ゆゆ式が終わる140字
ゆゆ式をテーマにした1行小説をたくさん書いた。それももう終わる。
「ゆゆ式の最終回が来るぞーッ!」「「Yahhh!!!」」指揮官の雄叫びに兵士たちが唱和する。鍛え抜いた筋骨を誇る男どもが整然と隊列を組み替えていく。地平にどうと土煙が上がり——「火曜日」だ——こちらに突っ込んでくる。「対衝撃姿勢…『せーのっ!』」「「Hurraaahhh!!」」
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
辞典の【数学者】の項から抜け出してきたような男だった。ちびた鉛筆を握って書斎机にかじりつく蓬髪。その背に問う。「ゆゆ式は終わるのですか」。振り向いた眼光は鉛筆に似ず鋭く尖っていた。「終わる。だが終わらんよ。ゆゆ式は公式(フォーミュラ)だ。公式は感染する。私にも、君にも、否応なく」
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
古道具屋の主人と知り合った。店に並ぶ骨董とよく似てうさん臭く古ぼけた風貌の老人だった。「おすすめがあるんだ」。ひしゃげた笑顔で店の奥まった場所に手招きする。《ゆゆ式の壷》、値札にはそうあった。「これは…何か由緒が?」「ない」「誰が買うんです?」「さあね」俺は札束を取り出していた。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
なぜ洞窟の中を進んでいるのか、もう覚えていない。空気はジトリと湿り冷たい泥を思わせる。光はとうにない。膿を吐いたような壁に触れながら手探りで歩いてゆく。あるいはすでに泥の底かもしれなかった。「……ゆゆ式、……ゆゆ式」自分が何事か呟いているのに気づく。ゆゆ式。それは何だっただろう。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「みんな手を合わせていくんだけどね、ここに眠ってなんかないよ。ほら、そんな歌あったでしょ」。墓地の管理人は笑い、歳のわりに豊かな白髪を撫でつける。風が強かった。《ゆゆ式の墓》と呼ばれる石碑の前。あれはなんという歌詞だったか。『千の風になって、あの大きな空を吹きわたっています』——
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
砂塵うずまく荒野をトレーラーの編隊がごうと駆けていく。《ゆゆ式》と刻まれたコンテナの中身を俺はキャラバンの隊長に問う。答えはNO。「中身を知って得があるか?俺たちゃただ荷を運べばいいのさ」。その通りだ。アジア人の考えることは分からん。蛍光色のカートゥーン女に色ボケしてるんだろう。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「ゆゆ式ねえ。外の人はみんな珍しがるがね。ありゃ人を狂わせる。酒も博奕も女もやめて金をつぎこむ奴が跡を絶たん」。老人は渋面を作って煙草を吹かした。ああ、ゆゆ式も女か。苦笑して彼は立ち上がる。「ごっそさん、うまかったよ。10年ぶりに吸った」。元愛煙家は、ゆゆ式全巻を握り締めていた。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
オペレータはそれが悪戯電話だと思った。『ゆゆ式が終わるんです』。911へのコールはひどく慌てているのが常だが、その声は冷静だった。「『ゆゆ式』?何が終わるんですって?」。通話は途切れた。その日、17の州で同様の通報が計213件確認された。通報者たちの消息は一人として掴めていない。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
ついと突かれた香車は、控えめに言っても定跡を知らないかのようだった。否、棋聖の位は伊達で座れるものではない。しかし——。考えあぐねる挑戦者は、ついにその顔を上げることのないまま敗北した。打ち負かした棋聖は後にこう語った。「あれは『ゆゆ式』です。唯ちゃんなんですよ。ツッコミのね。」
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
例年にない厳冬をうけて、卒業式の空にもまだ雪が舞っていた。「桜吹雪だったらね」「雪のがレアだよ」そう笑い合う。この子はどこの大学へ行くんだろう。知っていて当然のそれを、なぜか聞けないままだった。「じゃあ、またね」「またね」あてのない再会の約束を交わす。またここで、ゆゆ式を見よう。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「秋になりますとね、ここいら一帯にばあっと花が咲きましてね。ほんに綺麗なんです」今はただ緑が広がる草原を眺めて女将は言う。「私らは『ゆゆ式の日』と呼んどります。ええ、ほんに綺麗で…夢のようと言う人もおります」黄色、桃色、青紫の花々を私は思い浮かべる。それはどこか懐しい心象だった。
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「これは何?」エランは『ゆゆ式』と書かれた円盤を示した。「ブルーレイ。爺さん世代が使ってた記録媒体」「これにデータが?人間て器用だね」「αケンタウリにはなかったの?」「ないない。百万光年前のジジイでも使わないよ」エラン——光学的知性体はスペクトルを歪めた。自分の冗談に笑ったのだ。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「親父、あのさ、小遣い前借りさせてくれ」その声はどこか普段と違った。息子に甘い妻に代わり、駄賃は私が管理している。前借りは無しと決めたはずだ。「どうして必要なんだ?」「…式。」「何?」「…ゆゆ式!買うんだよ!」。そうか。彼は「男」の声になっていたのだ。「分かった。好きなだけ買え」
