いろんなニュースサイトで話題になっている「コミケに地域通貨を導入する」の原文をノーカットで掲載します。
『なんでコンテンツにカネを払うのさ?』(阪急コミュニケーションズ)のP145~154に掲載されている対談の、チェック前原文ですので、てにおはなど一部読みにくいのはご容赦を。
ここに掲載した原文と、ニュースサイト記事を比較するのも一興です。
コミケに地域通貨を導入する
<本文>
岡田 僕の理想というか、「ここしかないんじゃないの?」という落としどころは、「現状の著作権という仕組みがもう無理」ということなんですよ。コンテンツからお金を取ろうというのはどだい無理な話なんだから。コンテンツは自由に流通させて、人気があるコンテンツには勝手にお金が行く仕組みがあればいいし、たぶんいずれはできるでしょう。
だけど、その仕組みができるまでの過渡期は、クリエイターがあまりにもかわいそうだから著作権を使おう。それが僕のスタンスです。
そのためには、「コンテンツマネー」みたいなものがあるといいのかもしれない。何かのコンテンツを買う時にはこのマネーを使って、支払の一部が供託金として保持されて著作権者に分配されるとか、そういう仕組みです。これでないと、立ちゆかない気がする。
福井 うん、そうですね。
岡田 例えば、福井先生が中心になって、コミケで実験的にお金の預かり団体を作ったら絶対面白いですよ。コミケ内で使える地域通貨にして、コミケの売上の5%はそこに供託されるようにするんです。で、同意した作家にはこの通貨で支払われると。こうすれば、二次創作やパロディをもっと自由に行えるようになるでしょう。
福井 それは面白い!……けど、何で私が中心なんですか?(笑) 岡田さんが中心じゃないの!?
岡田 僕はこういうことを考えて外注するのが仕事です(笑)。あと、この仕組みがあると資金を蓄えられるから、政治家も何人か雇えるかもしれません。
福井 恥ずかしながら、私は二次創作などについても発言しているのにまだコミケに行ったことがないんですよ。
岡田 じゃあ、今度いっしょに行きましょう。僕はブースを出して、本も売りますし。コミケの当日にしか使えない通貨があったら面白いですよ。
福井 ぜひ案内をお願いします。コミケ限定通貨は「あり」だと思いますね。出版社の人も基本的にコミケは大目に見ていますが、あれはコミケの機能を理解した上でやっていることでしょう。出版業界でも、きちんと仕組みがわかっている人は、コミケのことを悪く言いません。コミュニティとしての側面もありますしね。
岡田 ただし、コミケはまだコミュニティ内の信用をベースにした「信用社会」です。客観的な信頼が成り立つ「信頼社会」になるためには、地域通貨の導入と著作権をクリアにすることが必須でしょう。
福井 それがないと、他の国にはコミケを輸出できませんね。
岡田 地域通貨の導入について、コミケは他の業界よりも有利だと思います。なぜかというと、普通の業界は、お金を巻き上げることには熱心だけど、お金を取られることに関しては不熱心だから。ところが、コミケに同人誌を出す人は、自分がお金を払ってもいいから、正々堂々とありたいという意志を持っている。この違いは大きいですよ。
福井 ユーザー主導でやるのはよいですね。それに、すでにコンテンツが存在しているマーケットでないと地域通貨は意味がないですから、この点でもコミケにはアドバンテージがあります。
岡田 このコミケ専用通貨は、リアルの紙幣として刷るべきですね。年によって、流行りの作家は違うでしょう。紙幣の肖像、イラストをその年の流行作家が描くようにすればいい。そうなると、コミケで実際に使われる以上の紙幣をみんな持ち帰るだろうから、供託金も増えることになります。
福井 それは面白いですね。
岡田 こうやって集めたお金を原資にすれば、政治活動だってできます。マンガの表現規制にうるさいことをいわない政党に献金するんです。よその国が「非実在青少年(注58)」に対しても表現規制するというのであれば、僕らは日本をガラパゴス化する政策を推してもいいかもしれない。日本はエロに関して寛容な国であることを世界に示そうじゃないですか!
