テレビっ子の僕が「感想を書かない」テレビのファンブログを始めた理由|てれびのスキマ・戸部田誠【書籍プレゼントあり】

※キャンペーンは終了しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

はてなブログ(2003から2019年まで運営のはてなダイアリーの期間も含む)を使ってくださっている方に、ご自身とブログについて寄稿していただく企画の第2弾として、ブログ「てれびのスキマ」を2005年から運営し、テレビや芸能人に関するコラム連載、著書を持つライターの戸部田 誠さん(id:LittleBoy)に、ブログを始めたきっかけ、テレビというテーマへの興味・関心について寄稿いただきました。記事の最後にはプレゼントのお知らせもあります。

「ブログ」について書いてほしいという依頼を受けたのだけど、ここ数年「ブログ」をほとんど更新できていない僕が書くのはおこがましいと思いつつ、振り返ってみたいと思います。

テレビが好きだから「テレビのファンブログ」を立ち上げた

僕がはてなダイアリーで「てれびのスキマ」というブログを始めたのが、2005年8月17日なので、ちょうど15年が過ぎたことになります。

はてなダイアリーのサービス開始が2003年で、そのあたりからブログがブームになっていったはずなので、ちょっと遅めのスタートでした。けれど、こと「テレビ」をテーマにしたブログの中では早かったほうじゃないかと思います。

その頃、ドラマの感想を書くブログや特定の芸能人のファンによるブログみたいなものは結構あったと思いますが、「テレビ」全体に関するブログ、特にバラエティ番組を扱ったものはあまりなかったように感じます。

「てれびのスキマ」トップページ
「てれびのスキマ」トップページ

子供の頃から「テレビっ子」で、テレビ漬けの毎日を送っていた僕にとって、ブログを始めるに当たって「テレビ」をテーマにするのは自然の選択でした──と言いたいところですが、そうではありませんでした。

「はてなダイアリー」を知ったのは、もうひとつの趣味である「総合格闘技」からでした。

当時はまだまだ、総合格闘技に関するネットでの公式の情報発信は乏しく、情報源の大半は雑誌から。それでは飽き足りなかった僕はネットを検索していました。すると、はてなダイアリーの中になぜか、総合格闘技ファンが書くブログが多かったのです。それらを巡回しているうちに、自分も何か書いてみたいなと思うようになっていきました。

もともと、僕は雑誌『格闘技通信』(ベースボール・マガジン)などの編集者や記者に憧れていました。結局それは叶わず、2001年に一般の企業に就職し、仕事だけでいっぱいいっぱいになっていましたが、数年経ち、仕事もある程度覚え、時間も自分で作れるようになっていた頃、自分なりの雑誌編集のようなことがやりたいという気持ちがふつふつと大きくなっていったのです。

けれど、当時地方に住んでいた僕にとっては、総合格闘技のことを書くにはあまりにも情報が不足していました。他に何かないかなあと思いつつしばらく何もせずに暮らしているうちに、ふっと思い付きました。

あ、「テレビ」があるじゃないか、と。

目から鱗が落ちました。前述のようにテレビはずっと好きでしたが、それまではそのことについて、ブログなどインターネット上で発信しようという発想はありませんでした。

その頃、ネットで「テレビ」について書き込むといえば「大体が悪口」という印象だったのも、そういう方向に向かわなかった一因かもしれません。特定のファンサイトなどを除けば、ネットで「テレビ」は嫌われていました。だったら「テレビ」自体のファンブログみたいなものにしようと立ち上げたのが「てれびのスキマ」です。

「どこを生かし、どこを削るか」に批評性が宿る

「てれびのスキマ」の最初の記事は、タモリさんについて書いた「タモリのマトメ」。 タモリさんにまつわる事柄について辞典のようにまとめたものです。『Quick Japan』(太田出版)の影響丸出しで、雑誌文化へのあこがれの強さが伺えます。

littleboy.hatenablog.com

今ではテレビやラジオの書き起こしを掲載するサイトが数多くあり、時にそれが引用の範囲を超えて問題になってしまっていますが、当時そういったものはほとんど存在しませんでした。目新しさもあってか、割と早い段階からテレビ関係のブログとしては注目(?)されていたんじゃないかと思います。体感としてはその後徐々に、テレビという存在に対して肯定的なブログも増えていったように思います。

そのうち徐々に、「テレビの発言を引用して記事にする」というスタイルが確立していきました。小説家・評論家の高橋源一郎さんが大好きだったため、彼の引用を多用する書評のスタイルに影響を受けたこと、雑誌的な記事を書きたいけどいち視聴者の立場で取材をすることは叶わないこと、などの理由から必然的に生まれたスタイルでしたが、何より大きかったのは、「自分の考え」を書きたくなかったからでした。

ネットにはむき出しの「自分の考え」があふれていました。もちろんその鋭さに感銘を受けることもありましたが、たとえ肯定的なものであったとしても、その「圧」に疲弊することも少なくありませんでした。

だから僕は、自分の感想を書くのではなく、自分がテレビで面白いと思ったシーンなどを紹介することにしたのです。

今では「ネットニュース」と呼ばれるものが、よくテレビで批判的な文脈から語られるようになっています。テレビ番組での発言を切り取り、センセーショナルな見出しを付け、ネットでの拡散・炎上を狙っていると。一口に「ネットニュース」といっても、既存の新聞・雑誌からの転載記事、それらのメディアのネット部門が独自に書いた記事、ネット発のメディアが書いた記事など多種多様、玉石混交なのです。

