映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ミツバチと私

2025å¹´03月05æ—¥ | æ˜ ç”»ï¼ˆã¾è¡Œï¼‰

なぜ男らしくないといけないの?

* * * * * * * * * * * *

夏のバカンスで、フランスのバスク地方から
母の実家のあるスペインの片田舎へやって来た家族。
末息子、8歳のアイトールは、男の子の体なのですが、
女の子が好きそうなものばかり気になってしまうのです。
肩まで伸びた髪は絶対切りたくないし、爪はマニュキアで彩っている。
そんな風なので、学校に友達はいなくて、行きたくない。
自分の性自認が分からず、違和感と居心地の悪さを抱えているのです。

母は表向き、自分の好きなようにすればいいと言っているのですが、
このまま女性になりたいと言うようになるのでは・・・?と不安でならない。
父はもうほとんど、この子はおかしいと思っている。

スペインの田舎の人々は保守的な考えの人が多くて、
「甘やかしてはダメ」とか「早くちゃんと男の子らしくさせなさい」などと言う。
そんな中でただ1人、ミツバチを飼っている叔母だけが、
「自分らしくいていいんだよ」と言ってくれるのです。

よく分からないのですが、多分アイトールと言う名前は、いかにも男の子らしい名前なのでしょう。
彼はそういう自分の名前に違和感を持っていて、
本当は「セシル」と呼ばれたいと思っている。
けれどそんな風に言うと、家族も含めて周囲の人々は戸惑い、
困ったような、問題児を見るような雰囲気になってしまう。
そうしたことによる罪悪感も彼は抱えていて、
自分らしくあると言うのも、本当に大変なのです。

今は、LGBTの考えも広まって来てはいますが、
宗教や国によってはまったく受け入れられないところも多く、
先進国でも政治的に逆行の向きさえあったりする。
口では受け入れるようなことを言う人も、心底では理解していなかったり・・・。
この先もこの考えが世界中に素直に受け入れられるような気がしない・・・。
ではあっても、自分が自分らしく在ろうとすることは大事だし、
周囲の理解もまた重要なんでしょうね。

そんな“今”を、うまく捉えた作品だと思います。

 

余談ではありますが、小説家、馳星周さんが自身のブログで紹介していますが、
氏の現在の愛犬の名前がアイトールであります。

 

<WOWOW視聴にて>

「ミツバチと私」

2023年/スペイン/128分

監督・脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン

出演:ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、アネ・カバラン、イツィアル・ルビオ

LGBTの今度★★★★☆

満足度★★★★☆


「矢部太郎の光る君絵」矢部太郎

2025å¹´03月03æ—¥ | æœ¬ï¼ˆãã®ä»–)

ドラマも見守った、乙丸

 

 

* * * * * * * * * * * *

NHK2024年大河ドラマ「光る君へ」で主人公・まひろ(紫式部)の従者・乙丸を好演した矢部太郎。
ドラマ放送時よりSNSで反響を呼んだ矢部太郎が描く“光る君絵”が、新たに書き下ろしを加え、
さらに、「光る君へ」の舞台裏を描いた完全新作漫画とともに1冊に。

矢部太郎の目に映る「光る君へ」の世界――。
初回~最終回まで、全48回分の「光る君絵」を一挙掲載。
書き下ろし漫画は、撮影前の出来事、真夏のロケ、共演者との思い出、感動のクライマックス…と、
クスっと笑えてどこか泣けるエピソード満載。
矢部太郎ファン、「光る君へ」ファン必見!

* * * * * * * * * * * *

「大家さんと僕」などで知られる矢部太郎さんが、
NHK2024年大河ドラマ「光る君へ」に出演した際、
その一回のオンエアが終了の都度、
SNSでその回の印象に残ったシーンを “光る君絵”としたイラストで紹介。
本巻は、そのイラスト集ですが、
さらに、「光る君へ」の舞台裏を描いた新作漫画も追加されています。

 

私は実のところ、「光る君へ」はずっと見ていたのですが、
矢部太郎さんの「光る君絵」のことは存じませんで、
ぜひリアルタイムで見届けたかったところです。残念。
でもこの度、遅ればせながら見ることができまして、
そのやさしさの滲む思い出のシーンの数々を楽しませてもらいました。
そうそう、そういえばこのシーン、覚えてるなあ・・・というところも多いです。

 

さて、矢部太郎さんが演じたのは、主人公、まひろ(紫式部)のお付きの従者・乙丸。
あまりセリフはありませんが、とにかくいつもいつも“姫様”の後をついて歩いているという、
お得な役でしたね。
それなので、他の人は知らない、まひろと道長の秘密をも知っているという実は重要な役。
余計な口出しはせず、でもいつもまひろを思い見守っている、
というところがなんだか矢部太郎さんご本人のイメージと重なります。

