とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

200冊の理数系書籍を読んで得られたこと

2012年12月06日 23時14分46秒 | 物理学、数学

先日、このブログの理数系書籍の紹介記事が200冊に達した。4分の3ほどが大学、大学院の教科書レベルの物理学書や数学書、残りがブルーバックスに代表されるような一般向けの本だ。

記事で紹介した物理学と数学の本は「書名一覧」でご覧いただけるほか、ブログの「記事一覧(分野別)」にまとめてある。また、最近読み始めた電子工学系の本の記事は「電子工学」のカテゴリーで検索できる。

物理や数学の教科書や専門書を読んだことがない人は次のように思っているかもしれないから、この膨大な読書体験で何が得られたか、僕がどう感じたかなど感想を書いておくのもいいかもしれない。

- これだけたくさんの本を読むと、どのようなことがどれくらいの深さで理解できるようになるのか?
- いろいろな疑問が解決することで、自然や宇宙を不思議に思う気持ちは減っていくのか?
- 200冊も読まなくても、もっと近道があったのでは?
- 読んだ内容をちゃんと覚えていられるのか?
- どのような順番で読む本を選ぶのか?
- 理解できない箇所はどうすればよいのか?
- 大学で物理を学んでいなかったことはデメリットになるか?
- 同じような本を読んでいて飽きないのか?
- 学生の立場で学ぶのと、社会人の趣味としての勉強はどう違うのか?
- なぜ、いちいちレビュー記事を書くのか?
- ブログでレビュー記事を書いてよかったことは何?
- 物理の本を書いて出版しようと思わないのか?
- このような読書をしてもお金にならないのに、どうして続けるのか?
- いつまでこのような読書を続けるのか?

僕が想定しているこれらの質問には、この記事の最後でお答えすることにしよう。

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12月8日に追記:この記事は多くの方にツイートいただき、アクセス数が(一時的に)ものすごく上がっています。このことについての感想を書きましたのでこちらからお読みください。
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*物理学への目覚め

僕は大学卒業後およそ20年間、コンピュータやプログラミングの勉強はしてきたものの、物理や数学などとは縁のない生活をしていた。科学雑誌のニュートンをときどき立ち読みでチェックしていた程度だ。

大学では数学を専攻していたのだが、3年生以降は落ちこぼれてしまったので、卒業までにきちんと理解できていたのは1、2年までの内容にすぎない。数学の分野で言うと微積分と線形代数、複素関数論、ベクトル解析、フーリエ変換を含む解析学など。これらは物理学や工学を学ぶ上で最低限必要になる内容だということは物理学を学び始める段階で知った。

今から6年前の2006年に、たまたま買って読んだのが「タイムマシンの作り方」という本。この本が呼び水になって「パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ:ミチオ・カク」という日系アメリカ人の物理学者が書いた本を読み、現代の物理学がとんでもないことになっていることを知り衝撃を受けた。というより僕が生まれるずっと前からとんでもない状況は起こっていたことに気がついたのだ。

そして1998年には東大の古澤明先生によって「量子テレポーテーションの実験が成功」したことの記事をネットで見つけ、テレポーテーション理論やカク先生のパラレルワールドの本に書かれていた超弦理論を理解できるようになりたいという思いが止まらなくなったのだ。

そして「ファインマン物理学、全5巻」を買い込み、本格的な勉強が始まった。


*6年前の僕は物理の素人だった

最初に読んだのが「ファインマン物理学」だったのはラッキーだと思う。物理の基本的な分野をカバーしていて、読みやすそうな雰囲気だったから購入しただけのこと。ファインマン先生のことは全く知らなかった。

ファインマン先生ほど物理学を生き生きと語れる学者はいない。この教科書は先生がカリフォルニア工科大学で行った2年間の講義を元に編纂されたものなので、各章が1講義に割り当てられている。自然の不思議に対する先生の洞察が見事に語られるこの講義は、まさにエンターテイメントと呼ぶにふさわしく、聴く者を高揚感で魅了するのだ。僕はこの教科書に熱中することで、物理学の奥深さ、楽しみを知り、この読書経験がその後の勉強の大きな原動力になった。

