クローズアップ2010:自殺者、12年連続3万人超 若者、死に追いやる不況(毎日新聞)
警察庁が13日発表した09年の自殺統計。自殺者総数は3万2845人で08年より1・8%増加、12年連続で3万人を超えた。なかでも20代と30代の自殺率(10万人あたりの自殺者の数)は08年に続いて過去最悪を更新し、若年層の自殺の深刻ぶりが浮かんだ。原因・動機に「失業」が含まれる自殺者は08年比で7割近く増加した。不況が若年層にも暗い影を落とす。一方、支援関係者らは、職場にとどまる人々にもリスクは広がっていると指摘する。
世代別の自殺者があくまで50代、次いで60代、40代といわゆる「中高年」に多いのは相変わらずなのですが、20代と30代の自殺率が急ペースで伸びてきているようです(ついでに言えば、自殺の原因もあくまで最多は健康問題ながら、経済上の理由による自殺の占める割合も着々と増加しています)。世代間対立へのすり替えを好む論者が無視する事実として、不況の初めにはまず給与の高い中高年がリストラの標的とされ、しかる後に若年層の就労環境の悪化が始まったことが挙げられますが、それと似たような流れなのかも知れません。中高年が先に晒された苦境が、その次の段階として若年層に降りかかってくるわけです。
愛知県に住む元会社員の30代男性が自ら死を選んだのは昨年秋。母親はその8カ月前、IT(情報技術)関連会社を辞めて実家に戻った際の息子のことを鮮明に覚えている。ほおがやせこけ、疲れ果てた様子だった。職探しはうまくいかず、会社の設立にも失敗。明るく振る舞っていたが、遺書には何カ月も前から自殺を考えていたと記されていた。
(中略)
スタッフの須田光照さんは、相談を受けた30代男性を気にかける。自動車メーカーの下請け会社を解雇された後、仕事が見つからず、うつ病と診断されてから連絡がつきにくくなった。「精神的な打撃を受けやすい人にとっては、解雇が重大なつまずきになるケースが少なくない。若い人にとって、自殺との距離は近くなってきている」と感じている。
ライフリンクの清水康之代表は「自殺は主に中高年の問題だと言われてきたが、20、30代にも広がっている。経済問題が原因になるケースが目立つが、失業だけではない。過酷な労働条件にさらされている人が追いつめられている実態もある」と分析する。
過労死の問題に詳しい川人博弁護士は「入社1~2年の若者の自殺が増えている」と実感するという。40~50代の社員がリストラで減り、以前より若い層が職場で責任を負うようになった。過酷な負担やノルマが、新入社員にものしかかる。「若い社員を取り巻く環境が変わり、ストレスはますます強まっているのに、サポート体制は弱い。そこに問題の一端がある」。川人弁護士は警鐘を鳴らす。
週刊ダイヤモンドなどのお笑い経済誌やネット上の経済に「詳しいフリ」系の論者の語ることが正しければ、こんなことにはならずに済んだはずです。彼らは「就職だけが選択肢じゃない、起業も視野に入れるべきだ」としたり顔で語りますが、就職できないからと言って起業したところで成功するはずもない、彼らは「正社員は解雇できない」と断言しますが、実際には社員も容易く解雇され続けているわけです。そして「無能な中高年」を追い出して若者にチャンスを与えるべきだとの主張が昨今では喧しいところですが、無能なはずの中高年社員が今まで担当していた仕事を負わされた新人社員は重荷に耐えられず潰れてゆく、そうした結果が自殺者の急増に繋がっています。さもわかった風に経済を語る連中の「設定」が正しければこんなことにはならずに済んだのに……
他人の労働環境の悪化を我関せずとばかりに傍観していると、いずれ自分のところにも影響が及んでくるものです。中高年を追い上げるような形で若年層に自殺者が増え出したのは必然と言えるでしょう。自分を含む階層の利益だけを守ろうとしたところで、結局どこかでツケは回ってきます。たとえば超低賃金の外国人研修生を使った事業者によって同業の日本人事業者が圧迫されるなんてこともあるわけですが、こういう場合は日本人の労働環境だけを守ろうとしてもダメですよね。外国人研修生の違法な低賃金労働を黙認している限り、その低コストとの競合は避けられませんから。外国人研修生の労働環境を改善しない限り、それと競合する日本人事業者/労働者を取り巻く環境も悪化するばかりです。
労組ってのは本来、「自分を守るために集まる」ものであって「他人を守るために粉骨砕身する」役割を期待するのは筋違いに思われるところもあるのですが、ともあれ正社員を主体として構成される労組が非正規雇用労働者の保護をも訴えるのは当然のことと言えます。同一労働同一賃金ではなく片方が安上がりであるなら、つまり非正規雇用に切り替えた方が低コストで経営できるようになるなら、正社員を減らして非正規に置き換えようとする圧力は強まるばかりですから。非正規雇用の低賃金を放置しておくと、相対的に高コストとなる正社員のクビも危うくなるわけです。自分を守るためにこそ、他人の権利も守らなければなりません。
逆に言えば、非正規雇用は正規雇用者の権利を、若年層は中高年の権利を守らないと、自分の首を絞めることにもなるはずです(そんな余力はないかも知れませんが、まぁ気持ちだけでも!)。規制緩和で正社員が解雇自由になれば非正規雇用の自分が正社員に「昇格」できると思ったら大間違い、今まで正社員の担当してきた仕事が派遣社員に押しつけられるようになるだけですし、中高年を追い出せば若年層にチャンスが回ってくるかと言えばとんでもない話で、引用したニュースでも報じられているように自殺にまで追い込まれかねないほどの重責が若輩者に押しつけられるようになるだけのことです。他人を追いやれば自分が良い思いをできるなんてことはなく、標的にされる順番が繰り上がるだけのことです。
連帯と言いつつ、その連帯を破壊しようとしている連中と馴れ合うなんてのはお笑いも良いところですよね。拝外主義者を排除しない「寛容な」自分に酔っているのでしょう。後は求人情報を眺めていて思うのですが、完全週休2日の企業が随分と減ったような印象があります。人は雇わないけれど、その代わりに月月火木金金で補おうとする会社が増えているのかも知れませんね。
サービス残業を当然のごとく強要される
正社員が大量にいることを考えれば、
「正社員は守られすぎてる」なんておよそ言えないですよね。
正社員の労働現場の実態を知っていれば、「守られすぎている」みたいな話は出てこないはずなんですけれどね。まぁ現状ではなく、経済論議の「お約束」みたいなものに沿って主張を展開するのが、とりわけ経済誌では主流化しているのでしょう。たぶんそれは「目的」には適ったことなのかも知れませんが。
ご指摘ありがとうございます。訂正します。