2011年01月03日
新聞報道によれば、5都県で元日から2日にかけて、餅を喉に詰まらせ24人が病院に搬送、内10人が亡くなったという。亡くなったのは60~95歳の高齢者ということだ。実際餅にはどの程度のリスクがあるのだろうか?
食べ物による窒息死亡事故のほとんどは高齢者
総務省・全府省 政府統計の総合窓口(e-Stat) 人口動態調査において表「不慮の事故の種類別にみた年齢別死亡数」のうち「その他の不慮の窒息」の「気道閉塞を生じた食物の誤嚥」によるものを抜き出したのが次の表だ。
平成 | 総数 | 0歳 | 1~4歳 | 5~9歳 | 10~14歳 | 15~29歳 | 30~44歳 | 45~64歳 | 65~79歳 | 80歳~ | 不詳 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9年 | 3,669 | 35 | 15 | 6 | 1 | 23 | 62 | 510 | 1,228 | 1,786 | 3 |
10年 | 3,956 | 40 | 10 | 6 | 3 | 18 | 68 | 537 | 1,332 | 1,942 | - |
11年 | 4,081 | 29 | 7 | 3 | 4 | 15 | 67 | 559 | 1,417 | 1,979 | 1 |
12年 | 3,985 | 31 | 14 | 6 | 4 | 16 | 59 | 534 | 1,353 | 1,967 | 1 |
13年 | 4,223 | 26 | 8 | - | 2 | 18 | 58 | 621 | 1,454 | 2,035 | 1 |
14年 | 4,187 | 27 | 11 | 3 | 2 | 23 | 60 | 525 | 1,406 | 2,129 | 1 |
15年 | 4,207 | 16 | 14 | 2 | 4 | 16 | 64 | 504 | 1,434 | 2,153 | - |
16年 | 4,206 | 18 | 15 | 2 | 3 | 17 | 57 | 526 | 1,424 | 2,144 | - |
17年 | 4,485 | 24 | 7 | 3 | 6 | 19 | 63 | 566 | 1,467 | 2,329 | 1 |
18年 | 4,407 | 18 | 16 | 2 | 1 | 8 | 80 | 553 | 1,371 | 2,358 | - |
19年 | 4,372 | 13 | 12 | 8 | 1 | 11 | 69 | 465 | 1,344 | 2,449 | - |
20年 | 4,727 | 19 | 11 | 1 | 2 | 10 | 66 | 535 | 1,418 | 2,664 | 1 |
食べ物による窒息の死亡者数は毎年4,000名を超えるまでに増加しているがそのほとんどが65歳以上の高齢者に集中していることが分かる。近年の増加傾向も高齢者の死亡数の増加によるものが原因でその他の年齢層においては増加傾向は見られない。一方、絶対数こそ少ないものの、死亡総数に占める食品による窒息死亡事故数の割合としては0~4歳児が大きくなっている。そのため、幼児、高齢者を中心に注意喚起が図られているのが現状だ。
餅はダントツに危険な食べ物
食品安全委員会は食品による窒息事故のリスク評価結果を配布し、様々な食品の窒息事故のリスク評価結果の概要を解説している。一口あたりの窒息事故頻度(単位:10-8[1億分の1])を試算したのが次の表だ。
ケースごとに根拠となる数字が異なっており多少ばらつきがあるが、餅が最も危険で、次にミニカップゼリー、飴類、パン、肉類、魚介類、果実類、米飯類となっている。ミニカップゼリーをこんにゃく入りのものに限ると、死亡事故頻度は餅類の1/30程度、飴類の1/4程度まで下がることが分かる。逆に言えば餅はこんにゃくゼリーの30倍、飴の4倍程度に危険な食品だということだ。特に高齢者にとっては無視できないリスクだ。窒息事故を防止するのであれば、真っ先に対応を検討すべきなのが餅なのは明らかだ。
なぜこんにゃくゼリーだけが悪者に?
