chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

中野を荒らす「違法テプラ」のなぞ

繁華街を歩いていると

こういった具合で、反社会的な感じの人たちが公共物に張り付けていったステッカーを見ることができる。

一つひとつをじっくり見てみると、何らかのメッセージ性を感じるものや「○○参上!」といった趣のものなど様々。

その違法っぷりや景観への悪影響は看過できないにせよ、ともかくなかなか興味深いものだ。

筆者の職場がある中野駅(東京都)付近にも例によってさまざまなシール類が貼られているのだが、その中でもとりわけ目を惹くものがあった。

テプラだ。

あんまりにも収まりがいい写真で、事情が伝わり切っていないかもしれないので改めて説明させていただくと……

中野には「さまざまな違法ステッカーと同じノリで、路上にテプラを貼って回っている徒党」がいくつか存在するようなのだ。

本記事は、そのような「違法テプラ」および、それらを貼る人たち(通称テプラチーマー)に関する研究の記録である。

※「違法テプラ」「テプラチーマー」は、chocoxinaオリジナルの呼称であり、世間一般およびアングラシーンに認知されたものではありません。

2018年 中野のテプラチーマー一覧

これまで確認できた限り、中野には3+αのテプラチーマーが存在するらしい。

1.輝府羅組(てぷらぐみ)

※以降、すべての徒党をこちらで付けた勝手な名前で呼ぶことにする。(本人らが屋号っぽいものを自称してる場合もあるのだが、それを尊重しすぎるのもなんだか違う気がするので)

さて、輝府羅組(てぷらぐみ)がこれまでにボムって(路上に落書きを行ったり、ステッカーを貼ったりすること)きた違法テプラには、

  • 縦書きであること
  • 構成員の名前とキャッチフレーズが書かれており、派手な装飾が施されていないこと

以上の特徴があり、ざっと以下のようなものが確認できた。

※人名については一応伏せておきます。

標語の部分にちょっとしたルサンチマンや下ネタが感じられることを除けば、なんというか
「90年代の中小企業が全社員に作らせて、社用PHSの裏に貼らせてそうなテプラ」といった趣がある。

ところで、この輝府羅組(てぷらぐみ)のラベルには「名前だけ大きな文字にする」という装飾テクニックが使われている。

この再現がなかなか難しかったので、備忘録がてらご共有させていただこう。

再現に使ったテプラはエントリーモデルの型落ち品(SR150)だが、大半のテプラで再現できるはずだ。

まず縦書きに切り替えた後で、このボタンから「文字サイズ」メニューを選択する。

テプラには「特定の行だけ文字サイズを変える」という機能はなく、代わりに既存のレイアウトから適したものを選ぶかたちになっている。
キャッチフレーズに1行しか使わない場合、このように2行目が大きくなるレイアウトを選び、あとは画面に従って変更を確定させればよい。

そしてかっこいいキャッチフレーズと自分の名前を入力することで、輝府羅組(てぷらぐみ)のラベルが再現できる。

chocoxinaも個人的に作例を作ったのだが、ここに上げることを忘れてうっかり本名で刷ってしまったのでお蔵入りとさせて頂きます。

2.プリハ

輝府羅組(てぷらぐみ)と同程度か、それ以上の勢力を誇るテプラチーマーが、この「プリハ」。

  • テプラの外枠機能で装飾を行っており、メンバーごとに異なる外枠を使う
  • チーム名と個人名(あだ名?)が記されている

という点が特徴的だ。

彼らの違法テプラは、輝府羅組(てぷらぐみ)のものよりも更に「テプラ然」としており、その違法性に似つかわしくないほのぼの感を演出している。

おかあさんが手芸用品を入れたクッキー缶に貼っていそうな感じだ。

chocoxinaが初めて見た違法テプラはこの「プリハ」のもので、当時はこれが一体なんなのかまるで理解できなかった。
ところが似たようなラベルを路上でいくつか見つけるにつれ、
「これはどうやら、その辺の落書きシールと同じような意図でもって貼られているらしいぞ」
と思い至り、静かな、かつ大きな衝撃を受けたのだ。

輝府羅組とのコラボレーション

さて、彼らのラベルについて一つ一つ詳しく調べてみると、彼らが使用している外枠すべてが、筆者宅のテプラにも備わっていることがわかった。

こんな感じで内蔵された外枠を確認できる

テプラには大きく分けて、「家庭用」と「ビジネス用」、さらにビジネス用の下位モデルである「エントリー」というシリーズがあり、家庭用とそれ以外で外枠のラインナップが異なる。

