My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

オープン・イノベーションが日本企業にとって重要な三つの理由

2009-10-24 01:16:26 | 2. イノベーション・技術経営

昨日は、ボストンに来てるメーカーの研究者さんたちとの飲み会だった。
夜中まで飲みまくりで、いろんな話が出来て、楽しかった♪

そんなことはともかく、その飲み会で話したことから、考えたことを今日はひとつ。

日本でも最近、「オープン・イノベーション」という言葉が流行ってる。
いろんな製造業のトップが、折々の機会で「オープン・イノベーション」を標榜するようになってきた。

ひとつの企業の中だけで研究開発を行って、新たな技術・製品を生み出すのが「クローズド・イノベーション」。
それに対し、複数の企業や大学との連携の中からイノベーションを生み、事業化後も連携を強めていくようなモデルを「オープン・イノベーション」と呼ぶ。

「オープン・イノベーション」に何故意味があるのか、といえば、以前から本などでは、
a) 研究開発にかかるお金が莫大になってきたのを他企業と分けられる
b) 自社にたくさんある、商品化されない、もったいないアイディアを他社に活用してもらえる
c) 自社の「中央研究所」だけではアイディアが生まれなくなってきたので、他社を活用できる
などの理由が挙げられている。

でも、私は本当にそれだけだろうか?と思う。

別に今までも、共同研究とか、産学連携とか、「オープン・イノベーション」に代わる言葉はあった。
だから、一部の人には「なにをいまさら」なわけで、クラウド然り「ただの企業のキャンペーンじゃないのか」と思う人も多いだろう。

私は企業が「オープン・イノベーション」を掲げる、もっと重要な理由があると考えている。
特に、得意分野が成熟産業化してきた日本企業、デファクト化を進めるのが不得意な日本企業にとって、戦略的な意味合いがある。
これをしっかり意識しておかないと、本当にただのキャンペーンに終わってしまうだろう。
その理由とは次の3つ。

1) アイディアが生まれないからじゃない。成功している成熟産業で、イノベーションのジレンマから脱出するため

日本の大企業は、優秀な研究者やエンジニアを大量に抱えている。
ただ「自社でアイディアが生まれないから、他社を活用」と言ったのでは、現場の反発もあるだろう。
だって
実際には、成功してる事業に必要な技術は次々と社内から出てきてるのだから。
じゃあ、アイディアが枯渇してる、成功してない事業で他社を活用するためにやるのか?

そうじゃない。
成功してる事業でこそ、オープン・イノベーションが必要なのだ。何故か?

以前、「イノベーションのジレンマ」を紹介した記事にも書いたとおり、
企業は自社技術をベースにした事業で成功すればするほど、その事業を根本から破壊しかねないラディカルなイノベーションに対して臆病になる。
破壊的イノベーションの多くが、最初は粗利が薄く、市場が小さいから、成功企業にとって注目する理由も無い。
で、油断してるうちに、敵とも思ってなかった他社が出してきた破壊的イノベーションにどんどん顧客を奪われていき、失敗する。
米国でバイクのシェアをホンダに奪われていったハーレー・ダビッドソン然り。
メインフレームに固執してOSのシェアをマイクロ・ソフトに奪われていったIBM然り。

どんなに成功している事業でも、5年後、10年後も同じ技術に拠っているか、というとそうじゃないだろう。
今の事業よりも、最初は粗利が薄くて、規模も小さい技術がどんどん大きくなっていくはずだ。
でも自社だけでは、先ほどの理由で、そういう技術は育ちにくい。

それで、他社を活用するわけだが、そう考えれば、同じ成熟産業で成功してる同業他社と協業しても仕方が無いことが分かる。
じゃあどうするか。

小さいベンチャーや、他業種からの新規参入者、大学などを活用する。
自社の研究者、エンジニアをスピンオフさせて、こういうところに送り込み、JVにしたりして、資本は入れておく。
自社の方でも、これらの交流を活用して、いずれこの事業に乗り換える準備を進めておく。
で、自社事業を破壊するくらい大きくなってきたら、乗り換える、と。

あ、以前議論したシスコみたいに、相手を「自分好みの女」に育ててから買収するんじゃないよ。
自分がオープン・イノベーションを活用して「相手好み」になるんです。
最も、コメント欄で指摘されたみたいに、最近のシスコはちょっと違うみたいだけど・・・

長くなるから詳しくは別記事に。
個人的には、トヨタの電気自動車の開発なんかは、これを狙ってるんじゃないかと思う。(うまく相手好みになれるかは不明)
それから、最近の話題のGoogle Waveなどは、これを追おうとしてるのかなー、とか思って見てる。
これらもいずれ別記事に・・・

