メディアを使った大学企画広報、効果的な事例!

元Web広報プロデューサーだったマイスターです。

マイスターは「広報」「PR」の担当が一番多かったのですが、実際には販売促進のための宣伝やら、イベント企画やら、プロモーション企画やら、色々とやってました。

それゆえ、大学の宣伝の仕方というのを、ついつい見てしまいます。
うまいなぁと感心する学校もあるし、
あぁ、もったいないお金の使い方してるなぁ、と悲しくなることも。

下手だなぁと思うのは、
「すっごくきちんとパンフやポスターを作っている大学」
に多いです。
文章を読むと、とてもいいことが書いてあるんだけど、
これじゃ誰も文章を全部読まないだろうなぁ、というケースですね。

広告やPRというのはあず、「どれどれ、ちょっと見てみようかな、読んでみようかな」といかにして思わせるかにかかっています。

勝負の7割、8割くらいは、ここです。だって、どんなにいいことが書いてあっても、読んでくれなければ話になりませんからね。
ですからプロの広報担当者は、どうやったら読んでくれるか、どうやったら見てくれるかを考えて戦略を考えるのです。

一方、マイスターが「もったいないなぁ」と思う大学広報は、たいてい、

「こんなに良いことが書いてあるんだから、きっとみんな興味を持つだろう」
「本学に興味を持ってくれる人は、全文、精読してくれるだろう」
「受験生なら、とりあえずは見てくれるだろう」

という発想で広報活動を行っています。
それは実際のブツを見れば、一目瞭然、すぐわかります。
良くも悪くも、「広報の内容」に7割、8割くらいの意識を向けているのです。

<世の中で、自分たちに関心を抱いている人間なんて、皆無なんだ。>

というくらいの冷めた意識が、本来、広報・PR担当者には不可欠なのですが、何十年も同じ組織にどっぷり浸かっている方や、愛校心のある方、市場の本音より業界関係者の意見を重視する方などには、なかなか難しいのかも知れません。
あまりうまくない大学が、とても多いです。

その結果、関係者だけが自己満足して終わる、何の効果もないメディアプランが実行されます。
どんな学校でも、貴重な学費をドブに捨てるような行為を行っているのを見ると、マイスターは悲しくなります。

教育の内容については、熱心に立派なことを語る方が多いのに、こんな形で学費が浪費されているのには、わりとみんな無関心。
教育産業の発展に生涯を捧げようと思って転職してきたマイスターには、解せません。

「じゃあ、効果的な広報やPRってどんなのよ?」

と、みなさまは当然思われることでしょう。

そこで今日は、「これはうまいな」とマイスターが思った、大学の広報・PR事例をご紹介しましょう。

その前に、ちょっとだけ基礎知識を…。

お金を使わずに、雑誌やTVなどのメディアに記事を取り上げてもらうことを、
「パブリシティ(publicity)」といいます。

会社情報や商品情報を、メディアの記事にしてもらう行為のことです。
会社がお金を払って出す広告宣伝と違って、これは無料です。
あくまで「記事」ですから、企業が一方的に流す広告と違って、読み手にとっては信頼性がありますよね。
メディアの側としても、読者が興味を持つものなら、どんなものでも取り上げたいわけです。

apple社がiPodの新作を出せば、雑誌やwebメディアは無条件で取り上げるでしょう。
機能だけでなく、そのデザインから操作感まで、詳細に世の中に解説してくれることでしょう。
appleが頼んでなくても、1ドルも宣伝費を払ってなくても、です。世の中のみなが、iPodに関心を持っているから、メディアはこぞって取り上げるし、appleは必要最低限の宣伝費でiPodの詳細を世の中に広められるのです。
これが、パブリシティです。

もっとわかりやすい例が、テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』の中のコーナー、『トレたま』ですね。

・「トレンドたまご:2006年1月17日放送内容」(テレビ東京)
http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/2006/01/17/toretama/tt.html

