Entrance for Studies in Finance

Case Study: 旭硝子と日本板硝子

国内硝子大手4社とは
旭硝子 日本板硝子 日本電気硝子 セントラル硝子(規模は10-5-3-1)
セントラルは建築用ガラスを国内だけで生産 フランスサンゴバンと提携2002

建築用板ガラス  
自動車用ガラス
電子材料用ガラス
液晶ガラス基板 研磨にはレアアースのセリウム使用 旭硝子と日本電気硝子が手掛ける
タッチパネル用超薄板ガラス等機能性ガラス
太陽電池用ガラス

板ガラスで世界トップの旭硝子 日本板硝子は世界2位
 なお日本の企業で世界でトップに立つのは自動車ではトヨタ。一般には知られていないが旭硝子(1981年ベルギーのグラバーベル、1992年米AFGインダストリーズを買収 2002グラバーベルを買収子会社化)は板硝子(ガラス)で世界首位である。一連の買収が旭硝子の国際企業への成長にとって大きな画期となっている。
 競合は日本板硝子 フランスのサンゴバン、それぞれ世界の2位と3位である。
2013年の板ガラス世界シェア(生産シェア 自動車と建築用)は旭硝子が18%でトップ。2位が仏サンゴバンーセントラル硝子で17%。3位が16%の日本板硝子で僅差でならんでいる。なお4位に米ガーデイアンズ14%。営業利益ではサンゴバンが圧倒的に大きいとされる。旭硝子は日本アジアではシェア71%で圧倒的。しかし欧州で22% 北米で8%などその力は偏りがある。北米には米ガーデイアンズという有力企業がいる。
 2013年3月期 旭硝子の売上高は1兆3200億円 営業利益799億円 従業員は5万1500人。
 2010年 ロシア工場稼働(建築用ガラスなど)
 在庫管理 需要予測を強化して在庫水準を低水準に保つ 生産から出荷までのリードタイム短縮

旭硝子(2011日本アジアが売上の74% 欧州が20% 東欧では首位)
 2011 大震災の影響 自動車減産 自動車用ガラス落ち込む
 2011 ブラジル進出を表明
 2011 薄型テレビ汎用化 → 液晶ガラス基板事業の将来性に懸念 年間通して液晶テレビ用ガラス値下がり進む
    市場の縮小で窯の稼働率低下
 2011 欧州で建築用ガラス需要減る
2011年12月期 売上高1兆2146億円 純利益952億円 
 景況に左右される建築用ガラスで不振続く 太陽電池向けガラスも値下がり
 2012年春以降 需給改善のため一部設備を止める 生産能力の2割削減など
 201203 イタリアとベルギーで建築用ガラス窯を停止
 オランダの建築用ガラス生産窯を停止201206末 同社の欧州の建築用ガラス窯は18から15に削減
 債務危機のため 南欧市場が落ち込む
 2012年夏 欧州全体で2割値上げ その後 現地メーカーの安値攻勢で値下がりへ 欧州で建築用ガラス需要大幅に落ち込む
 2012年12月期の業績 前期比4割減の連結営業利益950億円前後の見込み 欧州で建築用ガラス需要落ち込み 値段も下がる
 2012年12月期 売上高1兆1900億円 純利益438億円
 液晶テレビ用ガラス 顧客から値下げ圧力(背景:液晶テレビの価格下落)
 液晶テレビ用ガラスも値下がりするも中国需要で持ち直し スマホ用ガラスは堅調 
 自動車用ガラスも不振
 13年7月 フランスで建築用生産設備の一部を休止
 14年7月 建築用ガラス 自動車用ガラスは需要伸びる 液晶用ガラス基板は部材コストが上昇採算が悪化しているが需要が伸びず値下がり気味

日本板硝子 ガラスで世界2位 欧州市場で4割(2012売上高構成 欧州36% 日本25% 北米12%)
 欧州市場での高いシェアが裏目にでる。太陽電池向けガラスも落ち込む。
 南米展開ではピルキントン買収(財務的には巨額の負債を背負う)で旭硝子に先行
 2011-03-10 ポーランドで自動車用ガラスの新工場建設を発表
 2011年3月期 売上高5777億円 海外売上高72% 外国人従業員が全体の8割
 2011-05-17 ペルーに建築自動車用ガラスの新工場建設を発表
 2011-12末 自己資本比率18.4%
 2011末 ベトナムでの太陽電池向けガラス工場新設計画の延期発表
 2012年
 2012-02-02 全世界で従業員の1割3500人を削減するリストラ策発表 英国で建築用ガラス窯1つを停止
 2012年3月期 売上5522億円 損失17億円
 2012-04-18 クレイグ・ネラーCEOの退任を発表 外国人社長を再び短期で退任させる
      ネイラー氏の就任は2010年6月 欧州の建築用ガラス需要が低迷しているもとでの社長交代で株価急落
      外国人社長の能力を再び生かせず(背景にはネイラー氏の増産投資が過剰生産能力の原因になったという社内判断)
      社長兼CEOに吉川恵治副社長 
 売上の4割が欧州 建築用ガラス 自動車用ガラス需要落ち込む
 2012-05 ドイツ 建築用ガラス窯1つの年内停止を決定
2012-06 国際会計基準に変更して最初の有価証券報告書の開示(年金の積立不足表面化 )
 2012-07 イタリア 建築用ガラス窯1つの停止を発表 ⇒内外で3000人削減 
2012-08-02 R&IがトリプルBマイナスから ダブルB(投機的格付け)に一段階格下げ
 2012-08-02 13年3月期 280億円の最終赤字予想
 9月末自己資本比率15.1%に低下 財務面の不安表面化
 2013年3月期 売上5213億円 損失319億円 ピルキントン買収に伴う純有利子負債3608億円
 2014年3月期見通し(2013年5月16日)売上高6000億円(15%増) 210億円の赤字

