図書館委託業務を受託する民間業者の内情と実態-図書館運営ノウハウは、ウソ八百で虚業そのもの

 昨年は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理運営するツタヤ図書館、すなわち、武雄市立図書館と海老名市立図書館の選書問題を発端に図書館の外部委託・指定者管理制度について、多くのニュースや議論がネット上を賑わせました。昨年に限らず、何年も前から公共・大学図書館の外部委託の是非に関する議論は活発に行われています。
 しかし、受託する民間企業についての詳細な情報については、ほとんど見かけません。これは、実際に会社組織にいた者でなければ、真実はわからないものであり、深い闇の中にあります。今回は、かつて私自身が見てきたことや経験したこと、知人や元同僚からヒアリングした事実を統合して書きたいと思います。

●運営ノウハウや実績がゼロからでも始められる業界
 どの業者も、自ら図書館を所有しているわけではないのだから、最初から「ノウハウがあります」と言っていること事態がおかしなことだ。10年以上、相当数の図書館業務を受託し続けて、ようやくアピールができるのではないだろうか。そんな業者は微々たる数しかない。いや、その微々たる業者ですら本当のところ怪しい。
 ここ10年で、図書館業界に参入している会社は増加した。皆、「ど素人」ばかりである。初期投資が少なく済み、審査などないから、業界への参入障壁が極めて低い。そのせいか、畑違いの業界からの参入が多くなった。委託側は、これまでの営業的な付き合い、書類やプレゼン、入札価格などの方法で契約可否の判断をするので、業者の社内に立ち入ってチェックすることはしない。基本的に性善説が前提になっている。契約が裏では出来レースになっていることすらある。ノウハウや実績がなくても、安い賃金で経験豊富な労働者を雇うことで成り立つ愚行ビジネスである。
 だが、契約書や会社ホームページに書かれている実績や能力は、誇大な表現や事実と矛盾する内容も含まれていることが多い。専門スタッフが不足しているのに、経験豊富なスタッフが多数と書かれていたり、多くの受託実績が書かれていても、実際は全て数カ月程度の契約で終わったもの、充実した研修制度があると求人に書いてあるのに実施していない、等々。他にも挙げたら枚挙にいとまがない。実績がゼロなら、ウソの実績を書く業者もある。信じられないと思うが、本当なのである。委託側が、いちいちそこまで事実確認などしないから、やりたい放題である。
 本当のところ、業者のレベルはピンからキリまである。ピンの業者は、それなりに契約を獲得できる手腕があり、安定的に契約を取れるが、キリの業者は、入札価格だけで決まる案件に目を付け、尋常ではない低価格で勝負する。新規参入業者の中には、自ら契約を獲得できる実力と実績がないので、大手で経験豊富な紀伊國屋書店や丸善と提携することで生き延びていく選択をしている業者もある。

●社員研修をせず、有能な人材を非正規雇用で安く使い回す異常な業界
 業者が抱えるスタッフの多くは、非正規雇用の社員である。図書館との折衝やスタッフ管理をするリーダークラスでも、契約社員のケースが多い。スタッフのレベルはまちまちだが、経験者は過去に公共・大学・専門図書館などで直接雇用された者も多く、閲覧、レファレンス、目録等の専門性の高い業務経験を積んでいる。会社は、そうした人たちであれば、即戦力で研修する手間がなく好都合だ。他方、未経験者や経験が浅いスタッフに対しては、当然、業務に関する研修をしなければならない。だが、研修ノウハウや予算がなく、全く行っていない業者も多い。
 そこで、OJTという職場で実務をさせながら研修の代替とする手法を使う。要は現場丸投げである。本来は、研修体制を整えていなければいけないはずである。研修ができないと言うことは、未経験者は採用しにくい環境となる。そうなると、即戦力となる経験者を募集するのだが、簡単には集まらない。以前は、待遇よりも図書館で働ければ良いという、やりがいで応募する者も多かったが、自らの経験や情報が入手しやすい環境になったことで、飲食業界同様に人材が集まりにくくなっている。特に経験者にその傾向がみられる。
 そこには、採用されても厳しい現実問題があるからだ。10年以上の経験者で知識が豊富だったり、語学やIT能力に極めて優れているような即戦力人材でも、非正規雇用で雇われ続け、正規雇用への道も簡単に開かれないということである。契約期間は、3ヶ月、6ヶ月、1年といった短期契約を繰り返す形態である。これは、仕事が切れた場合の会社側のリストラ対策である。求められるスキルは、それなりに高い要求も多く、給料とスキルがマッチしないケースなんて、ざらに存在する。
 裏を返せば、能力のある人材に対しても、まともな給料や安定した雇用を提供できないビジネスなのだ。本当は有能な人材を多く確保できることがキーポイントなのだが、その実現には程遠い。