2) 自社技術の周りに「生態系」を構築し、デファクト・スタンダード化を進める

これは、1)と違って、自社が基軸となる技術を持っている場合。
その際、その技術を相手に合わせて変化させながら、使う人を増やしてプラットフォーム化し、「業界標準」としていくモデルだ。
さらに、自分の周りに、自分たちの技術を基盤にして生きていく企業がたくさん出てくることで、「生態系」が生まれる。

歴史的に有名なのはインテルの例。
自社のエンジニアを、他社(直接のお客さんとは限らない)にたくさん送り込み、他社からも研究者を呼んで交流させる。
毎年、自社主催のカンファレンスを主催して、他社や大学の研究者を集めたり、ジャーナルを発行したり。
外部の研究プロジェクトにも投資。

インテルはそれを活用して、将来必要となるアーキテクチャはどのようなものか、という情報を得ている。
で、自社技術をどのように改変すれば、デファクト・スタンダードであり続けられるか、を模索してるのだ。
こうすることで、直接の顧客だけじゃなく、大学のようなエンドユーザやOS、ソフトウェアにとっても、「使いやすい技術」としていくことで、プラットフォーム化を進めている。

成功例のひとつが「ウィンテル」なわけだが、インテルの作った生態系に住んでるのはマイクロソフトだけではない。
大学や、米軍の研究所で行われている研究も、次世代のインテルのアーキテクチャを基にしているものがたくさんある。
シリコンバレーにある、インテルのアーキテクチャや技術を元にしてビジネスを構築してる、多数のベンチャーたちも、この生態系に住んで恩恵を得ている。

同じ例として、AppleのiPodなどもそう。

日本企業にとって、特に大切なのは、この「自社の技術を戦略的に外に出すことで、したたかに業界標準化を進めていく」ことじゃないか、と思う。
この目的をちゃんと認識してないで、ただ「オープン・イノベーション」とか言ってると、出すべき技術や出すべき相手を間違ってしまいかねないからね。

3) せちがらい世の中で、企業の研究者どうしのコミュニケーションを深めるための「かくれみの」

最近日本では、経産省が旗を振って、業界の研究者を集めて勉強会をする、ということが少なくなっているのだそうだ。
官から接待費用も出なくなって、官を通じたコミュニケーションも、今は一切無い。
「談合」疑惑を避けるため、企業同士のコミュニケーションもかなり少なくなった。
その結果、研究者やエンジニアどおしが、ざっくばらんに話し合う機会がなくなってきているらしい。

こういう「国」主催の勉強会の何が良かったか。
普段は、企業秘密だから情報を外に出せない研究者・エンジニアも、「国の要請だから」ってことで、大事な情報をちょろ出し出来たりする。
それが元で、進むべき道筋が見えてきたり、社内での新たなイノベーションの必要性につながったりする。

それから、飲み会や勉強会の場では、他業界や競合他社の研究者とざっくばらんに話すことで、本当に大切な将来の問題などが議論されがちであった。
それが、研究者やエンジニアの日々の研究に、新たな光をもたらし、イノベーションにつながったりする。

それが、最近は上記の理由で、そういうことが出来なくなっていて、閉鎖性が高まってしまっている。

そんなとき、企業が「オープン・イノベーション」と旗を振ってくれれば、研究者やエンジニアが交流しやすくなる。
交流するための予算も出やすくなるし、他社にも人を送りやすくなる。
上記1)、2)で書いた戦略性が必ずしも無くても、こういう交流はイノベーションを生むのには大切。
シリコンバレーで継続的にイノベーションが生まれているように・・・

ま、グローバル化してる今、こういう日本人的なやり方でいいのかっていう批判をする人は常にいる。
そこはやり方を批判するんじゃなくて、海外の企業も取り込んでいくやり方にしてくのが重要。
だって別にアメリカでだって、業界の研究者たちは「カクテルパーティ」とかで交流するんだよ。
そこで、新しい共同研究が生まれたり、投資話が決まったりしてるんだってば。

(エンジニアの皆さんたちは英語で交流できるようになるのが重要)

そんなわけで、長くなりましたがまとめると
・企業は、ただの共同研究ではない、戦略性をもって「オープン・イノベーション」に望むことが重要。出ないとただのキャンペーンに終わる。
・ひとつには、成功事業で次の破壊的イノベーションの芽を探し、自社を変革していくために、オープンイノベーションを積極的に活用すること
・ふたつめは、自社の技術を基盤に、したたかに技術を出して、それを利用する企業や人たちの「生態系」を確立して、デファクト・スタンダードを狙うこと
・みっつめは、特に戦略はないけど、世知辛くなってきた日本で、次世代技術を生む研究者の交流を活発に進めるための「言い訳」として活用すること