私が最も印象に残り、拍手喝采したくなったのは、終盤のところ。
まひろは旅に出て太宰府に来たのですが、
ある悲しいできごとがあって、生きる意欲も失い、
もう京へは帰らずこのままここに住み続けてしまおうかと思うのです。
ところがそこで、乙丸が
「帰りたい、帰りたい、家に帰りたい!!」
と、何度も何度も声を張り上げる。
彼がわがままを言うなんて、これが始めて。
彼も妻を残して来ているので、そりゃ、必死になりますよね。
でも、根負けしてまひろは京へ戻ることに。
でかした!乙丸!

そんなことも思い出した、ステキな一冊です。


「矢部太郎の光る君絵」矢部太郎 東京ニュース通信社

満足度★★★★☆


仕掛人 藤枝梅安

2025å¹´03月01æ—¥ | æ˜ ç”»ï¼ˆã•è¡Œï¼‰

非情を貫く、仕掛人

* * * * * * * * * * * *

江戸郊外、品川台町に住む、鍼医者の藤枝梅安(豊川悦司)。
腕のいい医者ではありますが、実は裏の顔を持っています。
それは、生かしてはならない者たちを闇に葬る冷酷な仕掛人。

この度、ある料理屋の女将の仕掛けを依頼されます。
梅安がまずはその本人のことを調べるために料理屋に出向き、
女将の顔を見た瞬間、思わず息をのみます。
どうやら梅安は、彼女とは浅からぬ因縁があるらしいのですが・・・。

本作は池波正太郎さん原作で、
よく知られているTVドラマシリーズ「必殺仕事人」の、もととなったものですね。
2023年に、池波正太郎生誕100年を記念して制作された2部作のうちの一作目です。

最近少なくなった本格的な時代劇。
トヨエツ演じる渋~い藤枝梅安。
シビれます。

仕掛人は本来、依頼の請負人から仕事を受け、
その依頼者のことは知らないままということが多いようです。

考えてみれば、高い仕掛けの料金を払えるのは相当なお金持ち。
だから本当は、金持ちが自分の儲けのために邪魔になる人物を殺害したいという思いで
仕掛けを依頼することが多くなってしまうような気がします。

けれど、他の人はどうか分からないけれど、少なくとも梅安は
「決して世のためにならないあくどいヤツ」を消したいと思っている。
そのためには、殺人依頼を差配する「請負人」の人格が重要なんですね。
同じような志のあるものと組まなければ、
単なる金儲けのための殺し屋になってしまう。
それではドラマになりませぬ・・・。

この度の仕掛けの標的おみの(天海祐希)は、
確かに周囲の評判もあまり良くはないのですが、
実は梅安は、この女将の前の女将、
つまりこの家の主人の前妻の仕掛けを依頼されて、実行したことがあったのです。
そのため、此度の仕掛け依頼には何か引っかかりを覚えてしまう。
あの時は誰が依頼人かなどは詮索もしなかったけれど、
一体どういうことだったのだろう・・・。
今さらながら真相が知りたくなってくる梅安。
彼の仕掛人仲間である彦次郎(片岡愛之助)とともに、
この料理屋の周辺を探り始めます。

本作ではおみのの正体が知れるにつれて、梅安の過去も分かってくるのですが、
それにしては、あまりにも非情な終わり方・・・。
いやいや、それが仕掛人というものなのでしょう。
キビシイ・・・。

渋い作品ながら豪華キャストで、天海祐希さんが存在感あったなあ・・・。
菅野美穂さん演じる、梅安と情を交わすことになる女中さんも、いい雰囲気でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「仕掛人・藤枝梅安」

2023年/日本/134分

監督:河毛俊作

脚本:大森寿美男

出演:豊川悦司、片岡愛之助、菅野美穂、高畑淳子、柳葉敏郎、天海祐希

時代劇度★★★★★

満足度★★★★☆


ナミビアの砂漠

2025å¹´02月28æ—¥ | æ˜ ç”»ï¼ˆãªè¡Œï¼‰

カナのオアシスは何処に

* * * * * * * * * * * *

21歳カナ(河合優実)は、美容脱毛クリニックで働いていますが、
自分が人生に何を求めているのか分かりません。
何に対しても情熱が持てず、恋愛すらも成り行き任せ。

同棲するホンダ(寛一郎)は優しく、料理を作ったり、なにかと彼女を喜ばせようとしてくれます。
けれど一方では、自信家のクリエイター、ハヤシ(金子大地)との関係を深めていって・・・。