●契約が締結されてから、慌ててスタッフの確保に走る自転車操業
 ホームページに経験豊富なスタッフ多数と書かれていたら、ウソだと思った方がいい。業務の幅が利くスタッフを、いつでも社内に常駐させている業者はないだろう。どの業者も人材不足である。どちらかというと、応募してくるのは未経験者の方が多い。だが、経験者しかできない業務だったり、研修できる体制がないならば、お断りするしかなくなる。
 業界の幅を利かせている、図書館流通センター(TRC)、丸善、キャリアパワー、日本アスペクトコア、ナカバヤシ/ウーマンスタッフなどは、それなりの受託契約数を確保しているが、求人募集ページを見てみると、同じ求人案件がいつまでも掲載されていたり、繰り返し掲載される求人が多数ある。これは人材が「集まらない/集められていない」証拠である。
 こうなると、スキル不足や経験の浅いスタッフに担当させるしかなくなる。しかし、いればまだマシだ。ひどい例だと、カウンタースタッフが集まらず、営業の正社員が担当したケースを見たことがある。当然、経験や知識がないので現場は混乱し、図書館側は難色を示した。もっとひどい例だと、契約そのものを破棄した事例もある。

●図書館の仕事に興味のない営業担当者
 会社と現場の間に溝ができるケースも多い。営業担当者は総合職の正社員で採用されているので、当然、専門知識はない。これは仕方ないことである。任務としては、図書館との交渉・折衝、スタッフの総合的な管理、問題発生時の対応などである。だが、図書館の仕事に興味・関心がない担当者が結構多い。こうなると、できるだけ面倒なことは避け、必要最低限の対応しかしなくなる。それすらしない者もいる。現場からの電話に応じなかったり、さっさと転職や自己都合退職した者も何人か見た。会社組織そのものや責任的立場にある者に図書館の知識がなく、対応や学習さえしない不思議な業界である。

●図書館ビジネスは、利益を出しにくい薄利なジリ貧ビジネス : 参入する本当の目的は本業の促進と補填である
 今の時代、書店、取次、図書館事務用品販売業、製本業は崖っぷちの状態である。本業の業績が低調で、新たなビジネスモデルを構築しなくてはならない厳しい内情がある。そこで、図書館の仕事を受託することで、書籍や雑誌、事務用品、製本などを売り込むための手段としてのきっかけと相乗効果を狙っている。営業的な繋がりを強化したい思惑だ。利用者のための図書館運営の一端を担うことは、二の次なのだ。民間企業が住民や教員・学生のために利益も出せない業務に汗を流すなんてありえないだろう。

●図書館業務を請け負う民間業者は虚業である
・プロの集団ではない
・受託できるレベルに達していない素人業者が多い
・利益を多く出すために、器量を超える業務を請け負う傾向がある
・社員スタッフのレベルはバラバラ
・研修などしていない。していても、浅い内容である。
・人材確保に苦労している
・HPや図書館総合展で自画自賛的に宣伝していても、現実は運営が上手くいっていないことも多々ある。

委託や指定管理者制度は、他人に業務を任せるわけである。そこには、見えにくい背景や実情が多くある。そして、業者にとっての図書館もまた他人である。利益が出なければ撤退するだけである。委託や指定管理者制度は直営よりも難しい面が多く、リスクも大きいのだ。今後の動向を、これからも注視していきたいと思う。

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