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「はあ?ゆゆ式が終わる?そんなはずがないだろう」デイヴィッドは嘲笑する。「いいぜ。賭けてもいい。もし終わったら逆立ちしてチャプスイを食いながらチャイナタウンを一周してやるよ」翌日、チャイナタウンの入口から100フィートかそこらで、あんかけまみれに倒れ伏すデイヴィッドの姿があった。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
サーシャの白い手のひらの上で、小さな手巻きオルゴールがさえずっている。「すてきなメロディだね。それは何だい?」「『せーのっ!』。イポーニャのアニメの曲よ。『ゆゆ式』の」サーシャの目がきらりきらりと輝く。長く厳しい冬の底に閉じ込められたモスクワに、春の風が吹き抜けたような気がした。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
ノートの表紙には『ゆゆ式』と書かれていた。意味も読み方も分からない。中身は私にも読める改略簡体字で記された複写コミックようだ。他愛もない会話を繰り広げる少女たち。一時は栄華を極め、あらゆる文化資産を内に抱えたまま消滅した拡大中華連邦。そのささやかな遺産に、私は興味を引かれていた。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「『ゆゆ式』を何と読むか分かるか?」ユエンはしばし考え、「『のの式』じゃあないかな。『の』は『的』の略字だ。じいさんが使ってたのを覚えてる。『の』のセリフ体だよ、こいつは」華僑の遠い末裔であるユエンは自信を見せるが、彼が祖父を持ち出したら話半分に聞くほうがいい。私は曖昧に頷いた。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
ユエンと別れ、私はナショナルライブラリに向かった。拡大中華連邦に関する資料の大半は電子化されておらず、今も原始的な書庫に物理媒体のまま眠っている。運がよければ『ゆゆ式』の原本に出会えるかもしれない。私の市民レベルでは大衆文化レイヤしかアクセスできないが、そこはパトリックに頼ろう。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
これオチないな
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「ああっ…ゆゆ式が終わる!」「落ち着けロイ!この世に終わらない物はない!終わらないのは悪夢だけだ。ゆゆ式は悪夢か?」「…いや」「そうだ。だからゆゆ式は終わる。OK?」「OK、OK兄貴…もう大丈夫だ…」 兄貴はいつだって正しかった。ゆゆ式の終わった世界は悪夢だ。悪夢は終わらない。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「ねえトム、あんたが最近お熱の…ゆゆ式?って、何だったわけ?」「何もない日常が幸せってこと」「変なの。ま…こんなサイテーな状況よりは何もないほうがマシね」…バリケードは崩れかけ。《発症者》どもの唸りは間近。気づいてるかいサラ、君はさっき過去形を使ったよ。僕らはここで終わるのかな…
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「ゆゆ式はねえ、いつか必ず終わるんだよ」祖母はいつも僕に言い聞かせていた。彼女が死の床にあるときでさえ。当時は聞き流していたけれど…今なら分かる。1クールのアニメは予定通り終わるのだと。余命3ヶ月と宣告された祖母の、終わりを定められた最後の生も、ゆゆ式のように輝いていただろうか?
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「エジプト人は何故聖刻文字を作ったか分かるかい?」「いいえ」「思うに彼らは…言葉の死を拒否したかったのさ。口から零れた言葉は消える。だが書き留めれば永遠だ」「ロマンチック。ねえ、この文は何と?」「『ゆゆ式は終わる』だ」「ふふ…言葉は生き残っても、終わったものは戻ってこないのよね」
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
午後7時の空は橙から群青へ継ぎ目なく色づいている。中天にぽつりと浮かぶ宵の明星は、3ヶ月前から目新しい友を引き連れていた。その彗星《ゆゆ式が終わる》は、今夜地球の公転軌道を交差し、北半球を吹き飛ばす。《ゆゆ式が終わる》。いい名だと思った。四半期の間の尊さに満ちた日常。そして終焉。
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「ゆゆ式は終わる。けれど終わらない」「なんだそりゃ。禅か?それともあれだ、『ニンジャの心得その1。《聴かずして聞け、視ずして見よ》』…」「茶化すなよボビー」「茶化しもするさ。たかがアニメの最終回だ、くだらない」「ああ。日常はくだらない出来事の積み重ねさ。でも俺はその上に立ってる」
— 終わるゆゆ式マン (@uasi)
「きりーつ」「これでゆゆ式を終わります」「礼っ」「ありがとうございました」「ありがとうございました」
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Notes
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