が、それらを十把一絡げに「切り取られて」批判されることが少なくありません。

「切り取り」ということ自体が「悪」のようなイメージになってしまったのはあまり良いことではないなあと思います。「切り取り」というのは、どこを生かし、どこを削るかという「編集」作業。そこには批評性が宿っているはず。

僕は同じ「切り取る」でもまったく違うアプローチをしたいと思っていました。センセーショナルな話題とは距離を置き、できるだけ何気ないやり取りを含めて記録していきたいと。

ブログやSNSで参加意識が生まれる新たな“お茶の間”

90年代以降、テレビは「リアリティ」が重視されるようになってきました。そしてSNSの発展に伴って、求められる「リアリティ」がもう一段別のものになったように感じます。

2006年に放送された『アメトーク!』(テレビ朝日、現在放送している『アメトーーク!』の前身番組)の「ひな壇芸人」あたりを契機に、テレビの仕組みやタレントとしての立ち位置や戦略などを語り、“種明かし”する番組や企画が増えていきました。

littleboy.hatenablog.com

もちろんそこにはさまざまな要因があるとは思いますが、そのひとつに、メタ的な視点を好む視聴者の存在がネットを通して可視化され、ブログやSNSを通してそれが拡大していったこともあるのではないかと思います。

漫才コンクール『M-1グランプリ』についてブログやSNSでお笑いを語り合う行為は普通のことになり、特にお笑いマニアでもない人でも「裏回し」*1といった専門的な用語を知っています。もちろん、それはお笑いに限った話ではありません。音楽の技術面について解説する番組『関ジャム』(テレビ朝日)が人気であるように、これまで専門誌などでしか語られてこなかったものが、テレビで普通に聞ける機会が増えていっています。

昨今は視聴者からのツッコミ前提のドラマやリアリティショーも人気を呼んでいます。つまりは視聴者が“裏”から見るもの、ということです。もちろん、このようなテレビの見方は、決して目新しいものではありません。けれどそれをブログやSNSを通して多くの人が共有し拡散できるようになったのは大きな変化といえるでしょう。これによりテレビから一方的に受け取る“お茶の間”ではない、新たな“お茶の間”が形成され、ある種の参加意識が生まれています。

かつて上岡龍太郎さんは「テレビで面白いのは、素人が芸をやるか、玄人が私生活を見せるか、2つに1つ」と語りました。確かに現在も芸能人が「私生活を晒す」ことに大きな需要はありますが、それ以上に、僕らが知りたいのは、彼らの芸論や、その時、どのように思い、どう立ち向かっていったか、といった「思い」や「哲学」です。トークバラエティ番組の『あちこちオードリー』(テレビ東京)や『やすとものいたって真剣です』(朝日放送テレビ)が注目を浴びるようになったのも当然の流れだと感じます。

ブログの利点は「記憶の記録」から「記録同士のつながり」が生まれること

そんな中で「センセーショナルな話題とは距離を置く」スタンスを取りながらブログを書いているうちに、2009年にライターとして商業誌デビュー。細々ながらたまーにテレビに関するコラムなどを書くようになり、2012年から「日刊サイゾー」などWeb媒体で連載開始。この年の11月からは、水道橋博士さんに誘われ、メールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に創刊号から書かせてもらえるようになりました。翌年には『週刊SPA!』で、初の紙媒体での連載もスタートしました。そして2014年3月、初の単著『タモリ学』(イースト・プレス)で書籍デビュー。その後も年に1~2冊のペースで出版しています。

と、こう書いてみると、ものすごくトントン拍子。順風満帆のように見えます(僕なりにめちゃくちゃ苦労や紆余曲折はあったのですが)。

実際、ライターとしての僕は、ものすごく幸運だったと思います。

たまたま、まともにテレビを見て真正面から書くライターの席が空いていたこと。

水道橋博士さんを筆頭に、さまざまな編集者さんたちとの出会いに恵まれたこと。

そうした幸運がなければ、いまの自分はあり得なかったでしょう。

でも、僕は今で言ういわゆる「バズった」ことがほとんどありません。「てれびのスキマ」でいえば、もっとも「はてなブックマーク」をいただいた記事でも780程度(2020年9月4日時点)。

littleboy.hatenablog.com

おそらく「アルファブロガー」と呼ばれる方たちには1,000を軽く超える記事が複数あったりするのでしょうが、僕にはひとつもありません。

もちろんブックマークやコメントをいただくことは、僕にとってもモチベーションのひとつです。自分の好きな人の面白い部分を書いてそれが共感されるのは大きな喜びです。そして、それを一度味わってしまうと、よりブックマークを多くもらえるような記事を書きたいと思うようになってしまいがちです。正直、僕もそういう気持ちになって模索した時期もありましたが、早々に自分にはその資質がないと悟りました。

僕がもっとも喜びを感じるのは、過去の記事について時を経て「これがここにつながっていたんだ!」と僕自身や読者の方が気づく時でした。

「記憶を記録すること」で、点としての記事が生まれ、星と星とを結んで星座に見えるかのように「記録のつながり」として気づくことができる。それが僕にとってブログの大きな利点でした。もうひとつのブログの良さは別に更新しなくても良いことです。好きなタイミングと好きなペースで書けばいい。そういうものって意外とない気がします。それでいて間違いなく自分のベースになっている。それが僕にとってのブログなのだと思います。

著者:戸部田 誠(id:LittleBoy)

戸部田誠

てれびのスキマ。1978年生まれ。2015年に福島県いわき市から上京。新聞、雑誌、Webでの連載も多数。
ブログ:てれびのスキマ
Twitter:@u5u

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応募期間 2020年9月23日(水)~2020年9月29日(火)23:59
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*1:ゲストでありながら司会者の進行をサポートし、話題をゲスト同士で盛り上げる役割のこと。