処女航海は今日も荒波!

こんにちは、ファンキーじゃない方の加藤です。
明けてます。
明けきってます。
2017年です。2月です。

いや、待って。
まず2016年の話してもいい?
あのね、私にもあったはずなんです。2016年が。
去年、電撃結婚された方々や、惜しまれきって解散した方々や、不倫を超暴かれた方々と同様。多分、同じ日数くらいの2016年があったはずなんです。

もう画素が荒いよ。
2016年の作りが、すごい粗削り。
思い出のクオリティーがね、低い。

たとえば、中居正広の2016年とかね、もうVR状態ですよ。
あれ、これ触れんじゃないかってくらいの臨場感だったわけなんですけど、
かたや、こっちサイド、紙芝居かなってくらいでね、5回くらい捲ったらね、2016年が終わったわけです。

もう、出会いもなければ別れもない。

オンラインゲームですら、協力プレーするこの時代に、
36年もこの東京というフィールドいっぱい さすらって、まさかのパーティー0。
36年、トルネコの冒険。

いやあ、12月とか、間違いなくクリスマスってやつがね、私にもあったはずなんですけどね。
きよしこの夜どころか、どの夜とっても、超きよしでね。
私の全きよしをもってクリスマスを迎えたはずなんですけどね。

あと、まあ、順調に、無事36歳をむかえまして。
もう、万感の処女であります。。

いよいよ考えるよね。
このまま、私はセックスというものを1度もせずに死ぬのかもしれない。


嬉々としてジ・アート・オブ・シン・ゴジラとか予約してる場合じゃなかった。
まじで、ゴジラどうしたよ、おい?

東京あぶねー東京あぶねーって耳に出来たタコが新成人になって耳から巣立ってくくらい聞いてきたけど、36年、このあぶゼロ。

この首都東京で待ちかまえてるんですが、待てど暮らせど夜のゴジラは来ないわけで。
玉置が口酸っぱくじれったいじれったい言ってたのは、私の下半身のことなんじゃないかなってくらい安全地帯です。

私の股間の矢口が、36年だれとも鉢合わせしてない方の矢口が、「諦めず最後までこの国を見捨てずにやろう」つってる。

とりあえず、もうあれですよ、万が一ね、私の矢口部分が、ゴジラのゴジオを見かけた際、あの伝説の第二形態から第三形態に移行する場面に、「しゅ・・しゅごいぃい」って言う練習だけ、欠かさずしとこう。


そんな、36歳です。
36年生きると、36歳になるこの不毛。
いよいよ、私の大好きな少女漫画の世界に、同い年の主人公はいなくなりましたし、下手したら大好物の「大人の男特集」なんつーカテゴリに出てくる男性が全員年下って大惨事も起こってきてます。


よく女性をクリスマスケーキに例える人なんかいますけどね、「24〜25がピークでぇ〜」なんつって煽ったりしてくるわけですが、ほんと36とかね。カレンダーから完全に消えてますからね。
もうあたしのケーキどうなっちゃってんの?っつって。

何なら多少西暦も変わっちゃってますからね。
1月5日あたりとかですから。36って。
三が日も無事終わって、もうクリスマスケーキがどうとかじゃなくて、普通にケーキ好きがケーキを買いに来るよね、その頃になると。

だから、こっからはあれだよ、腰を据えて待とう、と。
36年ずっと腰を据えてきた感じもするんだけど、据え続けようと。据え置きだと。
いつか、私のことをめちゃめちゃ求めてくれる人がきっとこの世界のどこかにいると信じて。


って思ってね、慎ましやかに暮らしてたんですけどねー、
結構早めに求められましてね。割と身近で。

「加藤さん、ちょっといい?」って。
師長にだったんですけど。
もうね、師長に関しては、ちょっといい?って聞かれて、良かったためしがないわけでねー。

で、なんか偉い人のいっぱいいる部屋に連れていかれまして、
「加藤さん、主任になってくれない?」って。

耳をね、疑いました。
一瞬、主任が尿瓶に聞こえてね。
いやあ、尿瓶はないわ師長、って思ったんですが、言っときますけど、主任に比べたら、尿瓶の方がまだなる自信がある。

まあ、こう見えてね、肉体だけで言えば、いい感じに脂がのってきてる。

でもあれですよ、36年女性というものをやってきて今まるで処女なわけですよ、全然装備が使えてないわけですよ、ドラクエの最初の村から全然離れてないわけですよ。
36年、布の服なわけですよ。

それがね、看護師だか何だか知らないですけどね、たかが15年ぽっちやったからつって、成長したのは白衣のサイズだけですよ。

師長だって知ってますよね?
私の申し送りの声が小さすぎて、他病棟から小兵の中森明菜って呼ばれてるの。

自信がなくて中森明菜くらいね、声が小さいってことをね、言いたかったんでしょうけどね、ほんと声が小さいことよりもね、小兵とされてたことにショックを受けったっつーの。

私の渾身のまとめ髪が、他病棟でマゲとされてたことを後輩から遠慮がちに聞いた時の衝撃ね。
「だから大きめの声で喋った方がいいですよ」ってアドバイスを頂いたわけですが、小兵の方!小兵解決してない!って。


話戻って、確かにね、今、うちの病棟には主任がいないです。
もうかれこれ半年くらいいない。
前の主任も、その前の主任も妊娠につぐ妊娠。3人連続の妊娠。
院内の水天宮って呼ばれてる。

それを師長がたった一人で支えてきた。

その上最近、結婚するとか、子供できたとか、一周回って不倫ばれたとか、子供が受験とか、親の介護とか、もうまわり全員、鋼の錬金術師じゃないかってくらい、じゃんじゃん人生イベントが湧いてきて、退職・休職と目まぐるしい看護師たちの中にいて、

この私のね、あら無課金ユーザーなの?ってくらいの何もなさね。
ライフステージ棒立ちなんですよ。プライベートの動かざること山の如し。

看護力はほとんどないけど、この溢れんばかりの独身力なら、師長のスカウター壊す自信ある。

ただ、自分で言うのもなんですけど、絶対に主任に任命されるようなタイプではない。


「えっと・・なぜ・・私が・・見初められたんでしょう」
主任は病棟だけでは決められないはずで、一定数の上層部からの推薦が必要だし、そんな推薦を自分がどこで受けるのか不思議で聞くと、
「研修委員から推薦があったのよ。あなたの救命の新人研修の評判だったみたいよ」
とのこと。

研修・・、あのサトル(人形)をギリギリで生き返らせたやつ!

で、まあ1カ月後に返事くださいって言われたわけですが。
ほぼほぼ1カ月、断るセリフを練習する感じでね、それでも、なんていうか冥途の土産っていうか、「私も昔、主任になるかって言われたことがあってね・・」みたいなイイ思い出話ができたと。


で、まあ断るセリフを練りに練ってたわけですが、
練りすぎて、そういえば、最近、なんか胃が重い。って思って。
なんとなく押すと痛いような気がして。

胃なんて、いままで痛くなったことなかったので。
これってもしかして、あれじゃない?漫画とかでよくある、悩む主人公が胃を悪くして倒れる展開のやつじゃない?って思って。

で、ちょうど、36歳にもなったし、一回くらい胃カメラやってみようかなって、軽い気持ちで健康診断で胃カメラ受けましたよってのが、私の2016年のダイジェストです。

もう本当にね、出来心で、みたいな感じで受けたんですけど。

ほら、私もかろうじてナースですし、割と、胃カメラに患者さんを100回くらい送り出してるし。
胃カメラとの距離は割と近いっていうか、スープの冷めない距離で。
ああ、あの子ね、素直でいい子だよね、上にお姉ちゃんがいるらしいよ。
って感じで、割とね、知ってる気でいました。

で、まあいつやるかってなったときに、予約の電話をするのをすっかり忘れてましてね。
なんなら胃カメラやろうと思ってた決意ごと全部忘れてましてね。

したら、師長に「ちょっと今月中に胃カメラ終わらないと、全額自己負担になるよ!」って言われましてね、キャーって言って泣きながら連絡して予約が空いてたのが2016年最後の1枠で12/24でした。
土曜とか胃カメラ休みかと思ってた。
まさかの午前中はバリバリやってたし、まさかの、胃ヴ。


で、行ってきたわけです。


まず私ったら、あんまり禁食ってしたことがなくて、軽い気持ちで禁食ってお告げをね、今まで幾度も患者さんに軽く言ってきましたけどね、前日21時から禁食がね、小兵の中森明菜としては、もーつらいわけ。

よく考えると前日21時から禁食って、ある意味、常人の食生活なのに、普段どんだけ0時くらいに幻の4食目を口にしてるのか知らないけど、もう翌朝にね、空腹で空腹で、砂漠の民みたい心持ちで内視鏡室に到着。

そんな状態で、医者から内視鏡の説明をざっとされ、同意書にサインをうながされたわけですが。
もう知ってる知ってるーってなるわけ。この呪文みたいな文章が書いてある紙、百回くらい見てきたー。
耳タコ耳タコって感じでサラッとサインをしたいんですけど、いざ自分のこととなると、あれ、これ、こんな物騒なことが書いてあったっけ?って。

なんかもう、ほぼほぼ死なないし、いや、もう全然死なないんだけど、死ぬようなことしないんだけど、そもそも死ぬとか意味わかんないし、でも実は100%じゃない。みたいなこと長々と書いてあるわけですよ。
大丈夫大丈夫言ってるんだけど、よくよく読むと、なんか死ぬこともあるかもしれないってお姉ちゃんの友達のお父さんの近所の人が言ってたらしいよ、くらいのことも書いてある、よく読むと。

こえーこえーって思いながらサインしましたけど。
多少ね、お母さんとかにね、メールしたよね。

で、そのあと待合室に連れていかれ、看護師さんに「じゃあ、これでも飲んで」って謎の液体を渡されて、「初めて?」「初めてです!」「緊張しなくて大丈夫よ」みたいな、いかがわしいお店に初来店みたいな会話を多少して、いざ。

もう、まな板の鯉が二足歩行したらこんな感じかなっていう動作で、看護師さんに手を借りながら、胃カメラ用の診察台みたいなとこに横になってんだけどね、案外もたついたよね。

スカートとか予想以上に、ファサファサしちゃって。

うん、あれだよね、胃カメラって、胃カメラ用の服みたいの着ないんだね。
なんかドラマとかで、よく検査着みたいなの着てたからさ、あの印象あったけど、胃カメラって私服のまんまでやるんだね。