何に対しても無関心、そして無軌道に見えるカナ。
さてと、一体この娘をどう捉えればいいのか・・・と悩みながら見て行くわけですが、
でも、次第に引き込まれて行きます。

すごくイイ奴じゃんと思えるホンダを捨て去り、あっさりハヤシに乗り換え。
いかにも気持ちはさらさらと流れて、一カ所に執着しない。
というよりも、執着できないのでしょう。
執着するだけの感情とか強い意志があれば、もっと生きやすいのに。

この世界の、人々が作り出した仕組みの有り様すべてが彼女には苦しい。
本当は彼女はどうしたいのか。
ラスト近く、さすがに自分でもおかしいと思った彼女は、カウンセリングを受けます。
そのシーンを見て少し思ったのは、
彼女は心の奥底で、もっと純粋で単純で明るい何かを希求しているのではないか。
ナミビアの砂漠の小さな小さな水場に、
生き物たちがほんのひとときの癒やしを求めてやってくるように。

でも、現実はそうではないから苦しい。
それは振り幅の違いこそあれ、人はみなそうであるのかもしれず、
だから私たちは、カナにどこかひかれてしまうのかも知れません。

些細なことで感情が爆発し、壮絶に格闘を始めてしまうカナとハヤシなのですが、
最後の方で、これは2人のレクリエーションみたいになっていますね。
2人の鬱憤晴らし。
本気でやれば、さすがに男性の方が力ずくで女性を押さえ込んでしまうこともできるはず。
でも、ちょっぴり手加減してますよね、彼は。
そもそもそんなカナを追い出したりもせず、彼女に寄り添おうとしているのは、
なかなかコイツも良いヤツなんじゃないの?と思うわけです。

 

<WOWOW視聴にて>

「ナミビアの砂漠」

2024年/日本/137分

監督・脚本:山中瑤子

出演:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか

不機嫌度★★★★★

無軌道度★★★★☆

満足度★★★.5


ゆきてかへらぬ

2025å¹´02月26æ—¥ | æ˜ ç”»ï¼ˆã‚„行)

セピア色の彼方

* * * * * * * * * * * *

大正時代の京都・東京を舞台として、実在の女優・長谷川泰子、詩人・中原中也、
そして文芸評論家・小林秀雄、男女3人の愛と青春を描く物語です。

 

京都。
20歳の新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会い、
互いに虚勢を張りながらも惹かれ合い、一緒に暮らし始めます。

やがて2人は東京に移り住み、2人の家に中也の友人、小林秀雄(岡田将生)が出入りするようになります。

小林は詩人・中也の才能を認め、中也も小林に一目置かれることを誇りに思う。
互いを理解した2人の交友には割り込む隙がないようにも思え、
泰子は置き去りにされたような思いも。

しかしやがて小林も泰子の魅力に取り込まれていき、
複雑でいびつな三角関係となっていきます・・・。

3人それぞれ強烈な個性を持っていて、プライドが高い。
でもそれぞれが互いに持つリスペクトも愛も本物で、
でもムキになって争うほどばかでもない。
手が届かなければやせ我慢で、興味ないフリ。
しかしそのことがまた互いを傷つけ合う。
心のベクトルがぐちゃぐちゃにもつれてゆく、切ない物語。

大正ロマンのその雰囲気がスバラシイです。
特に、広瀬すずさんがその存在感を放っています。

「海街diary」の頃から見ている広瀬すずさんが、
こんな役をこなすまでに女優として成長したのだなあ・・・と、感慨にふけってしまいました。
映画女優(当時まだ無声映画ですが)という役柄のためか、
見たことのない着物の着こなし方をしていたのが、ステキでした! 
和装であれ、洋装であれ、この時代のファッションはいいですよね。

中原中也の詩は、おそらく女性なら少女時代にちょっぴり憧れてしまう時期があるのではないかな? 
かくいう私もそうでして・・・。
30歳で夭折。
であるからこそ、その才能が惜しまれてしまうのですね。
でも、中原中也自身のことについてはほとんど知らなかったので、
こんな三角関係があったなどということはこの度始めて知りました。

小林秀雄氏は1983年80歳没。
長谷川泰子さんは1993年88歳没。
お二人とも近年(と思うのは私のような年寄りだけかもだけど)まで生きていて、
中原中也だけがセピア色の歴史の彼方・・・という印象ですね。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「ゆきてかへらぬ」

2025年/日本/128分

監督:根岸吉太郎

脚本:田中陽造

出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、柄本佑

大正ロマン度★★★★☆

三角関係度★★★★★

満足度★★★★☆