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Evidence「Cats & Dogs」
LAを代表するHip HopグループDilated Peoplesの一員、Evidenceのソロ通算二作目となる『Cats & Dogs』を御紹介。Evidenceの顔立ちを見ても分かる通り、Evidenceはイタリア人の父とロシア系アメリカ人の母の間に生まれたのだそう。Dilated Peoplesが有名ですし、Evidenceを知らなくてもその声&フロウは聴いた事があるという人が多々居ると思います(同意見)。犬と猫にガッチリとピントが合って、当のEvidenceはピンボケしちゃっているこのジャケットに惚れて即購入しました。壁一面に貼られた無数の“犬or猫を探しています”のビラもなんか素敵、やはりジャケットもその作品の評価を大きく分けますよね(深頷)。
それでは簡単ではありますが内容はどんなものかと・・・・・・まずはあのAloe Blaccが参加している時点で強力な「The Liner Notes」で黒光りして幕開け、制作はあのThe Alchemistという事で間違いありませんね。The Alchemistらしい渋く暗いけれど美しく滑らかなストリングス使いの流麗曲に、Evidenceのネッチリとスラップする高音域のラップ、そしてまるでレコードの様に曇った音質でふんわり流れて来るAloe Blaccの歌声が素敵。「Strangers」はTwiz The Beat Proが制作を担当、散り散りになったホーンをベタベタとコラージュしたメロディに、硬質な鉱石ビートとDJ Revolutionによるキレキレなスクラッチが炸裂する王道曲。The Alchemist制作の「The Red Carpet」では、まさかのRaekwonとRas Kassという無敵過ぎる手練を二人も援軍に迎えた鉄板武曲。既存ソウル曲のフレーズをユラユラ蜃気楼の様に燻らせた味わい深い渋メロウで、この三人がそんな蒸せ返る程の墨汁ソウルフル曲でマイクを回すのだから、もう煙たくて涙が溢れて失禁してしまいます(唖然)。Rahkiが制作した「It Wasn't Me」も兎に角凝りに凝ったビートが変態的で面白い、キャンキャン系の電子鍵盤音の跳ね具合に任せて、変テコな声フレーズがオモチャの様に構わずゴチャ混ぜに放たれるのが病み付き。「I Don't Need Love」はEvidence自身が制作を担当、これはJust Blazeなんか作りそうな声ネタ早回し手法でザクザクと旋風を起こして斬りつける一曲。「You」ではもはや伝説の人になりつつある、DJ Premierが制作を担当しております(敬礼)。Mavis Staples「You Send Me」をサンプリングしたこのドス黒くドープなファンクネスは最高にホットでイル、こういう重低音を効かせたビート専攻型のトラックでこそ、こういうEvidenceみたいなスキルフルなMCが映えるのでしょうね。聴けば一瞬でPrimoの音だと分かる、これはもしかしたら非常に際どい事なのかもしれないけれど(言い換えれば一辺倒だと取られてしまう)、鉄人Primoのはそれでもう一つの高級ブランドでありヴィンテージなのだから凄い。Primoのあの指から繰り出されるギュルギュルと擦り付ける様なスクラッチは、本当に野太くてタフで厳ついですね。「Fame」ではProdigy(Mobb Deep)とRoc Marcianoというこれまた通にウケる人選、Charil Brown制作の粘っこくてダークで陰湿なスベスベ曲も光っていますね。「James Hendrix(StepBrothers)」はThe Alchemistが制作、ピコピコと少し抜けた笛の様な電子音がキラキラと輝くスマート曲。SlugとAesop RockyとCateroが客演参加の「Late For The Sky」はSid Roamesが制作、サンプリングにJackson Browne「Late For The Sky」使用。ガキンガキンと鳴る鍵オルガンっぽい響きのメロディに、どこかカントリーロック風味のフックが空気を和ませる不思議なミッド。破滅的でノイジーな電子音が錯綜しあちこちで衝突し美しい火花を散らす「Crush」も面白過ぎる、制作はThe Alchemistという事で彼の引き出しの多さを痛感させられます(敬服)。下手したら耳に痛い煩さだけが残りそうな鉄屑瓦礫サウンドながら、箇所々々で挟まれる女性声の“ぱっぱっぱ♪”のハーモニーが中和作用を示し、なんだかすんなりと鼓膜にへばり付いてきます。RakkaにTermanology、そしてM.O.P.の片割れLil Fameが参加した「Where You Come From?」もThe Alchemist制作曲、サンプリングにJay Electronica「Exhibit C」を使用。全員が当然と個性的なのですが、やはり僕としてはLil Fameのあのダイナマイト爆破声にヤラレてしまいますね(一撃)。Sid Roams制作の「To Be Continued...」もだらーりと気だるいサウンドが次第に砂煙を上げて強烈さを増す一曲で、ハードでラフなビートでEvidenceが淡々と狙いを定めてラップする勇姿に感動。「Falling Down」はRahkiが制作、女性シンガーAmber Strotherの甘ったるくノスタルジー感じるヴォーカルが良い塩梅。Sid Roams制作の「Well Runs Dry」はKrondonが客演、アジアンテイストなピーヒャラ電子音が絶えず漂うオリエンタルなメロディで、KrondonのBusta Rhymesみたいな濁声フックも魅力的でナイススパイスに。最後を飾る「The Epilogue」は再びDJ Premierが制作を担当、重厚なホーンの継ぎ接ぎメロディに鬼スクラッチが衝突する、やはり殺伐とした激渋なダウナーチューンでカッコ良過ぎますね(痺)。
90年代のHip Hopが好きな人ならば絶対に好き、最近のHip Hopから慣れ親しんでいる若者にも聴いて欲しい渋い一枚です(激薦)。Evidenceの高音でのねちっこいラップも勿論好きだし、サウンドプロダクションもモロに僕の好みで、痙攣しながら体揺らしてリズムとってしまいますね。客演陣も新旧含めて通が好みそうな面々ばかり、凝りに凝った一枚という趣です。ジャケットも最高、中身も最高、派手さはないけれど要注意な一枚です。