ファインマン物理学は全体で2000ページもあるので、専門書の読書に慣れていない人はハードルが高いと思うかもしれない。けれども結果的に僕にとっては200冊のうちの始めのほうの5冊に過ぎなかったわけだし、ワクワクしながらそして感動しながら読めるのだったら逆にこのボリュームは大きな喜びに転化する。数式はもちろん書かれているが、一般的な教科書よりも言葉で説明されている箇所が多いので、数式の理解が不十分でも読み進めると思う。

後日追記:ファインマン物理学(英語版)は2013年12月、ネット上に無料公開された。

ファインマン物理学(英語版)が全巻ネット公開されました。
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/e94dd49d7d8cc395e29d37927e30173d


ファインマン物理学で使われる基本的なレベルの数学の習得が必要な方には「よくわかる物理数学の基本と仕組み」をお勧めする。これ1冊で物理学の基本に必要な数学の分野をカバーし、多数の図版を使って直観的にわかりやすく解説されている本だ。

ただ今になって思うと、ファインマン物理学は入門者には高度過ぎる内容が多いのも確かだ。それにこの教科書の真価は、ひととおり一般の教科書で学んでから読むことで得られるのだと思うようになった。けれども物理学全般を学べる良い教科書が他にないのも事実だから、今でも物理を学び始める人はファインマン物理学から入るのがよいと思っている。なお、ファインマン物理学のエッセンスは「物理法則はいかにして発見されたか:R.P.ファインマン」という文庫本で読むことができる。

当時の僕が知っていた学者はガリレイやニュートン、ケプラー、ラグランジュ、ラプラスから現代に至る天文学者とアインシュタインとホーキング博士と電磁気学のファラデー、日本人のノーベル物理学賞受賞者くらいだ。(天文学は詳しかった。あと数学専攻なので数学者のことも。)

アインシュタインの2つの相対性理論のあらましは知っていたし、彼が20世紀の物理学者の中で天才の中の天才だということも知っていた。僕が知っていたのはその程度のことに過ぎない。

物理学の知識は高校物理のIとIIの内容で止まったまま。僕が理解している自然現象は、自分の感覚で理解できる古典物理の世界まで。つまり世界には空間という真空の入れ物があってその中に原子でできた物質や光や電子があり、時間の流れに従って運動しているのだとうごくありきたりの世界観だ。


*200冊の読書で経験した「驚き」と「高揚感」

200冊の本で学んだことをすべて書くのは無理なので、僕のような素人が6年間の読書で経験した「驚き」や「高揚感」を物理学を中心に思い出せる範囲で書き出してみよう。過去の自分の無知をさらけだすようで恥ずかしいし、物理学を専攻している学生や研究者の方には、当たり前な内容かもしれないが、素人にはこのようなことでも大発見だったのだ。6年間の読書によって物理学史では1965年あたりの「場の量子論」や「電弱標準理論」まで到達している。

以下、時系列順で箇条書きする。

- ニュートンの力学3法則から万有引力の法則やケプラーの3法則が導けるのを確認できたとき。
引力がなぜおこるかニュートンにはわかっていなかったのにである。力学3法則 は日常生活で体験している力と物体の関係そのものなので、自分でも考えつけると思っていた。あの時代に生まれていたら僕はニュートンになれたのにと過信していた。ああ、恥ずかしい。

- 地球から230万光年離れているアンドロメダ大星雲は肉眼や双眼鏡で見たことがあるが、あの渦巻きをもたらしているのがニュートンの力学3法則であるのを知ったこと。万有引力は宇宙全体に及んでいるのを知ったこと。

- 「質点」という考え方に疑問を感じ、球形の天体について万有引力の法則の公式を積分計算で求めたり、この公式は球形以外の天体の引力では正しくないことをパソコンによるシミュレーションで確認できたこと。(参考記事)(参考記事

- ニュートンやプリンキピアという著作物のすごさ、その後の物理学に与えた影響の大きさを理解できたこと。プリンキピアを実際に買ってみてそのことがよくわかった。(参考記事

