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Trips with my RV.

RVでの小旅行。

-月に囚われた男(MOON)-を見る?

2010-01-26 23:24:51 | 映画
地元岡山で上映されるか否かは現時点では判らないけど「月に囚われた男」は見ていないけど「MOON」・・・って私は2度目?

国内のプレビューではネタバレを禁じたそうだけど私は業界人では無いのでOKだろうし、予告を見れば特別に鈍感な人で無い限り大体の大筋は判ってしまう筈。

イギリスのロック歌手デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズが監督で殆ど1人芝居の主演がサム・ロックウエル(私は知らない)。500万ドル以下の低予算作品だがダンカン・ジョーンズ監督はナショナル・ボード・オブ・レビューとBIFAでの新人監督賞をW受賞しBAFTA 10部門ノミネートしたそうなので親の七光りとは無縁の話。

アイランド、6d等々系統の・・・アイデンティティ・クライシス物って云えば良いかなぁ?

近未来、地球のエネルギー危機を救う為に月面上に無尽蔵にあると云われているヘリウム3を刈り取って地球に送る様になった時代の話。

ヘリウム3とはヘリウム4(普通のヘリウム)の同位体元素であり、太陽では水素からヘリウムへの核融合反応がセッセと続いているのだが、その過程でヘリウム3も出来てしまう。出来てしまったヘリウム3の極一部が太陽風に乗って太陽系内へ噴出している筈で月が誕生以来45億年間ずっと太陽風に吹き付けられたヘリウム3が月面の砂(レゴリス)に吸着されている・・・だろう、とされている。

アメリカのアポロ以来の月面開発計画の再燃も、ロシア、中国の月面開発計画始動も全て、このヘリウム3の独占が背景にあると云っても過言では無いだろう。

普通のヘリウムは、ヘリウム4で陽子2個と中性子2個+電子2個の原子だけど、ヘリウム3は中性子が1個しかない。これに重水素(普通の水素は原子1個と電子1個だけど、これに中性子が1個か2個余分に付いた同位体)を核融合させると、効率よく莫大なエネルギーが取り出せて発生する放射能も少なく放射性廃棄物の生成量も少ないので未来のエネルギー問題を解決出来るとされている。但し・・・ヘリウム3の核融合には現時点では臨界に至る超高温には到達出来ていない。恐らく、今の進度で科学が進歩したとしても半世紀以上の未来の話だろう。

ヘリウム3の取り出しは、月面のレゴリスを単純に600度以上に加熱すれば取り出されるのだが、例えば日本で1年間に使用する全エネルギーを月面のヘリウム3に頼るとすれば僅か数トンのヘリウム3で足りるそうだ。仮に地球全体で1年間に使う全エネルギーをヘリウム3核融合で賄うには20トンのヘリウム3が必要だが20トンのヘリウム3を月面のレゴリスから取り出そうとすると200万トンのレゴリスを加熱処理する必要が在り毎日5500トンのレゴリスを採掘していく計算になる様だ。

[日本語版:ガリレオ]http://wiredvision.jp/news/200706/2007060723.html


話が脱線したが、ま、そんな時代の話。民間企業Lunar Industries(ルナ・インダストリーズ)に雇われた只1人の人間サム・ベルが主人公。大変な仕事の様だが、ニコチャンマークのAI(人工知能)GERTY他の自動機械が殆ど全ての仕事をやってくれるのでサム・ベルの仕事は生成されたヘリウム3を積んだロケット地球に送るだけ・・・。ハーベスター(収穫機)と云う名の巨大な採掘マシンなんか圧巻だ。高性能AIは、バイオニック・ジェミーのアレックス、2001年宇宙の旅シリーズのHAL9000、当時とは進歩していてAI萌えの私としてはGERTY君はナカナカ良い。事実、GERTY君はアレックスやHALの石頭とは違い話の判るAIで、HAL9000だったら・・・解り切った結末だった筈。

日々単調な仕事をたった1人でこなすサム・ベルは3年契約でLunar Industriesに雇われているが、3年間の仕事を終えれば凄い報酬額になるのだろう。

サムの相棒GERTY君は、サムの仕事のサポートから、ゲームの相手まで何だってやってくれる良い奴で、目下の悩みは通信回線の不調からリアルタイムでの地球との通信が出来ない事位だ。リアルタイム通信が出来なくてもビデオ・メールでの通信は出来るので地球に残してきた美しい妻と可愛い娘とビデオ・メールは可能だし、何と言っても、後2週間で3年間の年季明けで晴れて地球に帰る事が出来るので我慢しよう・・・と思っていた頃に・・・と云う話。

ネタバレ宣言をしたのだからネタバレを書いちゃうけど・・・文才の無い私の書くネタバレを読んじゃうと絶対に映画館に行きたくなくなる恐れがあるので、興味の在る方は絶対に以下は読んではダメです。























このサム・ベルは、いや、クローラーの中で倒れていたサム・ベルも、勿論、保管庫の何百体のサム・ベルも全部クローンだったと云うオチ。地球上には本物のサム・ベルが平凡な普通の生活をしていて自分のクローン達の苦労なんか知る術も無い。と、云うかオリジナルのサム・ベルはクローンへの移植用の記憶とクローンを作る生体情報を売って悠々自適な幸せな生活を送っていた訳。ヘリウム3運搬用のロケットで地球に生還したクローン・サム・ベル(の若い方)はLunar Industriesの人道無視の悪行の証拠を「当局」に提出し、世論の非難を浴びたLunar Industriesは株価が大暴落をしてメデタシ・メデタシ?

