から泣くのではなく、「嬉しい」から泣
けるのである。感動が安っぽく消費される中で、より深い感
動がここにはある。人が誰かを強く想うとき、そこに感動は
生まれる。必見の傑作である。
(2010/10/1 天動説:映画批評)
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