4月14日の熊本地震から2週間目を迎えようとしている。

 私は、1995年の兵庫県南部地震、2004年の中越地震、そして2011年の東北地方太平洋沖地震と、この20年余、「震度7」の現場を何度も訪ね、巨大地震災害について多くのことを学んできたはずなのに、熊本地震の震度7は信じられない思いだった。

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あり得ない「震度8」

 この「震度7」に接して「やはり」と思ったことがある。

 テレビの地震報道番組内で、年季の入ったジャーナリストが「震度7以上の地震が来たら」と口にしたのだ。

 巨大地震を論じる他のテレビ番組内でも、「今後、震度8の地震が来たら」と発言した論者もいた。

 深刻な災害だからこそ、正確な報道が必須なのに「震度」を理解していないのは何ともまずかった。

 震度を表現する数字を「震度階級」と呼ぶが、「震度7が震度階級では最大」であることを知らない人が思いのほか多いのではと前々から心配していたが、報道人ですら理解していなかったとは……。

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 私は獨協大学で2つの講義を担当しているが(受講生数は約450人)、学生たちに「震度7が震度階級では最大」であると話したところ、次のような感想が寄せられた。

  • ニュースで震度7と知ったが、震度10ほど大きい地震ではないという誤った認識をしていた。
  • 震度は10が最大だと思っていた。7が最大震度だということに驚いた。
  • 震度7が震度階級で最大だと知り、熊本地震の揺れがいかに大きかったかを再認識した。
  • 震度は10まであると思っていた。
  • 震度は5と6だけに「強」と「弱」があるため実際は10段階だと初めて知った。
  • 震度が10段階でまさか7が最大とは知らず驚いた。
  • 震度の10段階の中に「強」「弱」などの階級があるのは地震への誤った認識を招く危険がある。

 やはり「最大震度が7」であることを知らない学生が圧倒的だった。

 一般の方々の多くも同じ認識ではないかと思う。

 気象庁は、「震度5弱」「震度6強」などの震度発表をするが、その「弱」や「強」の意味もほとんど理解されていない印象だ。

「震度5」も「震度6」も、ない

 たとえば「震度6強」とは「震度6より強いが震度7以下だ」と思ってしまうが、それは間違いだ。

 なぜなら、震度階級に「震度6」はない。

 同様に「震度5」もない。

 「震度4」の上は、「5弱」「5強」「6弱」「6強」、そして「7」なのである。

 発表される震度は、各地に設置された震度計の記録データによる。

 気象庁によれば、発表震度情報のために活用している震度は、気象庁、地方公共団体、および(独)防災科学技術研究所が全国各地の約4200地点の地表や低層建物の一階に設置した震度計で得たデータを用いている(2009年10月現在、気象庁資料)。

 それにしてもすごい数だ。日本の地震への対応が世界トップ水準であることを実感する。

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 その震度計が観測した揺れの程度(震度)の0.5刻みのモノサシを使い、「震度0~7」という震度階級として発表しているのである。

 こうして決定される震度のモノサシは最大が「7」にもかかわらず、「7目盛」ではなく「10目盛」なのだ。「10目盛」は、常識であれば「1、2、3……9、10」と続くと思うが、人が揺れを感じない「0」が先頭にあるというややこしいことをやっている。頭に「0」があり最大が「7」なら8段階と思うが、これがまた違うのだ。

 その不思議は、「震度5」と「震度6」が2つずつあることによる。「震度5」と「震度6」はなく、「震度5弱」「震度5強」「震度6弱」「震度6強」の4階級が設定されているのである。

 このややこしいことが、間違いの元なのだ。

 地震速報で「震度7」と聞いて、「最大震度10より3段階も小さい規模の地震」だと誤解すれば、生命の危機回避や避難行動にも影響をもたらすおそれがある。実際は、これ以上はない最大規模の地震なのに。

 日本において1884年(明治17)に初めて定義された地震階級は「微、弱、強、烈」の4階級だったが、その後、何度も改訂が繰り返されてきた。その変遷は、震度の定義の難しさを物語っている。

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 震度は、地震のエネルギーの強さそのもの(通常はマグニチュードで示す)を意味しているのではなく、各地点の揺れの程度や被害、影響の度合いを示す数字だ。

 震度7=耐震性の低い木造建物は、傾くものや、倒れるものがさらに多くなる。(「震度と揺れ等の状況(概要)」気象庁による)

 というように。

広く伝えられている新震度階級パンフレット(気象庁)
広く伝えられている新震度階級パンフレット(気象庁)
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「社会系規模」の定義の難しさ

 マグニチュードは「理科系の地震規模」であり、震度は「社会系の地震規模」ということもできる。

 混乱の元は、その「社会系の地震規模」の定義の難しさにある。

 かつて、地震の揺れの程度は「漢字」で表現していた。

 私が子供時代に愛読していた地学の図鑑には、「烈震」とか「激震」という言葉が記されていて、文字通り激烈な印象を受けた記憶が残っている。だが、地震による揺れの強さの階級を「漢字」で表現するのには、無理があったのだろう。

 長く使われてきた、

 無・微・軽・弱・中・強・烈・激

 といった漢字による階級表現には、重さや容量の階級(微・軽)、エネルギーの階級(強・烈・激)、汎用の程度の階級(無・微・中)などが使われ、ごっちゃに当てはめていた。そのため、これらを階級として並べても、一般の人は地震の揺れの大きさの大小が直感できなかったのだろうと思う。

 先に「文字通り激烈な印象を」と書いたが、地震の階級にしたがえば、「烈」よりも「激」の方が大きいので「烈激」と書かねばならないが、日本語には「烈激」という単語はない(いくつかの辞書で調べたが)。地震階級では、漢字での階級(序列)を無視していたことになる。