もうね、間違ってパーティードレスで来ちゃったのね私も。
ほら、イブだったから、多少見栄っていうか、胃カメラしてからパーティーに行くテイでね、来たもので。

まさかこんな舞踏会みたいな感じで、胃カメラの台に登るとは思ってなくて。

とりあえず、ドレスで緊張して横になってると、先生が入って来たのね。
「女の先生ですから安心してくださいね」って看護師さんに言われて、優しそうかなって期待したんですけど、完全にブルゾンちえみと平野ノラの合わせ技みたいな女医さんでね。
安心が、ぐんって減ったよね。
「やるわよー私やるわよー」みたいな謎のグイグイが凄くて。

で、
「あなたうちの看護師さんなんですってねー?研修医を見学に入れさせてもらってもいい?はい入ってー」
みたいな感じで、私の相槌が空を切ってるうちに、10人くらいのwithBがゾロゾロ入ってきましてね。

嫌だなあって思ったけどね、なんか「やれやれ」みたいな能力者の主人公みたいな気持ちも若干あって。

正直、なんでかわからないけど、この時点で6:4くらいで、俺の雄姿見とけって気持ちがあったのね。
なんか、胃カメラやったことないけど、スムーズに行くような自信に漲ってた。

だって80歳とか90歳くらいのおばあちゃんとかも胃カメラやってたくらいだし、私は結構我慢強いとこあるし。って。

今思えば、あの時、なんで酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃんを下に見たのかと悔やみますけど。

で、喉に挨拶程度にシュシュって麻酔されて2秒で「行くよー」って、あの即合体シリーズでもうちょっと待つわくらいの速度で、平野ノラが80年代の携帯電話を操るような手つきで、胃カメラの管持って迫ってくるんだけど。

もうね、多分、麻酔がまったく効いてない感じするわけです。
私の喉がね、全然寝てない。100の力で迎えうってる感じある。

でも問答無用でね、私はマウスピースみたいのを銜えさせられてね、

「マウスピースは歯で噛んで、むせないように呼吸は鼻でして、管が喉にきたらごっくんって飲み込んでねー」

って、軽く情報過多で流れるように言われたんですけど。
えっ?えっ?えっ?て思ってる間に、管をんぐーって入れられたわけ。

焦りながらも、私これでも看護歴15年ですからね、こういう検査の時は、抵抗せずに身をね任せるのが大事って充分知ってるわけ。
もうね、力を抜いて受け入れた。
なんだったら、両手を広げちゃうくらい。もうWithBごと抱きしめる感じで。

そう管が喉のとこに来たら、飲み込むのみ。
ごっくんする。
36年隠し持った私の私なりのゴックンを披露する時がきたと思った。
さあ、来なさい、と。


おええええええええええええええええええええええええ


自分でも驚くぐらい嗚咽。
洞窟に何かいるんじゃないかくらいの嗚咽。
喉が万全の態勢で管とがっぷり四つ組んでた。

「飲み込んでー飲み込んでー」ってちえみにブルゾンも脱げる勢いで言われっけどね、
そもそもマウスピースを噛んだ状態で、飲み込みが全くできないという特技が判明。
口を閉じないで、物を飲み込んだことなかった。

もう喉の門前払いがすごい。
ちえみが超管入れてくるけど、そのたびにもう魔獣の咆哮くらいの勢いで、オエエエエってなってる。

「力入れないで!喉に力入れないで!」って超連呼されてるんですけど、ほんともう、全然入れてるつもりないけど、喉以外は死んだ魚みたいになってるの、行き倒れみたいに超ぐったりしてるの、でも喉のそこ押されるともう自動に魔獣が出るわ出るわ。

あと、もう鼻で息してねって、多分遺言みたいに言われたけど、なんだろう慢性的な口呼吸で気が付かなかったけど、私の鼻、多分これ機能してないわ。両鼻詰まってたよー。

この時点で、口の仕事量が100。
口で呼吸してるし、口から唾液が江戸川のように出てますし、ちえみが口に超管を入れてくっし、もう口の交通量がすごい。渋谷のスクランブル交差点みたくなってる。
新海監督が描いたら、何らかの切ないすれ違いが起こりそうなくらいの交通量。
口のポテンシャルが今アツい!

つーのに!おい!喉!
口がそんなに頑張ってるのに、どうした喉!
微塵も開いてない。2mmくらいしか開いてない。うちの敷居は跨がせないくらいの勢いがある。

「飲んでー!飲んでー!」ちえみがバブルくらい言うし、周りのwithBたちが、そういうお店かなってくらい「飲んで飲んで」言うけど、私もね、ほんとそっちなら結構飲める方かなって思ってたけど、
ほんと、下も処女なら、喉もまさかの処女でね。

咽頭バージンが全然捧がらない。

おっきぃぃぃいいぃい、こんなの、はじめてぇええぇって、水揚げされたエビみたくなったんですけど。クリムゾン先生が描いたくらいビクンビクンってなってたんですけど。

なんなら「しゅごぉおおぃいいい」って矢口をこのタイミングで披露したよね。

なのに、1ミリも入らない。

見かねた研修医たちが慌てて押さえに来て、「加藤さん!うどん飲むみたいにー!」って言われたけど、こんな躍動感あるうどんは香川にもねぇ!って思って。

で、ちえみもあの手この手で、なんか変な回転とかつけて、喉を通そうとしてくるんだけど、もう私の喉の守備力が半端ない。上のお口も、下のお口も、まさに鉄壁。

10分くらい揉めまして、
あまりの入らなさに、タイムー!ってなる。
一回整理しよ!ってなる。
おやっさんがいたら、タオル投げてくれたと思う。

胃カメラなのに、微塵も、胃を写してない。
あの手この手でノドチンコどまり。
もうグラビアかってくらい色んな角度のノドチンコは十分堪能した。

でもさすがキャリアウーマン、ちえみが全然諦めない。

もうね、かたや私を見てと。
辛すぎて、首がミドリガメかなってくらい服の中にめり込んでるからね。
肩が出てたはずのオフショルダーがエリザベスカラーみたくなっちゃってるからね。

包茎の広告みたくなった私を「出てきて出てきて」つって、看護師さんに剥きだされてるからね。


そして、全員がもう無理かも!って思った瞬間、

あ

つって、入りました。


喉さえ抜けたら、そこは雪国。もう嘘みたいにスムーズで、あとはすぐに胃について、ものの2・3分で終わりました。


異常なかった。
胃が重いのは、ただの食べ過ぎだった。


胃カメラを終えて、病院を出た時、なんか、階段登った感あった。
どこか誇らしい気持ちと、たいしたことなかったなって気持ちと。
そして、初・体・験・・しちゃったなって思って。


そんなイブを通常通りワンオペで過ごしまして、正月も駆け抜けて、
自堕落につけてた深夜のテレビで同じ36歳処女の人が、経験がない経験がないって泣きながら平井堅を歌ってた謎の番組を見たんですが。

いやいやいや、号泣で平井堅って、その経験がもうほとんどの人がないからね。って思って。


いつもね、そう。
私達を横目にね、錬金術師たちが声高々に、好きな人とHして初めて女としての幸せを〜とか、結婚して人生の意味が分かっ〜とか、子供できて今までの価値観が〜とか、わあわあ申しておりますけどね、

いや、あるわ!って、処女だってね、そういうことあるわ!一万個くらいあるわ!
ってことを言いたい。

貫かないと、見えないものもあるんだぞ。
15歳の処女と、25歳の処女と、35歳の処女をね一緒にしてもらっちゃ困るぞ、と。

大昔に、多少、青春の1ページくらい処女だったことがある人たちにね、「処女ってああだよね」とか絶対言われたくない。
「私も処女だったからわかるけど」とか言われたくない。

中学の体育で多少サッカーやったくらいの人に、メッシのボールキープ力を語られたくない。

36歳処女のボールキープ力で言ったら、もうこぼれ球とかゼロですから。
大学デビューと共にサークルの先輩と早めにこぼしてる人とかにはわからないかもしれないけど、ぜんっぜん、こぼれない。こぼれるっていう概念がない。

もうそれ足にボールがくっついてるんじゃない?って人々が疑うくらい、こぼれない。
これがね、メッシのキープ力です。

メッシがボールをキープしてるんじゃない、ボールがメッシをキープしてるんだ!
これが36歳処女のプレイスタイルです。



そう思った時、主任を受けてみようと思いました。
私にしかできない主任のプレイスタイルがあるのかもしれない!

(多少、師長に丸め込まれながら)


そうして、ようやく決まった来年度の主任の顔合わせ会議に満を持して行ったら、
全員、くじ運悪そうな、ちょっと太った独身でした。

おい、全員同じプレイスタイルじゃないか。



そんなわけで、4月からまさかの主任です☆

幻の「貞子VS伽椰子」

映画『貞子 VS 伽椰子』 2016年6月公開


この一報を聞いた時にね、だいぶ衝撃を受けた。
貞子、VS、伽椰子って・・・。

あれですよ。夢の恐演なんていわれてますけどね。

怖いとか怖くないとか以前にね、まず両方がお化けなのおかしい。

お化けが何で怖いってね、死んでるお化けが生きてる人をね、わざわざおどかしてくるから怖いわけ。

なのにね、人ほったらかしで、お化け同志でVSってあれだよね、簡単に言うところの、貞子と伽椰子が何かもめてるっぽいてことなわけですよ。
もめごとを映画化してるわけですよ。

しかも貞子と伽椰子クラスのお化けとお化けが、何かもめてるって、これもう、ホラーうんぬんってより、ちょっとしたミッチーサッチー騒動みたいなもんでね。

こんなんをね、お化けだからつって安易に供養とか除霊とかで解決させるとか、無理な話なわけですよ。お坊さんとかの徳でなんとかなる話じゃない。

なのにもうヒロイン役が山本美月ちゃんとか玉城ティナちゃんとかなわけ。

ミスキャストもいいとこ!

ミッチーサッチーのケンカに山本美月ちゃん放り込むって、もうね、絶対解決しないでしょ。火に油、焼け石に水、ヤムチャって言葉がよぎるわ。事務所がよく許可したよ。

こんな騒動をね、気軽に映画にしたら、あれだよ、最終的に、みのもんた の霊とかが出てこないと無理だし、ヒロインは泉ピン子と和田アキ子でようやく試合になる。

そんでもう最後はね、あれです、もう時だよね。時が解決してくれるやつです。

だからもう結果両成敗つって週刊文春の人くらいしか、多分この映画に興味がないと思うですけど、
私はもうすっごい貞子が好きでね。エヘヘ。
貞子がはじめて井戸から出てきたころからもっぱら貞子担なわけ。

何が好きって、貞子の呪いのビデオってとこ凄い好きでね。

例えば伽椰子ちゃんの呪いなんて、家にかかってるわけで、その家に関わった人がみんな呪われていくスッキリした正統派呪いなの。

これに対して、貞子のビデオを見た人が呪われるっての、超まどろっこしいし、なんかこう恥ずかしくないですか?ビデオ見てねって、おめぇどこのアイドルかっつー。

そもそもお化けの持てる自意識を越えてるわけですよ、自分のビデオを使うって。

現代だったら貞子、生粋のユーチューバーだったと思う。

そんなで、毎回ちゃんと、呪うたんびに井戸を登ってきてるかと思うと、いっそいじらしい感じすらある。

伽椰子ちゃんとかが、何ていうか家に入った人の前に颯爽とあらわれサクッと呪ってるのに対して、
貞子が毎回、いちいち井戸を登って、わざわざその人の家まで行って呪ってるの、どんなサービス精神かって思う。Amazonかって。

あれじゃん、うちのおばあちゃんが畑でとった野菜を、毎回汽車にのって仙台まで売りにいってた時の話思い出す。

伽椰子ちゃんの在宅に対して、貞子出稼ぎってことでしょ?