取り上げてもらうのは無料なのに、取り上げてもらうと大変な宣伝効果。
これこそ、パブリシティの極みです。

週刊『AERA』でちょっと前まで連載されていた、「面倒見の良い大学」特集も、パブリシティの一種と言えるかも知れません。

パブリシティの良いところは、「無料」だということですが、それ以上に、

「読者が、広告と思わずに、関心を持って読んでしまう」

という点が大きいです。
広告だと、長文なんてあっさり読み飛ばしてしまっても、パブリシティ記事だと、気づいたら見開き2ページくらい読み切ってしまったりしますからね。
しかも、「読まされている」わけではありませんから、内容も結構覚えていたりします。

ですから企業は、みんなパブリシティが欲しくてたまらないのです。
だから、新製品を発売するたびに、各メディアに熱心にプレスリリースを打つわけです。
かつては、パブリシティを得るため、雑誌の編集者やテレビのプロデューサーを豪華接待責めにするなんて話も多かったようですが、今はもうちょっとカシコイ方法があります。

それが、今回ご紹介する、早稲田大学と立教大学のサイトです。

【教育関連ニュース】——————————————–

■「WASEDA.COM on Asahi.com」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/ad/clients/waseda/index.html
※バナー広告
http://adnet.asahi.com/ad/clients/waseda/topbtn.gif

■「VISION立教大学の改革と挑戦」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/ad/clients/rikkyo/
—————————————————————

特に、早稲田大学のサイトはかなり前から、「Asahi.com」のトップページにリンクバナーが張られていますので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

URL内のドメインを見てもおわかりの通り、これらのサイトは、朝日新聞webサイト「Asahi.com」内に作られた、れっきとした新聞記事です。

しかし、同時に、れっきとした有料広告です。

「記事風広告」なのか、「広告風記事」なのか混乱してしまいそうですね。

広告用語でこれを「ペイドパブ(paid publicity)」と言います。

ペイドパブとは、その名の通り「お金を支払って、パブリシティ風広告を作ってもらう」というもので、90年代ころから、よく使われるようになってきた手法です。

今回ご紹介した、早稲田大学と立教大学のサイトは典型的な「ペイド・パブ」で、Asahi.comに対しては広告費が支払われています。
その証拠に、よく見るといずれも、ページの左上に「広告特集 企画 朝日新聞社広告局」と書かれているのがわかりますね。
これが、「このページは記事じゃないよ、広告だよ」という注意書きの役割を果たしています。
純粋な記事である、パブリシティとは違うのです。

でも、あんまり、宣伝のにおいがしないでしょ?
両サイトとも、大学の受験生募集宣伝というよりは、

「読者の関心のある記事を書く」

という姿勢でコンテンツを作っていますよね。
一見遠回りに思えるこの姿勢こそ、結果としてはもっとも効果的なPR。
なぜなら、実際に読まれる確率が高いからです。

関心を持って多くの人に広告を読んでもらえたら、そりゃ成功しますよね。
ペイドパブは、そういうパブリシティのいいところを有料で販売するという、なんとも頭のいい手法であるわけです。

マイスターは、特に、いつも早稲田大学の事例に感心しています。

Asahi.comのトップページには、かならず、上記サイトへのバナーリンクが貼ってあります。

「○○学部 ○○教授からの提言
 『○○を○○せよ!』」

といったメッセージが入っているのですが、これが「今週のオピニオン」コーナーのタイトルと連動して、頻繁に更新されるのです。

これは、ついクリックしてしまいます!
読者は、広告ではなく、Asahi.comの記事と同じ意識で、この「オピニオン」を読みに来るわけです。

で、記事に満足し、早稲田の教員陣の見識の高さを覚えて帰るわけです。
あわよくば、他のコンテンツも見てくれるかも知れません。
サイト全体が、良くできた雑誌のような構成で、いずれの記事も、読む人の関心を引くような見出しが付けられていますしね。

