東京奇文

前に紹介した、「日本はなぜ諍いの多い国になったのか」を読んだ。
それによると、どうも私は、「ひきこもりの優等生」だったようだ。
本当は、本文から引用しつつ書きたいのだが、ちょっとその手間をかけている暇もないので、というか、まとめきれていないので、思いつくまま書いてみたい。
なお、元ネタはあくまでこの本であり、自分で考え出した論理ではないということを添えておきます。

私がひきこもるようになったのは、高校１年のときからだ。
それから大学卒業まで、あるいは未だに、ひきこもり続けているかもしれない。
と言っても、家から一歩も出ないというわけではなく、学校も行くしバイトも行くし、飲みにも行く。
齋藤環の本を読んだことがないのでなんとも言えないが、社会的ひきこもり、というものであろうと思う。

「日本はなぜ～」によると、ひきこもる人の中には、「優等生」も多いそうだ。
優等生というのは、絶対的に勉強ができる者だけを指すのではなく、良い成績を取ることを目標として、現在を犠牲にする者を指す。
私も、実はずっと優等生だった。
小学生のときから成績は上位で、塾へ行かなくても学校の勉強ではそれほど苦労しなかった。
だがやはり、成績が落ちるということに大変な恐怖を抱いていた。
高校生になるとそれは一層強くなり、中間・期末テストや模試などで、上位組から落ちただけで、ずいぶんとショックを受けていたものだった。
ただ、優等生には大きく分けて２種類いる。
ひきこもる優等生とひきこもらない優等生だ。
その違いはどこで生ずるかというと、人生や人間関係に疑問を持つか持たないか、つまり、きまじめさや潔癖さの度合いの違いから生ずるのだという。
きまじめさや潔癖さによって、自分の人生や周囲の人間に疑問を持ってしまうと、ひきこもる可能性大である。
無論私は前者である。
疑問だらけだったから、ひきこもらざるを得なかった。
別にいじめられたわけでもない。
笑いが取れないわけでもない。
ただ、疑問があったから、ひきこもるしかなかった。
そんな疑問を抱えていたからなのか、不良に対して親近感を覚えていた。
中学から付き合いのあった不良たちと一緒に、万引きしたり、タバコ吸ったり、居酒屋に行ったりしていたのは、そこが、疑問を持っていても受け入れてくれる、居心地のいい場所だったからではないかとおもう。
禁止されていることをわざわざやるということ自体にも楽しさはあったが、それよりなにより、そこにいることが楽しかったのだ。
本書によると、不良と呼ばれる「落ちこぼれ」と、優等生と呼ばれる「ひきこもり」は、自尊心や自己肯定感の欠如という同じメンタリティを持っているのだそうである。

私は以前、優等生になりたかったと書いたが、それは後者の優等生である。
みんなと仲良く打ち溶け合って生きていける、そんな優等生。
青春という言葉が似合いすぎるほど似合うような生き方ができる、そんな優等生。
疑問を抱えていない優等生。
私はそれになりたかった。
そんな優等生が、まぶしくてしょうがなかった。

しかし、私は疑問を持ってしまったのだ。
勝手に涌いてくるのだから困ってしまう。
周囲の人と友達になりたくてしょうがないのに、同時に激しく憎んでいた。
青春どころではない。
このアンビヴァレンスに、まったく太刀打ちできなかったのだ。

しかしこれは、全然アンビヴァレントなものではなかった。
私が憎かったのは個々人ではなくて、そこにある「人間関係のありよう」であったのだとおもう。
私の抱いていた疑問というのは、周囲の人間の「関係のありよう」であった。

その関係というのが、本書にいう「キャラ的人間関係」である。
脆く儚い友人同士の関係を守るために、相互にキャラ設定をし、その枠組から逸脱しないよう必死になる。
個々に設定されたキャラを全うすることによって、関係は守られる。
もし逸脱すれば、即座に「はぶられる」。
私は、彼らの愛想笑いが殺してやりたくなるほど憎かったが、それはつまり、必死にならなければ維持できない関係そのものに対する憎しみであったのではないかとおもう。

うぜえ、俺にキャラ設定するんじゃねえ。

私の思いは、こういうことだったのかもしれない。
キャラ設定されるくらいなら、関係に組み込まれないほうがよっぽどマシ、ということであろう。
働いたら負け、という発想に極めて近い。仲良くなったら負け、みたいな。
だいたい私は、ほぼ１００％「イジられキャラ」あるいは「お笑いキャラ」になるに決まっている。
嫌なのだ、そういう一面的なのは。
イジられやすかったり、笑わせようとするのは、キャラじゃなくて、素なんだよこのやろう。
真面目な話だってしたかったんだよ俺は。
どうしようもなく暗い話だってしたいんだよ。

愛想笑いで保たれる関係の中では、暗い話はご法度である。
暗い顔も、暗い声も、全部禁止である。
障害者としての暗さも、出してはいけない。
右手でオナニーできないのがつらいんだよねえ、って、それくらいで引くなこのやろう（というか、引かせるためにわざわざそんなこと言ってるんだけど）。

そんな関係、くだらないのである。
当時は、彼ら彼女ら自身が極めて不誠実に思えていたが、憎むべきは、関係そのものなのだ。
私はどん底のような話が大好きである。
心の暗黒面大好物である。
暗黒面があるから楽しさが際立つわけだし、ましてや笑いは心の暗黒面を土台として成り立っている。
私が下ネタを言ったり、死ねだのクソッタレだのあえて言うのは、そちらの方がよほど自分の心に誠実だと思うからである。
クソがクソと言って何が悪い。
おまんこと言って何が悪い。
俺をそんな目で見るな。

ううう、ちくしょう、言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンて、そりゃ反町も歌うわ。