3年の年季奉公の理由はクローン体の寿命から、クローン体を配置する理由は無人でも構わないだろうがAI故障等の事態に備える為?、本物の人間に教育を施して地球と月を往復させるコストより寿命が過ぎたクローン体に変わり保存したクローン体に現地で入れ替えた方が安いのだろう。少なくとも実際に報酬を受け取ったのはオリジナル・サムだけなので人件費は只である。

3年毎にクローン体を入れ替えて記憶を移植すれば万事OKの筈だが、月面上での作業中に事故が発生し、作業中に死んだ(と思われた)クローンの代わりに新たなクローンを覚醒させ事故が在ったけど助け出されたと云う事にしていた様だが、このクローン同士が鉢合わせをしてしまう。

・・・ ・・・ 

SFのキモの部分はこうだが、エンディングに至る迄の展開が6d(シックス・デイ)では殆ど素通りし、アイランドでは不十分なクローンされた人間のアイデンティティ・クライシスの描写が秀逸な・・・と、云うか私の見たクローン物映画中では最高だと思った作品だろう。

本来の意味のアイデンティティ・クライシスとは、自分がそれまで当たり前だと認識していた事、それまでは常識だと考えていた事柄が一瞬のうちに崩れ去る事・・・で心理学用語である。絶対勝利する筈の神国日本の敗戦、現人神である天皇の人間宣言で多くの日本人がアイデンティティ・クライシスに陥ったと聞く。そんな国家的大事件で無くても、強い(と思っていた)父がサラ金の取立て屋に土下座しているのを見た時・・・あぁ、これもシュールで大事件過ぎるか?じゃ、モトイ、万能で何でも出来ると思っていた父が宿題の幾何の問題を解けないと知った時・・・でもアイデンティティ・クライシスに陥るカモ知れない。そんな事件が何も無くても、思春期以降の精神的成長は自ら自身でアイデンティティ・クライシスを繰り返していくのだろう。

アイデンティティとは、『私とは、何?』という人間の原初的で根源的な問い掛けの答としての『自己同一性』の事。その自分の存在意義の確認にも関わってくる自問に対して毅然と『自分はナンノタレ兵衛で、自分は自分自身以外の何者でも無い』と応えられる状況を『自己アイデンティティの確立』という。

本来的に『自分以外の人間』との対比で『自己アイデンティティの確立』を補強していくモノなので、社会的な活動や他者との相互作用の中で、他者と自分で築き上げた『属性(地位・役職・職業・評価等々』で段階的に確立していく筈である。

その中で、人間のクローン程、『アイデンティティ』・・・特に『実存的アイデンティティ』・・・私は私以外の何者でもなく唯一無二の存在であるという実存性・・・を危うくする存在は無い筈だ。更に、同一の記憶を持っていたりすると手に負えない。

このクローンに関する「手に負えなさ」はオリジナルとコピーの対比では勝負が付きそうだが、コピー対コピーなら、どうだろう?ヘリウム3もLuna Industriesも単なる舞台道具に過ぎず、コピー対コピー・・・『自己の唯一性』への最大の危機なのだ。その中で自らの限界を知りヒューマニズムを発揮する。

現代人は、組織の中の部品と自らを卑下する程に『自己の唯一性』アイデンティティの欠如を感じている。当に置き換え可能な部品としてのサム・ベルのエクソダスこそが我々現代人の琴線に触れるのだ・・・と思う。

ネタバレを垂れ流しておいて恐縮だが、是非に映画館に足を運ぶか、レンタルビデオで見て頂きたい。因みに昨年6月に米国では封切られた映画で、米国では既にDVDが発売されている。
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4 コメント