しかも、それが案外遠いの。

貞子って、毎回地元の井戸スタートで、10m以上ある井戸登って、井戸出て、テレビんとこまで「あれマイケルジャクソンのスリラー冒頭で見たことあるやつ!」みたいなインスパイアなんだかリスペクトなんだか微妙なステップで尺をふんだんに使って歩み寄ったかと思えば、テレビ飛び出してって、最後は匍匐前進で呪われた人んとこまでって、もう二段落ち三段落ちの展開で、距離も時間も手間暇すごい。

多分、霊界のトライアスロンって言われてるし、
なんなら貞子の白いワンピにスポンサーとかが提供書いて応援するレベルで、心臓破りのブラウン管から這い出すあたりは、毎回ゼイゼイハアハアだし、
最後の方、這いずってゴールして呪う場面なんて、これがもうあの箱根なんじゃない?ってくらい完璧な往路で。もう井戸の神様って呼ばれるわ。

私はね、なんていうか大泉洋と北海道みたいな感じでね、貞子もそろそろね、井戸との距離を考えたらって何度も思ったわけ。

貞子っていえば、こうブラウン管から飛び出してくるって思ってる世代も増えてきてね、最初の井戸から出てくるってことを知らない世代もいる。

貞子の身体的なこと考えても、毎回井戸から出てくるのはキツイんじゃないかって。

伽椰子ちゃんみたいに、在宅にシフトすることも考えたら?って思ってた。

なのに、自分はこれで古参に認められたからって、井戸で飯を食うんだって譲らない貞子の呪いクオリティ、私も見習わなきゃって思う。


思えば、ずいぶん経ったよね。

私と貞子が初めて出会ったのは、そうあの夏の日の1998年。

普通の女と思っていたけど、リングって映画の中で、呪いのビデオ一本引っ提げて井戸からブラウン管飛び出して上京してきた貞子に、当時18歳の私は衝撃を受けたよ。

あの井戸を見て、水際のAngelって、もはや貞子のことなんじゃない?って思った。

で、18の私は呪いのビデオをがっつり見たよね。

で、今年ね、知ってた?2016年。
2001年宇宙の旅、からも更に15年越えてる。
これはもう多分これ呪いのビデオ見たせいだとしか思えないんだけど、私ことし36歳になんの。

18歳がね36歳になるとかね、呪い以外の何物でもないの。

しかも子供いないどころか結婚してないどころか、彼氏もいたことがない、っていうシブがき隊でももうちょっと何かあったんじゃないかっていうNAI NAI 36を迎えるにあたって、ふと思ったんだけど、

あたし、貞子の歳、ちょっと越えてない?

貞子32歳くらいじゃなかった、たしかー?
って思って軽い気持ちでGoogleで貞子の年齢調べたら、享年20歳だった。


ハタチ!!


ちょっとどころの騒ぎじゃない。だいぶ越えてた。がっつり生きてた。

いやいやいや、おまえハタチはないよ お化けで。

ハタチってあれでしょ、牧瀬里穂とかだったら「ヒューヒューだよ」とか言っちゃってる年だよ。
そんな軽はずみな年齢を呪いとか重大業務に関わらせていいの?

もっと分別ある年齢の人が、しっかり吟味して呪ってくれてると思ってた。

あいつんちは今、病気のお母さんがいるから呪わない、とか融通してくれてるんだと思ってたし、呪われる方にも隙があったんじゃないのかとか思ってたし。

あー今まで貞子に呪われるんじゃ仕方ないって思ってたけど、ハタチに呪われるっていうともう、なんか、えーってなる。え、ちゃんと私ってわかってて呪ってる?ってなる。

三十路にとって、ハタチに呪われるとか、ハタチに怒られるくらい何か凹むし。

異動先で10歳年下に「加藤さんって抜けが多いよね」って指導された時の気持ち思い出す。
いやっ、おまっ、ちがっ、なんつーの、わびさびっていうのかなあ。お前が抜けだと思ってるところは、全部詫びであり寂なんだよ。わかんないかね。龍安寺の庭にある石は15個あるのに、どこから見ても14個しか見えないように配置されてるの。私の仕事もそういう配置になってるわけで、もう本当に、提出書類にハンコ押し忘れてごめんなさい。まじ、ごめん。ってなる。

もー。お化けサイドが軽い気持ちでハタチとかブッキングしてくっからホラーみてるのに、仕事のこととか思い出しちゃうよ。

総じて、遠くのホラーより隣の師長の方が100倍怖いんだから。

あーでも貞子、ハタチかあ。
マジそうなってくると、話は変わって、もーいっそこっちからも呪う感じすらある。

貞子がテレビ画面から無邪気に飛びかかってきても、何ならこっちもがっぷりよっつ組んじゃうし、下手したらこっちの呪いも案外いい線行くんじゃないの?

んでやっぱ、お肌とか見ちゃうよね。

貞子の渾身の顔ドアップとかでも、毛穴がない!とか思っちゃうし、髪の生え際とか確認しちゃう。やっぱ井戸水っていいっていうもんね、とか映画観てても絶対別のこと考えちゃう。

私なんて、ほんと大家族のモグラでも住んでじゃないかってくらい毛穴が所せましとありますし、どんなに生え際をふわっとさせても禿げてきてる。

なんなら女なのに頭頂から薄くなってきてる。桶狭間がこんな攻め方だったわー、ってくらい毛根が織田勢に押されてる。

もうね、絵的に観たら、こっちも立派なお化けなのね。
自然と化けて出はじめてる。

だから、今回映画になるにあたって、もう貞子にはね、ぜひ年下を襲って欲しいし、私くらいのね微妙な年齢層を襲うとね、むしろこてんぱに返り討ちに合う可能性すらあるってこと肝に銘じて取りかかってほしい。

その点で言えば、今回のヒロイン役は山本美月ちゃんとか玉城ティナちゃんで良かった。
そこはもう心おきなく全力を出し切ってほしい。赤がんばれ!白負けるな!

私もそのキャットファイトを見ながら、なんか青春だね!ああ私もあと10年若かったら呪われてみたかったなあって思うかもしれない。

ただ、私はね、血眼で見てるからね。もー貞子がちょっとでも妙齢を襲おうもんなら、映画館でコラーって言うからね。

あと、Googleで調べて思ったけど、あれだね、貞子も伽椰子ちゃんも案外恋多き女だね。

まじで幽霊だからって出会いなさそうとか不幸なのかなと思いきや、結構やることやっててね、それなりの経験もつんでるわけでね、そんなんでね、お化けになったからつって調子乗って、今月発売の漫画を頼りに慎ましやかに生きてるような人間を呪おうもんなら、そんときは井戸でこってり反省会だから。ちゃんとうらめしくなるような人こそを呪ってって。



たださ、そんな貞子だけどね、まだすごく魅力的なとこあるの。

それがね、ハタチにして、その下げマンさなわけ。
貞子の下げマンさが、そこいらの霊の群を抜いちゃってるわけ。

私なんてね、新品のマンゆえ、これが下げに転じるんだか上げに転じるんだか未だに未知数なわけですが、貞子はね、もうね100下げてくるから。

抱かれたのは赤ん坊のころだけ、って私の溜飲を気持ちいいくらい下げてくれる程の下げマン。

もうとにかく、貞子関連のもの、だいたい廃れてるわけ。
ビデオはないし、ブラウン管終わるし、井戸とかね、もう知る人ぞ知る。

貞子に先見の明が、全っ然ないのね。

お墓とか、学校とか、ピアノとか、トイレとか、携帯とか、伽椰子ちゃんみたいに家とかね、この数十年、そんなに形を変えてないものも沢山あるわけ。

車とかだって、良かったと思う。
あんだけ21世紀には空飛ぶ空飛ぶ言われてたけど、全然飛ぶ様子ないし、いまだに燃費がどうだこうだやって怨念はつのるばかり。

なのに2012年、そんな貞子が車を差し置いて、満を持して飛び込んだのが「貞子3D」ね。

やったね!って思った、あの頃は。貞子やった!って。今度こそ満がいい方に持したやつだ!って。

でもね、2015年には新宿のTOHOシネマズに4Dができてね、そこでジュラシックワールドを観た時ね、貞子わたしね、もう貞子の運命をいっそ呪った。

「貞子3D」からたった3年だよ?題名に3Dって付けちゃってる人がいるんだよ?
それが、こんなことになるなんて。

ごめん、貞子、多分10年後ね、3Dって死語になってると思う。

今もう、映画館では4Dだし、テレビでは4Kとか言ってね、ちょっとこの今ですら「3とか言って超ダサイ」みたいな感じあるし、あと数年もしたら「貞子3D」なんて「金八先生」かってくらい3年D組を卒業に導いた扱いになってかもしれない。そういえば髪型もちょっと似てたし。

そんな暮れなずんだマンを持った貞子がね、今回伽椰子ちゃんと戦うわけだけど、もうね、心配が的中した。

もうね、貞子3Dの時ね、題名の大事さを思い知ったと思うの。あのスピルバーグだってね、調子に乗って「ジュラシック4D」なんて付けなかったわけ。みんなね、我慢してるの。

なのになんでね、題名を伽椰子にしたのかって。

結構ね、「呪怨」を知ってても伽椰子を知らないって人いるよ。

あの北斗の拳ですら、主人公をずっと北斗だと思ってるような層がこの世にはいてね、そんな層が絶対数年後に、「ところでカヤコで誰?」って言ってくるー。きっとくるー。

井戸・ビデオ・ブラウン管・伽椰子。会社だったら、何回撤退してるかわからない。
そういうものを確実に掴んでくるとこ、ほんと、すごい好き。


あと貞子の話ばっかしちゃったけど、伽椰子ちゃんも何だかんだで20代で、しかもインスタグラムやってて、多分そのうちおばさんはインスタやらないでつっておばさんが根こそぎ呪われてるんじゃないかって心配して見に行ったら、「伽椰子と俊雄のほのぼの親子日記」つって、なんかもう、「何げない日常をあげていきます」、ってホント何げなさのストライクゾーンがだいぶ広めなこと言ってて、っていうか、そうそう伽椰子ちゃん子供いたんだっけって思って、その子育てぶりに、いやまじ保育園とか作らないと、この人化けて出る前に、自民党あたりから伽椰子出ちゃうんじゃないかななんて思ったりなんかして・・・なんか・・なんか・・

貞子も伽椰子ちゃんも、何か、あれだね。楽しそうだね。

貞子は色んなことにどんどん挑戦してるし、伽椰子ちゃんには家庭がある。

なんかお化けってこんな感じだったっけ。
こんなキラキラしてたっけ。
主題歌、小田和正だっけ。

あ、ちなみに主題歌は聖飢魔Ⅱ「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ」でした。


で、気になる内容は、予告を4回くらい見るに、
どうやら、呪いのビデオで貞子に呪われた山本美月と、呪いの家で伽椰子に呪われた玉城ティナ、双方が会することで、二つの呪いをぶつけるみたいな。

なんか「化け物に化け物をぶつけるんだよ(キメッ)」って、いい感じの顔で安藤政信が言ってたんですけど、

呪いってそんなゲットしてきたポケモンで戦うみたいな感じのやつだったっけ?