筆者のものはエントリーモデルなので、彼らの使用するテプラが「家庭用」ではないことがはっきりしたわけだ。

せっかくなので、彼らプリハのスタイルも再現してみよう。

テプラの外枠機能は、

このボタンから「外枠」のメニューを選ぶことで使用できる。

エントリーモデルでもだいたい70以上の外枠が使用できるので、好みに応じたものを選ぼう。

そして屋号とコードネームを入れて印刷すれば

完成、かというとそうではない。

両サイドの余白部分をきちんとハサミでカットするのをお忘れなきよう。

3.チームマイベスト

八月なかばあたりから急速に勢力を拡大してきた感のあるテプラチーマーがこの「チームマイベスト」。

彼らの違法テプラは、先に紹介したプリハのものと似通った部分が多いのだが、

  • より幅広で色付きのラベル
  • 余裕のある文字組(相対的に、描画がより高精になる)
  • ハイビスカスなど、南国を思わせる外枠を多用し、フォントを変更する

という独自色も忘れていない。

とくにフォントについては、2万円近くするスタンダードモデルのテプラかその上位機種にしか搭載されていない「ST体」を使用していることが確認できた。

そうしたこだわりを見ると、彼らはプリハと似ているどころか、対照的に「テプラ感」からの脱却を意図しているようにさえ感じられる。

彼らの創意工夫により、チームマイベストのテプラは「お気に入りの曲ばかり入れたマイベスト盤カセットテープの題字」のような趣を帯びた、興味深い仕上がりになっているのだ。

このカセットテープには沢田研二とか入ってるんだろうな

ところで、彼らのラベルの中に、

この通り、カートリッジの不調でインクリボンがくっついたままになったものが見受けられた。

これは恐らく、夜の暗いなか、ラベルがどうなっているのかよく見えない状態で貼り付けられたのだろう。
つまりチームマイベストはラベルを家で印刷してくるのではなく、現場までテプラを持ちだしてその都度印刷しているものと推察される。

不法行為・オン・デマンドだ。

4.シーホリ

ここまでに紹介した三つの勢力が、いわば中野の三大テプラチーマー。

そのほかにもいくつか「未分類」の違法テプラを収集しているのだが、その中で特に紹介したいのがこの「シーホリ」である。

彼らはテプラチーマーの中でも新興勢力と思しき徒党で、今のところ、彼らのラベルは一つしか確認できていない。

その見た目は一見「プリハ」のものと大差ないように見えるのだが……

この「クジラに泡」の外枠は、現行品のどのテプラにも収録されていないのだ。

テプラ以外のラベルライターには、ブラザーのピータッチやカシオのネームランドなどがあるが、どの現行機にもこの意匠は確認できない1。

DJがライバルと差をつけるためにレアな音源(レアグルーヴ)を買い求めるように、テプラチーマーの間でも「レアラベルライター」を探す動きが活発になりそうだ。

落書きは器物損壊や建造物損壊などの罪に問われる可能性があります

こんなところで、以上が筆者のおよそひと月にわたる「違法テプラ」および「テプラチーマー」研究の記録である。

彼らのラベルを更に詳しく見てみると
「プリハとチームマイベストには何らかの交流があるか、あるいはそもそも同じ徒党かもしれない」とか、
「輝府羅組(てぷらぐみ)は◯◯◯について訴えたいらしく、かつてはてらいのない紙製のシールを使っていた」とか、
「みなお盆休みを取れる仕事または学業をしているらしい(その期間にぐっとラベルが増えたので)」とか、テプラチーマーの内情についていろいろと見えてくるものもあるのだが……

不法行為による自己表現にあまり深入り・肩入れをすべきではないと考え、今回は「ラベルそのもの」を重点的にご紹介した。

彼らの行為にはあくまで異を唱え、ほんの時たま彼らの作り出すちょっと不思議な、路上とオフィスと人の家とが溶け合うような情景を楽しむくらいが、我々昼間の人間として丁度良いところだろう。

――などとまとめていたらどうも社会的になりすぎたので、最後に「違法テプラかと思ったら合法テプラだったやつ」を掲載してこの記事を終わらせて頂きます。


  1. 筆者の調べによるもの。