参考文献。若干意味合いが浅いと思ったりするけど、事例集としてはいい本です。

OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて
ヘンリー チェスブロウ
産能大出版部

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7 Comments

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自動車革命 第2回 スモール・ハンドレッド 新たな挑戦者たち (masa302)
2009-10-25 23:26:22
NHKで特集をやっていました。
上記の1、2に当てはまる話がわんさか。
なまなましいので授業の題材にはならないでしょうが。

安くて信頼性の低い電気自動社を中国でつくっていて、そこに日本の自動車会社の元社員が技術とノウハウを提供しているという話。
シリコンバレーはIT産業と密に絡み合って新しい産業を創ろうとしているというグリーングリッドやグリーン・ニューディールに絡んだ話。

家電に続いて、自動車まで。。。なんとなく山河燃ゆって感じで微妙な気持ちになってしまいました。
返信する
自動車のイノベーションのジレンマ (Lilac)
2009-10-26 00:03:46
>masa302さま

こういう話こそ授業の題材として面白いですよ。
アメリカ人はトヨタが好きなので、来年の授業のひとつ向けに、「トヨタが陥るイノベーションのジレンマ」ということでまとめようかと思ってましたが、こういう題材が既にあるなら利用したい。
(あ、でもNHKの番組は本当に素晴らしいのですが、「視点が日本人である」という一点において使えなかったりするんですよね)

中国で起こっていることは、「破壊的イノベーション」につながるかまだ不明ですが、インドで起こっていることはそうなる可能性が大だと思ってます。

>なんとなく山河燃ゆって感じで微妙な気持ち

いやー「国破れて山河あり」です。
日本は山河も美しく、文化も歴史も食事も素晴らしいですから、それで世界の優秀な人たちをひきつけるです。
これからのイノベーションが「日本人の手だけで」起こることは少なくなるでしょうから、(「アメリカ人だけで起こっているイノベーション」が皆無になってるのと同じように)
世界の優秀な人たちをひきつけて、日本にシリコンバレーを作るしかない、と思ってます。
とはいえ、日本では大企業の力が未だ強く、優秀な人材がたくさんいるので、それをどう利用するかなのですが。
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日本には勉強会がいっぱいあります。 (よしおかひろたか)
2009-10-27 13:46:44
IT勉強会カレンダーというのがあります。
日本全国で開催されているIT系勉強会です。かろやかに技術者たちは交流しています。
https://www.google.com/calendar/embed?src=fvijvohm91uifvd9hratehf65k%40group.calendar.google.com

日本はじまっています。
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なるほど (Lilac)
2009-10-30 15:39:14
>よしおかひろたかさま

なるほどー、IT系の方は皆さん垣根なく集まってるんですよね~。
経産省の旗振りが無くて困るってのは、メカ系・エレキ系の皆様なのかもしれませんね。

ただ、そういうのが無くても自主的に技術者が交流できるってのは理想ですよね。
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プロダクトイノベーションが手薄になっているのでは? (ITフロンティアの狩人)
2009-11-02 10:38:43
確かにオープンイノベーションという言葉は流行っています。ただ、これで具体的なビジネスでどのように収益化するとかは余り議論されていないような気がします。
大企業はとりあえず、プロダクトイノベーションよりもプロセスイノベーションでコスト削減できて利益が出ればいい、という考え方が強すぎるように思います。
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それは産業が成熟期だから当然です (Lilac)
2009-11-03 02:42:28
>ITフロンティアの狩人さま

>プロダクトイノベーションよりもプロセスイノベーションでコスト削減できて利益が出ればいい、という考え方が強すぎる

昔のエントリでも書いたように、
http://blog.goo.ne.jp/mit_sloan/e/483d1e1a7a29961ad6ce9e11cb5d7506
産業が成熟期に差し掛かると、ドミナントデザインが決まり、プロダクトイノベーションが少なくなり、プロセスイノベーションによる品質向上とコスト削減に集中するのはどの産業でも同じです。

大企業は一般的に成熟産業での成功者が多いですから、そういう意味では、プロセスイノベーションに偏っているのは当然といえるでしょう。

ただし、その大企業が黎明期・成長期の分野に打って出よう、という場合は、プロダクトイノベーションが価値の源泉となります。
例えば、携帯電話が出始めた頃のNTT、液晶テレビが出始めた頃のシャープ、ハイブリッドカー/電気自動車でのトヨタ。

また、大企業では、成熟産業での収益率が高いですから、プロセスイノベーションが主に見えるのは当たり前で、そこを安易に責めても仕方ないと思っています。
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面白いです。 (学生です。)
2014-02-13 00:30:35
技術経営を学んでいる修士の学生です。(大学卒業後に院進学したものです)

現在、そういった内容の研究をしていて非常に参考になりました。
今後も、鋭い視点を楽しみにしてます!
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