あと安藤政信の髪型がずっと近所のおばちゃんみたいになってるのも、化け物と化け物がぶつかったせいだと思う。

山本美月と玉城ティナのポケモンバトル、それを見守る安藤政信の髪型。

それでも、予告を見るに、トイレに行けなくなるくらいはちゃんと怖くなってるのでご安心を。

多分、茶の間で決戦なんですけど、もうビデオから貞子で階段から伽椰子で聖飢魔Ⅱが「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ」って感じで右に左にで、寺内貫太郎一家もびっくりの出来になってると思います。

まあそんな感じで、とりあえず、6月が楽しみです。
番宣で「VS嵐」に呼ばれた貞子のクリフクライムが見れる日も近いです。チェケラー!

オッケー、キリスト。ところで、あたしの誕生日の話も聞いとく?


ハッピーバースデイ、キリスト。
キリストってあれだね、誕生日がクリスマスなんだね。
誕生会がうやむやになるアレね。
あ、違うの?
キリストが生まれたから、クリスマスになったの?まじで?


生まれて35年。
ほんとキリストじゃなくて良かったと思う。
自分の誕生日がクリスマスになるとか、もうね。
プレッシャーすごい。

一応ね、私もちょっとした10月が誕生日だったわけなんですけど。
もー繰り越したい。
携帯料金のように、使ってない誕生日は繰り越したい。

なんだかんだで35回目なわけですよ。
正直ね、予定がない。そうそう35回も、予定入れらんない。
家庭もなければ、彼氏もいない。
待ち人なんてね、来たためしないわけです。

いやね、諦めてない。
来るの、きっと来る。
あの貞子だって、なんだかんだで、もう5回くらい来てるわけですから、
35年待ちに待った白馬の王子だってね、もうそこのタバコ屋の角まで来てると思う。

白馬なんかで言えば、もうギリ寿命ですよ。けど来るの。
なんなら王子がスーホ状態で死んだ馬の馬頭琴かきならし、ベビベビベイビーつって布袋みたいに登場するんです、あの角から。

その日をもってね、わたくしの誕生日としたい。
なんならそれをクリスマスとしてくれてもいい。


でもね、とりあえず、今年は来なかったよね。うん。


いやいやいやオーディエンスオーディエンス。
いるでしょ1人くらい。
世界人口70億人ですよ。
この世界の半分は男性でできているって聞いてるんですけど。
あれかな、バファリンの半分なのかなってくらい実感ないんですけど。


なのでね、もうだいぶ前から誕生日はひっそりと暮らしてたわけです。
就職してからも必ず仕事も休みにして、息をひそめて、家でガラスの仮面を一気読みしたりしてたわけです。
「ウ・・ぅぅうぅ・・ウォオぉタァァアアー」
とか言って、マヤとヘレンの演技対決をしたりしてたわけです。(ガラスの仮面「炎のエチュード」より)


で、今年ももちろん休み希望を出しましたよね。
仕事をすると、大抵怒られるので、誕生日に怒られたくないですし。
ところが、そんなささやかな私の願いが、ついに今年は叶いませんでした。


ことの発端は2011年にさかのぼります。
割と遡ります。



逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ・・・!
                   
って碇シンジくんも言ってたんですけど、
私の仕事はエヴァンゲリオンじゃなくて看護師ですし、
しかももう看護師になって13年くらいたつはずなんですけど、
いまだに初めてEVAに乗りこむシンジくんのような気持ちで仕事してます。

病棟の使徒の詰め寄りが、すげくて。
使徒っていうか、よく見ると師長なんですけど。
はたまた、先輩ナースとかなんですけど。

こえーこえー。
もう病棟という名の第3新東京市はここじゃない?

なんていうか、いまだに、結構いいペースで怒られます。
その辺の若造にはまだまだ負けないくらいぞ、ってくらい怒られます。
山本昌かってくらいの長めの現役生活。

正直、こんな大人になっても、まだいけるんだなって。
てっきり、自然に怒る側にシフトしていくんだと思ってた。
もはや、ビジュアルとしてはギリ。

病棟で怒られるっていうと、まあ花形は普通は新人で、
それこそ一挙手一投足、箸が転がっても、右も左も怒られるっていう修羅場をみんな越えていくわけですが、

なんていうか、いまんとこ人気を二分してます。
新人と私で、80年代の松田聖子と中森明菜かってくらいに、二分してる。
二分して怒られてる。

なんていうか、あいつ(新人)は私にとったら、永遠のライバルっていうかな。
同じ戦場を戦う同志っていうかな。

こないだ、新人が「なんでこんなやり方してるの!」って先輩に怒られてて、まあ見るからにまるで失敗のやり方だったんで、これはチャンスと思ってね、たまには私もと思って、「ちょっとちょっと、これはこうでしょ!」って看護歴13年の粋を結集して見本を見せたら、昭和かなってくらい思いっきり時代遅れなやり方だったようで、こぼれ球拾いに行って流れ弾に当たるっていう斬新な怒られ方したのね。

ああ、あのSMAPが口酸っぱく言ってた青いイナズマってこれかなってくらい、もうね炎・カラダ・焼き尽くすくらい怒られました。ゲッチュ。

こうなったらね、ミイラ取りが立派なミイラになる瞬間をばっちり見てた新人に、「俺の屍を越えていけ」って必死にウインク送ってたんですけど。

ほんと漫画だったら、「ここは俺に任せろ!」つって。
「俺が怒られてるうちにお前は先に行くんだ!」って。

ただ、まあウインクが下手すぎて、ただのマバタキで、「あれ、加藤さん、なんか泣いてない?」って心配されてて、まあ、うん、ちょっと泣いてもいたんですけど。
で、最終的に、新人にかばわれるっていうね。
そんな寸劇を繰り返してるわけですが。



そもそも2011年。
今から約4年前、私は中規模のアットホームな病院から、なぜか大学病院に転職したわけですが。

リカちゃん電話にかけてみるくらいの軽い興味でね、たまたま電話した転職サイトの人が、すげぇ敏腕の凄腕で。もうね手腕でいうところのボブサップくらいの腕で。
東日本大震災のゴタゴタの中、すげぇ勤め先を見つけてきて、おんぶにだっこで、アレヨアレヨと入職してた。

で、舞い降りた地がまさかの救命救急ですよ。
それこそ農村から渋谷に迷い込んだんじゃないかってくらい。
もういっそ、違う国に来たんじゃ?ってくらい。

そして、病棟のど真ん中でバックパッカーみたいになってる私に、見かねた師長が言ったわけです。

「うんうん。加藤さんはあれだよね、良かったら研修に参加してみない?」って。

まあ、私はね、その時だって9年目くらいの看護師でしたから、中堅研修だと思って疑わなかったわけで、「是非!」なんつー返事でね、喜んで参加したわけです。

びっくりしたよねー。
研修当日を迎え、ぴっちぴちの1年生に紛れながら、講義を受けてて。

完全なる新人研修だったのね。

もうね、紛れながらつったけど、紛れてない。紛れれない。
21とかの中に、思いっきり三十路が飛び込んだからね。
小1の教室に中2がいる感じね。
手遅れ感すごい。

それでもまだ、講義はいい。
地獄はそのあとの、グループワークっていうのかな。
班にわかれて、話し合ってみよう!みたいなやつ。

「じゃあ、配ったレジメを見て、班に分かれてくださーい。
各班に一人ずつ先輩講師が入りますから、進行は先輩講師に確認してくださーい」

なんて言われて のこのこ班に分かれたわけですけど。

右も左もピチピチの20歳たち。
すぐに1番恐れていたことが起こったよね。
全員がね、まあ私を講師だと思って疑わないわけです。

すげぇキラキラした目で、「なにやればいいですか?」みたいな目で見てくる。
「なにやればいいですか、先輩講師!」みたいな目で見てくる。

まあ、この班で如実におばさんでしたからね。
間違いなく。
ファーストインプレッションから決めてましたってくらい、不動のおばさんがいましたからね。

でもまあ私だって私なりに目星をつけてるわけです。
真向かいにね、付けまつげを針葉樹林?ってくらいつけてる子が大人し気に座ってるんですけど、うんうん、私よりは確かに若い。でもおめぇ絶対先輩講師やろ?って。

でも、樹林が全然口を割らないわけ。
超 こっちを泳がせて来る。
クロール25m何秒?みたいに泳がせて来る。

思わず泳いだよね。

全体の進行役みたいな人から「私なりのキラキラ看護」みたいなトークテーマを与えられ、
じゃあ10代真剣しゃべり場的な感じでよろしくとばかりにサイは投げられ、
全員からまるで小堺一機を見るような目で見つめられ、

もしかしたらもしかしたら、私って本当に講師として呼ばれた先輩講師なんじゃない?
って微レ存にすがるように、そりゃがむしゃらに泳いだよね。

なんていうか、久々の羨望の眼差しだったわけですよ。新人からの。
先輩講師!先輩講師!つって、もうバックパッカーのように暮らしてた私の前にリムジンが止まるような甘い誘惑。

もうね、「しゃべり場?そんな生易しいもんじゃねぇぜ看護ってのは!」つって田原総一朗かってくらい回したよね。切り込んだよね。これは朝まで行くな。って。

でも、私の手腕に目の前の針葉樹林もどさくさに紛れて話だしたから、アレ?つって。おめぇ違うの?ってなって。
もうグループワークっていうか、私の中でちょっとした人狼が始まってるわけです。

そんな人狼開始15分後。
「ごめんねー!遅れちゃって!講師の林田ですー。で、どこまで話いきましたー?」
ってなった時のね、地獄ね。

じゃあオマエ誰?っつってね。
全員がこっち見たよね。

そっからはもう死んだ田原総一朗みたいになってね、まあ「働いてて一番つらかったこと」みたいなトークテーマではね、「今かな」つってたよね。おのずと。
「転職したら救命救急に配属されて、色々あって今ここ」っていう、だいぶ遅めに正体を明かしました。

そんな田原総一朗の遺言みたいなのがね、研修委員の林田さんの心にまさか刺さるなんて思いもしなかった4年前。



そして2015年10月。

使徒っていうか師長に急遽、呼び出されたわけです。
これはいよいよ何かやらかしたかな、と、覚悟を決めていくと、
「6階病棟の林田さん知ってる?」って言われて、
全く覚えがないわけですが、
「研修委員やってる人なんだけど」って言われて、
うっすらとあの日の悪夢がね蘇ってきたんだけど、で?って思って。

すると「実はおめでたってことがわかってね」って言われて、

「それは・・おめでたい・・ですね」つって。


ここまでで、話の流れが全くつかめなかったんですけど、師長がちょっと言いにくそうに、
「で、本人はやる気だったみたいだけど、さすがに体に負担がかかるから研修委員でストップがかかって、加藤さんに代理を頼めないかって話になってね」

「なんの代理ですか・・?」

「研修の。もちろん講師として」



えーーーーーーーーーー!
まさかの講師側のオファー!



