イントロダクション
目次
今回は次世代の丸い楽器。2000年に誕生以降、欧州を中心に爆発的に人気があるハンドパンを紹介致します。本稿では歴史、プレイスタイルなど詳しく掘り下げていきます。
“Handpan” vs “Hang Drum” !?
唐突ですが、ハンドパン(Handpan)とハングドラム(Hang Drum)の違い分かりますか?
そもそもハンドパンとは・・・
スイスのPANArt社によって開発されたHangに関連する楽器(Handpan – Wikipediaより)
ということ。ではHang (Drum) とは?
スイス、ベルンにあるPANArt社。Felix Rohner氏とSabina Schärer氏によってチューニングされたスティールパンの派生楽器。(Hang – Wikipediaより)
スティールパンは中南米の有名な楽器です。ここに楽器としてのルーツあるそうです。
スティールパン(Steelpan)は、ドラム缶から作られた音階のある打楽器。独特の倍音の響きを持った音色が特徴。カリブ海最南端の島国・トリニダード・トバゴ共和国で発明された「20世紀最後にして最大のアコースティック楽器発明」と呼ばれている。(スティールパン – Wikipediaより)
要約すると、トリニダード・トバゴ共和国のスティールパンを、スイスにあるPANArt社が改良し、 『Hang』と名付け、PANArt以外にHangに関連する楽器を制作するメーカーは、それをハンドパン(Handpan)と呼んでいるそうです。
Hangはスイス語で”Hand(手)”という意味。Handpan(ハンドパン)は手で叩くスティールパンと言えるでしょう。
ここで注意しておきたいのが、Hang Drumという名称。Wikipedeiaを見る限り、PANArt社はこの名称を強く否定しているため、このように呼称して欲しくないとのこと。
The Hang is sometimes referred to as a hang drum, but the inventors consider this a misnomer and strongly discourage its use(Hang – Wikipediaより)
未だにPanArt社のオリジナル『Hang』のことを「Hang Drum – ハングドラム」と呼ぶ風潮がありますが、PANArt社へのリスペクトも込めて、『Hang(ハング)』または『Handpan(ハンドパン )』と呼ぶようにしましょう。
Hang(ハング) – PanArt社が発明したオリジナル楽器。
Handpan(ハンドパン )– 「Hang」から派生された楽器の総称。「Hang」と同じ形状だが、オリジナルと区別するために「Handpan」と呼ぶ。
Hang Drum(ハングドラム)– 「Hang」が誤って広まった単語。PanArt社もこのように呼んで欲しくないと否定。
より詳しく歴史を理解されたい方はPANArt社製作のドキュメンタリー(英語)をどうぞ!
PANArt Hang Official Documentary(Switzerland,2008)
とイントロが長くなりましたが、このハンドパン何が衝撃なのでしょうか?
次世代楽器たる所以
音楽の三大要素とは、
1)リズム/Rhythm/節奏
2)メロディ/Melody/旋律
3)ハーモニー/Harmony/和声
と言われています。
Style1《リズム/Rhythm/節奏》
“Fanfare” – Hang Drum Solo by Dante Bucci(Netherlands,2008)
Dante Bucci氏による独奏曲”Fanfare”ではハンドパンをリズム的なアプローチで演奏されています。アフリカパーカッションのように叩くことで、とてもダンサブル!何より迫力がありかっこいいですね。
ハンドパンが登場した当時はこのように”音階のあるドラム”のようなプレイが主流だったのかもしれません。そのため、ハングドラムという名称が映像とともに幅広く流布した可能性も考えられます。
Dante Bucci氏は初期PANArtのHangをプレイされています。
D Minor Pentatonic Scale: (D) A C D F G A C
Style2《メロディ/Melody/旋律》
LUMI Handpan Duo – Luca Bertelli & Mumi on HANG PANArt and Asachan Handpan(Italy,2013)
Mumi(女性)とLuca Bertelli(男性)によるハンドパンデュエットLUMIによる演奏。メロディラインを重視したスウィートで壮大な楽曲です。Mumi(女性)がアルト(Alto)を、Luca Bertelli(男性)がソプラノ(Soprano)といった二重奏のような美しい曲。Ding(中央突起部)を擦った反響音をメロディラインに持ってくるのはとても新鮮だと思います。
ハンドパンを優しいタッチで奏でることで倍音がより伸びることがあります。一つ一つ手作りのため個体差もあるハンドパン。演奏場所や湿度によっても微妙に音が変化します。その特性を理解することで、その場で一番良い音を探し出すことは、プレイヤーとしての責務だと思うのです。
LUMIのお二人は男性が初期PANArt社のHang、女性がAsachan Handpan(Echo Sound Sculpture)をプレイされています。どちらもスイスのメーカー。
D Minor Pentatonic Scale: (D) A C D F G A C
Style3《ハーモニー/Harmony/和声》
さて、ハーモニー(和声)です。メロディとコードがハマった瞬間に楽曲の表情がより豊かに表れます。
和音は根音(和音の軸となる音)が同じでも、一つ音を変えるだけで、明るくなったり、暗くなったりします。さらに音を足すことで、明るいから幻想的(Fantasy)になったり、暗いからブルージー(bluesy)になったりと、ハーモニーは音楽の中心となる存在。
Halo Cirrus – Riviera(US,2014)
米国の Colin Foulke氏によるHalo(Pantheon Steel Pan)のデモ演奏曲”Riviera(約束の土地)”前半パートは、Ebメジャー(変ホ長調)で和音が奏でられています。単調がゆえに和音が際立つ気持ち良い曲。
Halo(Pantheon Steel Pan)
Eb Major Scale : (Eb) G Ab Bb C D Eb F G Bb
和声についてもっと勉強されたい方は『和声―理論と実習』をどうぞ。音大受験生のバイブル本!