福井 日本には、エロと二次創作の長い歴史がありますからね(笑)。
岡田 ツイッターをやっていて思ったんですが、あれは連歌(注59)ですよ。上の句がツイートされたら、みんな下の句をリツイート(注60)してうまいこと言おうとする。
福井 リツイートが芸術というのは、私も感じますね。ツイッターは140文字でしかつぶやけないから、リツイートする時に元ツイートを編集することがどうしても多くなります。元ツイートの意図を曲げるようなことをしてはいけませんから、法的な根拠という意味では曖昧なんですけど、私は(非公式の)リツイートはやるべきだと思いますね。元発言の意味を曲げずに、うまくつまんでリツイートしていくのは芸術ですよ。自分の発言をリツイートされることもありますけど、「ああ、そう切り取るのか!」と感心させられることも多いですよ。元ツイートからポン、ポン、ポンとリツイートされて、4つ目くらいできれいにオチが付いたりね。
岡田 日本人は何百年もこういうことばかりやってきた、おかしな民族なんですよ(笑)。パロディも得意だし。
―――そういえば、日本鬼子(注61)の事件(イラスト「日本鬼子」入る」)もありましたね。
岡田 ツイッターでもつぶやいたんだけど、あれこそ「たったひとつの冴えたやりかた」です。現代版の最適外交戦略とは、「ヘタリア(注62)」をさらに魅力的なコンテンツにして、世界中に無料・無制限で配信することだと思います。このオタク国防論は真面目な話ですよ。
福井 今日初めて日本鬼子を見たんですが、これは面白いですねえ。
岡田 面白いことに、中国人は日本人が大嫌いなんだけど、日本のコンテンツは大好きなんです。
―――妙な日本愛がありますよね。四川省の遊園地に金ぴかのガンダム[写真「ガンダム1or2」入る]を建ててみたり。それにクレームが付くと、パイプなんかをごちゃごちゃくっつけて別のロボットに仕立てたという。
福井 あれはがんばってましたね(笑)。
―――そうしたら、そのロボットを今度は日本人がかっこよくデザイン[写真「ガンダム3」入る]し直しちゃった。
岡田 ははは、これはかっこいいな!
―――ニコニコ動画では、この「四川ガンダム」のアニメもアップされてましたよ。こういう場合の著作権はいったいどうなるんでしょうね(笑)。
福井 金ぴかガンダムの時点では著作権法的にアウトですが、そのあとのごちゃごちゃしたロボットはガンダムの特徴的な部分を変更していますからセーフでしょう。だから、ここでガンダムとは関係がなくなっています。ごちゃごちゃロボットは誰か中国の人の著作物ということになりますから、勝手にアニメにするのはアウトかな(笑)。でも、アニメやフィギュアを作ったところで、先方が訴えてくるわけはないですからね。
岡田 ふたつの国の国民が、コンテンツを出し合うこんな状況をどないせえちゅうんじゃ、というのはあるね。
―――いわば2国間の共同作業ですね。
岡田 そう国際コラボ、しかもいっさいカネが介在していないという。
金ぴかガンダムの時点では、著作権法違反があるんだけど、あとはただ面白いだけで(笑)。二次創作はやっぱり面白いね。コミケ通貨も、ぜひやりましょう!
福井 私の報酬もコミケ通貨で支払われるんでしょうか?(笑)
岡田 いやあ、コミケ通貨の方がレートは有利かもしれないですよ。コミケが終わったら、その年のコミケ通貨はもう発行されないから、1万コミケ円の価値は1万円よりも価値が上がるでしょう。
福井 コミケ円! もう名前も付いてる(笑)。岡田さんが円天(注63)の教祖に見えてきました。それでもいいやって気もしますけどね。
なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門