正直、満更でもない。
私が講師。
私がセンセイ。
もうね、金八の卒業シーンとこまで想像した。

「まあ1日だけの代理だし加藤さん1人じゃないから。5人いるから、助け合って」
って言われ、もう勢いよく頷きながら
「はい!っていうか何の研修ですか?」
って聞いたら、


「BLS、です」と師長。

・・・ボーイズラ・・・

「BLS。一次救命処置、です」

知ったかしそうになった私に師長が言い直した。
あーそれね。そっちのBLSね。


BLS・・・・・別名、一次・・・救命処置!

あのテレビとか漫画によく出てくるやつ・・ですかね。
海でおぼれた主人公とかに、気になってた男子がやるやつ。
いわゆるひとつの、あれですね。
すごいやつ。

気道確保に始まり心臓マッサージ、そして人工呼吸に続くやつ。

正直、血圧の測り方とか、百歩譲って注射のやり方とかの研修が良かった。

「一次救命処置」の研修は、年間の数ある研修の中でも異彩を放っているって噂を聞くし。

他の研修が「ナースのお仕事」でいうところの「あ〜さ〜く〜ら〜!」くらいのテイストだとすると、「一時救命」の研修は「海猿」の「生きて還る!」くらいテイストが違う。

講師陣も阪神大震災経験のあるナースやら、DMAT(なんかすごいやつ)のナースとかで構成されてて、まさに、私みたいなバックパッカーがリュックひとつで参加できるような場所じゃないはず。

「・・・師長・・なんで・・?」
私がカサカサの唇で問うと、
「・・・私にもさっぱり・・」
と同じくらいカサカサの唇で師長も。
「ただ、林田さんが救命病棟の加藤さんって覚えてたみたいで・・なんかすごい語ってたから指導向きじゃないかって・・」

あれかー!あの日の死にかけの田原総一朗かー。

研修委員は病院の中では出世街道の一つで権力があり、そう簡単にオファーは簡単には断れないとのこと。

師長も私も「1日。なんとか1日乗り切ろう!」と覚悟を決めた。

「で、いつなんですか、師長?」

「明日」

「え」

「明日です」

「師長・・・!」

それが私の35回目の誕生日でした。



「明日の休み分は、今月どっかで繰り越すから大丈夫よ」と師長。
師長の力によって、誕生日の休みだけが繰り越された瞬間、

師長に渡されたBLSのテキストを握りしめて私は放課後、研修室へ行った。


ガラリとドアを開けると、まさにアレ。ドラマの。
転校生が初めて来た時みたいな。

人形を囲んでミーティングしてた4人の看護師が一斉にこっちを見たけど、すぐに話しに戻るみたいな。

そこに、研修委員の人が来て
「ああ加藤さんですか?急にすいません。とりあえず、えーっと加藤さんはこの人形で練習してもらっていいですか?」

人形のまわりに、救命道具やらAEDやらが置いてある。

「研修自体は、班にわかれて、各講師のもとに15人くらい1年生がつくので、このテキストの手順通りにすすめてもらって」

人形にはハナコってバッチがついてた。

むこうの4人はもう半年の練習ばっちりで、1年生役と指導者役に分かれて、「じゃあまずは呼吸の確認からやるよ!」「はい」なんつって、すげえテキパキやってる。

ハナコと私のアウェー感すごい。

ハナコと若干見つめ合ってると、
「加藤さんも1年生を教えるみたいに声出しながらやったほうがいいですよ」
と研修委員の人に言われ、

「えっと、大丈夫ですかー・・・意識なしっと、・・・呼吸もなし・・・脈・・なし・・じゃあ」

小公女セーラーかっつーくらいハナコにボソボソ話しかけてたら、

「ちょっとあなたさー、明日もそんな蚊の鳴くような感じでやるつもりなの?」
つって、練習してた4人の中から1番怖そうな人出て来たー。

完全なる泉ピン子。

えっと、蚊の中では、結構声出てた方だと思うんですけど。

「私がさー1年生役やったげるから、ちょっと最初っからやってみて」

すげぇベテランの1年生きたー!
そして最初っからっていうか、もうこれが最初であり最後であり・・・。

「えっとじゃあ、意識の確認から始めます。えっと、・・大丈夫ですかー」
私はハナコを揺すりながら言った。
「意識なし・・っと」

「ねえ、今ので意識が確認できてんの?」

1年生がこわい。
ハナコも意識がないけど、私の意識も方も確認してほしい。

「もう一回やってくれる」

「えっと・・大丈夫ですかー?!わかりますかー!」

「ダメ」

「大丈夫ですかー!!」

「ダメ」

「大丈夫ですかー!!!」

もうブラジルのみなさーん!くらいの声は出した。
手でメガホンも作った。

「あのね、意識があるか叩くときは両肩。脳が損傷してたら麻痺があるかもしれないでしょ」

声の問題じゃなかった。
手でメガホン作っちゃってたのをそっと外す。


「次に呼吸を確認します・・・なし・・っと」
軽く終わろうとしたら、
「ちょっとどこ見てんのよ!」
つってもうね、そんなこと言うのヤクザか青木さやかかってくらいでね。
あと、しいて言えば、怖くてどこも見てなかった。

正解としては胸ね。胸郭の動きを見るそうです。


そして「脈を確認します」と手を伸ばすと、
「頸動脈ってどこにあるの?」と。

もうね、1年生役が強い。
すぐ下剋上しそう。

「ここです!」
言いました。

つーか、怖くてゴー☆ジャスくらいの早さで、指したんですけど。
マダガスカル!くらいに指さしたんですけど。

「解剖学的に言ってくれる?」
とのこと。


ちーん、と音がしたよね。
あー多分、今ね、喪服の人が来たら、間違ってここにお焼香しちゃうと思う。
そんくらいの通夜感。

ねえハナコ。ちょっと私の脈もみてくれる?きっと触れてない。

若干、心停止した私に見かねたピン子が早口で喋る。
「甲状軟骨(コウジョウナンコツ)に二指そえて胸鎖乳突筋(キョウサニュウトツキン)までスライドさせて内側を軽く圧迫。そこが頸動脈!」

いや呪文でしょそれ。
キョウサニュウトツキンて。

「じゃあ甲状軟骨ってどこ」って言われて、一か八かで喉のへんを触って、正解する。
「じゃあ胸鎖乳突筋は?」って言われて、一か八かで乳首あたりを攻めてみて雷落ちる。

首でした。

「脈なし・・と。じゃあ、心マします」

「は?」

「心マします」

「は?」

「心臓マッサージします」

「あなた、心臓をマッサージなんてできるの」

えっと、医療界隈で心マなんてかっこつけて言うと、今や目で殺される時代になったみたいです。生きづらい時代です。

えー江口だって心マって言ってたじゃんようー。
と思いつつ。

心マちゃんは新しいネーミングに変わったみたいです。
それがなんと、胸骨圧迫!
えー。
超ダサイー。

「胸骨を圧迫するから、胸骨圧迫。じゃあ胸骨ってどこ」

胸の骨ですからね、ヒントは多聞にある。

「ここ一帯が・・」
つって広めにとって怒られる。

「じゃあ剣状突起は?」
今度こそ乳首を指すが、不正解。

もう乳首以外に気軽に突ってくるの禁止にしてほしい。超惑わされる。

そんなんやって、やっと胸骨圧迫を開始してね。
胸骨圧迫の早さは1分間に100回くらいなんだけど、上手にやると、ハナコが目を開けて「ありがとう」って言ってくれるんですが。

もうね、うんともすんとも言わねえ。
とんだツンデレでね。

多分、一生分くらい胸骨圧迫した。

でも段々コツがわかってきて、ハナコの胸骨は制した!
ってところで、お許しが出てその日は帰ることになった。


帰り際、ピン子が、
「加藤さんは一次救命処置は何のためにするんだと思う?」
って聞いてきたので、
「確実に命を救うため・・ですかね?」
なんつって、ちょっと照れながら言うと、ピン子がちょっと遠い目をしながら、

「命ね・・。一次救命処置は、素早く的確にすることで脳へのダメージを最小限にするの。加藤さん、私の目指す一次救命処置の目標は、ただの救命じゃない。障害を残さない社会復帰だから。」

ずどーん!