- ケプラーやニュートン、ラプラスの時代の天体力学の計算に驚嘆。あの時代の観測技術や計算手法で 3次元空間を運動する惑星の楕円軌道を手計算することの難しさに気がつくことができた。ふつう大学の数学や物理学で習うのは平面上の楕円にすぎないのだから。(参考記事)(参考記事

- 熱力学で扱う温度や圧力、エントロピー、自由エネルギー、理想気体の状態方程式(PV=nRT)、定積比熱、定圧比熱などがニュートン力学、ボルツマンの法則を使い、無数の粒子の運動を力学的に総計算して求められるのを確認したとき。熱学ではなく熱力学と呼ぶ理由が、蒸気機関などで熱が力学的な仕事に使われるからだと僕は誤解していた。(参考記事)(参考記事

- 物理学で扱う内容は宇宙や素粒子など、日常とはかけ離れた世界のことだと思っていたが、実は自分の身の回りの空間や時間、物質の有様を探求しているのだと気づいたとき、学ぶことの意義を強く感じたこと。自分のまわりの世界がこれほど不思議に満ちているとは思ってもみなかった。

- 高校の物理では力学、電磁気学、波動などの分野はそれぞれ別物として理解していたが、それらは互いに矛盾無く結びつけて法則が成り立つべきものであることを理解できたとき深く感動した。万物の理論、統一理論を目指す出発点なのだ。特に電磁気学でさえ力学と合わせて考える特殊相対論の論文が「電気力学」の論文であったことを知ったのが最初だった。そして別々の法則どうしを結びつけるときにはたいていの場合、日常感覚では受け入れられない不思議な現実を受け入れなければならない状況に遭遇するのだ。(参考記事

- 力学を「個別の座標系の呪縛から解放するように一般化」させた解析力学が、ニュートン力学、電磁気学から相対性理論、素粒子物理学まであらゆる分野を貫く普遍原理であることに驚愕した。6年前の僕は物理の解析力学と数学の解析学を混同していた。お恥ずかしい限りだ。(参考記事

- 電磁石のしくみは理解していたが、天然の磁石や特定の金属で見られる磁力の発生するからくりが理解できたこと。磁石の磁力は「第5の力」じゃないのかな?と僕は誤解していたから。

- アインシュタインが天才の中の天才だとは知っていたが、一般相対性理論を理解して、どれくらい天才だったかを実感として知ることができたこと。(参考記事

- 特殊相対論が真空での光速度不変の原理のみを前提にしていて、高校数学だけで理解できることを知ることができたこと。

- 高校の物理では「運動量の保存則」と「エネルギーの保存則」という2つの保存則を学ぶが、特殊相対論ではそれらが「4元運動量の保存則」という1つの保存則に統一されてしまうことに自然法則の本質性を感じたこと。そして4元運動量という物理量は一般相対論の重力場の方程式の中で「エネルギー-運動量テンソル」という物理量として活かされることに自然法則の奥深さを感じた。(EMANさんによる解説ページ

- 特殊相対論だけでエネルギーと質量の等価原理の式「E=mc^2」が導けたこと。(EMANさんのページを参照

- 光は質量がゼロなのに光線が照射すると圧力が生じることが特殊相対論で理解できたこと。

- 時間と空間は不可分。つまり時間と空間は別々に存在するのではなく、4次元時空というひとつの実体として存在していることが特殊相対論で理解できたこと。時間のない空間や空間のない時間は存在しない。

- 特殊相対論で導かれる4次元時空の回転で、時間と空間が混ざることが高校レベルの数式で示されているのが印象的だった。(参考記事

- 電磁気学の基礎方程式(4本の数式で表現されたマックスウェルの方程式)に特殊相対論を適用すると1本のシンプルな数式にまとまってしまうのを理解できたこと。(EMANさんによる解説ページ

- 多次元でどのように曲がった空間でもリーマン幾何学、リーマンテンソルという数学で書き表せることを理解できたときの感動は大きかった。

- 一般相対論の重力場の方程式の導出手順が理解できたこと。4次元時空の各点での曲率をあらわすアインシュタイン・テンソル(幾何学的な量)とその点におけるエネルギー-運動量テンソル(物理的な量)の比例関係を最終段階で「えい!やっ!」という感じで等号で結びつけた瞬間は爽快だった。それを知るまでは、もっと地道に積み上げるような感じでこの方程式を導出するのだと思っていたから。(参考記事

