日本では"反日教育"と称されることの多い中国の"愛国教育"を強く推し進めて行ったのは江沢民さんです。江さんは1989年のいわゆる"天安門事件"以後、政権政党から人心が離れて行きつつあった1992年に党書記になりました。「北京で多くの市民や学生を殺めてしまったけれども(もちろんこのことを公に認めたりしませんが)、政権政党と人民解放軍はその昔"日本の帝国主義と侵略主義"と戦って、中国人民を守り抜いてきたんですよぉ。」と言う感じで、ヒーロー=中国共産党、悪役=(むかしの)日本、というディジタルでわかり易い歴史観を子どもたちに植え付けてきたのです。ヒーローの末裔でもありシナリオライターでもある江さんは、悪役の日本と簡単に妥協することはできませんでした。中国では悪役は何百年も何千年も悪役であり続ける場合が多いのです。
中国の政権政党、行政府、国軍のトップに立った江さんでしたが、2002年から2004年にかけてこれらの地位を"表向きは平和的に"胡錦濤さんへ譲りました。 とは言え、江さんがトップだった時代に"いい想い"された方がたくさん居るわけで、色んな"いいこと"が胡さんとその仲間うちへとすっかり持って行かれてしまう状況は避けなければなりませんから、引退後の江さんは悠々自適のご隠居生活を過ごすわけには行きませんでした。胡さんが、江さん路線を少しでも変更しようとすると、江さんは武器を持った仲間とともに脅しをかけて止めさせたりしてきました。自分と仲間の立場を守らなければ、いずれは自分自身が(むかしの)日本のように"悪役"にされてしまいかねません。前立腺に腫れ物が出来て、おしっこが出なくなっても、江さんは胡さんの思い通りにさせないようにと、影響力を保持してきたのです。 江さんが強化した"愛国教育"で育った子どもたちが20代を迎え、2005年4月に発生した"反日デモ"の原動力になもなりました。日本をいつまでも"悪役"にする限り、中国の日本に対する感情は良くなりません。悪化する"日中関係"に関して、中国政権内部では様々な打開策が議論されたはずですが、上海の江さんパワーに気兼ねして路線変更できなかったばかりか、より強硬な意見が支持されたりもしたのです。 いつまでたっても江さんに仕切られたままでは、胡さんも愉快ではありません。目立たぬようにされど着実に、江さんパワーを削ぐ準備を進めていました。軍人さんを味方に取り込んで、地方の有力勢力も丸め込めつつ、表向き"平和的に"....。 そして、この夏にはいよいよ"仕上げ段階"に突入したのです。8月には、過去の江さんの演説や発言をまとめた書籍『江沢民文選』が大々的に発表・出版され、胡さんが仕切る中国メディアが大々的に宣伝しました。いわば"褒め殺し"。こうなるともう、江さんも毛沢東さんや鄧小平さんのように"過去の人"として、祀り上げられるだけの存在です。 『江沢民文選』の発売を合図に、数百人とも言われる"刺客"が北京から上海に送り込まれました。上海で影響力を保持する江さんの一味に止めを刺すためです。そして、胡さんたちの経済引き締め政策に楯突いてきた江さんの仲間うちの陳良宇さんが、政権政党の重要ポストから追われてしまったのが、9月25日です。 胡さんたちによる、江さん一味の排除作戦は現在も進行中ではありますが、ここまで来ればもう胡さんは、江さんに気兼ねせずに政権運営ができるようになったと言えるでしょう。対日外交についても江さん路線に束縛される必要が無くなったと考えられるでしょう。 日中関係問題で胡さんたちが心配しているのは、 (1)"愛国教育"で育った若者たちの"反日思想"が一層過熱化した場合、人民全体をもコントロールできなくなること。 (2)首相の靖国参拝というワン・イシューで、日本との首脳会談を"袖に"してきた子ども染みた外交態度を欧米諸国などから非難され、国際社会の評判が低下すること。 (3)両国の国民感情レベルの"不信感"や"憎悪"が増すことで生じる経済への悪影響。具体的には日本企業の中国への直接投資の衰退や日本向け輸出の減少。 ではないでしょうか。心から日本と仲良しになるつもりは無いと思いますが、この数年来の最悪な状態をカイゼンすることが"国益"となると考えているはずです。 そして9月26日、安倍内閣発足。 その前日から大々的に始まった、江さん一味の"お世継ぎ"、陳さんなどへの"腐敗追及キャンペーン"は、日本の新政権発足にタイミングを合わせた動きとも思えてしまいます。小泉さんの意図的とも言える"負の置き土産"のおかげで、アジア、特に中国や韓国との関係をカイゼンできる絶好のシチュエーションを得た安倍さんにとって、実にラッキーな出来事とも言えるでしょう。 そして、昨日あたりから日本のメディアが報道し始めたのが、10月8日の安倍さんと胡さん温家宝さんとの訪中会談です。安倍さん自身が調整中であることを明らかにしたようですから、恐らくほぼ"本決まり"なのでしょう。 さて、日中首脳会談で日本のメディアが注目しそうなのは、"靖国問題"への言及でしょう。首相になる前の安倍さんは、自らのバレバレ参拝について、肯定も否定もしませんでした。首相になった後の安倍さんは、今後の参拝について一切語っていません。自国民に対してこうなのですから(もちろん対外的なメッセージ性は狙いのうちでしょうけど)、胡さんや温さんにどうこう話すことは無いように思えます。 きっと、日中首脳会談開催の日本側の条件は、中国側が"靖国問題"に言及しないこと、中国側の条件は、安倍さんが一定の期間、靖国神社にお参りには行かないこと、あたりなのではないでしょうか。 「日本に対しては歴史問題を永遠に言い続けなければならない」という江さんの、98年8月の発言が『江沢民文選』に載っているそうです。胡さんが江さんの影響下から完全に脱したとすれば、もしかしたらドラマチックな展開が待っているかもしれませんし、今後は首相の"靖国参拝"というイシューが日本側の外交カードになり得るかもしれません。 日本に居ると、ちょいと楽観的に考えてしまいがちですが....。
by pandanokuni
| 2006-10-02 17:55
| 政治ネタ
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