さらにうまいと思うのは、

「社会人に早稲田を知ってもらおう」

という意図が、はっきりしていることです。

大学院の潜在的な顧客である、2~30代の社会人、
高校生の親、
早稲田OB、

などなど、このサイトのメインターゲットは、明らかに「社会人」です。
それも、「ある程度の教養レベルがあり、世の中の情報に対して常に知性のアンテナを張っているような大人」です。

このサイト、高校生が見ることは、あんまり想定していないつくりです。
しかし、多くの大学が、高校生を相手にしようとして、でも結局若者の関心に沿ったPRを行えていないのです。
なんでもかんでもアピールしようとして、結局、誰にとっても面白くない広報をしてしまっているのです(実際、高校生はAsahi.comを普段からそんなに見に来ないと思いますし)。

そんな中で、早稲田大学のこのターゲット絞り込みは、うまいです。
目標を絞った結果、少なくとも社会人にとっては、非常に魅力があるサイトになっていると思います。

毎週、こうした情報に触れていてご覧なさい。
大学院進学をちょっと考えているような方なら、自然と「早稲田よさそうだな」というイメージがわきます。多分。
知的レベルの高い親は、「我が子にも、こんな知的刺激を受けられる大学に進学して欲しいなぁ」と思うことでしょう。
ただでさえ愛校心の強い早稲田OBの皆様は、母校の活発な姿勢をAsahi.comで毎週のようにチェックし、いっそう大学を愛してしまうことでしょう。

じっくりと社会人を囲い込んでいくという点で、このサイトは、非常に効果的ではないでしょうか。

Asahi.comは、こうしたペイドパブ営業を積極的に展開しているようで、様々な特集を組んでは、それを広告枠として売っているみたいです。

—————————————————————–

■「広告特集:特色・現代GP特集」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/ad/clients/gptokusyu/

■「広告特集:新設大学特集」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/ad/clients/shinsetsu/

■「広告特集:社会人のための大学院・専門職大学院特集」(Asahi.com)
http://www.asahi.com/ad/clients/daigakuin2005/school/special03.html

■「知的創造社会に向き合う大学院(企画特集)」(MSN 毎日インタラクティブ)
http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/it/etc/kanazawa-it/01.html
—————————————————————–

紙面と違って、webの場合、紙面に限界がありませんからね。
どんどん展開させていけます。

そろそろ長くなってきたので、この辺にしておきますね。

「大学が発信する内容って、本当に読んでもらえているのかな?」
とお悩みの大学さんは、こうしたペイドパブを活用されるのも一つの手かなと思います。

Asahi.comはwebメディアですが、紙媒体などでもペイドパブはできます。
週刊『AERA』では、同志社大学がかなり前からペイドパブPRを出していますが、そうしたものも参考になるかと思います。

Asahi.comなどの大手メディアですと、お値段もかなりになると思いますが、
うまく使えば、効果のないポスターや看板にウン十万、ウン百万を払うより、
コストパフォーマンスは高くできるはずです。
webメディアの場合、アクセス解析で、効果測定もばっちり。
「この部分は読者にわかりにくいみたいだから、来週からは少し表現を直そう」なんてトライ&エラーも、比較的容易です。
ページから直接、ユーザーを大学公式サイトや、資料請求フォームに連れてこれるなどの点でも、戦略的に運営するのには向いています。

マイスターは、まずはwebで試されることをオススメします。
比較的安く出稿できるサイトもあると思いますから、各社に問い合わせてみるといいと思います。
一度、あなたの学校でも、やってみてはいかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

1 個のコメント

  • いつも楽しみに拝読させていただいております。
    私学の動きは大変機動的で斬新なのには驚かされます。
    経営マインドを持って広報戦略を如何に練っていくか、
    これからの国立大学にも大変重要な視点であると、
    大いに勉強になりました。
    しかし、この戦略も、先手必勝ですね。
    他大学が追従する頃には、また別のことをやるのでしょうね。
    その先を行く必要がありそうです。