「ジュリスト」2011年6月15日号に「子どもが発する騒音の特別扱い--ドイツ」という解説記事がある。今週発売の「AERA」2012年11月26日号で「子どもの声は騒音なのか」という特集が組まれていて、ツイッター上でのつぶやきが生んだ波紋が多角的に取り上げられている今、昨年のドイツの法改正について「ジュリスト」から紹介してみたい。
[引用開始]
ドイツ連邦議会は2011年5月26日、「連邦イミシオン防止法を改正案」(乳幼児、児童保育施設及び児童遊戯施設から発生する子どもの騒音への特権付与」を可決した。騒音被害については、現行法上、周辺の土地から発生する騒音により、本質的な被害を被った場合には、賠償請求を行うことが認められているが(民法典906条・1004条)、今回の法案は、子どもが発する騒音についてはこれを特別扱いとし、このような騒音を理由として賠償請求がなされることがないように、連邦イミシオン法を改正しようとするものである。
連邦での法制化に先立ち、2010年2月にはベルリン市において、ほぼ同じ趣旨の法改正が行われている。ベルリン州イミシオン防止法の改正で、同法に以下のような条項を新たに設けることを内容としている。
「子どもの発する騒音は、自明な子どもの成長の表現として、かつ、子どもの正当な発達の可能性を保護するものとして、原則として社会的相当性があり、したがって受忍限度内である」(6条1項)
背景には、子どもが発する騒音を理由として、児童保育施設等を相手取った訴訟が相次いでいるということがある。このような訴訟では、多くの場合、子どもの騒音に対して寛大な判決が下されているものの、保育施設の運営者や子どもを持つ親は、法的に不安定な状態に置かれていることに変わりはない。
少子高齢化が進むと共に、貧困過程における子どもの育成が社会問題となっているドイツにおいては、子育て環境の整備は重要な政策課題であり、訴訟リスクにより児童保育施設の整備・充実が阻害されることは望ましくないという考えが、政治的には一定の広がりを見せている。
当初、高齢者(すなわち子育て世代以外の世代)等から、子どもの発する騒音を特権化することに対して、「騒音に良い騒音も悪い騒音もない」「権利を持っているのは子どもだけではない。高齢者も権利を持っている」といった異論も聞かれたが、ベルリン市に続いて連邦で法制化されたことは、上述の問題意識の広がりを示している。
法案には以下の条項が挿入された。
「児童保育施設、児童遊戯施設、及びそれに類する球技場等の施設から子どもによって発せられる騒音の影響は、通常の場合においては、有害な環境効果ではない。このような騒音の影響について判断を行う際に、排出上限及び排出基準に依拠することは許されない」(22場1a)
連邦イミシオン法22条は、騒音からの近隣住民の保護を目的とした条文であり、児童保育施設や児遊戯施設も、産業施設等と同様に、これによって規律されている。今回の改正案は、この規制から「子どもから発生する騒音」を除くというものになる。「子どもから発生する騒音」とは、
子どもが発するあらゆる大声(話し声、歌声、笑い声、泣き声、叫び声等)の他、遊戯、かけっこ、跳躍、そして、子ども自身による騒音だけでなく、保育施設等の場合には、そこに勤務し、子どもの世話に従事している職員が発する音も含まれる、とされている。
[引用終了] ※なお、雑誌掲載文を基にして、文章を縮めました。
ドイツのように児童施設の騒音をめぐり訴訟が頻発するところまで日本はきていない。訴訟はまだ少なく、苦情と行政対応の段階だ。ただし、子どもをどのように社会が支えるかという点で、このドイツの法改正を参考にして、まずは議論を深化させるべきだろう。