- 曲がった空間に沿って進む光線の道筋、すなわち測地線のことが数式を含めて理解できたこと。

- 物理法則の共変性という考え方に感動。共変性とは座標系が変わっても物理法則の式の形が変化しないという性質のこと。一般相対論の曲がった空間で共変微分に出会ったときに感動は最初のピークに達した。共変微分は普通の微分を曲がった空間でも成り立つように一般化したものだ。高校で習う微分はまっすぐな空間という特殊な状況で成り立つ微分なのだ。(参考記事

- 重力が伝わる速度などというものは思いもつかなかった。それが一般相対論で光速に等しいこと、重力波のことだと知ったとき驚嘆した。なぜ光と重力が同じ速度なの?

- フェルマーの最小作用の原理。高度によって密度の異なる大気中を進む光線がたどる曲線は「最短時間」になるようなルートを選んでいることの不思議を理解できたこと。だって出発する時点で目的地がわからなければ最短時間になるルートが決められないから。そのルートはファインマンの経路積分によって得られるのだ。これは曲がった時空をたどる光線のルート(測地線)にも適用される原理だ。(参考記事

- ただ「サイズが小さい」という理由だけで粒子の種類にかかわらず力学法則がニュートン力学でなくなる量子力学の不思議に感動。この不思議は後になって、量子力学からニュートン力学を導出できることや両者の関係のしかたを理解したときに不思議ではなくなった。(エレンフェストの定理、波束の考え方)

- 古典物理学から前期量子論や量子力学の発見へ至る「橋」が2つあることに感動。ひとつは解析力学から量子力学へかかる橋(ハミルトン・ヤコビ方程式からシュレーディンガー方程式の導出)、もうひとつはよく知られるようにプランクの黒体輻射のエネルギー分布の考察(電磁気学)からかかる橋だ。(参考記事)(参考記事

- 量子力学が本当に正しい理論なのかについては長い間決着がついていなかった。その正当性は「ベルの不等式の破れ」を検証した1984年の「アスペの実験」の成功によるものであった。この実験の詳細を理解できたのはうれしかった。(参考記事

- 量子力学に特殊相対論を適用すると、反粒子(たとえば陽電子)の存在が数式で予言でき、実際にそれが実験で検出され、今では医療機器に陽電子が利用されていることを理解できたこと。また複素関数論に留数という直観的には不思議な値を求める複素平面上の特異点のまわりの周回積分があり、いったい何に使われるのだろうと思っていたが、粒子と反粒子の計算に使われることを知って驚いた。(参考記事)(参考記事

- 過去は決まっているのに未来は決まっていないという一見当たり前の事実がおきるからくりが理解できたこと。J.Jサクライの量子力学演習書の中で「平面上に垂直に立てた棒が倒れ始めるまでの時間を求める問題」があり、量子力学の不確定性原理が未来が確率的に決まることの理由の1つであることが現実世界のこととして理解できた。ニュートン力学だけで考えると棒は永遠に倒れることはない。パチンコがギャンブルとして成り立つ理由のひとつは量子力学の不確定性原理である。(参考記事)(参考記事)(参考記事

- 量子力学に含まれる、さまざまな不思議な現象や考え方を理解できたこと。(不確定性原理、粒子性と波動性、観測問題、EPR問題、量子の絡み合い、状態の重ね合わせなどもろもろ。このあたりで感じた驚きを述べだすときりがなくなるのでやめておく。)

- 量子力学で学ぶさまざまな計算とそれがどうして必要なのかを理解することができたこと。(たとえば摂動計算とか散乱の計算のこと。)

- 量子力学からニュートンの運動方程式 F=ma が導けるのを理解できたこと。(エレンフェストの定理シュレディンガー表示ハイゼンベルク表示 のこと)量子力学とニュートン力学の関係が理解できた。(波束という考え方のこと)