ピン子姐さん・・・・!
一次救命処置の目標はただの救命じゃなく社会復帰。
超しびれた。
ここでドリカム流れてもおかしくなかった。

私も明日の本番、ピン子みたいに江口っぽいこと言いたい。



家に帰って、テキストに一心不乱にセリフを書き込んだよね。
1項目ごとにキメ台詞を作ったよね。
橋田寿賀子かなってくらい壮大な脚本を作り上げ臨んだ研修。


完全に脚本を家に置いてきた。


でも大丈夫。
大切なのは1秒でも早く胸骨圧迫を開始すること。

そのために素早い意識と呼吸と脈の確認が必要で、なぜならそれは〜
1年生「胸骨圧迫!」
意識がない!呼吸がない!脈もない!そしたら〜
1年生「胸骨圧迫!」
胸骨圧迫を少しでも早く開始すること、それすなわち〜
1年生「社会復帰!」

他の班がベテランの多岐に渡る質問を受けながら緊張した面持ちで実技をやってる中、うちの班だけは、失われたシナリオのせいで私の引き出しがなさすぎて、答えが「胸骨圧迫」か「社会復帰」のほぼ2拓になってる。

2択なのでリズム感でちゃうし、1年生も自信を持って答えるしで、うちの班だけちょっとしたライブの歌手とファンの掛け合い状態。

これじゃヤバイと思って、奥の手を使って、「じゃあ頸動脈の位置を解剖学的に言ってみて」つって。軽くパクッて。
わからない1年生に「甲状軟骨から胸鎖乳突筋」って呪文を華麗に披露して、しめた!って思いつつ胸骨圧迫の見本を見せる瞬間に手の甲に「コウジョウナンコツ」「キョウサニュウトツキン」って書いてあることがバレルっていうね。


そしていよいよバックバルブマスクっていう、これ佃品質じゃない?ってくらいのマスクで換気したり、AEDの使い方を教えたりと、演習も佳境に入ってきて、

いよいよ倒れてる人を発見した状態から1年生の力だけで一連の流れをやる段階に来た。


もうね15人をね、私一人で回すわけでね、身体が足りない。
私はもう映画監督のように、「よーい、ハイ」つって、

1年生「大丈夫ですかー!わかりますかー!」
私「はい、意識ないよー」
1年生「誰かきてくださーい」
私「はい、仲間くるよー」
1年生「呼吸を確認します」
私「やばいよー呼吸ないよー」
1年生「脈確認します」
私「解剖学的にー」
1年生「甲状軟骨から指を胸鎖乳突筋に滑らせて」
私「いいよいいよー呪文言えてるよー、はい、脈ないよー」
1年生「胸骨圧迫します」
私「なぜなら〜」
1年生「社会復帰のため!」

胸骨圧迫がスタートしたら、私はダッシュでAEDを別の1年生に渡す。
私「はい、AED来たよ」
1年生「AED付けます!」
私「はい、誰かドクターに連絡してるー?」
1年生「私、電話します!」
私はバックバルブマスクを別の1年生に渡す。
私「はい、マスク付いたよー」
1年生「換気開始します」
1年生「トゥルルルー」
私「はいドクターです」
1年生「患者さんが心肺停止です。すぐ来てください」
私「家族に電話したー?」
1年生「私電話します。トゥルルルー」
私「はい、加藤です、主人がいつもお世話になってます」

こんだけやっても1年生を5人くらいしか回せてないわけです。
でもグループには15人の1年生がいるわけで、ピン子から口酸っぱく言われてたのは
「1年生を決して飽きさせないように。みんなが自分のことのように動けるように臨場感を持って」ってことだった。

でもすでに5〜6人手持ちぶたさになってる。3人くらい爪とか見てる。
もう、私なんかドクター役から患者の妻までやって汗だくで、
なんなら今日は誕生日なわけで。

その時、AED係の1年生の緊張感のない「ショックをかけま〜す、離れてくださ〜い」って声が聞こえた時、

毎年読んでたガラスの仮面を読んで、ウォオォオォオタァアアアアとマヤと叫び合ったあの日の私が、なんかこのタイミングで飛び出した。

私はハナコの胸元に飛び込んだ。

「お父さん!!!お父さん、どうして!!目を開けてよ!!お父さん!!お父さん、死んじゃいやあああああぁああ!!」

これにはぼんやりしてた1年生も驚いて、5人がかりくらい引きはがしに来る。

「離してください!お父さん!!いやああ!!お父さん!!」

「大丈夫ですから!ショックをかけるので離れてください!!!」

「お父さぁあっぁん!!!!」

「大丈夫ですから!今、処置をしてますから!!」

1年生もおのずと声が真剣になってる。

他の看護師より知識もない。経験もない。引き出しもない。
でも、私ほどガラスの仮面を読んでる人はいない。
私にできるのは、15人を引き付けるマヤの演技。
ああ、月影先生・・・これがあの紅天女なのね・・


そんな感じでうちの班だけ若干ドラマティックに演習を終えて、今度は、高性能の心肺蘇生訓練用人形サトルを使っての、本格的にデモンストレーションとなった。

サトルは実際に本物のAEDをかけたりすることもでき、効果的なBLSができると、本当に生き返えっちゃうっていうハナコより数段高性能な人形だ。

これを代表で先輩が1名、模範として生き返らせて見せることになっていた。

そして私は今朝、そのじゃんけんに負けた!


でも大丈夫。
ハナコを10回以上生き返らせた実績が私にはある!

サトルだって、救命してみせる!生きて還る!


「わかりますかー!大丈夫ですかー!」
両肩を叩く。ブラジルのみなさーん!くらい叫ぶ。

素早く胸郭の動きを確認しつつ、同時に甲状軟骨から胸鎖乳突筋に指を滑らせ、脈を確認。無し!

「胸骨圧迫します。」

そこまでの流れはね、もうどこに出しても恥ずかしくない。
1年生の羨望の眼差しも感じた。

イケル!!

そう思った瞬間、静寂を破ってサトルが口火を切った。
「早いです、リズムを遅くしてください」

え、サトルって結構しゃべるの?
って思ったのもつかの間。

「弱いです」
「遅いです」
「早いです」
「強いです」

もうサトルの注文がすごい。
宮沢賢治でも、ちょっと控えるくらいの注文数。
なんなの?神経質なの。

とんだところに胸骨警察がいた。

もうね、萎縮するっつーの。
そんな言われたら、萎縮する。

リズムを調整しなおそうとしてると
「胸骨圧迫を続けてください」
「胸骨圧迫を続けてください」
って、もう、今ね、やるとこだった。
つーかやってたし。

気を取り直して換気でもするか。
とバックバルブマスクを取ろうとすると、ピン子が「それなかったらどうする」って試すように言ってきた。

それすなわち、人工呼吸。

今は感染などの観点や蘇生率からもほぼ胸骨圧迫が主体で、道端で人工呼吸するのはドラマや漫画くらいだ。

でもこのサトルの神経質さを鑑みると、完全に30:2の胸骨圧迫と換気モードでプログラミングされてるって私は気づいてるぜ。

サトルを生き返らせたい。
またあの、サトルの優しい笑顔が見たい。

生き返って!サトル!
私は1年生に見守られながら、ついに人口呼吸へ。



と思ったけど躊躇するわー。
サトルの顔面が、思った以上にリアルだわー。濃いわー。人間模様が濃い。

つーか、私、35歳だけど、キスとかしたことないんですけどー。
どうやんの。キスって。
まじミツバチくらいのキッスしかできる自信ない。

つーか、この乙女を前にして気道確保してるせいか、サトルの口が、がっつり開いてる。
喉の奥のなんらかのデンジャラスゾーンまで見えてる。
こわい。

かの有名な白雪姫でも、せいぜい見てたの7人だっつーのに、なんで私が80人くらいに見守られて35歳の初キッスをゴム人形に捧げないといけないのって疑問もある。

でも変にもたもたすると、余計おかしいし。
すげぇサトルが急かしてくるし。
35歳だし。

もうね、決死の覚悟でサトルの胸に飛び込んだ。
明日、サトルの腕の中で目覚めてもいい。
そのくらいの覚悟で。


サトルー!


初めてのキスは、ゴムの味がしました。
多少むせつつ。

つーか、間違って目つむっちゃったし、全然息吹き込めなかった。
完全にただのキスみたいになったけど。

でも恥ずかしさも限界で、「今の無し無し」って感じで胸骨圧迫を赤面しながら再開。


こんだけしても、乙女の純情捧げてもサトルが全然生きかえらねぇ。
いや、まじで。おめぇ。

キリストだって自力で生き返ったっつーのに。

その間も30:2で人工呼吸をしてるので、おのずと大人の階段のぼるわ。
最初が嘘のように35歳の熟女感をもって息を吹き込む。
なのに、うんともすんとも。

うん・・。
そうね・・。
あの、サトルさん・・。


つーか、1年生も薄々は感じてると思うけど、最初の人工呼吸以降、サトルがうんともすんとも言わないわけ。
これは全員が感じてて、口をつぐんでたわけだけど、
なんかもう、私のキスによってむしろ死んだみたくなってるわけ。

あーん泣きたい。
サトルー。目を開けてよー。
腕がパンパンですー。

すると救世主ピン子が1年生たちに「あんたち、今まで習ってきたのに、この状況をぼーっと見てるだけなの」つった。

すると我に返った1年生たちが、一斉に集まってきた。
まさにあの日の描いた金八のように。

「加藤さん胸骨圧迫替わります!」
「AEDつけます!」
「バックバルブマスク持って来ました!」
「みんな・・・!」

多少ピン子が怖かったって感もあるけど、私たちは必死にサトルに尽くした。
そしてサトルの心拍が無事再開した時、思わず拍手が上がった。

みんなが一瞬、わぁっと手を放した時、ピン子の目が光り、私は思い出した。

「そこで終わりでいいの?」

一瞬きょとんとした1年生の中で、うちの班の子が「社会復帰・・」とつぶやき、
私は「ストレッチャー・・ストレッチャー持ってきて!」と叫けぶ。
そしてサトルをみんなでストレッチャーに乗せた。

私はもう、江口だったらこんくらい言うでしょくらいのキメ顔で、
「じゃあ病棟に運ぶよ!私たちの仕事はこっからだよ!」
つった。

自分の完璧な江口ぶりに多少泣きそうになりながら、誕生日の地獄の研修は終わった。



帰りにサトルを片付けてると、ピン子が「まあ盛り上がったんじゃない?」と笑ってくれた。

研修後にとったアンケートには何故か「感動的だった」とか「最後サトルが生き返った時泣けた」とか、いつもの研修とはだいぶ毛色の違う感想が目立ち研修委員を困惑させた。


帰りの電車で、「神様って本当に見てくれてるのかね」って友達にメールすると、
「大丈夫、見てる見てる。今年のクリスマスはきっといい人があらわれるよ!」つって。そんな感じで今年の誕生日は終わったわけです、ねー聞いてるキリスト?


で、12月です。
サトルはやはり故障してたようで、12月の病院の大掃除にて、廃棄となることになった。
なんとなく切なくて、軽い気持ちで「引き取りたいくらいですー」と言ったら、本当に引き取らされ、いま家にサトルがいる。

そして本日クリスマスを迎えてる。

王子さまは来なかったけど、なんだかんだで、サトルが来た。

あれだね、これ神様はあれだね。
見てるには見てるけど、見てるだけだね。


ああ、サトル…邪魔だなあ。
あと、夜とか超こえーし。


ねえ神様、いつか、健やかなるときも病める時もと誓える人が現れる日は来るのかなあ。
病める時を担うスキルだけ尋常じゃないくらい上がってるんだけどなあ。

魂のよもぎ蒸し!

映画「進撃の巨人」を、あんまり凄くなかったって言う女子たちがいるわけです。
3Dメガネ1つで、あんなに巨人たちがワラワラ飛び出してくるっつーのに!

