M&Aを活発に展開して成長してきたことで有名な企業に日本電産や末尾で触れるミネベアがある。両者とも高い世界シェア、大量生産方式が共通している。まず日本電産は小型精密モーターに強く主力のHDD用精密小型モーターは世界シェア75%。このほか車載用モーター(パワーステアリング ミラー 駆動 冷却ファンなど)、家電機器向けモーター(エアコン、冷蔵庫、洗濯機など)。小型高効率(省エネ効果高い)のデジタル制御モーターで高い市場シェアを持つ。ところが主力のPC向けハードディスク起動装置用モーターの売上が落ち込んだことで、日本電産の成長路線に試練が訪れた(2013年3月期)。背景にあるのはパソコン市場の縮小(HDD用モーター出荷台数は2011年3月期をピークに減少)。このことを予測して中大型モーターで稼ぐ体制への移行を急いでいたが(産業・商業分野の中大型モーター事業を拡大することで、IT市場への依存度の高い同社の事業構造の転換を急ぐ方針。2012年9月中大型モーター2社の買収を発表 買収は2012年に入ってからこれで6社 この9月の発表時に同時に、つぎの成長市場での製品供給体制はほぼ整ったとして、M&Aを一時ストップして、収益確保(生産体制の再編や市場の開拓など)を今後は優先するとも発言している)。
2013年1月に、2013年3月期決算見通しについて、パソコンの落ち込みが想定よりも早くきたとして、在庫や生産設備について思い切った減損処理、生産拠点の再編(より人件費の安い地域への移転)などを進めたとのこと。その結果、構造改革費用400億円が必要になったなどとして、連結純利益で89%減45億円の見通しを明らかにした(2013年1月24日)。これは連結純利益についての従来見通し23%増500億円を大きく修正したものであった。
なお2013年3月期の実績は連結純利益79億円(前期比80%減)であった。
1月の大幅減益見通しという衝撃的な記者会見からわずかに3ケ月。今度は円高修正効果に加えて前期で行った構造改革費用が不要となり、コスト改善効果も見込めるとして、2014年3月期の予想について連結純利益が500億円に達するV字回復が見込めると発表した(2013年4月23日)。この急回復宣言には舌を巻かざるをえないが、損益の構造をみるとV字回復には構造改革費用の有無などテクニック的な面も見える。
参照 プロフォーマ利益とビッグバス
日本電産のM&A戦略について(2009年10月末稿)
買収により内製率、自動化比率、設計共同化などを上げることで利益率を改善。グループ化した企業とは共同購買・原価管理。販売管理費・本社費の節約につなげる。財務的にはグループ内の貸付で有利子負債の節減など。最近は買収により、家電用や自動車用の中型モーターにも手を広げている。中でも2006年のフランスの自動車部品大手のヴァレオからの車載用モーター事業買収(2006年10月発表 自動車用モーターの製造で世界トップグループ入りへ)。翌11月のシンガポールのHDD部品メーカーブリリアントのTOBによる買収(HDDの内製化率向上で利益率改善を目指す)。これらはとくに注目される展開であった。こうした海外にもわたるM&Aで、海外にも工場を積極的に展開している(シンガポール、タイ、フィリッピン、中国など)。
今後、主用途先であるパソコンやデジタル家電(携帯音楽プレーヤーなど)などの今後の需要には不透明感もあるが、原価管理とM&A戦略で乗り切るとしていた。その日本電産のM&Aが2008年12月に相次いで撤回・断念に至ったことは注目される。
断念した一つは東洋電機製造に対する買収提案。日本電産は08年9月16日に東洋電機に対してTOBを提案。子会社化して鉄道機器事業の取り込みを図った。これに対して東洋電機側は大量の質問状を出して抵抗。回答書は提出されたものの東洋電機側は「株主が判断するには不十分」とし08年12月15日には買収防衛策の発動を取締役会で検討するとした。これを受けて日本電産は買収断念を発表した。
この買収が従来の日本電産のやり方と違うのは、相手企業との時間をかけた交渉で相手企業の合意を得た買収ではなく、スピードを重視したいわゆる敵対的企業買収であった点である。結果として買収は成立しなかったが、なぜ企業の経営環境が全体に悪化している状況で、敵対的企業買収に日本電産が踏み切ったのかは、現在のところは謎である。というのもこの買収で日本電産は、すっかり悪者になり、東洋電機側の社員の士気をあおるどころか、敵対的感情を煽ったように見えるからである。これは日本電産の永守さんの従来の主張と随分違った展開であった。
日本電産の永守重信社長は、買収企業の再生に取り組んできたと自負していた。6S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ、作法)の悪化が、3Q(社員、製品、会社の質・クオリティ)の悪化につながる。だから買収しても人員削減をしないことで社員の士気を高め、3Q6Sの改善に努めさせるのが、会社再建への道だというのが自論だった(具体的には厳しい目標管理で会社の雰囲気を変える。現場には高い出勤率、営業部隊には高い訪問件数、経営陣には調達先への日参による調達コストの引き下げ。不採算事業の廃止は仕事の改善で成果がでてから、積極投資は最高益がでてからと説いていた)。
企業が再生できるかは技術力の有無。企業再生には社員の心の再生が必要という永守の主張には、説得力があった。敵対的買収は日本では成功しないとも主張していた。その日本電産が、東洋電機に対してなぜか敵対的企業買収にのりだしたのである。そして失敗した。これは何を意味するのか。永守はなぜ自らの主張を翻したのか。この戦略の責任者は誰なのだろうか。
ただ東洋電機製造は、鉄道車両用モーターや運転制御装置などが中心。独立系メーカーだが業績は継続的赤字会社ではなく、異業種の日本電産の誘いに警戒感を抱くのは自然だった。売上高の規模でみると日本電産は東洋電機製造の40倍ほど大きい。日本電産側に現在需要が伸びている鉄道事業部門への進出の意図は明らかであり、買収されたあと、経営戦略に自立性を失うことは明らか。いずれにせよこのような点が東洋電機製造側に、疑心を招いたのであろう。
もうひとつの中止は08年9月30日に富士電機HDとの間で基本合意していた産業用モーター事業の買収。工作機械や搬送装置に使われるモーター事業を買収する予定であったが、産業用機械の需要低迷などから、買収額・不良資産の処理・会社化する時期などの条件が折り合わず、08年12月17日に両社は交渉打ち切りを公表した。
2009年10月19日。日本電産は、イタリアの家電部品大手のアプライアンス・コンポーネンツ・カンパニーズと、ソウルモーターズ(イタリアの家電用モーター大手)買収で基本合意した。この買収には、欧州の家電メーカーへの販路確保の狙いがある。日本電産は、この買収で、市場の拡大と収益力の回復を受けて、M&A戦略を再開したと評された。
日本電産と並びM&Aで名前がよく出る企業のミネベアがある(同社は1971年以降内外33社を買収その成長の糧とした)。ミネベアはミニチュアボーリングで世界シェア60%という言い方もよくする。同社のHPをみると、経営方針などがよく整理されて示されている。
originally appeared in Dec.22, 2008
corrected and reposted May 4, 2013
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