- 時間や空間は連続ではないという仮説が強く示唆されているのが理解できたこと。

- 特殊相対論で「運動量と位置」、「エネルギーと時間」がペアで関連をもっていたが、同じペアが量子力学の不確定性原理で再登場する。これは偶然のこと?(共役な物理量のこと)

- 量子力学で水素原子を構成する電子の立体的な分布(軌道)の計算過程が詳しく理解でき、それが分子が立体的な構造をもつ理由であることが理解できたこと。そのおかげで僕たち人間やあらゆる物質は立体的な存在でいられるのだ。(参考記事

- 電磁気学では電場と磁場という物理的な意味合いをもつ数式表現をベクトル・ポテンシャルという数学的な変数による表現に書き直し、これによって電磁場の表現が簡略化される。磁場の影響が及んでいない領域を通る電子に力が及ぶという不可解な現象を示す実験があるのだが、それはベクトル・ポテンシャルの影響が電子に及んでいることを示すものだ。数学的な変数にすぎないものが電子に影響を与えるなんて不思議だ。これがアハラノフ・ボーム効果というもので、この現象が数理的な側面と視覚的(物理的)な側面から確認できたことに感動した。(参考記事(数理的側面))(参考記事(物理的側面)

- 量子テレポーテーションや量子コンピュータのしくみが数式を含めて理解できたこと。これはうれしかった。(参考記事

- 量子光学の技術を使って「シュレーディンガーの半死半生の猫状態」が現実の世界で再現できたこと。その理論を理解できたこと。そしてそこに「負の確率」が必要になっていることの不思議を目の当たりにしたこと。(参考記事

- 未来における観測結果が過去の事象を決定する実験が量子力学の分野でもたらさていること。そしてそのしくみが理解できたこと。(未来の結果によって過去の状態が決定されること。)

- 場の量子論の意味する内容、そして素粒子物理学とのつながり方が理解できたこと。2年くらい前までこの2つの分野の関係が理解できていなかった。

- ファインマンの経路積分の発想に歓喜した。可能性として考えられうるあらゆる経路に作用という重みをつけながらすべて足し合わせると現実世界での1本の経路が決まる。空間的な経路だけでなく時間を未来から過去にさかのぼる粒子の経路も足し合わされるのだ!もちろんそのような粒子を観測することは不可能なので、時間を逆行する粒子が実験で検証されたわけではない。膨大な計算量を必要としていた素粒子物理学の計算が、経路積分の手法で解くとものすごい省力化ができてしまう。(参考記事

- 「何もない空間」という意味での真空は存在しないこと。場の量子論で記述される素粒子の生成と消滅から真空は素粒子の波動の重ね合わせの状態で表現されるものであることが理解できたこと。

- 場の量子論の枠組みの中で大域的な対称性の破れに対して粒子が1種類ずつ対応して存在することが数式で証明できたこと。大域的なことがどうして粒子の存在と関連しているのかは、考えて見ると不思議だ。数学も不思議だし物理としても不思議。(参考記事

- 場の量子論:自発的対称性の破れ、ヒッグス機構を理解しヒッグス粒子が予言されるまでの理論的な道筋を理解できたこと。ヒッグス粒子によってW±ボゾン、Z0ボゾンが質量を獲得すること、光子の質量がゼロのままでいられることのメカニズムが理解できたこと。(参考記事)(参考記事

- 質量という根源的な量でさえ、場の量子論の枠組みで計算されることを学べたこと。

- 素粒子物理学では引力や斥力はゲージ粒子の交換で理解される。逆2乗則に従う電子のクーロン力が、素粒子物理学での計算で導けたことに感動した。(参考ページ

- 電磁気力と弱い力、強い力は現在では別々の種類の力なのに、宇宙が高エネルギーだった大昔それらの力は区別のつかないひとつの力だったという大統一理論、ゲージ理論の発想に驚かされたこと。数式としてはこれから学ぶ領域だ。

- 量子光学を学んで、光子に対する理解がいっそう深まった。光子は量子的な存在であるにもかかわらず、基礎となる方程式は電磁気学のマックスウェルの方程式であり、その波動は実数波であること。(参考記事