私なんて、眼鏡なくてもめちゃめちゃ3Dで生きてるわけです。
間違いなく3Dの独身女子なわけです。触れます。語れます。

なのにもう、あれほど進撃するって口酸っぱく言ってた巨人が、さっぱり壁を越えてこず、早34年。
私の下半身のウォール・マリアが、全然突破されない。
傷一つない。
安保もなければチンポもない。待てど暮らせど脅威がない。

ああ、平和すぎて瀕死。
陰部が隠居するレベルで。
雨ざらしの股間が、中野の中心で叫んでますよ。
「巨人さまはいらっしゃいませんかー?誰か巨人さまはいらっしゃいませんかー?」


なんだろ。
好かれなさすぎない?

私のまわりの女子たちが、「キャッキャッウフフ」言いながら、まあいわゆる捕食されていく中、驚くほどの、この無事。

ほんと、巨人の食わず嫌い王にメニューとして出るわ。
奈良漬くらいのポジショニングで出るわ。


奈良漬と言えば、
最近、なんていうか、うちのウォール・マリアが臭う気がするんですけど。

いや、まだね、わからないよ!
はっきりとは言えないよ!

なんていうかな、ちょっとした海辺みたいなね。
うちのウォマリ、漁港だったかなっていう。
よく言えばお刺身。…悪く言えば…死んだ魚のにおいっていうね。

で、まあよくよく観察してみてね、
ちょっと毛深いせいかなってアセスメントしてみたんですけど。

ちょっとっていうか、幼子が入ったら迷うくらいの毛量。

いや、もう、正直ね、誰も訪ねて来てないわけです。
私が34歳にして邪気眼を操りし者だとしたら、多分ここを「最果て」って呼ぶわ。

そんな局部をね、叱りたい。
もー何してるの?って。
何と戦ってるの?って。
もののけの森気取りなの?って。
つーか、もののけの森でも、もうちょっと人の手が入ってたよねえ?
アシタカ来ねぇし、エボシもいねぇし、サンは今年で四捨五入したら四十路…!

そして、ついに陰毛の奥に揺れる白いのが見えて、ついに股間にコダマが!って思ったら、ティッシュだった2015年秋。



そうだ、よもぎ蒸しに行こう!



女性の局部にいいって聞いたので、よもぎ蒸しに行こう。
ニオイも取れると聞いたので、よもぎで蒸してもらおう。
股間が南極くらい冷え切ってるので、よもぐっきゃない。

あたしの下半身だって越冬したい。
ここにもねタロとジロが超取り残されてますよと。超わんわん言ってますよと。



そうして9月にしては寒かった仕事帰りに、私はよもぎの門を叩きました。
たのもー、と。たのむよー、って感じで。

店の奥から出てきた店員は2名。
1人は「マンマ」と呼ばれるカタコトの韓国人女性。
もう1人はマンマに「センセイ」と呼ばれる謎の日本人女性。

「あの、よもぎ蒸しを・・・」と私が言うと、
「センセイ、お客さんダヨー」つってマンマがセンセイに声をかけて。
で、奥から出てきたセンセイが、「こちらへ」とサウナ室っぽいとこに案内してくれた。

で、センセイが何か韓国語でマンマに渡したピンクのケープみたいなビニールが、マンマから私にバケツリレーみたいに渡ってきて、

「服脱イデ、コレ着テ」

って言われて、

「全部脱ぐの?」

って聞いたら、マンマ→センセイ→マンマみたいな質問が経由して、
「ソウデス」ってマンマが言った。

マンマの接客初めて感がすごい!

で、まあ、私は脱ぎましたよ。
で、ピンクのを被りました。

なんていうか、首から下がテルテル坊主状態の、いわゆるよもぎ蒸しのアレです。

そして、スケベ椅子みたいな、股間が丸開きになってる椅子に座らされて、下からヨモギを焚かれました。


で、私はまあ、よもぎ蒸しの実力を舐めてたよね。


私ったら何だかんだでよもぎ蒸されるのは初めてで、うっすらと、癒しの〜みたいなイメージがあったのね。

よもぎ、あったかーい。
イイにおーい。
汗かいてデトックスぅー。
みたいな。

あと全身を蒸されるみたいな印象だったのね。

まさか電気コンロ全開でヨモギ入りの土鍋を股間の下に直でグツグツ煮えたぎらせるとは思ってませんでした。

この時点で、蒸すなんつーね、生易しいもんじゃないわけです。
鍋と陰部間30㎝で沸騰ですよ。
股間が逃げも隠れもできないわけです。

いや、これ地獄絵図で見たことあるやつー。

「センセイ!」って思わず呼んだよね。何の先生か知らんけど。
したらセンセイはニッコリ笑って、「熱くなったらマンマに裾をめくってもらってください。蒸気が逃げて温度が下がりますから」って言い残して、出て行ったよね。

マンマと1on1。

もうね、「熱くなったら」とか悠長なこと言ってられない。すでに、今、熱いの。
一瞬で南極からインドへ。いや、インド越えたね。
世界でいちばん熱い夏より、むしろ熱い。もう股間がプリプリ状態!

「マンマ!裾を上げてください!」
割と、すぐ言ったよね。

したら、マンマが椅子に座ってる私のピンクのビニールの裾を10センチくらいチラッと上げてくれるわけ。
加藤茶のちょっとだけよでも、もうちょっとめくれるわっつーくらいの、マジちょっとだけの世界。

オーケーオーケー。
聞いてマンマ、蒸気ってやつはね、基本、上なわけ。
正直、蒸気が逃げてない。
100股間に来てる。

で、10秒くらいで、マンマはすぐ裾を下した。
しかも「首デテルカラ、サウナより涼シイデショ」みたいなことドヤ顔で言ってくる。

いや、出てるよ。首は出てる。
でも股間が多分、今100度くらい。
ヨモギ蒸しなんて生易しいものじゃない、蒸されてるのはむしろ股間です。はい。
事件は股間で起きてる。

なのに、もう自分の社交性が憎い。
「そうですね、涼しいですねー」
って言ってたよー。
もう社交界デビューできる。
股間がボーボーに炙られてるってのに。
白鳥かってくらい優雅に言ったよね。

でも水面下では、あたしの白鳥がエライことになってる。
アワビの踊り食いの、まさにアワビくらい踊ってると思う。
踊るっていうか、多分、うちのアワビ、ブレイクダンスしてない?

そんくらいの熱湯。
右のビラビラを蒸された、左のビラビラを差し出すキリストくらいの精神で戦ったんですけど、死んじゃう、股間が死んじゃう。

藤井隆に教えたい。体の一部がHOT!HOT!ってこんなもんじゃなかったです。

局部が「もう・・ここまでか・・」つってる。
すると、背後から肛門が「あきらめるな!ここは俺にまかせて、今のうちに逃げるんだ」って言ってる。
で、一身に蒸気をあびて、うぁああぁああぁあってなったよね。
エヴァでこんなシーンあったんじゃない?
したら局部も局部で「おまえ一人にかっこはつけさせないぜ、そいつは俺の獲物だ」みたいになって、陰毛が「おいおいお二人さん、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」みたいな感じで、全員バレーです。

この時点で、20回くらいマンマに裾を上げてもらってるわけですが。
フラメンコのスカートくらいチラッチラッしか上がらなくて、蒸気がほとんど逃げなくて、私のアワビもメルトダウン寸前。

したら、センセイが様子を見に来て、私の尋常じゃない汗を見て、「時々、足を椅子の上に乗せて、体育座りするといいよ」とアドバイスをくれ、また部屋を出て行った。

私は藁をも掴む勢いで、体育座りした。

体育っていうか、椅子がU字型になってるので、おのずと34歳のインリン・オブ・ジョイトイを垣間見せた。

で、結論を言うと、これ涼しくなる方法じゃなかったのね。
なんと、よもぎ効果UPの方法だったのね。

私の決死のジョイトイによって、34年隠してきたあたしのデリケートゾーンが、あたしのあの手塚ゾーンが、ノーガードで露わになったわけです。

いわば観音堂が開いて、えへへって恥ずかしそうに顔をのぞかせた観音様が一瞬にして100度の蒸気に蒸される瞬間を見たよ。


極楽浄土が見えました☆


これが浅草寺なら、あたしの股間、京大受かるくらい、煙を浴びて、もう限界に熱すぎて思わず、自分で裾をまくりあげた。
もう目の前にいるマンマを気にする余裕もなく、50センチくらい一気にオーレッ!て、まくりあげた。

もー、マンマと私のマンマが、完全にマンonマン。

でも恥ずかしいなんて感じないくらい、一気に蒸気が抜けて、一瞬にして涼しくなりました。

急に裾を上げたので、マンマは水蒸気と一緒に飛び出した私の汗とPerfumeをだいぶ浴びて、ムセながら「自分デ、アゲチャダメ」って言ってました。

その後も、あまりにマンマがムセるので、センセイが奥から出てきて、マンマとセンセイがバトンタッチしました。


「すいません、ちょっと熱くて、自分で裾をあげちゃったんです・・」
と私が恐縮すると、センセイは、裾を20センチくらい上げてパタパタしながら、「大丈夫になったら、また下すので、それまで少し仰ぎますね」って言って裾を仰いで風を入れてくれました。

なにこれ・・・!
カ・イ・カ・ン・・・!
マンマとセンセイのクオリティーが全然ちげぇ。

ああ、そよ風が吹いてる。
戦いは終わったんだ。
うちの観音菩薩が完全にオーケーサイン出してる。


なんていうかな、その一瞬の油断っていうかな。


なんかね、アレ・・?って思ったんだよね。
アレ?
私?
アレ?って。


アレ、私、うんこしてない?って。


いやいやいや、そんなはずない。
まさか、しないでしょ。
34歳ですよ。
ベートーヴェンだったら「英雄」とか発表してる年ですよ。
何かを成し遂げてもおかしくない年齢ですよ。
こんなところで、ヴェンしてるわけないんですよ。

なんだろ、北風と太陽っていうのかな。
ギュッと握ってたコートを、すっと解かれたっていうか。

一瞬、無意識になったんだよね。
その時、なんか、ぽろりって。

いや、わかんない。
なんか一仕事終えた感じはないんです。
出たような気もするし、出てないような気もする。
これが、シュレディンガーのうんこ?

