流行はいずれ終わりを迎える。年齢を経てきた大人のビジネスマンには普遍性を感じさせる洋服こそがふさわしい。人を素敵に変身させる達人であるファッションディレクターの干場義雅氏が考える「格好いい」男の装いとは。
10月末で「クールビズ」の期間も終わり、ビジネスマンも本格的に秋冬の装いに変わる季節になりました。今シーズンのお薦めのファッションは何かありますか。
干場:まず一言申し上げてもよろしいでしょうか。そもそも大事なことは何かというと、それは仕事ができるということです。仕事ができるように見せるという、見せかけのファッションは必要ないと僕は考えています。まず仕事に対して重きを置くことこそが大前提なんです。
その上で、ビジネスで成功されている人や仕事をきちんとされている人は、相手に対して失礼のないスタイルをしています。相手に対して失礼のないスタイルというのは、同時に信頼感も与えてくれます。仕事において、信頼を得るということが大事なんです。その信頼感が服装にも表れているのではないかと思いますね。
今、秋冬の装いはという質問をいただきましたが、実は、僕は流行が嫌いなんです。なぜなら、流行は「流れて行く」と書く通り、流されて行ってしまうものだからです。よく「今年のトレンドは」とか、「今、何が流行っているのか」と聞かれますが、流行っているものは、必ず流れて行ってしまう。それでは、いつまで経っても、その人のスタイルにはなりません。僕はもう何年もそういう流行のファッションは、お薦めはしていません。
若い頃は、世間を知ることも含めて、流行に流されてもいいかもしれませんが……。年齢を経てきた大人たちにとっては必要ありません。「移り変わる流行よりも、普遍的な美しい物を」「多くの粗悪なものより少しの良い物を」。これが僕の一貫した哲学です。ですので、普遍的で良いものを着ていただきたいと考えています。
「相手に対して失礼のない」というお話しでしたが、これは十人十色ではないのでしょうか。何か共通するものはありますか。
干場:世界で活躍しているビジネスマンたちの装いは基本的に皆さんベースは同じです。それは、基本のネイビーかグレーのスーツです。それ以外はあまりふさわしくない。グローバルベーシックとか、インターナショナルスタンダードという言い方もしますが、世界基準の正しい男のスタイルを身に着けるべきだと思います。
誰もが着ているものだと思いますが、ごく当たり前のネイビーかグレーのスーツをきちんと着ることが大事なんです。
派手な洋服が褒められるのはナンセンス
その人自身、その人の中身が一番大事なのであって、派手に装って洋服が格好いいと褒められるのはナンセンス。それは、洋服が褒められているのであって、中身が褒められることではありません。ですので、まずは中身を磨くこと。そして、その中身をよく見せるために、世界で通用するようなベーシックなスタイルをいろんな方々にお薦めしています。
僕は、株式会社「スタイルクリニック」を立ち上げ、スタイルをクリニックするという仕事をしています。その人の中身を引き出すようなファッションスタイルをコーディネイトする仕事です。人を素敵に変身させることは僕のライフワークでもあります。先日のスタイルクリニックでは、37歳の若手社長さんが僕にコーディネイトを一任してくれました。あなたにとって、なぜこれが必要なのか。それを組み合わせることで10年、20年と着られるようになるか、というお話をしてビームスFというお店で、150万円近くの洋服を購入していただきました。
その人自身をよく知るというプロセスがあるのですか。
干場:お食事をご一緒して、きちんとその方の人となりなどのお話を伺いました。その人の目の色やまゆ毛の形や髪型を見るだけでなく、仕事へのモチベーションなどもすべてお聞きしました。洋服で大事なのはバランスなんですね。すべてのバランスを把握して、ご提案しています。
依頼した人の好みもあると思うのですが。
干場:好みは一応伺いますが……。ほとんど反映されません。なぜなら、その人の好みが大事なのではなく、世界で通用するスタイルであることが大切であると考えているからです。ですので、こちらが一番状態の良いものを提供します。
いろいろとお話を聞く中でイメージができてくるのですか。
干場:僕は、人を見ると一瞬でその人がどのようにしたら素敵になるかが分かります。それは、男性だけでなく、女性もです。こういう仕事を何十年もしてきましたので。あとはやはり、私の父まで3代続けてテーラーという環境で育ったことと、編集者として数々の男性誌を編集し、海外取材も豊富に経験しましたから、良い物なのか? 世界で通用するのか? 見ればすぐに分かってしまうんです(笑)。 良い生地なのか、その人に似合っているのか、経験値で判断できます。
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