和音とは”重なった音そのもの”を指しますが、和声(学)とは”和音の運び – 進行 –”と言われています。和音の運びによって音が形式化(Form)され楽曲となるのです。
後半へ向かう休息(skit)として、2001年に発表されたAphex Twinの至極の名盤 『Drukqs』よりNannou2をご視聴下さい。
“Nanou 2” by Aphex Twin (Album Drukqs) *HD* (UK,2001)
All in OneのNew Style!?
2014年頃から、1)リズム/Rhythm/節奏、2)メロディ/Melody/旋律、3)ハーモニー/Harmony/和声をたった一人で演奏するスタイルが生まれつつあります。
それを体感できるのが、ハンドパンマスターと呼ばれているKabeção氏による独奏作品”Somei Yoshino”。同氏はいろんな練習を経て、独自のスタイルを確立されたと思われます。
“Somei Yoshino” Handpan – Kabeção (Portugal,2014)
序盤から鮮やかなリズム。終盤にかけて序盤のメロディラインに対して音が次々と足されるところがハイライト。楽曲としての構成力も素晴らしく、飽きずに何度見れるプレイに感動してしまいます。
このKabeção氏のプレイでは主に右手でベースライン(リズム)を作り、左手で音階(メロディ)を奏でています。コードとメロディがはまり綺麗なハーモニー(和声)が決まる瞬間は美しいです。
ハンドパンのスタイルはご覧のように千差万別。既存の楽器からもインスピレーションが入ることで、今後はソロでの楽曲レベルが大きく広がる可能性があり、伸びしろは無限大。さらにデュオ、トリオ、または西洋 / 民族楽器とのセッションにおいても重宝されることでしょう。
【コラム】”不自由”の中の”自由” – 浮遊感 –
ハンドパンには何とも言えない無重力、浮遊感があります。これらはどうして生まれるのでしょうか?
本章は余談になりますが、その理由について考えていきましょう。
ドレミファソラシド(8音)はCメジャーと呼ばれるように、ハンドパンにも8音、9音、10音の音数に振り分けられた音階(スケール)が存在します。
Handpan Scalesの一部分
鍵盤ならば臨機応変にどのスケールでもカバーできますが、ハンドパンはすでに1つスケールでチューニングされているため、限られた音数で演奏をしなければなりません。しかし、そこに浮遊感が生まれる秘密があるのです。
モードジャズが誕生した1959年のMiles Davis / Kind of Blueについて考察したVTRを見てみましょう。
ETV特集「疾走する帝王~マイルス・デイビス」より(2007,Japan)
2007年のNHKでジャズ特番で菊池氏が講義を行っています。同氏はコード進行ではなく、スケールの中で自由に演奏することで、無重力感、何とも言えない浮遊感が生まれると仰っています。また演奏の難しさについては、
ルール(楽譜)によって縛られた方が練習もしやすいが、少ない音で自由に演奏する方が審美眼(センス)が露骨に出るので難しい(ETV特集 3分35秒〜)
と述べています。
スケールの制約下で演奏することは、適当に叩いてもそれなりに音楽らしく聞こえるというメリットもありますが、楽曲として聞かせるのは難解とも言えます。
「制約された自由」の方が「制約のない自由」よりも浮遊感があるため、より自由と感じられるのかもしれません。
ハンドパンの浮遊感のルーツをマイルスデイビス(Miles Davis)によるモードジャズ革命と繋げるのはやや強引かもしれませんが、音階の中で自由に遊ぶという点においては共通していると思うのです。
モードジャズの定義
コードをバラして小さな転調を繰り替えしていたことが主流だった演奏から、コード進行を単純化し、音階の中での遊びで変化をつけたこと(モードジャズとは?|ジャズ初心者ガイドより)
モードジャズが確立されたMiles Davisの『Kind of Blue』。若かりしビルエバンスやジョンコルトレーンも参加している。
ハンドパンは購入するには?価格は?
さて、こんな魅力的なハンドパンを入手するにはどうしたら良いのでしょうか?
現在、ヨーロッパ産の在庫ございます!
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今回紹介させて頂いたDante Bucci氏やLuca Bertelli氏はPANArt社、Kabeção氏やMumi氏はAsachan Handpan(Echo Sound Sculpture)をプレイされています。どちらもスイスメーカーです。また、Colin Foulke氏がプレイしているのHalo(Pantheon Steel Pan)は米国メーカーです。
残念ながら、AsachanもHaloも何年先も予約で埋まっている状態。予約(Waiting List)すらも受付けてもらえない程人気で入手困難!と言われています。2018年現在、両者スタンダートタイプの正規価格は30-35万前後とのこと。
本家PANArt社はすでにHangを生産中止し、Gubalという新楽器を開発中です。
特にスイスメーカーは入手困難ですが、比較的入手しやすいのは東南アジアメーカー。
先ほど紹介したKabeção氏も2012年当時はインドネシア産を愛用していました。
Kabeção “Bali Steel pan” Handpan (Portugal,2012)
ゆったりとした南国の雰囲気の伝わるイージーリスニング。タッチが柔らかく何回ループしても飽きない表現力は流石です。
Bali Steel Pan
Pelog Scale : (F) Bb C E F A Bb C E
「いつかはスタインウェイ」ではないですが、野望を持ってエントリーモデルを入手するのも悪くないと思います。
最後に
そもそもハンドパンのルーツであるスティールパンはドラム缶を加工してチューニングしたもの。どうしても叩きたいなら、荒削りでもいいので自作されても面白いかもしれません!特大サイズのステンレスボウルをハンマーで調整してみては如何でしょう?
Happy Handpan Life!!
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