 つまり、社会的、文化的通念にしたがうと、漢字で表現する震度階級は理解を妨げる。

 1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)のあと、気象庁が震度を数字のみの「0~7」(8階級)に改訂したのは、そういう社会的、文化的問題が理由だったのかもしれない。

 日本の震度階級は、その後の大規模地震で震度と被害程度に乖離があったことから、「震度5」を「5弱」「5強」に、「震度6」を「6弱」と「6強」にわけ、詳細な被害の度合いをもとに10階級にしたようだ。

 ところで、1884年に最初の震度階級が定義されて以降、何度も繰り返されてきた改訂での問題点の一つは、階級数が統一されなかった点だ。

「7→8→10」の変遷と混乱

 1898年(明治31年)から1936年(昭和11年)までは7階級だったが、1949年(昭和24年)から1996年(平成8年)までは8階級、そして現在は10階級に増えた。これは、「1時間は40分です」と言ったかと思うと次は「1時間を50分にしました」、「このたび1時間を60分にしました」とやってきたようなことなのだ。

 私たちの頭の中にある数字の階級の標準は「10進法」だ。例外として時間の「60進法」や1年の月数の「12進法」などのモノサシも頭に入っているが、「7進法」は曜日では使われているものの、「強さの7段階」は日常生活では縁がない。しかも、頭が「1」ではなく「0」。実際の階級が「10進法」になっても、「最大震度7」を死守してきたことも、報道番組で「震度7以上」だの「震度8」だのという、おバカな発言が出てしまう原因と思う。

 幾度かの改訂でも震度階級の最大を「7」にこだわってきたのは、過去の震度との比較で混乱が生じないための措置だと聞いたことがあるが、巨大地震の報を受ける市民感覚への配慮には欠けている。

 では、これまでこの問題が論じられたことはなかったのだろうか。

 気象庁は何度か「震度に関する検討会」を開催していた。

 2009年に行われた「震度に関する検討会」の『検討結果報告書』は、こう記している。

 震度は、地震による揺れの強さを総合的に表す指標で、防災対応の基準として利用されています。同じ震度でも、建物、構造物や地震動の性質で被害の様相は異なります。このため、ある震度に対し、その周辺で実際にどのような現象や被害が発生するかの目安を示すものとして、平成8年に「気象庁震度階級関連解説表」を作成しました。この表は、新しい事例や耐震性の向上等により、実状と合わなくなった場合には内容を変更することとしています。

 同表の作成から10年が経過し、その間、いくつかの規模の大きな被害地震が発生しました。また、各地方公共団体が設置した震度計が更新の時期を迎え、具体的な配置基準が課題となっていました。こうした背景を踏まえ、震度観測に関する課題を整理するとともに適切な震度観測に資するため、消防庁と気象庁の共同で、学識経験者及び行政委員より成る「震度に関する検討会」(座長:翠川東京工業大学大学院教授)を設置し、検討を進めてきました。平成20年12月より、計5回の検討会を開催し、各課題について、検討結果を取りまとめました。

 震度階級ごとの被害の基準などの検討は行われたが、「震度階級を10進法にすべき」という論議は行われなかったようだ。

 ちなみに、この検討会の委員には学識経験者として、TBSテレビや日本テレビ、時事通信、NHKの担当者も加わっていたのだから、「報道で間違って伝えることがないように、震度階級は10進法にして、最大震度も10にすべきだ」と発言してほしかった。

 私の提案は、「最大震度を10にする」だ。

 しかし、震度計の目盛に忠実に、均等に10の震度階級を設定すると、従来の階級とずれてしまう。

 しかも「震度0」があると10階級ではなく11階級になってしまう。「11進法」などというものは、いっそうわかりにくいので避けたい。

「10階級化」と「併記」を

 そこで、提案。「震度0」を廃止する。

 「震度0」は1898年以来採用されてきたが、10進法にするために「体感できない地震」を「震度1」と定義すればよいのだ。

 これで、震度階級は、「震度1~震度10」とスッキリ10進法にできる。

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 この「震度階級を10に」という提案に対して、「震度階級は従来のままでよい」と記した学生がいた。その理由として、「従来の震度表記との混乱が生じるため変えるべきではない」と。

 確かに、震度階級を10にした場合の最大の課題がそこにある。

 そこで、過去の震度との比較できるよう、当分の間は、過去の震度をカッコで併記すればよいと思う。

 たとえば、「震度3(旧震度2)」、「震度9(旧震度6強)」というように。

 熊本地震の震度は、「震度10(旧震度7)」となる。

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 こうすることで、「震度7以上」だの「震度8」だのと言い出す報道人はいなくなるだろう。

 「10進法」は誰の頭の中にもモノサシがあるので、間違っても「震度12」と言い出す者も出ないだろう。一般市民も、「震度9(旧震度6強)」「震度10(旧震度7)」という報道に接すれば、地震の規模の大きさを直感、地震後の避難や危機対応でも好ましい結果をもたらすはずだ。

 なお、現在の震度階級では、震度計による震度と震度階級の目盛りが「1.0刻み」なのに、「5弱」「5強」「6弱」「6強」のみは「0.5刻み」という変なことになっている。これは、地震の規模が大きくなるほど被害などの大きさを子細に伝えるためのようだ。

 そこで「10進法」の震度階級でも、「5弱」「5強」「6弱」「6強」は「0.5刻み」を維持する。これで、旧地震階級との整合性もぴったりだ。

 地震の震度階級は1898年以来、何度も改訂されてきた。その改訂は巨大地震をきっかけにして行われてきたのだから、熊本地震という巨大地震を契機に、「震度階級を10に」という議論を始めてはどうだろう。

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