世界2位は日本板硝子 買収した英国の会社からチェンバース社長を迎える
 2006年売上高で2倍の大きさの英ピルキントンの総額6000億円超での買収で話題を呼んだ日本板硝子は世界3位だった(2位は仏サンゴバン)。この買収で日本板硝子は旭硝子に次ぐ世界2位に浮上。また日本板硝子は世界統一ロゴをPILKIGTONに集約して、2008年6月には日本板硝子社長にピルキントン社長のスチュアート・チェンバース氏を迎えた。
 背景には買収により事業実態が一挙にグローバル化。ピルキントン側の発言権が2007年4月の一体運営開始後大きくなったことがある。そもそも売上高はピルキントン側が2倍。連結売上で海外が2割から8割に変化。製造販売拠点も急拡大。世界シェアは6位から2位になった。経営のグローバル化を担う人材が日本板硝子側に不足していたとみられる。取締役会メムバー中社外取締役を除く8人中4人がピルキントン出身者。ただし08年7月からは重要な意思決定の会議は日本での会議で決定するとした。
 ガラスは建築用に使われるほか自動車用、液晶・プラズマのディスプレイ用(携帯電話向け含む)などのニーズがある。
 サブプライム問題以降は、自動車・住宅用需要が低迷するも、液晶用ガラス基板がアジア地域で好調で旭硝子は米コーニングを追いかける形でこの分野で利益を上げていた。日本板硝子はピルキントン買収後、事業の選別を強化。建築用と自動車用ガラスに経営資源を集中。持ち株や事業売却益(ピルキントンの豪州事業を売却)で負債を減らす方針。そのため巨額投資が必要な液晶用ガラス基板事業から撤退の方向だった。2007年11月にはHOYAとの折半出資会社の全持ち株の売却方針を固めた。
 この買収は、日本板硝子の生き残り策であるだけでなく、自動車大手への素材供給力の改善になるとされる。しかしガラス業界の状況をみると、欧州などでのガラス需要拡大の反面、中国からの安価な建築用ガラスの流入、原燃料の高騰などの問題も多い。ピルキントンの買収で膨らんだ負債(一時は5900億円。08年3月末で3280億円)の削減も板硝子にとって課題。同社の負債は06年3月末には500億円ほどにすぎなかったものが買収により急増した。
 なお買収資金(ピルキントンの負債借り換え2200億円を含め6100億円)は手元資金(1400億円)に借入金(3600億円)そしてMSCB(1100億円)により調達した。MSCBは株式転換が進むと減る想定。MSCBを買収資金調達に使うアイデアは、当時注目された。2010年8月24日 日本板硝子は最大498億円の公募増資を発表した 狙いは、新興国事業の強化のため生産能力の改善と自己資本比率を23%から3割弱に改善 格下げを回避するとのこと。

チェンバース氏がわずか1年で退任 その後 ネイラー氏を米国から迎える
 ところがチェンバース氏が家庭の事情で2009年9月に退任(2009年3月期の最終赤字 2009年1月末に公表されたリストラなども背景にあるのかもしれない)。そのあとを藤本勝司氏(千秋のお父さんとして知られる)が会長から社長に復帰。
 家庭の事情というのは夏に帰って家族と過ごして、息子との距離感を感じたとのこと。
なおチェンバース氏はもともとピルキントンのCEO(社長)。日本板硝子の社長を辞したものの、ピルキントンを辞めたわけではない。つまりチェンバース氏にすればピルキントンと日本板硝子の2つの会社の社長の兼務という重責が重荷になっていたのか。
Stuart Chambers (insidermedia.com January 2009)
Stuart Chambers quits
Stuart Chambers businessweek
その後、日本板硝子は米化学大手デュポン副社長のクレイグ・ネイラー氏を2010年10月末に社長に迎えた。日本の大企業トップの人選方法としては異例。初めてともいえる。今度は失敗は許されないところだ。しかし2012年4月 日本板硝子は、再びこの外人社長を事実上解任するのである。そしてネイラー氏に過剰投資の責任を押し付けているが、実際はどうだったのか。外からはよく見えないところだ。

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original edition in Aug., 2008
re-write in May, 2013

Area Studies Business Models Business Strategies  
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