このような数値の裏付けがあるにも関わらず、餅を規制しろという声は聞こえてこない。聞こえてくるのはこんにゃくゼリーに対するものばかりだ。消費者庁はこんにゃく入りゼリーをはじめとする食品等に起因する窒息事故の防止に関する取組みを行っており、12月22日には、こんにゃく入りゼリー等の物性・形状等改善に関する研究会報告書を公開している。
研究会では、こんにゃくゼリー等の口腔内での滑りやすさ、噛み切りにくさ、崩れにくさ等の食感に結びつく力学特性や、吸い込んで食べるような構造等、重篤な窒息事故につながり得るリスク要因について分析し、リスク低減のための改善提案を行っている。
興味深い報告になっているので是非報告書を読んでいただきたいが、ポイントを抽出すると、まず喉頭モデル等を用いた窒息現象の再現試験が行われている。小児用喉頭モデルの喉頭部にサンプルを置き、気道内に35kPa(約260mmHg)の陰圧を加え気道内圧を測定し、閉塞が起こりやすいか否かを検討した結果、そのまま吸い込むことが想定されるひとくちサイズでは、かたさ及び弾力性が大きいほど窒息リスクが高まることが確認された。また、形状に関しては、直径が1cmを超える場合にリスクが高まることが観察されている。
さらにこんにゃくゼリーの販売方法に関しても約半数が菓子売り場であり、子供に認知されやすい状況にあること、こんにゃくゼリーの注意喚起に関しても、菓子売場で約1/3、冷凍品売場周辺で約1/2程度実施されているが、全体としては約7割の店舗で未実施であることが報告されている。
結果として、研究会はリスク低減のために次のような提案を行なっている。
- 力学特性
- 子どもが吸引する可能性がある一口サイズの容器で販売する場合には、弾力性が小さく、破断されやすいものへの改善。
- あるいは、咀嚼が必要となるような、容器を吸引できない大きさや構造等へ改善。
- 一口サイズで販売するに際しては、個包装の警告表示や注意喚起の徹底を図るとともに、必要に応じ力学特性の改善を検討することが重要。
- 大きさ
- 子どもの気を引く型やイラスト等を避け、形状を大きくし口で吸引できなくする、またはそのまま飲み込めないようにする。
- あるいは気管の大きさ(内径約1cm)よりも小さくする*1。
- 構造
- 一口サイズで、吸い込んで食べるような構造となっている食品は、咀嚼することなく咽頭喉頭部へ送り込まれる可能性があり、窒息事故リスクが高くなるので注意が必要。
- 商品態様及び販売方法
- 商品態様では子ども向けの菓子と誤認されない変更、また販売方法では菓子売場以外での販売等、子どもの摂食機会低減につながる取組について必要に応じて更なる改善が必要。
- 消費者への注意喚起・啓発
- 関連事業者による自主改善・関係機関等による連携協力
この報告書を読むと、リスクが適切に評価され、当該リスクを低減するのに必要な具体的措置が提言としてまとめられていることがよく分かる。研究会のメンバは別にマンナンライフが憎くてこうした提言を行っているわけでもなく、客観的に評価するとこれだけのリスクがあり、そのリスクを低減するためにはこうした施策が必要であると報告しているに過ぎない。報告書単体で見れば、極めて論理的・科学的であり、本報告書に問題があるようには見受けられない。
仮に餅が最近発明され、メーカーから大々的に売り出され、その食感、味が大ヒットしたとしよう。その一方で、年間1000人が餅を喉で詰まらせ死亡する事態になると、消費者庁はそのリスクについて注意を喚起し、専門家に依頼してリスクの分析、改善案についての検討をすすめるだろう。その結果として、粘性の高い餅は喉に窒息リスクが飴類の4倍とかつて無いほどに高く、リスク低減のために粘性を下げる品種への改良、大きさの縮小(複数一緒に焼かない!)、高齢者が食べないように商品態様及び販売方法の見直し、消費者への注意喚起その他もろもろ上記報告書よりも立派な報告書が出来上がるに違いない。餅は規制によって縛られ、現状とはかなり異なったものに成り変わるだろう。
結局、餅が規制されず、こんにゃくゼリーだけが規制されるのは、それが昔から食されてきた伝統的な食べ物かそうでないかの違いだけだ。
消費者庁も、専門家も、きちんと彼らの仕事を行なっている。統計的、科学的に調査を行えば、そこにリスクがあるのは数字として出てくる。昨今の食の安全に対する意識の高まりを受けて、行政の判断はどうしても安全側に傾かざるを得ない。そのリスクを低減せよと言われれば、たとえ商品価値を毀損するような対応であっても、提言せざるを得ない。この構図は日本にやたら信号機が多い理由とも通じるところがある。危ないと言われれば、コストがかかり多少利便性が悪くなっても、危なくないように対応するのが日本の行政だ。彼らは国民の声を聞いて仕事をしているのだ(と少なくとも彼らは主張するだろう)。
責任の一端は彼らにそういう仕事をさせてきた我々社会の側にもある。無視できるほどのリスクに目くじらを立て、責任者は誰だ?と犯人探しをし、多額の損害賠償と再発防止策を求める。そのたびに新たな規制が追加され、少しずつ社会は住みにくくなる。もちろんそうした規制の中には必要なものも多い。しかし不要なものも多いのもまた事実だ。
この負の連鎖をなんとか断ち切り、より全体的な視点でバランスのとれた対応をすることは出来ないのか、それこそ政治主導の出番なのだろうけれど……ねえ?
