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06/20/2012

新設119条3項の解説(ちょっと更新、でもまだ未完)

 新設著作権法119条3項は、以下のような条文となるようです。

第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 簡単に解説してみましょう。

有償著作物等

 本項の罪の客体は「有償著作物等」である。

 有償著作物等とは、「録音され、又は録画された著作物又は実演等…であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの」であって、「その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないもの」をいう。

 「有償」とは、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けることをいう。したがって、当該著作物等の提示・提供を受ける者から対価の支払いを受けない場合には、広告収入等により利益を得る目的であったとしても、「有償」要件を満たさないことになる。

 同一の著作物等について、有償での提示・提供と無償での提示・提供が同時並行的に行われている場合は、有償著作物等となるのであろうか。例えば、① 同一の楽曲について、プロの実演家による実演がCD等に収録されて有償で販売されている一方、アマチュアの実演家による実演が動画配信サービスで無償で配信されている場合、② プロの実演家による同一の実演がCD等に収録されて有償で販売されている一方、プロモーション動画として当該実演家のSNSサイトにおいて無償でストリーム配信されている場合、③ 同一の放送用番組について、地上波テレビ局により無償で放送される一方、当該テレビ局又はその関連会社により有償でオンデマンド配信がなされる場合などがこれにあたる。

 この点につき、A説:どこかで有償での提示・提供がなされていれば有償著作物等にあたるとする説、B説:どこかで無償での提示・提供が適法になされていれば有償著作物等にはあたらないとする説、C説:主たる提示・提供方法が有償でなされていれば有償著作物等にあたるとする説があり得る。なお、音楽の書作物については、A'説:どこかで有償での提示・提供がなされているか否かを、著作物ごとに判断するのではなく、録音・録画された実演ごとに判断する説もあり得よう。

 「有償著作物」は、「有償で公衆に提供され、又は提示された」ものではなく、「有償で公衆に提供され、又は提示されている」ものと規定されているから、本項の行為(録音または録画行為)の時点で、有償での公衆への提示・提供が継続されていることが必要である。したがって、本項の行為の時点では既に無償での提示・提供に切り替わっていた場合はもちろん、既に公衆への提示・提供行為が終了していた場合には、文言解釈上は、本項の適用はないということになる。

著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信…を受信して行うデジタル方式の録音又は録画

 本項の「行為」は、「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信…を受信して行うデジタル方式の録音又は録画」行為である。

 ただし、隣接権者は自働公衆送信権を有しないので「著作隣接権を侵害する自動公衆送信」が何を指すかは問題となりうる。隣接権者の送信可能化権を侵害してなされた送信可能化により可能となった自働公衆送信を「著作隣接権を侵害する自働公衆送信」に含めてよいのかということである。

 著作権も著作隣接権も侵害しない自動公衆送信を受信して行う録音・録画には本条は適用されない。そのような自動公衆送信の例としては、権利者から必要な許諾を得て行う自動公衆送信の他、著作権等が制限された結果許諾不要となった状態でなされる自動公衆送信が挙げられる。

 本項の「行為」は、「著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信…を受信して行う」ものに限られる。したがって、そのような自働公衆送信を受信して作成した録音・録画物からさらに録音・録画を行う場合には本項は適用されない。

 もっとも、「国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきもの」を「受信して行う」録音・録画も本項による処罰の対象となる。

 送信地国法でも国内法で自動公衆送信を行うには著作権者等の許諾を得る必要があるにもかかわらず、許諾を得ずになされた自動公衆送信を受信して行う行為がこれにあたることは争いがない。問題は、送信地国法では自動公衆送信を行うにあたって著作権者等の許諾を得る必要がないからこそ自動公衆送信について許諾を得なかったが国内法では著作権者から自動公衆送信について許諾を得なければ著作権等の侵害となる場合に、そのような自動公衆送信を国内で受信して録音・録画する行為が本校による処罰の対象となるかは問題である。文理解釈上は処罰の対象となると解釈するのが素直であるが、そうすると、著作権の内容として自動公衆送信権が含まれていない国から自動公衆送信される有償著作物等については、常にこれを受信する行為が犯罪行為とされる危険があるからである。

 この点については、A説:利用許諾契約の内容を実質的に捉え、形式的には自動公衆送信以外の利用についてのみ許諾がなされている場合であっても、その利用の結果自動公衆送信がなされることまで想定されているときは本項を適用しないとする見解、B説:送信地国で許諾を必要としていない自動公衆送信については、そのような法律を改正を強く求めないことにより、送信地国からの自動公衆送信は著作者等により黙示的に承諾されたものとみなして本項を適用しないこととする見解があり得よう(後者の解釈はアクロバティックにすぎる嫌いがあるが、パロディ等が明文であるいはフェアユースの一環として許諾なくして行える国で作成されたパロディ作品等を受信して録音・録画する行為を犯罪行為としないためには、A説ですら不十分である。)。いずれにせよ、特定の国から自動公衆送信された音声や動画を受信する行為をあまねく犯罪行為としかねない本項の文言は、立法上の瑕疵といえよう。

 本項の「行為」は、「デジタル方式の録音又は録画」である。「録音」とは、「音を物に固定し、又はその固定物を増製すること」(2条1項13号)をいい、「録画」とは、「影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること」(2条1項14号)をいう。

 コンピュータゲームの映像表現を「映画の著作物」とする最高裁判例があることから、ゲームソフトをダウンロードすることが「録画」すなわち「映像を連続して物に固定した固定物の増製」にあたるかが問題となりうる。

 また、YouTube等のストリーミング・データを受信して視聴する場合であっても、ハードディスク等の外部記憶装置にキャッシュデータを記録するのが通例であるが、このようなキャッシュデータの記録が「固定物の増製」にあたるかが問題となりうる。この点については、A説:この種のキャッシュデータは通常反復継続して使用されるものではなく、自動的に順次消去されるものであるから「複製」にあたらないとする見解、B説:「複製」にはあたるが「増製」にはあたらないとする見解、C説:「複製」すなわち「増製」にあたるとする見解があり得る。もっとも、「増製」にあたるとする見解に立ったとしても、ストリーミング・データの受信→映像の特定少数人間で視聴する目的での上映という適法な使用に伴うものであるから、著作権法47条の8により著作権侵害とはなり得ないものである。

Posted by 小倉秀夫 at 03:26 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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