- 中級レベルの入門書で超弦理論のあらましが理解できたこと。(参考記事)(参考記事

- 熱力学のエントロピーが情報エントロピーとつながっていること。観測問題との関連、ランダウアーの原理、不可逆性についての考察を深めることができたこと。「情報」は「熱(エネルギー)」に変換できるということだ。つまり熱とは何なのかを考えなおすことが必要になる。(参考記事)(参考記事

参考文書:情報をエネルギーに変換することに成功!(2010年:中央大学、東京大学)
http://j-net21.smrj.go.jp/develop/digital/entry/001-20110323-01.html

- 重力がいちばん不思議だということが理解できた。ブラックホール表面のエントロピー問題など、最先端の物理学の世界を垣間見ることができて興奮した。(参考記事

- 量子力学以降、複素数や複素空間、複素幾何学が物理法則の記述に必要になり、「実在とは何か」ということを深く考えるようになったこと。というより「実在」を考えても意味がないのではないかという思いが次第に強くなった。(参考記事

- 数学で位相空間論、ルベーグ積分、群論、リー群論、微分幾何学、位相幾何学(トポロジー)、多様体、関数解析を学び、大学3年以降で学ぶこれらの数学が現代物理学の基礎付けと強い関連を持っていることに驚かされた。

- 数学の高次元トポロジー(高次元空間)では、微分構造の個数をはじめ、現実感覚では受け入れられないとても不思議な状況が起きていることに驚かされた。(参考記事)(参考記事

- 物理学にでてくる数式は方程式か不等式だ。つまり物理で扱う対象は、他の対象との関係においてしか人間は理解することができない。そのことに気が付いたときはうれしかった。

- 物理学における「~ならば~である。」という関係は時間的な順番に沿った因果関係であることがほとんどだが、数学における「~ならば~である。」という関係は因果関係ではなく同時に成り立っている関係だ。同じ数式でも物理と数学では意味合いが違うことに驚かされた。因果関係とは原因と結果の関係があるということ。

また思い出したら付け加えるかもしれないが、ざっと、このような感じである。


*想定される質問への回答

- これだけたくさんの本を読むと、どのようなことがどれくらいの深さで理解できるようになるのか?

回答:一般書籍だとほぼすべて理解し、専門書だと平均的に7割の理解にとどまる。専門書から得られる理解は上記のようにとても深いし、ある箇所で学んだことが他のページの内容と矛盾していることに気が付くと、それがずっときになるので理解が深まる。解決しなくてもそれは「疑問」としてずっと残るので、だいぶ後になって解決できることもある。

- いろいろな疑問が解決することで、自然や宇宙に対する不思議に思う気持ちは減っていくのか?

回答:たくさんの疑問が解決し理解できるようになるが、さらに他の疑問が持ち上がることが多いので、自然や宇宙に対して不思議に思う気持ちはますます強くなる。そのもやもや感が次の読書の原動力になる。

- 200冊も読まなくても、もっと近道があったのでは?

回答:確かにそのとおりだ。でも読む前から近道は見つけられなかった。今なら後に続く人のために近道を示すことができると思う。僕と同じような経験、知識を得るためにはせいぜい70冊から100冊の読書ですむと思う。

2012年12月24日に追記:100冊ピックアップしてみた。

超弦理論に至る100冊の物理学、数学書籍
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d37fe65a84df23cca2af7ecebb83cfc6

- 読んだ内容をちゃんと覚えていられるのか?

回答:小説をたくさん読んだことがある方はおわかりだと思うが、大筋は覚えていても細かいところはほとんど忘れてしまう。ただ、その本を取り出してページをパラパラとめくれば、ちゃんとしたレビュー記事を書けるくらいのことはすぐ思い出すことができる。

- どのような順番で読む本を選ぶのか?

回答:大学の物理学科で学ぶ順番、物理学史に沿った順番がほぼ基本。あとは興味にまかせたり、アマゾンのレビューを参考にしたり、その分野に必要な数学書を選んだりして順番を決めている。学習が進むと次に読むべき本の見当が自然につくようになる。あと、物理ブログを書いている他の方の記事で取り上げられている本を選んだりすることもある。物理学の本は読む順番が決めやすいが、数学の本は決めにくいので物理学を学びながら、その分野に必要な数学書を選んでいけばよいと思う。

- 理解できない箇所はどうすればよいのか?