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欧米人は (アナベル・加トー少佐)
2010-05-08 21:19:02
これ系のネタ好きですねぇ、我思うゆえに我あり。
自分だったら、AIにクローンが2体以上検知されたら両方処分して新しいの覚醒させろとかの安全装置設定(月面なんで空気入れ替えでOK)しときますがそれだと映画にならなくなるんで却下でいいです。
クローンが何百体もいたってことはそれらが消費し尽くされるまでの契約期間(3年x数)=ほぼ永遠てことですか。
悠々自適可の報酬ならオレならOKですねいつでもハンコつきます。
Lunar Industriesはおそらく契約条項でクローン対策してるんじゃないですかね、「クローン=存在しない個人であり本人ではないので訴訟告発は全て無効」みたいな。
あと映画未見なんですがロケット乗って地球に帰ってくるんでしょうか?それだとヘリウム3でも輸送コストかかり過ぎではないでしょうかマスドライバーがリアル。
そしたら自我に目覚めたクローンがコントロールして地球に戦略爆撃を敢行、映画としてはその方が面白くはないですかね。
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Re: 欧米人は (軽薄な店主)
2010-05-10 18:42:50
アナベル・加トー少佐さん、コメント有難う御座います。

#チョッとバタバタしていて当ブログの更新を休憩している最中でしたのでリプライが遅れてスミマセン。

アナベル・加トー少佐さんって、彼方此方のブログ・コメントで御見掛けする(私の中では)有名なアナベル・加トー少佐さんなのですか?

それとも、アナベル・加トー少佐さんって、スターウオーズのクローン戦士の様に沢山居られる少佐さんなんでしょうか?

有名な方からコメントを頂戴し、慌てて読み直したトコロ書き殴った拙元記事には3箇所の誤字と8箇所の日本語の不備を読み直して発見し・・・チョッと緊張しています。

さて・・・

何体も並ぶクローン素体って、ターミナルドグマの大量の綾波レイや、バイオハザード3のアリスや、スターウオーズ、火の鳥 生命編・・・等々枚挙に暇が在りませんが、一般的に扱われてきたクローン倫理問題とは少し違う視点で、純然とアイデンティティ・クライシスを描写している点で秀逸だと(今でも)私は思っています。(この着眼点に匹敵するのは小松左京著の「虚無回廊」位かな?)

一般論としてのクローン倫理問題って、「我思う故に我在り」的な『自己の唯一性アイデンティティ』の問題と、「私は私以外の何者でもなく唯一無二の存在であるという実存性」と云う『実存的アイデンティティ』の2つの別々の問題なのだと思うのです。だから、「我思わない」牛なら問題にはされない。現に、今我々が食している畜産生物のカナリの割合がクローン生物なのですが、ここへの倫理問題って聞いた事が有りません。

やはり・・・、文才の無い私の文章では、肝心な部分を伝え切れていないので、ご覧頂くのが宜しいかと・・・。

基本的に、フィクションに於ける種々の設定(特にSFジャンルのソレは)、単なる舞台装置の大道具に過ぎないと私は思っている方なので科学考証はさておき・・・

> Lunar Industriesはおそらく契約条項でクローン対策してるんじゃないですかね、「クローン=存在しない個人であり本人ではないので訴訟告発は全て無効」みたいな。

はははは、カモ知れませんが、地球にやってきたサム君は世論に訴えるのだから株価大暴落と云う責めを負った次第。

宇宙時代に突入しても、社会的正義より株主が怖いのは「アバター」でも紹介されているし・・・。



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>(私の中では)有名なアナベル・加トー少佐さんなのですか? (アナベル・加トー少佐)
2010-06-03 03:17:47
…どう有名なんでしょうか?
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Re: >(私の中では)有名なアナベル・加トー少佐さんなのですか? (軽薄な店主)
2010-06-07 11:57:47
アナベル・加トー少佐さん、コメント有り難う御座います。

> …どう有名なんでしょうか?

スミマセン、誤解を招くような表現で・・・。

私も、人並みに人様のブログを巡回して居ります。お気に入りのブログ作家さんの定期巡回コースと、検索エンジンでヒットした検索項目を含むブログ記事と・・・、それらの中で、特にコメント欄でアナベル・加トー少佐さんのハンドル名でのコメントを拝読する機会が・・・私の中では多い・・・と云う事です。

人様のブログを拝読する折に、元記事だけではなくコメント欄を読めば、何となく「人となり」も見える様な気がして・・・。そんな折に見掛ける機会が多いと云う意味で・・・他意は在りません。

私自身は、人様のブログにコメントを書き込む際に統一したハンドル名を使っていません。

今、「アナベル・加トー少佐」さんでGoogle検索すると7530件ヒットします。勿論、このヒット数は、御自身のコメント以外にも、ブログ作家さんからのリプライ中に同ハンドル名を反復する事で件数が増えているのだとは思いますが、引き比べて、私自身の人様のブログでのコメント用のハンドル名は最も多い奴で42件ですので・・・。そう云った意味合いも在ろうかと・・・。

定期巡回先でも、刹那的巡回先でも、私的には、貴ハンドル名に良く行き当たる・・・お馴染みサンと云う意味です。

特に定期巡回先のブログ作家さんは、会ったことも無い方でも、私自身の中では勝手に親近感を懐いていますが、コメント欄へのコメントで出逢いの頻度が私個人的に高いアナベル・加トー少佐さんは、私の中では良く知った人・・・と云う意味。

要らぬお気遣いをさせ失礼致しました。
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