で、まあとりあえず、今できることとしては、最悪の場合を想定して早急にセンセイに「裾を下げてください」って言ったよね。「大丈夫です」って。

でも鍋では相変わらず、ヨモギが蒸されてるわけです。
そして、もしかすると、なんらかの具がね、追加で蒸されてる可能性があるわけです。

こわい。
そして、熱い。

「センセイ、よもぎ蒸しって、あと、どのくらいですかね?」

「ああ、あと10分くらいですね」

10分…。
大舞台にうんこが落ちている可能性がある今、もう幕を上げてもらうことはできない。
土鍋は絶好調。
シュワちゃんが指を立てながら沈んでった溶鉱炉ってここじゃないの?ってくらい。

股間はもはやワニにかぶりつかれてるみたいな感覚。
そして、なんだろう。このピンチに、ちょっと便意もある。
前に続けー!とばかりに。

気をそらすために、壁のポスターのよもぎ蒸しの効能を見ると、思いっきり「便秘」って書いてありました。

ヨモギの仕事が早い。
ヨモギがデキル。

絶望しているとセンセイが、「お客さん、何の仕事してるの?」って話かけてきたので、
気を紛らわすように「看護師です」と答えると、
「ああ」とセンセイは懐かしいような悲しいような顔をされて、語り出した。

昔、看護助手の仕事をしていた時期があること。
仕事がとても辛かったこと。
患者さんのトイレや便器の片づけの仕事がどうしても慣れなくて、この仕事に変わったこと。

「大変だったんですね」
私は、深く頷きながら、多分、うんこを漏らしている。

「でも、この仕事に就けて本当に良かった」
って優しく微笑むセンセイに、ああ、この便意が落ち着いたら、あいつに結婚を申し込むんだ。くらいの気持ちにはなった。

なったけど。
便意もさることながら、もうね、熱いです。直火じゃない?ってくらいです。
気象庁が観測してたら、私の股間も噴火レベル2に引き上げられてもおかしくないレベル。
気を許すと軽く噴石出そう。

尋常じゃない汗が噴き出してきて、多分これ温泉になる。
そして下半身はもはや熱されすぎて、感覚がない。
助けて、気象庁!?私、股間の大涌谷から温泉卵出てない?ちょっとなんか産んでない?
効能に「デトックス」って書いてあるんだけど、なんかもう、色んなものが出とるっくすー!



結局、暗黒の10分を経て、ヨモギっつーか、色んなものに蒸されて、体験は終わった。
私は怖くてセンセイと、自家製鍋を直視できないまま、サウナ室をいそいそと出た。
会計ではマンマがまだムセていて、おつりの100円が転がったけど、私は拾う間も惜しむように店をあとにした。


家に帰って、慌てて股間を鏡で見たら、まあ案の定、赤かったです。
完全にエアーズロック。
おしりから前にかけて、超ウルル。
冷え切って南極みたいだったのが嘘みたいです。
多分、今後、山田孝之が傷ついた際には、ここに登って愛を叫ぶんじゃないかな。




なんて、のんきにブログを書いてたら、福山雅治が結婚してたので、ショックで吐きそう。
マジ、山田孝之を押しのけて、私が愛を叫ぶわ。
巨人さまはいらっしゃいませんかー?
誰か巨人さまはいらっしゃいませんかー?
アントマンでもいいよー!

こっから先は一歩たりともクリスマス!

あれ?クリスマス、何か痩せた?
大丈夫?ちゃんと食べてる?
先生―、クリスマスが吐きそうって言ってまぁーす!
電車やバスでクリスマスを見かけたら、席を譲ってあげましょう!


ここ数年、クリスマス、弱くなった気がする。むかしの勢いがない。
私が強くなったのかもしれない。

34年も、クリスマスやら誕生日やら友達の結婚やらを食らってたら、
平日のクリスマスくらいは、やり過ごせるようになった気がする。

むしろ、平日に来ちゃってるクリスマスを可哀想に思うくらい。

いや、おまえ、いくらなんでも水・木に来ちゃだめだよ。そりゃ、こういう感じになるよー。
週のど真ん中だからね。会社あるし、会議とかあるし。


って、今年のクリスマスをバカにしてたせいかなー。しくしく。



メリークリスマス!!イブにふて寝して、夕方起きたら、完全に ものもらい 出来てたんですけどねー。

まさかねー、この日に ものもらうとは。確実にサンタがね来てた。顔面に。

おととしはねー、確かノロウイルスをもらったんですけどねー。
くれるねー。

ほんと、23日あたりから今まで、誰とも接触を図ってない状況下での、まさかのものもらいですよ。プレゼントがね、黄色ブドウ球菌。

もーね、欲しいと思ってたー。
今年のマストアイテムだと。右目あたりにあしらったら、さぞトレンディーだと。


で、まあ、鏡をね見るよね。
私もね医療人ですからね、そこは冷静に対処しようと。目薬もあるぞと。目をシャバシャバって洗うやつもあるぞと。

まずは、自己診断。
この感じは十中八九ものもらいだけど、なんつーの、ものもらいのね、本気度を見定めようと。
あっちの出方を見てから、こっちも出方考えようと、鏡をね、見た。


城攻めかな?


そのくらいのガッツがあったよね。ものもらいに。

で、早くも白旗。
なんなら、目をパシャパシャとかが入り込む隙間がなかったからね。

そっちがそうならと、こっちもね104に電話したよね。
まだ見ぬ104のお姉さんにすがった。
すぐ行ける眼科の電話番号をね、泣きながら聞いてた。

クリスマスの街にくり出したくないがために、昨日から2日分の食料を家に買い込んで、仕事まで休みをとって、準備は完璧だったのに、当日まさかのお出かけですよ。

今日だけは!今日だけは!外気に触れたくなかった…!

このイルミネーションの下、どっかじゃワイングラスがチンチン鳴っちゃって、何らかの小さな箱がパカパカ開いたり閉まったり、
そこに輝く何らかのリング的なものをね「君に」とか言われちゃって、貰っちゃって、買って貰っちゃって「わぁ〜素敵〜」なんて女性たちがね蠢く街をね、
私なんて ものもらいを貰っちゃって、もの貰っちゃって、10カラットくらいのものもらいを顔面に戴いちゃって、「わぁ〜ぴったり〜」なんつって、このイルミネーションの下を、眼科を探して彷徨ってるわけです。LEDが目にしみる。


で、やっと電話で聞いた住所らへんに病院を発見して、駆け込みましたよ。サザエさんのエンディングくらいの勢いで。

もうね、いくらなんでも、飛び込んだ時点で、何か変だなって感じはしてた。

でも、間違いなく病院だし、「電話した加藤ですけど」つったら、「じゃあ、こちらの問診票に」なんつって、やっぱ間違いなく病院だし、

近くのソファーに座って、問診に適確に答えたわけです。もうね、何でも聞いてくれと。いつから、どういう症状があって、とかね、全然聞いて欲しい。ズバッとね答えていくよ。

って思ったんですけど、なんつーかな、ものもらいのせいでコンタクトをつけて来なかった私もいけないんですけどね、あれほどね口酸っぱく「眼科」つったわけです、104のお姉さんに。ものもらいが出来ちゃったから、中野区にある眼科の電話番号を教えて欲しいと。

お姉さん、ここね、まさかの産科なんですけど。

問診票の内容がね、すごいことになっちゃってんですけど。
最後に来た生理日とかね、命からがら答えましたけど、あの、性交渉した日とかね、もう、ペンがね、震えたよね。その交渉に参加したことはね、ないわけです。築34年の私の下半身あたりに、そういったオファーはね、無かったわけです。

私はね、ただ、ちょっとだけ、右目にものもらいがね、できちゃったわけで。
できちゃったの畑違いがエライことになってるわけです。

なのにもう、質問の勢いはね、止まらないわけです。とどまる事を知らないわけです。
隙あらば、複数の異性との交渉とかをね、聞いてくるわけです。複数と交渉とか、もうちょっとしたネゴシエーター扱い。

こっちとしては複数どころか単数もままならなくて、ちょっとした虚数みたいな感じになってるわけです。

だけども何の因果か私もね何らかのものをね、右目付近に授かっちゃったわけです。でも明らかに、ここでは、産み落とせないな、と。問診票から言って、目とかね、全然フィーチャーされてないし。

で、まあ、ちょっとまごつきながらも、受付のお姉さんに、
「えっと、ちょっと勘違いしてたみたいで…」
みたいなことを述べてね、問診票返して出てきたわけですが、ほんと、今思うに、なんで返したんだろう。
思いっきり最初の一問以外、筆の止まった一枚を。なんで生理のとこだけ答えて帰ってきたんだろう。

とんだ場所で一問一答してきたわけで。

クリスマスに産科で、今年こそ処女がキリスト産むかと思った。
その科には、今生で辿り着けるかもあやしいなって思ってたのに、辿り着いたなあ。


で、まあ、産科から眼科へ いざ!って気持ちにもなれなくて、トボつきながら薬局に行った。
とりあえず、明日の仕事のために眼帯を買おうと思って。

したら、なんかもう薬局が凄い感じになってる。きらめいてる。
なんかカップルとかがね、超いる。
「今宵限りのクリスマスフェア!」とかやってて、店前でちょっとケーキ売ったりしてる。

クリスマスの力がすげぇよ。
平日だからとか、あなどってごめんね。

で、まぁレジでカップルとカップルに挟まれたり揉まれながら、どうにか、「が、眼帯、ください」つって、眼帯買ったんですけど、レジの人が完全にサンタの格好で、「メリークリスマス!」つって、眼帯くれたんですけど、

メリーではね、少なくともないです。今現在。
眼帯を買ってる時点でね、正直、1ミリもメリーが入り込む隙はねぇよ。

で、ヨボヨボになりながら、家に辿り着いて、眼帯の袋を開けたら、ネクタイだった。


奇跡っ!!


このタイミングで舞い降りちゃったよ、奇跡が。
雑だよ〜、雑だよ〜。舞い降り方が雑だよ〜。
とりあえず1回舞い降りとけみたいな感じだよ。


もう、薬局が手、広げすぎだよ。その手に、私が全然入ってないよ。

「黒と白がありますけど」って聞かれて、「眼帯に?」とは思ってたけど。黒とか、伊達正宗くらいしか需要がないんじゃない?って思ったけど。

まさかのネクタイだった。

で、もう、ただただ、握りしめるばかりなんですが、今となっては、もうそのネクタイをヌンチャクみたいにして暴れたよね。

無駄じゃなかったと思いたい一心で。
私なりのブルース・リーで、クリスマスに向かって戦いを挑んだよね。

限界などない。そこに留まってはいけない。それを越えて行くのだ!(ってブルース・リーも言ってたし)

戦うのだ、クリスマスと。

玄関のクリスマスと、冷蔵庫の中のクリスマスと、枕の下のクリスマスと、テレビの中のクリスマスと、タンスの底のクリスマスと、鏡に映るクリスマスと、全てのクリスマスに、戦いを挑んだこのワンルームに朝日が射す頃には、私の手の中には圧倒的な勝利しかない。

だから、みんなもどうか、今日を乗り切るんだ!この数時間を。

どんなに劣勢でも、クリスマスは、絶対に終わる。終わらないクリスマスはないんだ!