回答:10分くらい考えて理解できないようだったら無視して先に進んでいる。同じ分野の他の教科書で理解できるようになることもある。また、全体的な勉強が進むにつれて、以前理解できなかったことも理解できるようになった経験もある。

- 大学で物理を学んでいなかったことはデメリットになるか?

回答:今思うと、卒業してから20年以上のブランクはもったいないと思うが、それは後の祭り。大学で物理を専攻していた人には、おそらく苦手な分野、理解できなかった分野の苦い思い出が少なからずあると思う。僕は物理を専攻していなかったからそのようなトラウマがない。難しそうな分野でも躊躇なく読み始めることができる。しょせん人間が書いたものだから、きっと何かしらは理解できるに違いないと楽観的にとらえているのがメリットだと思うのだ。デメリットを考え始めるときりがない。

- 同じような本を読んでいて飽きないのか?

回答:全く飽きないどころか、興味は深まるばかりだ。量子力学の教科書は何種類も読み比べしたが、それぞれ特色があって有意義だった。要点が凝縮されていてどの会社のも同じような内容の高校までの教科書と違い、大学以降の教科書は著者の個性が強く出ているので、違いを読み味わうのが飽きないコツだと思っている。

- 学生の立場で学ぶのと、社会人の趣味としての勉強はどう違うのか?

回答:学生だと半ば強制されて読むわけだし、課題やレポートなどに追われて自由な読書がしにくいと思う。4年間という時間制限もある。社会人にはそれらがないので、自由気ままに好きなだけ読書できるし、読書しないという自由もあるので気楽に進むことができる。理解できなくても誰からも責められないし、いずれわかるようになるだろうと思えばストレスも感じない。

- なぜ、いちいちレビュー記事を書くのか?

回答:自分の読書や理解度の記録としてというのが第一の目的。そして僕のレビュー記事が、物理学専攻の学生や、社会人で物理や数学を趣味にしている方への参考になればよいと思うのが第2の目的だ。僕が大学生の頃はインターネットはなく、「どうしてこの教科書がお勧めなのですか?」とゼミや部活の先輩に聞いても「そこに山があるからだ。」のような意味不明の返事しかしてもらえなかった。ネットやアマゾンのレビューなど、今の大学生は情報収集の点では恵まれていると思う。

- ブログでレビュー記事を書いてよかったことは何?

回答:物理ブログを書いているブロガーの方との交流が生まれたこと。そしてときどきコメントを通じて僕の誤りや気が付かなかった点を指摘していただける「識者」の方々とのやりとりの中で、非常に多くの「学び」が得られたこと。

- 物理の本を書いて出版しようと思わないのか?

回答:書いてみたいなと思ったことはあるが、おそらく書かないと思う。それは物理のいろいろな分野に僕の関心が移りやすいので、ひとつのテーマに集中して継続的に取り組むことができないと思うから。

- このような読書をしてもお金にならないのに、どうして続けるのか?

回答:勉強で得られる知識や発見はお金では買うことのできない価値のひとつだと思うから。

- いつまでこのような読書を続けるのか?

回答:とりあえずポルチンスキーの「ストリング理論、全2巻」(超弦理論の標準的な教科書)を理解できるようになるまでは続ける予定。その後も物理や数学は続けると思うが、どのようなスタイルにするかは決めていない。数式をちゃんと導出できるようなトレーニングを始めるかもしれないし、パソコンを使ったシミュレーションに凝ることになるかもしれない。まだ学んでいない物性物理や複雑系、凝縮系の物理学、ちょっとかじっただけの流体力学や弾性論、非平衡系の物理学も学んでみたいと思う。数学のほうは物理学に関係が深い複素幾何学とかもよさそうだ。


12月10日には今年の「とね日記賞」を発表します。それより前に次の本のレビュー記事を投稿するかもしれませんが。これからも当ブログをよろしくお願いいたします。

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2016年4月20日に追記:

その後、理数系書籍のレビュー記事が300冊に達しました。次の記事でお読みください。

300冊の理数系書籍を読んで得られたこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/8d57c3e2ee6d39fe7a1b083af03a3d41

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2019年3月24日に追記:

その後、理数系書籍のレビュー記事が400冊に達しました。次の記事でお読みください。

400冊の理数系書籍を読んで得られたこと
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/2cf1be36da75ddc75333d013c1cf857f

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49 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
高校教科書 (hirota)
2012-12-07 13:07:44
「高校までの文部科学省検定済みの無味乾燥な教科書」というのがチョと不満。
僕が微分を知ったのは兄の高校数学教科書を読んだ時だが、すごく面白くて教科書は面白いものだと思うようになった。
教科書をつまらないと言う人は点数取るために部分利用するだけで本当は読んでないんじゃないかな?
あるいは強制されてるという意識があって自分の興味だけで読んだことがないから?
返信する
Re: 高校教科書 (とね)
2012-12-07 13:34:11
hirotaさん

高校生や高校の先生もこの記事をお読みになるかもしれないことを忘れていました。アドバイスありがとうございます。
この部分はどちらかというと物理の教科書のことを意識して書いていました。
高校の数学の教科書というのは、かなり良くできていると思います。優秀な生徒には現状の教科書で十分だと思いますが、それ以外の生徒が自習するにはもう少し「遊び」のあったほうがよいと思っています。そういう意味で高校までは参考書の存在は大切だと思います。

該当箇所は物理や数学の教科書のことを含めて「高校までの要点が凝縮されていてどの会社のも同じような内容の教科書と違い~」のように修正させていただきました。
返信する
Unknown (物理学科卒です)
2012-12-07 15:52:12
たくさんの本を読まれたのはわかったのですが、演習の類はどの程度こなされましたか?
返信する
物理学科卒さんへ (とね)
2012-12-07 15:58:55
コメントありがとうございます。
演習の類はほとんどしていません。
教科書については章末の問題と解答を読む程度にしているだけなので、計算力はついていません。
手を動かすことで理解が深まることは十分承知していますが、そこまでの理解を求めてはいず、読書スピードを優先させているのです。
ただし、J.Jサクライの量子力学の演習書はみっちり「読み込みました。}
返信する
Unknown (Unknown)
2012-12-08 08:04:41
本文中に出ているその知識を得られる100冊というものを書いてほしい。
全国の大学生や、優秀な高校生の大きな助けになると思うのですが…。
返信する
Unknownさんへ (とね)
2012-12-08 11:33:53
ご提案いただき、ありがとうございます。
了解いたしました。
記事本文に追記すると長くなりすぎますので、後日別記事としてそのような「100冊」を紹介いたしますね。
あと一般的な学力の高校生のためにも10冊くらい本を紹介したいと思います。
返信する
おめでとうございます。 (シンプルp)
2012-12-09 19:40:53
 以前、訪問したものです。量子力学の勉強中です。小出先生の本が良いとアドバイスを戴きました。少しずつですが、読むのが苦痛で無くなっております。その過程で、放置していたフーリエ解析の勉強をし直したりしております。 朝永先生の量子力学を読破することが目標です。お体に気を付けて、今後とも記事をお続けください。
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Re: おめでとうございます。 (とね)
2012-12-09 19:54:06
シンプルpさんへ

お久しぶりです。ふたたびコメントいただき、ありがとうございました。
読むのが苦痛でなくなったとお聞きして、うれしく思いました。理解できたときの喜びが訪れますよう願っています。
先月、伯母と従妹が共同開催した書道の個展を見にいったのですが、その中に次のような言葉が書かれている作品がありました。作家の井上ひさしさんの言葉なのだそうですが、勉強や仕事で挫折しそうなときに思い出すようにしています。

「問題は問題として解決しなさい 悩みではない 悩みにかえてはいけない」

これからも、有意義な読書が続けられますことを願っています。

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ありがとうございます (シンプル)
2012-12-09 20:53:41
 良いことばですね・・・。お心遣い感謝します。
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Re: ありがとうございます (とね)
2012-12-09 20:56:30
シンプルさんへ
どういたしまして!
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