脚注
- *1:米国CPSC(消費者製品安全委員会)が、同国におけるこんにゃくゼリーの輸入差止措置にあたり健康有害性評価を実施した際、子どもに窒息の危険性が生じるとした大きさの範囲は直径0.41インチ(約1cm)~1.25インチ(約3.2cm)である。また、韓国KFDA(韓国食品医薬品安全庁)は、2005年10月に食品公典を改定し、ミニカップゼリーの大きさは蓋と接する面の直径が5.5cm以上で、高さと底の面の直径は3.5cm以上であることとしている。
この記事へのコメント
あなたは誰だ?私がどんな事を考えどんな行動をしてきたかどの程度知っているというのだ?
こんにゃくゼリー、特に代表格である蒟蒻畑においてパッケージの美観を損ねるほど大きく「お年寄りとお子様には食べさせないでください」と警告が印刷されていることはガン無視ですか?
通常、「買い物に行くだけの能力を備えた」人間」ならば「確実に読める」だろう日本語で書かれた警告ですよ。
つまり、こんにゃくゼリーは「年寄り」と「子供」を除く大人の為の食品でありることは、この表示を見れば明確であり、「小児用喉頭モデル」を使用した実験は前提から間違っています。
極めて非論理的・非科学的であり、本報告書に非常に問題があるように見受けられます。
子供は飲んではいけませんってなってる薬でも
自分にはよく効くからって勝手に思い込み飲ませて後で騒ぐに違いない
結局自分に都合の悪いものはでかでか書いてあっても無視
野○聖○のマン○ンラ○フ
潰しじゃないのですか?
そもそも、モチをどうやって規制できるのか聞きたい。「餅米を炊いてもよいが、煉ったりついたりすることを禁じる」ことが法的にできるのだろうか?
なんでも訴えたらいいもんじゃない
二重の人為的な事故。
未必の故意が認定されるべき事案だったはず。
禿同。
ジジイとババア、孫を殺したかったのじゃないのか?
でも功を焦ってキチガイ規制したんじゃ評判は落ちるばかりだな
以前テレビで見た要介護のお年寄りでも食べやすい「詰まらない餅」の普及が進んでくれれば良いのですが。
餅より飴と比べるべきだろ。その辺、飴を殆どスルーしてる時点でこの記事もどうかと思うけどな。
消費者庁が政治的問題として取り上げたはいいが、統計出してみて実際飴より低いことが分かって振り上げたこぶしの振りおろし先が無いから罰則のない規制って意味ない。
本当の専門家の集まりである食品安全委員会は統計出た段階でさっさと引き揚げたしね。
飴より事故が少ないって統計出た段階で引き下がらなくて二進も三進も行かなくなっただけでしょ。
野田がマンナンライフのライバル会社から金貰ってつぶしにかかったってのは有名な話だよ
結局どっちが多いの?
餅がないと日本の食文化がおかしくなる
行政があーだこーだいう必要を感じない。
こんなことに国会議員が時間かかけて論議していること自体がナンセンス
行政がこんにゃくゼリーをいじめないように
監視するのが政治家の仕事
餅も規制しろー!とか言う意見は、もっともナンセンス。
何か飲みながら食えよ。
親が殺したのに
ありがとうございます。
変わった伝統だ